渋沢栄一、高橋是清、岸信介、下村治の4名の実務家を「経済ナショナリスト」「プラグマティスト」として捉え、その思想や政策を論じている
2020/07/03 11:41
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
下村修も戦後占領期のインフレの原因は生産能力の徹底的な破壊にあると考えていて、インフレの抑制には供給能力増強で対応するべしと考えていた。だからインフレ抑制のために緊縮政策をする(ドッジ・ライン)のには否定的だった。日本には高橋是清的アプローチが必要な時だ、しかも、高橋是清の時代とは供給能力が段違いであるため、為替レートの変動を気にする必要はない(※高橋是清は金本位制を離脱したが、その後、円安水準でポンドペッグにしている)、というのが本書の主張。
日本にもまともな経済思想があったのですね
2021/06/27 03:32
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投稿者:akihiro - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治から昭和にかけて現実を見据えた財政政策に尽力した人物の思想を読み解いています。各人の業績よりも、どのような思想で経済と向き合っていたのかに主眼を置いています。戦争や外圧など、当時の状況も踏まえて考察されています。
高橋是清については何となく知っていましたが、他にも日本の経済を支えた人たちがいたことを知れてよかったです。一方で、この精神が平成の財政に受け継がれなかったのが不思議であり、非常に残念に思います。
なお、本書で取り上げられている人物の著書や発言について文献から引用して紹介している箇所がありますが、戦前の人物に関しては「苟も能く人心の〜」という文体が多いです。読みづらい場合はとばしても差し支えないとは思います。
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渋沢栄一からの日本経済思想の流れについて。軸がハッキリしていて、論旨が明確。中野剛志氏らしい、MMTへの我田引水的な論理誘導もあるような気がしたが、それはそれで、私は否定派ではないのでノイズなく読む。渋沢栄一の思想には、プラグマティズムとナショナリズムの二つがあり、この日本経済学を支える柱をそれぞれ人物から導き出す。
後期水戸学が渋沢の論語と算盤のルーツ。単純にこの事をもってナショナリズムと言うのでは無い。引き合いに出すのは、経済ナショナリストであるフリードリヒ・リスト。ドイツにおける鉄道建設事業の先駆者だが、交通インフラの発達とそれによる近代産業社会の成立は、国内各地の人々の間のコミュニケーションを活性化し、人々が同じ経済社会に帰属しているという感覚を強め、つまりネーションの意識を強化するのだ。ネーションの意識を高めたいナショナリストが鉄道建設に熱を上げた。渋沢が設立した株式会社の中に、鉄道や交番などのインフラが多かったと言う事実は、彼が忠君愛国を掲げるナショナリストであったことと、実によく符合する。渋沢は、会社経営を個人と国家の間に存在する組織の運営とみなし、広義の政治とも考えた。渋沢の合本主義とは、公益を追求するという使命や目的を達成するのに最も適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方であった。
また、高橋是清の話。5度目となる大蔵大臣に就任し、昭和・世界恐慌の危機を脱した。高橋がケインズ主義的な財政金融政策を実行し、世界に先駆けて恐慌から脱出に成功した事はあまりにも有名。高橋是清は前田正名の教えに従って、経済の根本を突き詰めた結果、それは国力、すなわち国民の生産力であるというフリードリヒ・リストやドイツ歴史学派と同じ結論に至った。紛れもなく経済ナショナリズムである。ここでも、リストである。
高橋が大蔵大臣に復帰したその日に金輸出再禁止を決定し、自国通貨の切り下げを行った。高橋の経済思想の要諦は、経済の根本には人の働きがあると言うもの。その根本を捉えずに、金や富といった経済の表層だけしか見ていなければ、資本と投機の区別ができない。生産活動に使われる資本と、生産活動に寄与しない投機が同じお金だという発想に陥る。今日、主流派経済学者たちが、資本主義の規制緩和や自由化を唱え、政府の介入を否定するのも、彼らの経済理論が人の働きという根本を欠いている故に、投機と資本の区別ができないからであろう。
もう一人、下村治。岸信介政権の新長期経済計画を発展的に継承したのが池田勇人政権による所得倍増計画。それを理論的に支えたのが下村治である。下村も経済ナショナリストであった。
国民の創造力を解放した戦後の変化の中で、下村が特に重視して強調したのは、金本位制から管理通貨制への移行という歴史的変化。金本位制に拘束されていた時代は、経済の活動総量が金の存在量によって制約されていたと下村は言う。経済成長は生産性と言う内部的要因ではなく、金の存在量と言う外部的要因に制約されていたため、望めなかった。つまり資本主義をコントロールできなかった。それが故に、経済は自由放任にするしかないと言う経済自由主義が生まれた。しかし、金本位制から管理通貨制へと時代が変わったことで、資本主義を政策によってコントロールする余地が広がった。
インフレには積極財政がもたらす。需要超過インフレと、コストプッシュインフレの2つしかない。通貨膨張によるインフレなどと言うものはないのである。財政拡大によってインフレが止まらなくなるなどと言う事態は想定していないのだ。むしろ問題は、賃金が生産性に関わりなしに上がることによるコスト、プッシュインフレである。下村は、生産性の向上がない中での物価上昇に連動した賃上げによるスタグフレーションを強く警戒し、ベースアップの抑制を主張した。
スタグフレーション、と聞いてドキッとする。今、まさに突入しようとしてはいないか。
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「現代貨幣理論が提唱する貨幣理論は、表券主義と信用貨幣論を統合したものであり、主流派経済学の貨幣理論が立脚する金属主義・商品貨幣論とはまったく相いれない。それゆえ、現代貨幣理論から導き出される財政の解釈も、主流派経済学とは著しく異なるものとなる」