紙の本
アメリカの存在感
2023/05/21 05:26
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投稿者:K2 - この投稿者のレビュー一覧を見る
シー・パワーとランド・パワーをキー概念に、近代以降の国際政治を構造的に考察。前者はイギリスやアメリカ、後者はロシアやドイツに代表されるようだ。ただし、視点の大小、対象地域の広狭によって、その性質は変わるのではないかとも感じる。アメリカの存在感が突出するのは、シー・パワーがランド・パワーを封じ込める指向性を持つからだろう。
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日本では戦前の流れから忌避されてきた「地政学」。
ところが、「地政学」と言った、確定された学問分野は実はない。
やばかったのは大陸系地政学で、今の日本はむしろ、もう一方の英米系地政学に則っている。
その、英米系地政学は、実は、日英同盟の分析から唱えられた。
いわゆる、ランドパワーに対するシーパワー。
ランドパワーは、バランスオブパワーとか、生存権とか勢力圏とかいうものに繋がっていくもので、日本も、本来シーパワーに属していたのが、ランドパワーに変に偏って行った結果、破滅した。
もっとも、そこに追い込んだのは、敵と味方を間違える天才、シーパワーの雄、お米の国、のような気もする。
篠田先生自体も、別段地政学が絶対とは仰っていない。
だがこの視点は大切なんだと思う。
篠田先生の本はどれも簡潔で説得力あって、読みやすい。
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二つの地政学の見方がどちらも妥当性を持ちつつ、現代において、するどく対峙することを説く。
大陸系地政学(広域圏の均衡)と英米系地政学(シーパワーとランドパワーの均衡)がその二つだが、後半になるに従って、その見方の鋭さを裏付ける叙述になっている。
台湾とインドの話しが示唆に富んでいた。
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序盤はチェーレンとかマッキンダーとかハウスホーファーにスパイクマンとシュミットを足してまとめた感じ。
面白いのはP75第2部以降である。
大陸系/英米系地政学の視点から、ちょっと読みにくく賛同できない点も多々あるが、P128あたりからの日本の大陸進出以降にかかる地政学の変遷は面白い。
現代の戦争に関しては、おまけで書いた感強く、それほど目新しくは無いかな。
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篠田英朗(1968年~)氏は、早大政治経済学部卒、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス国際関係学Ph.D.取得、広島大学平和科学研究センター助手・助教授・准教授を経て、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。その間、ケンブリッジ大学客員研究員、コロンビア大学客員研究員等も務めた。
本書は、近年関心が高まり、関連する書籍も多数出版されるようになった「地政学」について、理論的な枠組み・定義を示し、地政学的見地から、近代の戦争の歴史、日本の戦争、現代世界の戦争を考察したものである。
主な内容は以下。
◆地政学には2つの異なる枠組みがあり、ひとつはハウスホーファー、シュミット等による「大陸系地政学」、もうひとつはマッキンダー、スパイクマン等による「英米系地政学」である。前者は、有機体的国家観、大国の主権の重視、複数の生存圏の存在を前提にした秩序を志向し、19世紀ヨーロッパ公法に懐古的、反普遍主義的、反自由主義的で、多元論的世界観(圏域)を持つ。結果として、圏域拡張主義戦略をとる。後者は、地理的条件の重視、海洋の自由、海洋国家による陸上国家の封じ込めを志向し、現代国際法に親和的、普遍主義的、自由主義的で、二元論的世界観(海と陸)を持つ。結果として、同盟ネットワーク型戦略をとる。
◆マッキンダーは、ユーラシア大陸中央部(ロシア等)を「ハートランド」、同外周部分を「インナー・クレセント」、その外側の島嶼地域(イギリス、日本、米国、オーストラリア等)を「アウター・クレセント」とする概念を示し、全世界の見取り図を描き出した。更に、ハートランドのような大陸の要素を持つ国家を「ランド・パワー」、大陸に属さない国家を「シー・パワー」と呼び、ランド・パワーが拡張戦略をとるのに対し、シー・パワーは、歴史法則的に、ランド・パワーの膨張を封じ込めるための戦略をとる、とした。
◆近世以降のヨーロッパの戦争は、大陸系地政学的発想で、ヨーロッパを一つの圏域と見做す国(ドイツ等)と、英米系地政学的発想で、バランス・オブ・パワーの社会と見做す国(イギリス等)の戦いであった。
◆東西冷戦は、ハートランド国家の典型であるソ連の膨張政策を、シー・パワーの代表であるアメリカが封じ込めた対立であり、冷戦の終焉は、シー・パワー連合がランド・パワー陣営を打ち負かしたという現象である。今般のロシアのウクライナ侵攻は、冷戦終焉後、旧東欧諸国に拡大したNATOが、旧ソ連構成国に影響を及ぼすに至り、生存圏を脅かされたとするロシアが起こしたものと見ることができる。
◆日本が明治期に結んだ日英同盟は、英米系地政学によるシー・パワーの同盟と説明された。第一次大戦後、日本は大陸に進出していくが、それはランド・パワーの性格を持ち始めたということであり、更に、大東亜共栄圏構想は、大陸系地政学による生存圏と呼ぶべきものだった。しかし、第二次大戦敗戦後は、日米同盟を軸とする英米系地政学に回帰した。
◆冷戦終焉以降、紛争が多発しているのは、西アフリカから、北アフリカ、中東、南アジアに連なる地域で、英米系地政学的に見れば、ハートランドから、アラビア、「南のハートランド(アフリカ大陸のサハラ��漠の南側)」にかけて広がるイスラム過激派の拡張を、アメリカが封じ込める動きと見ることができる。また、旧ソ連外縁部における紛争は、大陸系地政学に沿ったロシアの拡張主義的な行動によるものである。
◆中国は、英米系地政学的に見た、ランド・パワーとシー・パワーの両方の性格を持った両生類なのか、大陸系地政学的に見た、アジアの覇権国なのか、まだ評価は定まらないが、英米系地政学の理論を体現する「自由で開かれたインド太平洋」と、新しい大陸系地政学の展開を予兆させる「一帯一路」が対峙する構図は、21世紀の国際政治の行方を決定づける最重要の国際社会の構造的対立の図式である。
説明は論理的で、読み進めるのに難はなかったのだが、私は読みながらひとつの疑問を感じていて、それは、現在シー・パワーの同盟ネットワークの一部を担っている日本としては、本書の中から、日本の考えが唯一の正解であり、他の考えを持つ国は全て間違っているという結論を読み取ればいいのだろうかということであった。
そして、それについては、著者は終盤で次のように書いている。「二つの異なる地政学のそれぞれの信奉者たちが、世界観の違いから対立を深めることは起こり得る。だがそのことも含めて、分析の視座として活用するのであれば、一般論として二つの異なる地政学のどちらが本当に正しいのかと思い悩みすぎる必要はない。二つの異なる地政学は、具体的な状況で、様々な程度の関連度を見せながら、複合的な分析の視座を提供する。」
地球には様々な世界観を持つ国が存在し、我々はそうした国々と共存していかなければならない。多様な視座を持つために、一読の意味のある一冊と思う。
(2023年7月了)
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最初の第一部が理論の説明でとっつきにくかったが、地政学自体は大風呂敷の議論で、英米系も大陸系も難しいものではない。
本書の特徴的なところは、その切り口でウェストファリア以降の欧州、明治以降の日本、冷戦、ウクライナ戦争の構図、中国の一帯一路とFOIPなど当てはめて議論しているところ。
個人的に特に面白かったのは、①日本の近代史が英米系→大陸系→英米系の地政学的施策になっていたということ。②日本は大陸に絡め取られて大失敗したが、アメリカのアフガン戦争・ベトナム戦争も小失敗だが同じということ、③中国はランドパワーではなくスパイクマンの言う両生類。ロシアとは根本的に行動原理が違う、といったあたりか。
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地政学:地理的事情を重視して政治情勢を分析する視点
英米系地政学:海、分散的に存在する独立主体のネットワーク型結びつきを重視
大陸系地政学:圏域思想、影響が及ぶ派にの確保と拡張にこだわる
理論学派:自己充足的、自己弁護が目的化
構造的な要因で歴史的な流れで決まる
ラッツェル「政治地理学」→チェーレン「ゲオポリティーク」
マッキンダー・歴史の理利敵回転軸とハウスホーファーの地政学理論
スパイクマン・地政学理論の普遍主義とシュミット・広域圏論の地域主義
地政学をめぐる争い≒人間の世界観をめぐる争い
運命論的な巨大な力←何であるかをめぐる世界観の闘争
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毎日世界のどこかで争いが起こり大勢の市民が犠牲になっている。なぜ人は争うのか。権力争いの発展系や領土拡大欲、宗教の対立など原因は様々だ。その根本原因はそれぞれに違うだろうが、地球を海と大陸、そして流れる河や砂漠、山脈、地図の上から確認できる地形的要素を加えて、力の関係や方向性、政治を考察するのが地政学だ。ここ数年本屋で多くの書籍を見かけるようになったし、会社に訪問してくるグローバル企業のエバンジェリストの方なども、地政学の話をよくされるので、私もいくつか本を手に取り読んでみた。本書はその中でも、これまでの私の浅い知識を再整理し、言葉の意味合いや考え方のおさらいに非常に役に立つ。
わかりやすいところで言えば、太平洋戦争時は帝国陸軍も対共産主義をベースとして大陸に向けた地政学的分析がなされていたそうだし、ナチスドイツの第三帝国思想、大英帝国がインドを植民地化した背景にはそうした地政学が影響を与えたと言われている。日本やドイツは大陸に向けた領土拡大を主目的とする大陸的地政学、イギリスは大陸と海洋のそれぞれの力関係を説く英米系地政学に分類され、現在我々がよく見かけるのは後者だ。本書はこの大きな二つの考え方の違い・国家戦略の衝突の一因と捉える。最終的には現代の超巨大経済圏を構築する中国の一帯一路に話が繋がり、地理・ジオポリティーク、ジオポリティクスの両面で現在までの変遷を理解できるようになる。
2つの地政学を理解したのち、近代の多くの紛争発生地域を眺めてみる。内戦も多くはランドパワーとシーパワーの境界線にベルト(地帯)上に発生している。第二次大戦後の国際連合を主軸とする大国協議、冷戦終結による2大国の睨み合い終結などで紛争は抑えられてきたように思っていたが意外にもその数は増え続けているそうだ。地図上で見ると、見事に力の空白地帯や、国の求心力低下に伴う政情不安に端を発する内紛を引き金に不安定な地域に収まっている。また、近年のロシアによるウクライナ侵攻も再三のプーチンの警告を無視して、ロシアとその他の地域の緩衝地帯が崩れた事が原因なのは明白だ。そうやって地図から世界を見れば次にどこがその発生地になるかが見えてくる。我々日本にとっては目下台湾が1番気になるところだが、台湾自体の政情には注意が必要だ。だが他国だけに注意を払えば良いと言うわけではなく、巨大なシーパワー(アメリカの出先も兼ねる)として大陸ランドパワーの牽制役を担う我が国も一度不安定になれば、当然に大陸中国からの力の影響をもろに受ける事になる。
改憲議論や沖縄基地問題、原発再稼働問題などいつ火を噴くか判らない数々の問題・課題は大陸諸国にとっては美味しい餌としか映らないだろう。
まずは自分たちの住む国がそうした地図上の重要な役割を担い、それが政治の力によって「安定」「不安定」のいずれにも簡単にバランスを崩し、地域の不安定ひいては世界規模の不安定につながる事を、こうした書籍で理解しておきたい。
民主国家を謳歌する人々が自ら政治に参加する意識の低いなどあり得ない。ネットやニュースに踊らされて政治を知った気になっている人達よ、先ずは身近な投票ぐらいは行ってますか?
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地政学とは何かというところから、現代社会を地政学的分析するところまで、入門レベルだけど詳細に説明してくれている書籍。
地政学には大陸系地政学と英米系地政学の2種類があり、各国が歴史的にどのような立場・地理的条件にあったかというところで分類される。そのため片方の視点からだけでは、過去現在に起こった出来事を分析することはできない。
大陸系地政学に則って領土を拡張しようとする国と、バランサーとして封じ込めを行う英米系地政学の2つがうまく釣り合わないと大規模な戦争が発生してしまうのだと感じた。