紙の本
熱く胸に迫る圧倒的な生き様
2021/01/20 10:27
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GORI - この投稿者のレビュー一覧を見る
こんなに熱い思いで読み続けられるとは思わなかった。
本の厚さにも、怯みながら最初のページを開いたが、その瞬間からずっと、この本の事だけを考えていた。
それほど伊藤ノエと大杉栄の物語に目が離せない。
人と意見を戦わせる(対立の意味ではない)ためには、自ら学んで考えて言葉を生み出さなければならない。
ノエが甘粕へ放った言葉が今の時代への警鐘にも聞こえる。今 私たちのまわりには「どうしたら自分たちの地位が脅かされずに済むか、どうしたら今より出世して弱い者から搾取できるか」という考え方で行動している人達がなんと多いことか。
熱く幸せな恋愛小説として楽しみながら、また自ら考えて、自分の生き方を考えさせられた一冊だった。
紙の本
生きることは行動すること
2021/01/10 16:40
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タラ子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
女性の人権などなかったに等しかった頃、平塚らいてうの青踏発行に携わり女性の権利を世に訴え、さらに大杉栄と出会ってからは弱い人のために心を寄せ己の信じる主義主張を貫き通して28歳という若さで命を奪われた伊藤野枝の激動の人生を描いた1冊。
貧しい家庭に生まれながらも決して学問の道を諦めず、なりふり構わずに自分の道を切り開いてきた野枝。女性に学問など不要と考えられていた時代にそれがどれだけ大変なことであったか。しかしほとばしる彼女の情熱は平塚らいてうをはじめ、多くの人の心を動かし、そして時には男性を誘惑するほど熱く人を魅了するものだった。
英語教師であった辻と結婚し、子どもに恵まれるも子どもを捨て、大杉栄と人生をともにすることにした野枝に途中反感を持つこともあったが、男女間の恋愛の上に同志という関係を結べる相手に出会った時、人は理性をこえてしまうのかもしれないと物語を読みすすめるうちに思えてきた。
最も印象に残ったのが、"心から愛し敬えないもののためにも理想を抱いて闘えるか"という一文だった。
これは野枝が、大杉とともに労働者のまち亀戸で暮らす中で自らが救おうとしている人たちから怒りを向けられたときに感じたものだった。
誰でも遠い存在の弱者に対して思いを寄せることはできる。でも相手との距離が縮まり、理解しあえないと感じたときにでもその人を愛し、その人たちのために闘える人こそが真のリーダーであり、上に立つべき人間だとこの文章から学んだ。
自由であることのためにたたかい散っていった伊藤野枝の激動の人生に心が震えた。
たとえ読者と主義主張は違っても、彼女の人生は今を生きる多くの人の心に勇気と情熱の火を灯すだろう。
紙の本
同志愛に溢れた恋愛小説
2022/09/18 22:13
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
長大な伊藤ノエの評伝小説。日本近代史の中で伊藤ノエや大杉栄の名前だけは知っていたが、具体的な活動内容は知らず、見過ごしていたのだ。28歳という短い生涯を、因習や政治体制のために、女性は思うように生きることが出来ないことを憤り、明晰な頭脳と、心動かす文章力を、当時の日本社会にぶつけ生き抜いたのだった。。よりあがめられることを望む男性中心の社会制度を無くさなくては、女性が真に生きていくことは出来ないと考え、政治体制・政府を否定せざるをえなかった。その上でのアナキストだったのだ。現代の日本をみてどう思うだろう。
紙の本
物理的な「鈍器本」だが、心もえぐる
2021/11/30 13:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨年、これは!と思って購入してから、読めないまま(分厚さに怖気付き)日が過ぎていたが、ひょんなことから読み始めたら、やめられなくなるくらい面白く、あっという間に読んだ。
大杉栄や伊藤野枝についてはそれぞれ評伝などを読んでいたが、こちらは評伝小説であり、ノンフィクションでは描ききれない部分が、登場人物の心情に沿って描かれており、当時の世情や社会の構造的暴力、一人一人の息遣いが伝わってきた。
村山さんはとても良いお仕事をされたと思う。
紙の本
風と嵐とともに生き抜いた伊藤野枝
2020/12/22 19:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治から大正へと海外文化や思想の入り交じる激しい時代を本当の自由を求めて生きた、女性運動家の先駆けとも言える伊藤野枝。あの時代にこの様な生き方をした女性がいるなんて全く知らなかった。今の時代を生きていたら彼女は何て言うのだろう。
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史学を基に書いたフィクションとは知らず、単に恋愛小説だと思って手に取ったのが間違えてた。軽い気持ちで取り掛かっちゃいけないくらい、いろいろ重たい。好みじゃなかっただけです。
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伊藤野枝の人生と、大杉栄の人生をかけた実験、自由恋愛。
幼少の頃のノエは、負けん気だけで、何もかもをクリアして、どんな逆境にも負けず、まさに自分で未来を開いて行った。
青春時代の恩師との出会いが、親に持ってこられた縁談をダメにする。縁談の内容も、唯一の妥協点を見つめ、それが叶えられるなら、と受けるが、それは違った。
そこを飛び出し、また東京に戻り、恩師の元に。
そこで二人の子を産む。
でも、教え子を娶った辻は退職する。
平塚らいてうの「青鞜」に加わり、女権論者としての筋のとおった生き方もいいが、なによりこの本の野枝が、大杉を愛して「ともに死ぬ」それが今、目の前で行われているような気持ちになる。
大杉栄は、自由恋愛を実験的に行い、それは無謀なことで、結果はノエとの間に子どもを何人もつくり、産ませ、一緒にいたぶられ殺される。
こんなことがほんの100年前にあったとは思えない。
ところどころ、ノエの最前線で戦い主張しているのに、結局自分も他の女たちと同じ、日々の食事を作り子育てして、疲れ果てて夜眠る、それを幸せな事だと、感じてしまってもいいのだろうか、という葛藤が見え隠れする。
やっぱり生身のおんな、なんだなと思う。
一日で読み終えたが、とても疲労した。
書いた方は、どんなに疲れたことでしょう…
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いままでに村山由佳の作品はたくさん読んできた。
個人的に文体がすごく好み。自分にとってスッと入ってくるから。
それは、ダブルファンタジーあたりで作品の雰囲気がちょっと変化したときでもかわらない。
とにかく自分にとって村山由佳の文体が1番読みやすい。
そんな村山由佳が、伊藤野枝を書く。衝撃的であると同時にとにかく読みたいと思った。
伊藤野枝は日本史を勉強したときに興味が湧いて、少し調べたことがあった。なかなかに波瀾万丈な人生であり、また四角関係は凄まじいなと感じていた。
その人物を村山由佳が書く。どう描くのだろう。
そして、待ち望んだ作品をみたら600ページごえの大作……。
すぐには読めずまとまった時間が取れた今読むことができた。
読んで本当によかったと思えるものだった。
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自分が20歳だったころのことを思う。あるいは24歳の、26歳の、そして28歳の頃のことを思う。
時代が違う。立場が違う。思想が違う。
私も野枝も女であり妻であり母である。けれど、私のその8年間と、野枝の8年間の圧倒的な違いに足がすくむ。いや、比べる方がおかしいのだけど。
自分で人生を切り開いてきた一人の女。
女であるがゆえに狭められている生き方を、自分の力で広げ、自分の足で歩き続けた一人の女。
愛する男のために、その生き方を支えるための糧を自分の手で握り続けてきた一人の女。
教科書で習った伊藤野枝は、この小説の片隅にしかいなかった。
なぜ彼女が最初の夫、辻潤から離れ大杉栄の元へと走ったのか。次々と子どもを産みながら、なぜ最後まで子どもたちの母であることより大杉栄の同志であることを選んだのか。
いや、その相反するように見える生活が実は世間が思うよりもはるかに「家庭的」であったことに驚きを感じた。
もしも、大杉栄が普通の男だったら。野枝が家庭を守ることにだけその身を傾けていたら。そこには当たり前の幸せがあったのだろう。だけど、そんな二人だったら、決して出会わなかったし、出会っていてもお互いに惹かれ合うこともなかっただろう。アナキストであり自由恋愛の実験者である大杉栄と、自分の中に自然と社会主義の芽を育てていた野枝だったからこそ愛と友情と思想を共有できたのだろう。
明治から大正の時代。私が思うよりはるかに人々は生命力に満ちている。
お金がない、みんな同じように貧乏暮らしのはずなのに、なんだかんだで困っている知り合いに融通をきかせてやる。転がり込んできた同士を居候させ生活をみてやる。
いま、そんなことってあるだろうか。
何が違う。
その頃と、今と、何が違うのだろう。
あきらめることを知らない女の、愛する者へのいちずな思いと、ともに死ぬための闘い。
これを読んで胸の中に小さくて熱い思いが生まれた。それを育てられるかどうか、はこれからの自分の覚悟次第だ、と思う。
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風よあらしよ
著作者:村山由佳
発行者:集英社
タイムライン
http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
生涯を疾走した圧倒的な存在感、女たちの情熱が今日の事のように胸に迫る。
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本作は、20世紀初頭に活躍した婦人解放運動家である伊藤野枝の一生を描いた作品。伊藤野枝という人物については全く知らず、先入観なく読むことが出来たのだが、このような激動の人生を歩んだ女性が大正の時代にいたのかと思うと非常に驚いた。
実在の人物を描いた小説ではあるものの、伝記的な内容ではなく、作者は女性の活躍がまだまだ抑圧されていた明治・大正の時代に自分の意志のままに躍動する野枝の姿を生き生きと描いている。作者の綿密な調査に裏付けされたであろう野枝や野枝を取り巻く人々の赤裸々な感情も描かれていて、小説として読み応えのある内容になっている。
無政府主義という考え方自体に共感は出来ないのだが、一人の自立した女性として、同志でもある夫大杉栄と共に短い人生を走り抜けた彼女の生涯について、読後に深く考えさせられた。
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伊藤野枝を描いた空前絶後の大傑作・大長編小説。伊藤野枝の体温が伝わってくる質感のある文体と、彼女を取り巻く人々の詳細な背景描写とも相俟って、600頁超の巨編にも関わらず夢中になって読んでしまった。その生きた時代と精神世界の乖離の残酷さがひしひしと伝わってくる。今年の必読本。
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大杉栄と伊藤野枝の波乱に富んだ人生、二人の人間的な魅力を充分に味わえました。
幼い子を残して、惨殺された二人に、やり場のない憤りを感じました。
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辻潤と大杉栄の初対面のシーンは震えますね。たった一行なんですが、素晴らしい一文でした。
これを読むために小説があると言っても過言じゃないんじゃないかな。
伯父に宛てた手紙、平塚らいてうに宛てた手紙、そして後藤新平に宛てた果たし状。いずれも読んでみたいなぁ。手紙で言うと婚家を出たことを知った西原先生の手紙も良かった。
登場人物が少ない分大杉栄に出会うまでの方が伊藤野枝を色濃く描けていて面白い。と言いつつも章毎に語り手を変える手法は面白いし、増える登場人物を引き立たせる工夫として申し分なし!
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ぶあっつ!!今年2番目の分厚さ。何度かリタイアしかけたけどなんとか読了。明治時代の作家であり無政府主義者である伊藤野枝の一代記。伊藤野枝を知らなかったので予備知識なしで読んでみたが、確かに明治時代の女性と考えたら異質。向学心と反骨精神が凄い。ただ本作を読んだ感想としては「周囲に世話になりながらも(主に金銭面)自分のやりたいことをやった人」という印象。疑問に思う行動も多々あったが、己を貫き太く短く生きた彼女を天晴れとは思う。夫である大杉栄との関係も、妻であり友であり同士であると理想的。村山さんの力作だ。