ハヤカワの旧版と新版の真ん中みたい
2021/03/26 23:52
14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
作品の評価は自明の事なので、それには触れない。
訳文の文体はハヤカワ文庫の旧版と新版の真ん中みたいな感じがした。訳語はハヤカワの新版が「思考警察」に変えた秘密警察の訳語を旧版の「思想警察」だ。結構、ハヤカワの新版は旧版の訳語を変えているから、それとは別に新しい翻訳を出そうとすると新味を出すのは大変だっただろう。
「憎悪週間」という訳語を使っているところはあるが、訳者あとがきによると「ヘイト・スピーチ」に合わせて「ヘイト・ウィーク」とカタカナ書きしたそうだ。
この作品は第三帝国とソ連を風刺しただけのディストピア作品ではなく、管理社会を風刺した作品として読まれているそうだ。しかしビッグ・ブラザーは明らかにスターリンで、ゴールドスタインはトロツキーで、作中の粛清裁判は1930年代のそれであり、プロレタリアートの描写は「労働者と農民の国家」を詐称したソ連での「人民大衆」の風刺だから、そこは動かせないだろう。ロケット弾の描写の元ネタはドイツ軍がイギリスに打ち込んでいたV1号で、イースタシアの思想が中国語の名称というのは多分、中国国民党や三民主義を英語では訳さないで音写するからだろう。
ゴールドスタインの本がオブライエンが関わっていたというのは愛情省で製作された偽物という意味だろうが、「二分間ヘイト」で映し出せれるゴールドスタインのビッグ・ブラザーやオセアニア批判の映像も愛情省で製作されたものでなければ、三大超大国に支配されていないどこかに言論の自由が存在するような社会が存在しているのだろうか。
訳者あとがきには第3部のウィンストン・スミスが愛情省でオブライエンによって「異端思想」を除去されてビッグ・ブラザーを愛するようになった描写を「洗脳」としているが、洗脳という概念が一般的になったのはオーウェルの没後、朝鮮戦争で朝中軍の捕虜になったアメリカ兵が中国共産党の「思想改造」を受けて「戦争犯罪の告白」をしてからだ。身も心も公のイデオロギーに転向してしまえば、そのまま生かせておいた方がいいのに、と思ってしまうが、作品が思想と人格が分離出来ないという価値観の上で書かれていると銃殺で終わってしまうわけだ。
ハヤカワの新版に付されているピンチョンの解説のような、実は付録のニュー・スピークの解説がどんでん返しの意味を持っているような指摘がある斬新な解説が付されていればいいのに、この本の解説は表面的だ。
ニュー・スピークの解説は訳文では分かりづらいが標準英語の過去形で書かれているというから、それより先の時代に執筆された設定になるが、ヘブライ語聖書(旧約聖書)で書かれているような「異教」の神々や十戒の存在、第三帝国とソ連の記憶が読者には自明の事として登場して、アメリカの独立宣言が引用されているから、文中に書かれているように検閲をくぐり抜けて生き残っていた本から抹殺されたはずの記憶が再生したのか、それとも作品中に存在しないはずの改竄される前のタイムズが出てくるように、愛情省かどこかに密かに過去の情報を蓄積されていたのが復活したのだろうか。
今までに読んだどの小説よりも恐ろしくてゾッとする
2023/03/12 21:47
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タラ子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
党に24時間行動を監視され、思考もすべて管理され、党に目をつけられた人物はことごとく抹殺。最初からそんな人物はいなかったように過去の出来事すべてが塗り替えられてゆく。そんな恐ろしい世界を描いた作品。
2+2=4と当たり前に答えられる自由。そんな自由が素晴らしいなんて考えたこともなかった。当たり前が当たり前でない世界に足を踏み入れてしまった時に、私達はどうあるべきか。また、そんな世界を作り出さないためにどうすればよいのか。
自由とは、人間らしく生きるとはどういうことかなど様々なことを深く考えさせられた。
この小説を読んで、コロナ禍において、とある国の国民が、街中に無数に設置された監視カメラで政府が人々の行動を監視してルールを守らない人を罰してくれたおかげで蔓延が防げている、と笑顔で語る映像をテレビで見て衝撃を受けたことを思い出した。
近未来の設定で書かれた本作だが、着々とこの世界に近づいている国が既に存在している。
この本が読めなくなる未来にするかは今を生きる人間にかかっていると思う。
"戦争は平和なり。自由は奴隷なり。無知は力なり。"そんな未来が来ないように精一杯考え、生きていきたいと思った。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:すぃ - この投稿者のレビュー一覧を見る
例えば「これが正しい」と思っている事が全く違うと判明した時に私はどうするだろうか。ニュースをニュースと信じている理由は何だろうか
今の不安定な世界情勢を見てから読むと自由を考えるきっかけになると思います。
一気に読み耽った私の姿こそウィンストンなのかもしれない
1984は過去ではない
2021/03/26 21:51
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投稿者:蛇歩音 - この投稿者のレビュー一覧を見る
今のこの国のかたちそのもの!
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投稿者:ウラカン - この投稿者のレビュー一覧を見る
生活の監視という今では無意識におかなわれていることを以前から指摘している!
最悪の未来を描くことで
2021/10/06 16:53
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
全体主義と管理社会へのメッセージが痛烈です。自我に目覚めていく主人公、ウィンストン・スミスに僅かな希望が込められていました。
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投稿者:ケロン - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんだか世界が不安定になってきて、とてもこの小説の世界に近づいてきているようでぞっとしています。
預言書ということではないですよね?
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以前から気になっていましたが、新訳で平積みされていてようやく手にできました。全編を通して会話が少なく文章も長かったので読めるか心配しましたが、理路整然とした文章が多く内容が頭に入ってきやすかったので楽しめました。訳者あとがきが思ったこととか感想を代弁してくれていました。
こんな世界は来ない、フィクションだ、と鼻で笑えないのが恐ろしいです。
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今の世の中のニュースと同じで何を信じて良いのか?コロナの上からの対策に踊らされている自分に重なった。
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新訳で、読みやすくなっている。
1984年に、どの訳だったかは覚えていないが一度読んだことがあるけれど、ものがたりの顛末はほとんど覚えていなかった。延々と拷問のシーンが続き、とどめはネズミだったという記憶だけがあったが、読み直してもそのとおりだった。プロットは退屈なのだけれども、卓越した世界設定があり、いま、我々は『1984』の世界を生きているではないか、と感じさせられるところはかわりない。
世界がこのままなら、これからも読まれるだろう。
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ようやくamazonレビューしました。
ジョージ・オーウェル著、「1984年」
最近読んだ、とあるディストピア小説で、巻末のあとがきにこの書籍の紹介があった為興味を持っていたところ、2021年3月に改めて新訳で文庫として出版されている事を知り、早速借りて読んでみた。
先の紹介で、「ディストピア小説の古典的傑作…」のような記述があったが、1949年刊行という事で興味半分に読み進めたのだが、生半可な興味は見事に裏切られた。もちろん良い意味に於いてである。
私個人的には、著者が戦後の混乱期に、或いは戦中から、著作活動を行って出版されたという過程が非常に興味深かった。また英国人独特のアイロニックで屈折した表現が随所で散見された。かといって退屈したり辟易したりするような内容では決して無く、色恋沙汰も随所にはあり決して飽きることなく読み進めることが出来た。
これから読もうとされる方の為に詳しい内容はあえて書かずにおこうと思う。ただ、この小説に描かれた世界と、「1984年」がすでに遠く過ぎ去った21世紀の現代とを重ね合わせてみると、日常生活でさまざまなテクノロジーに触れ、政治問題や国際問題をマスメディアを「通して」、知るごくごく一般的な私たちの日常生活が、逆にこの小説に書かれた世界と恐ろしく知らず知らずのうちに重なっていくようでぞっとする。
ここで私が言うテクノロジーとは、テレビジョンから異形進化しての現代のネット動画や検索エンジンなど「双方向」の「メディア」の事でありまた、監視カメラ等(を包括的に管理して個人の行動を監視することできる技術)、或いは政府による個人番号付け、の技術の事である。その行きつく先にあるものをこの小説は示唆しているというように思えてならない…
いずれにしても傑作であることには間違いないと思う。繰り返すようになるが、1949年当時にその当時の社会情勢を踏まえながら1984年を思い浮かべて、さまざまなテクノロジーを連想し、この世界観を築き上げた著者の想像力、を大いに評価したい。
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全体主義国家によって分割統治された近未来世界の恐怖を描いた、ディストピア小説の金字塔ともいえる名作。
1950年に出版されたので、その時から30年後の世界であるわけだけど、2020年の今こうして読んでもすごく”新しい”と思わせてくるところに、この小説のもつ魅力があるのだと思う。きっといつどの時代に読んでも、「こうなるかもしれない」という寒気を伴う予感をはこんできてくれる。自由がなくなるのではなく、自由という概念そのものが無かったことにされる世界。
主人公のウィンストンは真実省記録局の下級役人として、歴史資料の改竄業務を行っている。
スローガンは【過去を支配する者は未来を支配する。今を支配する者は過去を支配する】。
こうしたイングソック理念のもと思想警察の監視によって厳しく思想統制される社会の在り方に疑問を持つウィンストンは、反政府組織〈ブラザー連合〉の存在に希望を抱きながら、真実と記憶を留めるため密かに日記をつけている。
味方か敵か分からない人々との危うい交流を深め、姿を消された革命家・ゴールドスタインによって書かれた禁断の本を入手し読み耽るところで、物語は急転直下。
どうしてかは分からないけど、私は読みながら希望のある結末を思い描いていたんだよね。味方は実は大勢いて、彼らと結託して明るい未来を開拓してくれると。
最後まで読んで半ば放心状態で本をとじ、なんて平和ボケしていたのだろうかとショックを受けた。象徴であるはずだった美しい悠久の珊瑚は、いとも容易く砕け散ってしまった。
「ビッグ・ブラザーが見ている。」
なんだかこの言葉が、昨今のコロナ禍で聞き覚えのあるような気がしてならない。新しい生活様式、ソーシャル・ディスタンス、コロナ自警団、自粛警察、五輪強行、耳に新しいワードが脳裡に浮かんでは消えていく。
これらと全体主義とを結びつけて考えるわけでは決してないけれど、でも現在の一人一人の行動原理が社会の同調圧力を強めていって、やがてその先に生まれ得るものを想像すると、この本を読み終えたばかりの私は幾分言葉に詰まる。恐るべきドアが遠くにぼやけて見えるような、気がするような。
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全人類に勧めたい本
難解なので先に『動物農場』を読むと世界観が入ってきやすい。
日本からは遠くない国で起こってるように錯覚(ではないと思う)してしまうくらいリアリティあるディストピア。読了した時は筆舌し難い気持ちに襲われました。
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監視社会を描いたディストピア小説。『ビッグ・ブラザー』が支配する世界では、寝言や表情、頭の中までもが徹底的に監視下に置かれ、過去も都合のいいように書き換えられてしまう。こんな状況の中でとうてい生活できるものではない。読んでいるだけでも、常に誰かから見られているという息苦しさでだんだんと辟易してしまうほどだ。前半は動きがあまりなくまだマシだったが、後半はかなり過酷な展開へと変貌をとげる。とにかくはやく解放されたい、そんな気持ちにさせられる読みごたえ十分の重たい小説だった。
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事前情報なしで読み始めたが、「華氏451度」を彷彿させるディストピア感。
作りこまれている作品だけれども「華氏451度」よりもくどく、途中、危うく手が止まりそうになった。
1949年に刊行された本書。長く読み継がれているだけあるメッセージ性は強い。
描かれている支配と隷属の関係が、今の日本の現状と照らし合わせて考えたくなるものがあった。思想を表す言葉が失われていくこと、記録が失われていくこと、与えられる情報がコントロールされることにより知らぬ間に思考もコントロールされていくこと……。
ただ、この時代にオーウェルがこの本を書くことで訴えたかったことは十分の一も読み解けてないんだろうなぁと思う。当時の社会情勢を知って初めて感じられることがあるのだろう。
――――
オブライエンがウィンストンに対して権力について講じるところは違和感。ウィンストンという中央にとってたいして重要ではなさそうな人物に対して、オブライエンが何度も足を運び一席ぶつ必要性が感じられない。
それと、狂ったように権力に執着しているのは伝わったが、いまひとつオブライエンや中央側の行動の根底にあるものか理解できなかった。。
これも、社会主義の国政や権力者のやってきていることを知っていくうちに腑に落ちるのかもしれない。