紙の本
歌に生きる
2023/01/23 21:06
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投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
辻邦夫の読んでいなかった小説は、これが最後です。佐藤義清すなわち西行の生涯を、弟子の藤原秋実が、関わりのあった人を訪ね歩く形で描く。時には西行自身の言葉・手紙の形をとるけれど、和歌が散りばめられて、歌びとらしい物語である。保元平治の乱の前後から鎌倉幕府初期に至る73年の人生に、鳥羽院、待賢門院、崇徳院、平清盛、源頼朝、慈円などと歴史上の有名人物が西行とかかわっていく。若くして出家した西行は、世間から無関係になったのではなく、俯瞰するように世間と関わっていたようだ。人の宿命に意味を与えるために、歌に生きた。
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西行花伝
2021/05/25 23:11
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
平安末期から鎌倉時代にかけて生きた西行の人生を描いた小説。西行は藤原氏の元に身を寄せる地方領主の家に生まれ、武芸や和歌、蹴鞠の技を磨いて北面の武士として出仕し、出家して和歌の道に専念してからは鳥羽院や建礼門院、崇徳院、さらには奥州藤原氏の藤原秀衡、平清盛、源頼朝らとも交わっている。出家と言うと、脱俗といった感じがするが、これだけの権力者たちと関係が持てるというのは、「小隠は陵藪に隠れ、大隠は朝市に隠る」という言葉のようなのかもしれない。それでいて、自然や草花にむかって道を究めているという感じがする。
小説という形をとっているので、どうしても心理描写が入ってしまうが、歴史上の人物の心理を描くと、どうしても作り物めいた感じがしてしまうが、この小説ではそこを補うように西行の和歌を引用しているので、本当にそうだったのではないかというような気がする。
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彼の歌には、色々な思いが込められている
2020/05/02 22:33
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
西行とはもちろん平安時代末期の僧であり、歌人である。この小説には、数多くの彼の歌が収録されているが「世の中を 捨てて捨て得ぬ 心地して 都離れぬ わが身なりけり」という彼が北面の武士という地位を捨てて出家したばかりの頃に読んだ歌に私は心がひかれた。彼のような人でも初めから何の迷いもなく行動したのではなく辛い思いを重ねていたのだとおもいをはせずにはいられなかった。作者は玄徹という男に「上人は花鳥風月の艶やかな趣を読むよりは、心を悩ませる思いを詠まれることが多いですね」と言わせている。歌には疎い私が言うのも何なのだが平安末期の歌というのは技巧に走った絵画のような歌が多いと思っていたのだが、彼の歌からは確かに気持ちが伝わってくるように思われる
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流麗な日本語で綴られた名作ですね。
2017/10/28 16:14
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投稿者:楓 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、西行の弟子と名乗る藤原秋実(ふじわらあきざね)が、その死後に西行と縁が有った人々の許を訪れて、生前の西行の思い出話を聴き,それを綴る...形にて西行を偲ぶストーリー展開となっております。
又、平安末期の動乱の時代背景も、懇切丁寧に織り込まれております。
そして、辻邦生氏ならでは...の流麗な日本語にて西行の生き様や人物像が浮き彫りにされてゆきます。
ですから、ドっプリとその世界観に浸り,寝食を忘れて読み進めてしまう次第です。
以上の様な次第で、本当に素晴らしい小説だと思います。
願わくはより多くの皆様にもご一読頂きたい作品ですね。
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桜にこめた辻の複雑な思い。
構想に年月を掛け、何度も吉野に足を運び書き上げた。
辻の書く文章は本当に美しい。
西行と魂を交感させながら書かれた西行の世界。
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色とは何か、華とは何か、別れとは何か。
その全てが詰った珠玉の1冊、辛い別離の後に読むのがオススメ。
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平安時代の僧侶 西行の「みちのくひとり旅」。
「願わくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」という最期の和歌に込めた西行の気持ちがわかる故・辻邦生さんの名著です。
一度、読んでみてください。
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言葉や歌の意味づけが興味深く、出家の意味をあらためて考えさせられた作品です。
(参照;http://blog.so-net.ne.jp/shachinoie/2007-09-20)
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西行法師の生涯を、周辺人物・時には西行自身の独白というカタチで追うフィクション。700ページという読み応えある本でした。
風流に生き、恋に生き、詩歌に生き、遁世の身でありながらこの世を愛し続けた西行。彼の世界観はまさにこのようであったのではないかと、フィクションながら感動させられます。
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ずっと気になる存在だった西行さん。
そしてずっと気になっていた小説。
櫻とともに生きた方ですね。
西行さんが出家する前後が
一番興味があったので、ぐんぐん読めましたが
それにしても新院がもう…。
あそこの文章の壮絶さがもうね。圧巻でした。
美しい言葉や、色々な意味で胸に刺さる言葉が沢山でした。
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日本語の美しさが心地良い。西行がなんでもできすぎなのが鼻につくが。。。しかしとても優美な世界。再読したい。
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長期間、ちびちびと読んだ。元はと言えば、夢枕獏の朝日の連載小説が似てる話だったので。構想はこっちのほうがよほどしっかりしている。重厚で読み応えあり。
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初めてのレビュー。記憶に新しい去年を振り返って、2012年は辻邦生を知ったのが大きな収穫。
「西行花伝」を読んで、それよりずっと以前に書かれた「背教者ユリアヌス」も知った。
平安末期から武士社会に移る時代に「もののあはれ」の美意識を求めた西行と、キリスト教が台頭し始めた時代、純粋さゆえ裏表を使い分けるキリスト教を受け入れられず古代ギリシャ・ローマに美を求めたユリアヌス。勝ち負けで片付けるなら、どちらも時代を生きる中で易くない道を選択したようにみえる。
「西行花伝」の最終章近くで、平家を倒し後白河院から権勢を奪い勝ち進む鎌倉殿の幻影を夕刻の大磯で西行の夢に現れさせている。その時の西行のつぶやきが「心なき 身にもあはれは知られけり 鴫立つ沢の 秋の夕暮」の歌で、頼朝とて飛び立つ鴫に涙したであろうと西行は幻の中で思ったのだとこの作中では構成されている。かつて大磯の鴫立つ沢に行って教科書で習ったような感慨にひたったけれど、こんな見方もあったのか・・。作者は西行を描くにあたって、この歌を単に世捨て僧の心の情景にはしていない。
勝利や成功に役立たない心を切り捨てるのは「心なき心」であり、『人は常にあらゆる動機で心を失う。』 のであれば、西行にも 『世を捨てたいという思いで、私とても、もののあはれに震える心を失っているのかもしれない。』 と言わせている。その矛盾を埋めるのが西行の多くの歌なのだろうか?
純粋さゆえ、周囲に利用され、キリスト教と対峙し、背教者の汚名を着せられながらも自分の哲学に従って突き進んだユリアヌスが、若くして戦死するのも哀れ。 次第にゾロアスター教や原始的儀式にひかれていくユリアヌスだが、それは西行にとっての歌と同じなのかしら。洋の東西も時代も違うけれど。
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学生のころに読みました。日本の古典に憧れて、大学受験はほとんど日本文学科を受験。とくに和歌の世界には強く惹き付けられ、西行が大好きでした。今思えばなんにもわかってなかったですが。さて、この本は、同じ辻邦生さんの「背教者ユリアヌス」同様、辻さんの古い時代への愛情と憧憬に溢れいて優美です。
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平安末期から鎌倉時代にかけて活躍した歌人西行の生涯を描いた超大作。西行は歌を精神の中心に据えた隠遁生活を送りながらも、政変など世の中の動きに敏感であり続けた。「できることなら桜の下で春に死にたいなぁ」と詠んだ人ということぐらいしか知識がなかったので、鳥羽院や待賢門院、崇徳院、その他朝廷の要人と関係はとても興味深いものとして読んだ。しかし“歌による政治”などというものを本当に彼等は考えていたのか。当時の人々にとって和歌がどれほどの価値を持ったものなのかが分からず、すべてにおいて雅過ぎる思想に戸惑う部分もあった。
☆谷崎潤一郎賞