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投稿者:第一楽章 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「あなたのためを思ってしてあげたのに(言ってあげたのに)!」、「わたしは〇〇してあげたのだから、あなたは感謝して(喜んで)しかるべき」と、初めは他者を思ってのことだったはずなのに、いつのまにかその他者に刃が向いてしまうこともある「利他」的な行い。そうならない本当の「利他」とは何か、伊藤 亜紗、中島 岳志、若松 英輔、國分 功一郎、磯崎 憲一郎の5名がそれぞれの観点から論じています。
ひとつの到達点が、「利他」とは「うつわ」である、という結論。それは、様々な料理を受け止めその可能性を引き出す余白を持つ器(うつわ)のように、特定の用途や作り手の意志に固執せず、相手(使い手)の踏み込む余地、余白を持っていることが肝要なのではないか、という考えです。これは若松が本書で指摘しているように、柳宗悦の提唱した”民藝”に通ずるものです。
作り手の意志がひしひしと伝わってくるような、名のある作家による凝った器は、実用するのではなく飾って観る分には大変美しく素晴らしいものかもしれない。でも使ってみるととても使い勝手が悪い、あるいは実用に耐えない。それは使い手のことを考えた「利他」的な器ではない。逆に、生活の中の様々な場面で使われてきた品物の美を見出したのが”民藝”であり、作り手の意志から離れ使われてこその価値がある。そこに「利他」と共通するものが宿っているという考えは、すっと胸に落ちてきました。
「温故知新」的に利他を考える
2021/07/16 12:25
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投稿者:レノボ - この投稿者のレビュー一覧を見る
立場は異なる、けれど同じ利他について考えるプロジェクトのメンバーが書いた本。
第一章は現代の議論をベースに利他を考察しているが、それ以降の章は仏教だったり、古代ギリシアの研究などから利他への帰結を試みる。
共通しているのは、利他は、自分の意識を超えて他人に作用しようとする力、という受け止め方をされていること。
なので、特定の解決方法を提起するものではない。
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投稿者:りら - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちょっと難しい論もあって、一体何の話だったかという気もしたが、利他を云々する前に、まずは、筆者それぞれが利他の概念を定義するというところがこの本なのかと思った。
そういえば題名もそうであった。
というところを踏まえつつ、考える。
他者のため、と言いつつ、その実、自分にことが有利になるような含みを持って、あるいはお返しを期待して、行動することはわりとよくあることかと思う。
それが純粋に他者のためなのか?というと他者のためになっている一面はあるかもしれないが、純粋にそうなのかというと違うのかもしれない。
さらには、良かれと思ってやっていることがありがた迷惑であることすらある。
人間関係の難しさにも通じるところ。
じっくり考えながら読む本。
押し付けない「利他」のために
2022/04/23 21:50
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投稿者:hachiroeto - この投稿者のレビュー一覧を見る
「利他」をめぐる5人の考察。民藝とか親鸞とか、意外な視点からのものもあってなかなか面白い。「利他とはうつわのようなもの」「発見のない利他はひとりよがりの可能性大」あたりがキモか。身勝手な利他の押し付けから脱却するために。
比喩としての「うつわ」
2023/03/01 09:57
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投稿者:ラブレー - この投稿者のレビュー一覧を見る
中島氏、若松氏、國分氏に興味があり、購入。「おわりに」で中島氏が、利他をめぐって共通する人間観として、「うつわになること」を挙げている。それを読んで腑に落ちた。岩波新書の『死者と霊性』と併せて読むとよいと思う。
利他も回り回って利己になる
2022/05/04 15:49
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投稿者:future4227 - この投稿者のレビュー一覧を見る
5人の識者が利他主義について語る。特に伊藤亜紗さんの章は今年の中学入試で複数の学校で出題された。本来は人のためにという利他が、インセンティブや罰金などの数値化によって、数字が目的化してしまうとか、ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)が増えているとか、うちの会社にもあるあるだなぁと大いに納得。中島岳志さんの贈与と支配の関係を志賀直哉の『小僧の神様』を読み解くことで説明しているのは面白かった。國分功一郎氏の中動態の話は相変わらず難しい。申し訳ないが私の読解力が貧弱で、何を言いたいのかさっぱりわからない。
どうしようもなく消化不良
2022/03/26 18:48
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投稿者:matsuzaka - この投稿者のレビュー一覧を見る
読書は好きですが、哲学とか人文系どころか文系の教養が自分にかなり少なくて、
本書に対する私の評価が★3なのは、どう考えても私の側に問題がありますので、もっと素養のある方は、安心して本書をお読み下さい。
書の内容は、面白く、大変興味深かったのですが、なにせこういった分野の文法のようなものを私に身についてないがために、どうしようもなく消化不良で、その印象が★3なだけです。
もっと易しい本から入って、しっかり勉強してからまた本書に戻ってきたいと思います。そういう意味では、「読了」と書くのはおこがましいですね。私の側の責による「読書中止」というのが実態に近いでしょうね。
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医師は患者さんのために働くし、産業医は働く人のために働くので、利他的な職業でありそうですが、そこで利己的な利他を発動しがちなのもまた真だと思うので、メタな視点ってやっぱ重要なんだなあ、と思いました。
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伊藤亜紗さんの論考がおもしろすぎて、引っかかる文章が多すぎて、ずっとツイートしながら読んでしまった。それを一つ一つ拾いはしないけれど、まとめの部分だけ引用する。「よき利他には他者の発見がある。相手の言葉や反応に真摯に耳を傾け「聞く」こと。利他とは「聞くこと」を通じて、相手の隠れた可能性を引き出すこと。同時に自分が変わること。善意を押しつけるのではなく、うつわのように「余白」を持つことが必要。」この、「うつわ」ということばの使い方がまだしっくりこないが、中島岳志さんのあとがきによると、どうもキーワードのようだ。「うつわ」からの連想で、土井先生が言っていた、「混ぜる」のでなく「和える」。それから古くは梅棹先生が言っていた人種の「るつぼ」ではなく「サラダボール」。まあ、関係なさそうだけれど、いろいろ考えてみよう。「うつわ」いっぱいいっぱいにならないように気を付けよう。中島岳志さんの話は他でも読んだり聞いたりしているものが多かった。「哀れみ」ではなく「慈愛」。利他は自分の中にあるのではなく、どこかから自然にやってくるもの。ところで、生徒にテストやプリントを手渡しているとき、「ありがとございます」と言ってくれる子がいる。こちらは「あたりまえ」のことをしているだけでお礼を言ってもらうようなことではない。まあでも、そんなに嫌な気はしない。息子に月々の仕送りをして、ラインで報告すると「ありがと」と返信が返って来る。たぶん、「あ」って1文字打つだけだと思うが。それが月1回唯一のコミュニケーション。まあ「はい」だけでもいいような気はする。國分功一郎さんの話は、通勤途中の電車の中で読んでいるので、しっかりとは頭に残っていない。中動態から意志の問題、そして責任と、ここまではつながったが、そこに利他がどう続くのか。再読が必要。若松英輔さんの「民藝」の話はちょっとつかみ切れていない。とりあえず、本日、年1回のお墓参りの後に河井寛次郎記念館に行く予定。磯崎憲一郎さんは、小島信夫を取り上げている。村上春樹の紹介で、「馬」を図書館で借りて読んだ。安部公房好きの私なので、変な話は嫌いではない。しかし、利他とはどこでつながるのか・・・ところで、本書は、ツイッターで紹介されているのを見て、アマゾンでポチって購入。ところが、どうやら間違って2回ポチったようで、2冊送られてきた。同時に。返品するのもムダなので、誰かにプレゼントしようと思う。大学に合格した卒業生が、報告に来てくれるといいのだが。
後日、大学院に進学した卒業生が来てくれたので、あげた。
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「利他」とは何か、読んでいながら解答を求めている自分に気付きました。各自なりに考えて実行することが、近づく近道だと思いました。
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昨年NHKの番組でジャック・アタリ氏が発した「利他主義とは合理的な利己主義」という言葉に私もとても共感したのだけど、この東工大の研究会のメンバーがまた豪華だし、とても面白かった。特に伊藤さん、中島さん、若松さんの章はわかりやすいし読んでいて膝を打つことが多かった。
放送直後にもこのジャック・アタリ氏の発言には反響が多かったような気がするし、今後もこの研究を重ねてまた本を出してほしい。
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利他とは何か
本書を読むことで感じたのは、近代的な人間論、個人への懐疑であった。本書を通底する思想はここにあると思う。利他という時、そこには、利他を行う自己の存在がある。その自己はなんでも自己決定ができ、すべての意思決定をコントロールできるものである。その操作性の高い自己による他者への奉仕や行動は、その操作性の高さを他者にも応用するものでもある。自分が自分の意思決定を自由にできるということを前提に、他者への奉仕を考えたとき、人は他者を自由に意思決定できる主体として捉える。そしてそうなったときに、自分が他人から奉仕されたら当たり前のように行動する返答を、相手に期待してしまうことがある。障がいのある人が、みんなに好かれるよう強制されることの背景には、奉仕したからには当然に感謝せねばならず、支援をされる側の人間の行動を規定することを無意識に行ってしまう危険性がある。
しかし、本当の利他とは、他者の行動に対しての返答の要求や予測可能性を排した次元にある。後々自分に返ってくるから善行を行うという考え方はもってのほかで、他者がどう感じ、どう受け取るかをいうことに対しての自己の意志というものは排されるべきである。その姿を「うつわ」として表現することもできる。
また、このような発想をするためには、近代的な自己像の解体も必要である。我々は自己決定をしているようで、自己決定をしていない。自分で行動しながらも、何か自分でないところから湧き上がってくる行動がある。それによって行われたことは、能動/受動という二項対立には位置づけられない、中動態とも呼べるような様相を呈する。こうした近代的な自己決定論の解体の先に、新たな社会像の提起がある。我々の意思決定や自己決定への非―操作性に気づくことから始まる議論や社会の在り方があることを、本書は提示しているように思えたのである。
村上春樹は、自分と“うなぎ”が小説を書いているという。それは、かつて古代ギリシャ人がダイモンと呼んだ、何らかの自己ならざるものなのであろう。
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言葉の意味って、考えるほどに難しい。
利他ってなに?と聞かれると、利己の反対だとか、相手のために考えて行動することだとか、そんな辞書的な意味の答えばかりが頭に浮かんできた。
そのうちに聞かれたことではなくて、自分の利他にまつわるエピソードとかを、思い巡らせたりしながら、この本を手に取った。
「利他とは何か」というテーマに関して、5人の著者が全く別の視点から考察するこの本は、最終的に近いところで着地しているところが、おもしろいと感じた。
「利他」に関わらず、「共感」などポジティブな面にばかり向けられた言説が多い中、悪い面も取り上げているところが興味深い。
例えば、利他であれば、「寄付する」の行為は、寄付される側が、選ばれるように仕向ける努力をするという、間違った結果を生みかねないこともあると指摘している。
Yahoo!基金など、寄付することが身近になったいま、腰を据えて考えてみるテーマであるように思える。
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様々な角度から「利他」とは何かについて書かれている。
単純に人に対して良いことをするという訳ではなく、より深く思考を進めていく。これによら、これからの世の中に必要なものの本質を見つける事ができるかも知れない。
特に中動態の考えは初めて触れるものだったので新鮮な感じがした。
意志の概念に「責任」の概念も関わっているというのは最初はピンと来なかった。しかしファシリテーションを行う際に各人に責任感をしっかり持てるかと考えた時にハッとなった。意志をしっかり持つと責任も生まれるのかと気付かされた。
利他を考えた時にお情けではなく如何に他者が変わる事ができるか、また自分自身も変われるか、倫理の問題と併せて色々と考えさせられました。
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某所読書会課題図書.「利他」に関する5つの別個の解説が収められているが、それぞれが独立しており理解が難しかった.國分功一郎の"中動態"の解説はよく理解できなかった.中島岳志の「利他はどこからやってくるのか」が取っつきやすかった.例としてインドでの経験を述べていたが、贈与と利他の問題提起だ.純粋な利他はあるのか という疑問も投げかけている.まだまだ考えていく必要のある問題だと感じた.