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28件
翔ぶが如く
著者 司馬遼太郎
司馬遼太郎畢生の大長編!
西郷隆盛と大久保利通。ともに薩摩藩の下級藩士の家に生まれ、幼い時分から机を並べ、水魚の交わりを結んだ二人は、長じて明治維新の立役者となった。しかし維新とともに出発した新政府は内外に深刻な問題を抱え、絶えず分裂の危機を孕んでいた。明治六年、長い間くすぶり続けていた不満が爆発。西郷は自ら主唱した“征韓論”をめぐって大久保と鋭く対立する。それはやがて国の存亡を賭けた抗争にまで沸騰してゆく――。西郷と大久保、この二人の傑人を中心軸に、幕末維新から西南戦争までの激動を不世出の作家が全十巻で縦横に活写する。
翔ぶが如く(十)
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翔ぶが如く 新装版 1
2005/10/03 22:41
司馬さん、あなたはとうに司馬遷を越えていますよ
13人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐伯洋一 - この投稿者のレビュー一覧を見る
翔ぶがごとくに明治維新を成し遂げ、日露戦争を生き抜き、そして太平洋戦争を生き残り、その後日本は世界最高の経済発展を遂げた。この一文を達成できた非白人は、日本人だけである。であるが故に、この偉業には我ら日本人の先祖たちの大いなる筆舌に尽くしがたい御苦労があったことは想像に難くない。
この「翔ぶが如く」に描かれる明治維新からの10年間は、その後の日本と世界をも動かす「最も濃い10年」だったかもしれない。この10年に間違いがなかったから、その後の奇跡は起きたのである。その10年を導いたのは、大久保一蔵(利通)と西郷吉之助(隆盛)であり、本作の主人公と言えるだろう。
大久保と西郷は、竹馬の友・刎頚の友であり、幼いときから無二の親友であった。その二人がやがて戦う事になるのが、西南戦争である。司馬先生は、1巻のうちからその説明を予めする。見事というほかない。このことを初めから知っておく事で、大久保・西郷の一挙手一投足の苦悩と信頼がその後の文章全てににじみわたってくるのである。歴史は単に物語りではない。司馬さんが、屁理屈コキの単なる文豪ではなく、もはや大歴史家であることの1つの証左であろう。
西郷は、なぜ西南戦争を起こしたのか。西郷は果たして国家に楯突くただの謀反人であったのか、西郷よおまえも明智光秀・ブルータスと同じかと思うかもしれない。そして、終始征韓論を説いていた西郷は、時勢の読めぬ愚者であったのか。現に歴史偽造捏造国家韓国では、西郷は悪の巨魁とされている。
トンでもない誤解である。西郷が、あの力士なみの巨漢で僧侶の如き幕末の巨人は、何を思い何を願って死んでいったのか。司馬先生をおいて、その説明を出来るものは現世には存在しないだろう。なにせ、全10巻は西郷の内心を解き明かすために司馬先生が苦労なさった証でもある。それでも、司馬さんは「西郷だけは分からない」という。およそ世界の歴史を心身に溶け込ませた司馬先生をして分からぬというのであれば、我々凡人に分かろうはずもない。わかったつもりに過ぎない。
結局、西郷は大久保だけは信頼していたということ、大久保がいれば日本は安心であり、ならば自分の役割は・・そのあたりに答えがあるのだろう。これはぜひご自分で感じて欲しいと思う。
西郷は逆賊扱いされたが、名君であられた明治大帝のご意向で、西郷は逆賊の汚名を逃れた。上野にある西郷の像は明治大帝のたってのお許しの結果である。
我々は、西郷の大きさを本書で知ることは出来ても感じることができない。それは西郷死後の人たちも同じであった。そこで有名な話がある。ある寄合でこういう話が出た。「大山(巌、西郷の親戚)さんは本当にでっかいお人だな〜」とある者が言った。すると「お前は従道(西郷の弟)さんを見てないからそういうことがいえる。あの人は本当にでっかい人だった」一同が気の遠くなる大きさに目が眩んでいる中、幕末を生き抜いた老人が「いや西郷隆盛の大きさは、ちょっとそれらとは比較にならん巨大さだった」一同は、あまりの巨大さに意識が飛びそうなほどだったという。
坂本竜馬の方が大きいと陸奥宗光は言ったが、やはり西郷の巨大さは竜馬の師・勝海舟も深く認めるところであり、およそ巨大さでいえば、西郷の方が上だっただろう。
本書は、「竜馬が行く」→「翔ぶが如く」→「坂の上の雲」と続く中間に位置する。この3作は、日本人とはなにかを最も理解できる3作といえるだろう。「坂の上の雲」の奇跡は本書なしでは完全には理解できない。
司馬遼太郎という名は、「自分は司馬遷に遼かに及ばない」という意味だそうだが、「司馬さん、あなたはとうに司馬遷を越えていますよ」。日本人とはなにかの探求者であり、それを克明に遺してくれた司馬さんに自分がかける感謝の最大の言葉である。
翔ぶが如く 新装版 10
2015/08/30 16:29
一つの時代の終焉。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:historian - この投稿者のレビュー一覧を見る
転戦の末、追いつめられた西郷・桐野ら一党は城山において自刃、西南戦争は終わった。しかし、大久保の政権も長くは続かず、翌年に不平士族の凶刃に倒れる。こうして、一つの時代が終わった・・・
この大長編の魅力は、主人公の西郷と大久保の友情と葛藤だけではなく、準主役の桐野・川路、更にその周囲の薩摩人も長州人もその他要人も反政府の人々も、無数の登場人物に惜しみなく紙数を割いて描写した点だと思う。間違いなく、司馬遼太郎の傑作の一つといえる。
2021/07/14 12:03
その後の日本の原型
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
「坂の上の雲」とならんで司馬史観の代表作である。小説としても面白さももちろんあるが、作品の中で述べられている、大久保利通が官僚組織を作り、川路利良が警察組織を作り、西郷隆盛に対抗するため軍隊が作られた という記述に考えさせられてしまった。