アメリカという自由・寛容・狂信・傲慢など、相反する両面を携えて、驀進する宗教国家の軌跡を一冊で通覧した画期的な書です!
2021/01/08 11:34
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、神学・宗教学を専門に研究され、『アメリカ的理念の身体‐‐寛容と良心・政教分離・信教の自由をめぐる歴史的実験の軌跡』、『反知性主義‐‐アメリカが生んだ「熱病」の正体』、『異端の時代‐‐正統のかたちを求めて』などの著作を発表されている森本あんり氏の作品です。同書では、筆者が最初に「アメリカがアメリカとなってゆく過程を知らずして、今日の実像を理解することはできない」と強調され、苦難の連続の建国前夜から陰謀論・反知性主義が渦巻く現代の混沌まで、アメリカを一貫して突き動かし、その寄る辺となってきた理念であるキリスト教について語ってくれます。自由・寛容・狂信・傲慢など、相反する両面を携えて、驀進する宗教国家の軌跡を一冊で通覧した画期的な書です。同書はこれまでにない全く新しいアメリカ史の一冊と言えるのではないでしょうか。
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キリスト教の知識がなく恐らく1/10も吸収できてないけど、宗教を軸にすることでアメリカ史の点と点が繋がった感じ。面白かった。
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2020年のアメリカ大統領の報道を見ていて、アメリカの歴史にはキリスト教の問題が根深く存在していることを知り、興味を持ったので読んでみました。
アメリカ大陸発見からトランプ大統領までアメリカの歴史が変わる瞬間には常にキリスト教が関わっているということがよくわかる本でした。
特にヨーロッパで迫害されていた少数派の聖職者たちがアメリカに渡って、今度は先住民を迫害していたという事実を知って、宗教対立の難しさ、知性と教養の大切さを改めて感じました。
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やはりアメリカ史はキリスト教の理解なくして学べないと痛感させられました。
本書の内容は、冗長な記述もなくとても簡潔でありながら、しかし要点はきっちり押さえてあって、まさに過不足なく書かれているといった印象です。
アメリカ・キリスト教史を学ぶ第一歩として最適な基本書といってよいでしょう。
ないものねだりで注文をつけるとすれば、各州の位置がわかる地図と、各宗派に関するごく簡単な説明が冒頭にあればなおよかったでしょうか。
そのあたりの基礎知識がなかったため、「メリーランドが……」とか「メソジストが……」とかいう記述が出てくるたびに、その州の位置や宗派の概要を調べないといけませんでした。
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タイトル通り。新大陸発見から現代まで200頁ほどによく纏まっている。各教派毎の説明と人物や用語に都度英訳がついているので、基礎書籍として使い易そう。
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この本はアメリカ史?についての本です。しかし、焦点を当てるのはむしろアメリカの歴史のダイナミズムの下に隠れる宗教の強さ。あるいはこうも言えるかもしれません - 宗教という隠れ蓑にひそむ人間の汚さ・狡さ。
いずれにせよ、イデオロギーは人を聖者にも殺戮者にもしうるし、本来倫理に悖るような行為についてもひとたび神を持ち出すことで正当化される。これが読後の正直な感想です。
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さて内容ですが、個別トピックの中では、南北戦争がちょっと引っ掛かりました。
筆者の分析は南北戦争の背景に宗教的分断があると見ているようでして、このような記述があります。
「聖書は、古代世界の通念として奴隷の存在を容認しているため、奴隷制を擁護する人々に格好の口実を与えたが、同時に神の前では万人が平等であるとを告げている。アメリカのキリスト教は、かくして聖書解釈を巡る対立でも深く分断されることになった。因みに、聖書に限らず古代の奴隷は戦争や債務によるものが多く、肌の色とは無関係である」(位置NO.1366)
またリンカーンの演説にも、宗教的分断を危惧するものを引用しています。
「両者とも戦争が現在のように拡大し継続するとは予期しませんでした。この戦いの終結とともに、あるいはそれ以前に、この戦いの原因となったものが消滅しようとは、両者とも予測していませんでした。各々もっと容易な勝利を予期していたのでありまして、またこれほど重大なまた驚くべき結果が生じようとは思っていませんでした。両者とも同じ聖書を読み、同じ神に祈り、そして各々的に打ち勝つため、神の助力を求めています。」(位置NO.1328)
しかし、私の見立ては、南北戦争とはむしろ金とそれにまつわる信条による戦争、という理解です。
奴隷を使った煙草・綿花プランテーションを営む南部は産業革命を終えた英国と自由な通商を行いたい。商品作物の輸出です。なんなれば保護主義的な北部からはいっそ独立したい。他方、商業中心の北部は、産業革命途上の国内産業を保護しないと安価な英国製品に太刀打ちできないので英国とは距離を置きたい。また税収の観点から南部に独立されては困る、というものです。この立場の違いが戦争を引き起こしたというのが私の習った事であります。
もちろん南北戦争に奴隷制などの宗教観の違いはあるのでしょうが、こと南北戦争については経済的状況の差異が原因であり、こうした差異を巡っては宗教的倫理は何の役にも立たなかったかのように見えます。
また本書には多くのキリスト教宗派の発生と歴史的背景等が詳述されています。これは私に宗教の不完全性、宗教は人を救わないという印象を与えました。
ニューイングランドに入植したピューリタンの他宗派への不寛容(位置No.404)。入力当初からの眼目である信教の自由の一方でその後長い間残ったというカトリック差別(No.816)、ユニテリアンの誕生、エルサレムの舞台をアメリカに置き替えて発生したモルモン教、その他、エホバの証人、クエーカー教徒、シェイカー等々。メソジスト系から派生した黒人教会も。
こうした諸宗派の発生は何を意味するのでしょうか。そこに暗示されるのは、各々が自分が一番正しいと思っており(だから宗派をやっているんでしょう)、そして徒党を組むということは相応に排他的であることが推測されます。
もちろん特定の宗派を選ぶからこそ救われる、信じる故の選民思想という論理はあると思います。では、選ばない人・他宗派・他宗教の人は全員地獄に落ちるのか?すべて意味のない存在か? と問われれば多様な価値観を認める現代社会では否、となるのだと思うのです。現代社会の価値観のトレンドは、あいだみつを的「みんな違って、みんないい」なのだと思います。
ここに同じ価値観のものが集う宗派の価値観と、他人の価値観を尊重する・受容するという社会的価値観の間に大きな相克があるように感じました。ひいてはコンベンショナルな宗教の限界を見たような気がしました。
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改めてですが、本書は極めてが学究色のつよい米国史書だと思います。
日本人一般にはあまり馴染みのない宗教的背景をもとに米国史を紐解くという試みは面白いと思いました。また、米国の始まりが英国王のカトリック政策への反発である点等、米国社会の伝統に「権力に対する疑念がはじめから組み込まれている」(位置No.1904)と論じ、知識人を疑う反知性主義や陰謀論が伝統として脈々と生きているという主張は興味深く読みました。また私が上に書いたような、青臭い議論のネタにもなる好書であると思います。
米国好き、歴史好き、キリスト教に興味の有る方などにはお勧めできる作品です。
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「モルモン教徒は道徳的に厳格で、酒や煙草はもとよりコーヒーやコーラも飲まず、人工妊娠中絶や同性愛には一貫して反対である。教会組織は最高指導者以下、明確に権威が階層化されており、しばしば白人中心主義も指摘されてきた。なお、成年男子には二年の宣教活動が原則的に義務づけられているため、日本でも若い伝道者たちの活発な働きが見られる。」
—『キリスト教でたどるアメリカ史 (角川ソフィア文庫)』森本 あんり著
「教会が同性愛者をどのように受け入れるかが深刻な争点となったのは、八〇年以降である。七〇年代の後半から、主要な各教派でこの問題についての検討が始められたが、その結論は多くの場合、同性愛者の人権擁護と牧会的配慮を論ずるにとどまっていた。八〇年代にはエイズに対する関心が高まり、これが同性愛に対する神の罰であるかのように論じられることもあった。やがて同性愛についての即事的な理解が広まり、性指向とその実践との可能的区別が知られるようになる。すると、教会もこの区別を援用して、前者は受け入れるが後者は受け入れない、とする姿勢が一般化し、かえって議論が膠着状態に陥ってしまった。七九年の聖公会総会、九二年の合同メソジスト教会総会、七八年と九三年の長老派教会総会、九三年の福音ルーテル派教会総会、などがその例である。」
—『キリスト教でたどるアメリカ史 (角川ソフィア文庫)』森本 あんり著
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ヨーロッパ各国もキリスト教国なのだが、米国がそれとは全く異なる「キリスト教国」である所以を理解する貴重な本。1620年のメイフラワー号事件、盟約から始まり、決して熱心なクリスチャンばかりでなかった初期の人たちのことが意外だったし、1776年の独立時のワシントンやジェファーソンも正統的なクリスチャンではなく、むしろ理神論者だったいうことも不思議。その中で会衆派、長老派が少数派に転落し、メソジスト派、そしてバプテスト派が増えていって、現在の共和党の岩盤支持層と言われる流れへの繋がりが興味深い。奴隷制、人種分離主義がキリスト教信仰と矛盾するように思われる点がどういう理屈づけができるかも理解が進む。