清々しい少年小説
2006/05/08 07:04
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紗螺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
長野まゆみと言えば、既に独特の少年小説世界を築いている人であるが、この作品はちょっとちがうな、と思わせるものがある。まず父と子の関係がいい。放浪癖があり、しょっちゅう突然「引越し」を言い渡すような父だが、母のいないところを彼なりの智恵で補おうとしていたり(それは例えば檸檬水にバナナを浮かべた代物であったりするのだが)、息子は息子でそれを見抜きながらでも仕方ないなあといった、一種の愛情で受け止めている。
次に新しく転任した先で出会う不思議な少年。不思議と言っても同学年と言うだけで、それほど不思議なところはないのだが、長野まゆみの表現力にかかると、はっきりしたところがあるくせに妙に影のある、少年にしては一筋縄ではいかない雰囲気がかもし出される。さて、教室には一番優秀な少年がいて、この少年が、主人公が件の少年にからむのを阻止しようとする。それはなぜか、彼らの間には何があったのか…すべてを知った時、圧倒的にあたたかく、清々しく、けれど哀しいものが残るのがこの作品の特徴である。
ところで後書きに作者本人が触れているように、文庫版のカバーが麗しい少年の人形になっている。個人的には人形というものはあまり好きではないのだが、この人形は長野まゆみ作品にぴったりだと思って感心して見入ったものである。
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投稿者:やじやじ - この投稿者のレビュー一覧を見る
硬質な端正な文章と人形と写真と絵が一体化した本です。
いつものように少年のお話だと思って読み始めましたが
父子の話だったのでちょっと意外。
放浪癖がある父とそれに従う息子の話。
不思議な話がぐるりと回収されている感がある。
読後感が優しくて硝子の笛の音が聞こえてくるような気分です。
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ところどころに直接話とは関係ないような写真が挿入されていて、そこに惹かれて買ってみました。
…ってゆーか鳥がね、好きなんです。五位鷺の写真にやられたといっても過言ではありません(苦笑)
話自体も幻想的で、謎めいていて、それでも今回はきちんと結末があって良かったです。
不思議な世界観が好きな方はぜひ。
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温もりが、本を通じて感じられるよう。あたたかいのに切なくて、最後の数文を読んだあと、身の回りの音が遠ざかるように感じます。ナゼだか、宮崎駿に映像化して欲しいと思った。うるんでしまった。
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文庫としては高めですがカラーの写真が入っているので致し方ないかと。でも写真も素敵なのでおすすめ。
長野さんで家族ものといえば兄弟話が多いですが父子ものもいいなぁ、というお話。
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「体温とか、肌合いって、ことなんだよね」
その地の人との馴れ合いを嫌うように引越しを繰り返す父。父について転校を繰り返す岬が出逢った北浦と白水。彼らの関係、白水の秘密、そして父の放浪癖の理由。美しい写真と共に楽しめるファンタジーです。
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放浪癖のある父と一緒に各地を点々とする岬が訪れた町でであった不思議な少年との物語
不思議だなぁ~と読み進めながら、
あ、そうか、そういうことか!
って答えがなんとなく見えたとたん視界が開けるような、
そんな小説でした。
まだ残っているのに、
最初に戻って読み返そうかなと反則技を使うところでした。
これで勘違いだったらお恥ずかしいはなしでしたよね(笑)
岬が垣間見れた父の理由。
息子だから思春期ながらも理解できて納得したやろうけど、
私だったら、それは自分で判断することであって、
巻き込まないでって反発しちゃいそうでした。
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久しぶりの長野まゆみ。この透明な文章と不思議感がたまらない。たんたんとして冷たいともとれるのに引き込まれる文章。
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この方の作品にしてはとても素直に読める物語だった。
仲の良い父と息子という構図も少し珍しい気がする。
物語も登場人物も特にひねくれたところがなく、全体を通して家族愛とか、優しい友情とか、そんなものが素直に感じられる作品だった。
ところで物語とタイトルがいまいち結びつかない。
もうちょっと違う感じの話をイメージしていただけに、腑に落ちない感じ。
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主人公の少年の描写がとっても心地よい。わしにとって長野作品というのは、ストーリーよりも作品の醸し出す雰囲気とか文体とかを楽しむ本である。その点ではこの本は十分楽しめた。表紙の少年の人形もいいし、常套漢字でないものが並ぶ文字の並びだとか、植物や鳥が違和感なくされりと説明されているところが好き。ちょいと図鑑でも開いてみようかという気分になる。
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図書館借り。ハードカバーの方を借りたのですが、表紙が綺麗でした。ただ、私は虫嫌いなので、貸りるのに気が引けていたのですがとんでもございませんでした。
とても不思議なお話でした。ガラスの笛の透明な音色。そして、時を超える想い。
父子のお話も悪くないな、と思いました。
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放浪癖のある父に連れられて引越しを繰り返す岬は、転校先の学校で不思議な少年に出会う――。物語全体を包むファンタジー的なこの雰囲気が好き。淡々としてて透明なのに冷たくない。タイトルと内容がうまくリンクしていない気もするけど。
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初めて読んだのは、恐らく中学生の頃。
「さまよえる湖」にとても惹かれた覚えがある。
単行本は角川書店だったのに、文春文庫で発売。大人の事情??
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放浪癖のある父のせいで各地を転々として過ごしてる少年・岬が
たどり着いた山間の町で出逢った小柄な少年・賢彦。
岬が通うことになった中学で賢彦は神隠しにあった子として避けられていた。
わずか3日間の出会いと別れ。
少年って、本当にわずかな時間で大人になってしまうんだな・・・
親子の関係も会話もすごくステキ。
美しい言葉で紡がれた懐かしい匂いのする奇妙な物語。
最後がすごく切なかった。
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美しい言葉、美しいカラー写真。
紙質も普通の文庫と違い、眼と感触、いろいろ楽しめる本。
個々の短編と思いきや、ひとつのストーリー。
ラスト、梓の真相は今思えば不思議だが全く気づかず。
だからこそ、とても胸にじんわり迫る。
飄々とした大人の父が、少年時代は少し不器用で完璧では無い面がとても愛おしくなる。
まゆみ氏の少年はとても血気盛んな少年と、幽霊みたいな少年に分かれていて、
幽霊みたいな少年が本当に幽霊だったという、こんなしっくり納得できる話もない(笑)
上海少年で読んだ秀逸な短編を、丹精にもういちど見せられたような、贅沢な気分になれた。