電子書籍
高熱隧道
著者 吉村昭 (著)
黒部第三発電所――昭和11年8月着工、昭和15年11月完工。人間の侵入を拒み続けた嶮岨な峡谷の、岩盤最高温度165度という高熱地帯に、隧道(トンネル)を掘鑿する難工事であった。犠牲者は300余名を数えた。トンネル貫通への情熱にとり憑かれた男たちの執念と、予測もつかぬ大自然の猛威とが対決する異様な時空を、綿密な取材と調査で再現して、極限状況における人間の姿を描破した記録文学。
高熱隧道
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電子書籍高熱隧道
2018/11/08 21:32
熱い史劇
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作者は冷徹なある意味突き放したような書き方をした本が多い。しかしこの本は題名が「高熱隧道」だからと言うわけではないだろうが、事実の重みに胸が熱くなってくる。
しかし手放しでの開通万歳ハッピーエンドではなく、最後に技師への反抗(?)を記述した点がこの本に重みを付けている。
電子書籍高熱隧道
2017/07/29 18:12
人柱の歴史
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:プロビデンス - この投稿者のレビュー一覧を見る
登場人物こそ変えてあれど、これはフィクションだと思うと、そら恐ろしいものがある。酒井順子さんの「来ちゃった」から黒部峡谷に興味を持ち、黒部関連の本に飛んできたが、読んでびっくり。事故と災害の大連続であった。
紙の本高熱隧道 改版
2019/06/02 00:54
想像を絶する暑さが伝わってくる
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説家として初のヒット作といえる「戦艦武蔵」の直後に書かれた初期の記録文学作品。多数の犠牲者を出しながらもトンネル貫通を目指し掘り進める男たちの壮絶なドラマを描く。想像を絶するような作業現場の暑さがさまざまなエピソードによって伝わってくる。
紙の本高熱隧道 改版
2018/11/30 03:34
表紙に騙された
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和11年8月に着工、昭和15年11月に完工した黒部第三発電所へのトンネル掘削工事。険しい自然のただなかである黒部渓谷の、トンネル施工予定地には最高165℃という高熱の岩盤地域が立ちふさがっていた。犠牲者300名を超えた難工事、トンネル貫通に取りつかれた男たちと大自然との闘いの記録。
「いい感じの表紙」と思ってしまったことが悔やまれるほど、壮絶な内容であった。
300ページない薄さ、淡々とした記述なのに、「ぐえっ」と声が漏れそうな描写が多々。ありえないあっけなさでどんどん人が死んでいき、それに対する予防策なり対策などがろくにないというおそろしさ。
以前、「アポロ計画ってファミコンより性能のよくないコンピュータで月に向かったんだよね、命知らずだぁ」と思ってましたが・・・ここで描かれているのは同じくらいもしくはそれ以上に命知らず。そういう時代、と言ってしまえばそれまでなんだけど、その時代でせいいっぱいの技術を使っていても、「事故で作業員が死ぬ」のが折込済み。
人の命がカネで買われる。でもそれは、現在も変わらぬ事実なのかもしれず。
そして温泉源があることも気づかず計画にお墨付きを出す学者、工事中の以上で再調査を頼んでも「これ以上にはならない」とか言うし、「学者は世間知らずであてにならない」ってイメージができたのはそんな積み重ねではないだろうか、そうじゃない学者さんたちいっぱいいるのに。
とはいえ、「この工事はやばい、やめよう」と言い出せない空気を作っていたのは戦争という背景、電力が絶対必要であるという国策。熟練工が徴兵されていくという矛盾もあり。
技師がいわゆるエリートで、人夫(作業員)は言われたことをするだけの替えのきく存在として、まったく違う世界の住人とされていることに衝撃を受けた!
私の知っている世界では技術者と職人が意見交換するのが当たり前だから。教育のベースの問題か、当時の人夫たちは専門性がない(とにかくただ集められただけの人手にすぎない)ということか。だからダイナマイトの自然発火は恐れるけど、残りクズのチェックはせずに放置してしまうのか。それでもできる範囲で技師たちが試行錯誤する様だけがこの物語では唯一ホッとできるところ。
が、更に泡雪崩(ほうなだれ)が宿舎を襲う。
とにかくたくさん人が死ぬのであるが、その死がいわゆる<ナレ死>などではなく、文字通り血と肉が吹き飛んだ塊として描かれることにおののく。決して残虐な描写に重きを置いているのではないのだけれど、ダイナマイトや雪崩で吹っ飛んだ肉片が転がっている光景が脳裏に浮かぶ(最初から、現場に辿り着くまでに山道を転げ落ちる人夫たちの死に様もかなりきているが)。そんな中でも工事は続く! 続けざるを得ない状況・心情が読みどころなんですよね!、わかります、わかりますが・・・。
外はものすごい大雪、けれどトンネルの中では油断すると熱死。自然豊かといえば聞こえがいいけど一歩間違えば自然に殺される、そんな地方出身の私には、もう最初の計画から「無謀」としか思えなくて。トンネルを貫通させることによろこびを見出し、そのためならどんな犠牲が出ても仕方ないと割り切らねばならない技師の気持ちもわからなくもないけど、自然に闘いを挑んでも勝てるわけがないと思ってしまう。
でも、そういう人たちがいたからこそ、今の私は便利を享受できているわけで・・・。
あぁ、なんかいろいろすみません、と、生きていることが申し訳なくなる。吉村昭の<記録文学>ってそういうの多い、それがすごさなんだけど。
紙の本高熱隧道 改版
2023/10/22 23:45
命懸け
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:悟空 - この投稿者のレビュー一覧を見る
黒部ダムはいかにしてできたのかが書かれています。自然の脅威がとても感じられ、命懸けで工事する場面は読んでてハラハラしました。
紙の本高熱隧道 改版
2015/09/10 15:42
壮絶すぎるダム開発
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トニー - この投稿者のレビュー一覧を見る
この夏黒部を訪れたのをきっかけに読んでみましたが、重すぎる内容に読後はしばらく陰鬱な気分に襲われました。
くろべ、というと黒部第四ダムが有名ですが、この小説の舞台は、日中戦争から太平洋戦争へと向かう時代に開発された仙人谷ダムです。黒部第四ダムへは長野県大町市からアクセスしますが、仙人谷へは富山県宇奈月からです。現在は観光用にトロッコ電車が有名ですね。ただしトロッコ電車は欅平という駅までしか通常は運転されません。その先にこの「高熱隧道」の舞台となる高熱地帯があり、一般の訪問は制限されています。
読み始めは、労働者が簡単に使い捨てにされていくことへの憤りを感じますが、次第に狂気を帯びてくる隧道工事の様子に、現代人も私の思考はついていけませんでした。厳しい自然環境でおきる事故も生易しいものではありません。
この工事を批判することは簡単ですが、これらの電力が戦後の日本を支え、その上に私たち戦後の日本人の生活は成り立っていたわけですから、事の善悪でこの工事を判断することは難しいです。
もちろん、これは史実を丹念に調べた上で著者が創作した小説です。登場人物や細かい事実が全て事実ではありません。
しかしながら、戦後の黒部第四ダムの工事でさえ、今に残る記録映像を見ると「高熱隧道」時代と大差ない危険で劣悪な環境下で人海戦術が取られていたことがわかりますので、かなりの部分は事実に近いと感じます。
お薦めかどうか、これは難しいところです。黒部へ行かれる方には是非読んでいただきたいです。ただ、事故の場面などは悲惨すぎて子どもにはまだ読ませたくないですね。大変優れた作品ですが、そういう意味で星4つにしました。
紙の本高熱隧道 改版
2023/12/06 17:50
”ほう雪崩”の威力を描く、吉村氏の代表作
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和11年、中国との戦況を支えるための阪神地区の工業への電力供給を目的に着手された黒部第三発電所工事。その工事の一端で、物資運搬用に掘削された軌道トンネル(トロッコなどを通すトンネル)工事は、それまで遭遇したことのない難工事となりました。
まず問題になったのが掘削ルートの岩盤温度です。工事開始直後、すでに岩盤温度が60度を超えました。その温度は掘削が進むにつれて上昇し、160度にまで達します。当時はダイナマイトによる発破と、人夫の手作業によるズリ(発破で崩れた土砂)搬出が主な工法であったため、高温のために人夫の作業環境は劣悪でした。さらにダイナマイトは自然発火のリスクがあったため40度以上では使用禁止とされていましたが、この現場では使用が継続されました。その結果、ダイナマイトの自然発火による事故が発生し、多くの犠牲者が出ます。
冬季の黒部峡谷は猛烈な積雪に見舞われます。当初は冬季は工事を中止していましたが、工期短縮のため越冬用の宿舎を建設して冬季も工事が継続されました。そこへ悲劇が襲います。厳寒期、「ほう雪崩」という、凄まじい破壊力を伴う雪崩が宿舎を襲います。宿舎の建設場所は、雪崩の発生を十分に検討して選定されていたのですが、「ほう雪崩」という特殊な雪崩は当時はあまり知られておらず、その発生リスクは想定されていませんでした。この「ほう雪崩」により宿舎が全壊に近い被害を受け、中にいた多くの作業員が犠牲となりました。
ダイナマイトの自然発火による事故で、バラバラの肉塊となった作業員の遺体を拾い集める工事監督者の姿、「ほう雪崩」の被害にあった宿舎の建設場所選定にあたった若い技術者が精神に異常をきたして雪山へ一人上ってゆく様子の描写は印象的でした。
昭和10年代というきな臭い時代背景という事もあり、”目的達成のためには少々の犠牲(少なくない犠牲ですが)はやむを得ない”という方針で進めらた様子が描かれており、現代の感覚で考えると、とてもあり得ないような強引な進め方に感じます。
ノンフィクションの名手、吉村昭氏の代表作ですが、一つ不可解なのは、登場する人物(工事監督者など)が作者の創作であったり、「ほう雪崩」による被害が、実際よりは少し誇張されて(本書では鉄筋コンクリート5階建ての宿舎が根こそぎ破壊されたとの表現ですが、実際は5階建てのうち木造の上層階のみが被害を受けたとの事)表現されている事です。そんな事をしなくても、十分に黒部峡谷の自然の激しさ、工事の困難さは伝わったのではないかと思うのですが。