- 販売開始日: 2012/04/01
- 出版社: 新潮社
- ISBN:978-4-10-115740-5
剣客商売十 春の嵐
著者 池波正太郎 (著)
「名は秋山大治郎」とわざわざ名乗って辻斬りを繰り返すずきんの侍。しかも狙われるのは、幕閣の中枢で対立する田沼意次と松平定信の家臣ばかり。意次の娘・三冬の夫である大治郎は窮...
剣客商売十 春の嵐
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商品説明
「名は秋山大治郎」とわざわざ名乗って辻斬りを繰り返すずきんの侍。しかも狙われるのは、幕閣の中枢で対立する田沼意次と松平定信の家臣ばかり。意次の娘・三冬の夫である大治郎は窮地に追い込まれ、身の証を立てるため、家から一歩も出ない暮らしを余儀なくされる。小兵衛は、四谷の弥七と傘屋の徳次郎だけを頼りに必死の追跡を始めるのだが……。シリーズ初の特別長編、第10弾。
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理不尽な結末
2012/01/12 14:13
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
安永十年改め天明元年師走の或る夜、秋山小兵衛・おはる・大治郎・三冬が、和気藹々と晩餐を楽しんでいたとき、「あきやまだいじろう」と名乗る頭巾の侍が路傍で旗本を殺害した。以後、田沼意次の家来と松平定信の家来とに対して、「あきやまだいじろう」と名乗る頭巾の侍による殺害が続く。大治郎はついに評定所に呼び出され、拘置された。
重苦しい。
現実に、無実の罪で捕えられ、何年も、ときには十何年も服役し、出獄したときには、親も死んでおり、その後で冤罪だったことがわかったが、失われた人生は戻って来ない……という事例が、最近、明るみに出ただけでも、一つならず、ある。ましてや、過去、明るみに出なかったものまで含めたら、どれだけ多くの、無実の人とその身内が、社会的精神的身体的に生命を抹殺されてきたことだろうか。
秋山大治郎もそうなるのではないか、三冬は、おなかのこどもは、と、心配でならない。
ことに、松平定信は、大治郎を証拠不十分で釈放した評定所の裁定を、田沼意次によって操られたものと断定し、この主人が主人なら家来もまた家来で、大治郎が評定所に拘置されている間に、三冬が守る道場を襲撃する。三冬は小兵衛とともに彼らを撃退するが……。
この重苦しい話のなかで、あの、第八巻第二話『狐雨』で鮮烈なデビューを飾った杉本又太郎が再登場したのは、うれしい。しかも、今回は、彼の妻の小枝とともに登場し、秋山一家と同じような、和気藹々たる、いやそれ以上の(?)、アツアツの場面を見せて、ほほえませてくれる。
しかし、あの白狐が出てこない。白狐が再来年までいると言ったときから、まだ半年しか、たっていないのに。
こんなときこそ、白狐の、人智を超えた力を借りて、杉本又太郎が大活躍し、真犯人逮捕に貢献することを期待したいのに……。
そのかわり、といってはなんだが、芳次郎という若者が登場し、初めは自殺を図ったのに、杉本又太郎に助けられると、押しかけ弟子になる。顔が不細工で遊女にふられ、その遊女が商売抜きでほれている男に嫉妬して、その男をやっつけるために弟子になったのである。
いいかげんなようでいて、意外とよく働き、しかも、さらに意外にもこの芳次郎が、連続殺人事件の真犯人を突き止めるのに多大な貢献をするのだった。
だが、そこで、小兵衛の下した決断に、私は、疑問を抱く。小兵衛は、真犯人を捕えて、秋山大治郎と並べて、殺人事件の目撃者に逢わせ、大治郎の無実を天下に向って証明しようとは、しない。あくまでも秘密裏に、真犯人を殺害しようとする。それは、この事件には政治的な背景があり、田沼意次が天下の御政道のために、真相を闇から闇へ葬ると決めたからだ。
そりゃあ、田沼意次と松平定信のあいだだけならば、それでも、いいでしょうよ。
だけど、最初に殺された人は、そのどちらとも関係のない、旗本なんだよ。真相が明らかにされなければ、遺族の気持ちが踏みにじられたままじゃないか。
池波正太郎は、なぜ、こんな理不尽な結末にしたのか。私は納得できない。いつかあの世へ行ったら、池波正太郎に会って、「あなたは無実の罪に苦しむ人々の気持ちをどう考えているんですか、真犯人がわからないままに放っておかれる被害者の遺族の気持ちをどう考えているんですか、生き返って『春の嵐』の結末を書き直してください!」と言いたい!
初の長編、小兵衛ファミリー大集合!
2003/12/17 02:00
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:モール - この投稿者のレビュー一覧を見る
いつものように秋山家で家族が団欒の時を過ごしているちょうどその時、ある目的を持った人間が秋山大治郎の名を騙り辻斬りを働く。大治郎個人に対する怨みなのか、それとももっと大きな陰謀なのか、剣客であれば当然人に恨まれることもあるし、自らにその恨みが降り掛かってくるならば、防ぎようもあるが、名を騙り関係のない人間を殺されるというような卑怯な真似をされるとどうしようもない。事件は幕府上層部での権力争いの様相を呈してきて、小兵衛がいつものようにスカっと悪人を懲らしめるわけにはいかないというもどかしさがあります。それにしてもこのシリーズは面白い。はずれが無い。小兵衛を中心にした人の輪が10巻目ともなると徐々にはっきりしてきて、息子大治郎の危機に立ち向かう父小兵衛の働きや、彼ら秋山親子を取り巻く人々の気持ちの良さが現れています。四谷の弥七、傘屋の徳次郎、飯田粂太郎、笹野新五郎、杉本又太郎、杉原秀、又六など過去に秋山親子と関わりのあった人々が次々に登場します。それぞれの人に見せ場があるのですが、徳次郎が執念と根性でついに目的の人物をみつけて、尾行をしているときなどは、「徳さんあまり気負って気付かれないように気を付けて」などと、はらはらしてしまいますし、その後小兵衛から目を潤ませながら礼をされて、徳次郎が「もったいのうござんす。もったいねえ」と子供のように泣きじゃくる所などは、小兵衛が人を身分では見ずに人として見て、それによって人が集まり、小兵衛を尊敬し礼を失っていない周りの人々の姿が、浮び上がってきます。そして時間や運命の偶然の不思議がこの作品にもあります。人間とは矛盾した生き物で、善も悪も持っている、人の心は完全には分からないけれども、純粋さを失わずに生きていけば、悪には傾かないだろうという気がします。良い師に巡り会いたいものです。おはるや芳次郎にホッとさせられます。おはるはやはり小兵衛に必要だったんですね。
冒頭から謎の刺客が暗躍する緊張した展開から、やがて根の深い大掛かりな陰謀へと繋がる見事な推理小説。
2022/09/29 11:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
冒頭から謎の刺客が暗躍する緊張した展開から、やがて根の深い大掛かりな陰謀へと繋がる見事な推理小説。時の実権を握る田沼意次に対する松平越中守定信の根深い恨みを利用して両者の反目を煽り共倒れさせた後、自らが主権を奪おうという一橋家の陰謀を暴く推理の楽しみが本作の醍醐味。一橋家の企みを見抜いたもののことの大きさにその始末にも苦労が付きまとうあたりも見事。しいて言えば、最後の結末が事の大きさに比べて簡単過ぎたことか。
テンポよく楽しく読めました。
2019/03/29 21:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:satonoaki - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリーズ初の長編でした。
これまで短編ばかりでまとまっていたので、ダラダラ長編はイヤだなと思いましたが、知っているいつもの面々が小気味よく動き、緊張感あふれる中でもおはるの包丁の音に救われるなど当たり前の日常も描いてくれています。
心地よい作品でした。
剣客は恨みを買うことも覚悟のうえ。しかし恨みとは関係のない企みが秋山父子を襲う。
2011/11/08 17:09
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
剣客商売シリーズで初めての長編作品。
剣の道を通して、人の哀歓や欲望、苦悩などを描き出してきた剣客商売。
しかし本作品では、少々毛色の違う事件が秋山父子を襲う。
三冬が念願の子を身籠もり、小兵衛も大喜びで、年が暮れようとしていたある日。
八百万石の旗本が、頭巾の侍に斬り殺された。
供をしていた小者の権蔵は生き残り、頭巾の曲者が、
「あきやま、だいじろう」
と名乗るのを、確かに聞いた。
それから十日後。
権蔵は、金王八幡の近くで、頭巾の侍を見かけた。
(あっ、たしかに、あの畜生だ)
と確信した権蔵は尾行を開始。
ところが、その日、権蔵は屋敷に帰らず、翌日になって、血まみれで息が絶えようとしているところを発見された。
何者かが、秋山大治郎を名乗って辻斬りを働いているのは確実。
しかし、なかなか真犯人が捕まらない。
にもかかわらず、「秋山大治郎」と名乗る辻斬りが次々と起きる、このもどかしさ。
辻斬りの裏に秘められた企みに驚かされるのだが、幸せ溢れる大治郎夫婦を襲った凶事に、なすすべない小兵衛がなんとも痛々しい。
下っ引き・傘徳の執念深い張り込みに、小兵衛は涙ぐむほどなのだ。
一方で、【狐雨】(『狂乱』に収録)で登場した杉本又太郎と、ひょんなことから又太郎の道場に住み込むことになった、『首吊り男』こと菓子舗の次男・芳次郎のコミカルなやりとりは面白く、暗く沈みがちな物語がパッと明るくなる。
この二人も思わぬことから事件にからみはじめ、なんともいえない味わいが広がっていく。
剣客は、恨みを買うことも宿命と覚悟しているものなのだが、恨みとは関係のない企みに翻弄されることもある、厳しい職業なのだ。
その一方、秋山父子を慕う、多くの人々の暖かい奔走が印象に残る。
生きるも死ぬもおのれの才覚次第という剣客といえども、周囲の人々に生かされているのだと、強く感じた。