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朗読者(新潮文庫) みんなのレビュー

  • ベルンハルト・シュリンク, 松永美穂/訳
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みんなのレビュー9件

みんなの評価4.3

評価内訳

  • 星 5 (6件)
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  • 星 1 (0件)
11 件中 1 件~ 11 件を表示

紙の本朗読者

2009/07/22 22:24

ドイツ語原題の『朗読する男』は、ハンナとミヒャエルの絶望と幸福を綴った物語。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:サムシングブルー - この投稿者のレビュー一覧を見る

『心と響き合う読書案内』のなかで小川洋子さんはベルンハント・シュリンク著『朗読者』を「本のすばらしさを描いた小説」と評しています。私は小説を読み終え、どう解釈してよいのかわからないまま、数日を過ごしました。

第一章。主人公ミヒャエルは15歳のとき、年上の女性・ハンナと恋におちます。彼はハンナに本を朗読し、二人はシャワーを浴び、愛し合い、寄り添って昼寝するという儀式が続きます。ミヒャエルは愛するハンナを知りたがります。しかし、ハンナは頑なに拒絶します。ある日、ハンナは彼の前から突然、姿を消します。

ミヒャエルは大学生になり、強制収容所をめぐる裁判でハンナと再会します。ハンナは被告人として法廷に立っていました。その場面は強烈でした。

「ぼくは彼女を見分けることができた。でも何も感じなかった。何も。」

でも、決してハンナから視線を逸らしはしなかったでしょう。その視線をハンナも感じていたはずです。第二章はホロコーストをテーマにしています。身が竦みます。ただ読み進むことしかできません。裁判長に対するハンナの頑なな態度はミヒャエルをも苦しめます。

第三章はミヒャエルの苦悩が描かれています。著者・ベルンハント・シュリンクは人間の尊厳を描いています。。

僕たちの物語を綴った『朗読者』は、ハンナとミヒャエルの絶望と幸福を綴った小説でした。

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紙の本朗読者

2009/07/26 23:25

「ハンナの秘密」を知った上で、読み返して欲しい1冊

7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:wildcat - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書は、決して軽やかな気持ちで読み進められる作品ではない。

ドイツが背負っている戦争の影を、
感情や感覚を麻痺させて日々を生きている人の姿を、
登場人物たちの生き方の中に、見ることになるからだ。

とにかく、重い、のである。

ぼく・ミヒャエル・ベルクは、
親が直接戦争に加担した世代の子どもである。

彼の親の姿に、彼自身の成長の過程に、
その世代のドイツ人がどういう風に戦争の傷と向き合ったのかが見える。

ハンナと出会った頃の、15歳のぼくの感覚は、開かれている。

五感のすべてで、周りの景色を、
そして、ハンナを味わう感性を持ち合わせていた。

視覚的に細やかに周囲を観察しただけではない。

嗅覚的な描写が多いところがそれを表現している。
(これは、全体を貫く特徴でもある。)

だが、ハンナが去った後は、感覚を麻痺させて生きている。

自分を少年から大人に、あらゆる面において目覚めさせた人を失ったら、
このようにならざるをえないのかもしれない。

感覚が鮮明に記憶しているのは、感覚が開いていた頃の、彼女の記憶。

五感のすべてで感じたハンナ。

だから、そのあと会った女性たちは、
ハンナと違うと思ってしまうばかりだった。

さわり方、感じ方、匂い、味、
すべてが間違っていると思わずにはいられなかった。

ぼくは、ハンナと別れてから学生時代に至るまで、
ある意味、今を生きていないままにきた。

すべてを15歳の頃においてきてしまったかのように見える。

ずっとハンナの影を背負って生きている。

選んだ道が法史学者というのも象徴的だ。

ぼくは、『オデュッセイヤ』を再読する。

それをギムナジウムの頃に感じたような「帰郷の物語」ではなく、
「出発するために戻ってくる運動の物語」と読むのだった。

再読はやがて、朗読になる。

かつて、ハンナのためにしていたように。

そして、それは、今のハンナのための行動になる。

ぼくは服役中のハンナのために10年間
(服役8年目から恩赦で許される18年目まで。)、
カセットテープを送り続けた。

ハンナのためにしていた朗読という行為は、
自然とぼくの中にも息づくことになった。

執筆した原稿を仕上げるときにも同じようにしたのだ。

これで完成という気持ちになれるときまで待って朗読してみると、
自分の気持ちが正しかったかどうかわかった。

「朗読」という行為は、ぼくにとっては、「法史学」と同じことだった。

「過去と現在のあいだに橋を架け、
両岸に目を配り、双方の問題に関わること」だった。

朗読は、ハンナは、
「ぼくにとって、すべての力、創作力、批判的想像力を束ねる存在」
になった。

そして、ハンナは、ようやく「秘密」を
克服する努力を始めるのだが・・・。

ぼくとハンナをつないだものは、あのときも今も「朗読」なのだ。

***

読むのが重く、軽やかに進まなくても、
それでも、「ハンナの秘密」を知った上で、
読み返して欲しいと、私は思う。

そうすれば、一見不可解だった彼女の行動の意味がわかるのだ。

なぜ、彼女が、そうしなければならなかったのか。

彼女の秘密が、彼女の人生全体にどんな影を落としたのか。

そして、彼女が、だからこそ、何を渇望したのか。

朗読がどれほどの意味を持っていたのか。

彼女は、秘密を抱えたまま、ひとりでずっと、
「まっすぐ前を向き」、「何もかも突き抜けるような目をして」、
「高慢な、傷ついた、敗北し、限りなく疲れたまなざし」で、
「誰も何も見ようとしない目」で、生きてきたのだ。

ぼくにも、完全に心を開かないまま。

今の時代、周りの人がそうではない環境で、
彼女と同じ秘密、あるいは、それに類する秘密を
抱えた人がいたとしたら、どうだろうか。

彼らが秘密を告げる苦悩と引き換えとなるような、
勇気を出して言ってよかったと思えるような支援が
できているだろうか。

本書を読みながら、さまざまな作品を思い出した。

スペイン内戦や第二次世界大戦の影響が
街の人々の生活に影を落としている、『風の影』。

懸命に生きているのに、自らを追い込んでしまう女の姿は、
『嫌われ松子の一生』。

ずっと本でつながっていた人たちとして、『チャリング・クロス街84番地』。

そして、戦争の傷とどう向き合っていくのかと考えるための作品達。

でも、他の作品では代弁できないこの苦悩を、
ひとりで抱えたハンナを忘れないため、私は、
本書を何度でも読み返すのだ。

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紙の本朗読者

2009/03/20 20:23

ヘッセの『車輪の下で』に比肩する心にズシリと響く作品。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る

確かヘッセの『車輪の下で』以来のドイツ文学。
まさに懐の深い読書が楽しめる一冊。

本作は1995年に刊行されて以来、数多くの国でベストセラーとなっている。
日本においては新潮クレスト・ブックスにて2000年に刊行、そして2003年に文庫化、翌2004年からは日本の文庫本におけるステータスシンボルと言っても過言ではない“新潮文庫の100冊”にラインアップされている。
読み終えて、新潮文庫の100冊の威厳を保ってる作品であることを確認できて胸をなでおろした次第である。
尚、本作は本年6月『愛を読むひと』というタイトルで映画化される予定。

物語は三部構成になっていて、終始主人公であるミヒャエル・ベルクのモノローグ的なもので語られる。

まず第一部、主人公のミヒャエルは15歳。ひょんなことから21歳年上で車掌をしているハンナと恋に落ち逢瀬を重ねる。
ハンナはミヒャエルに頻繁に本を朗読して聞かせて欲しいと求めるのであるが、ある日突然失踪する。

第二部ではなんと法廷で二人は再開する。
ここではナチ問題が取り上げられ、ハンナが戦犯者として取り上げられる。
いろんな秘密が露わになってくる過程でミヒャエルが取った行動に感動せずにはいられないのである。

そして第三部、これはもう衝撃的な展開としかいいようがないですね。
戦争の影ってこんなに深く作者に根付いていたのかと思わずにはいられない展開ですわ。

この作品は私的には“反戦小説”と“恋愛小説”の融合作品であると思っている。
そしてどちらに重きを置くかは読者に委ねられているのであろうと解釈するのである。

とりわけ、少なくとも同じ“同盟国”として第二次世界大戦を戦った日本の国民として生まれた読者にとって、忘れつつある過去を思い起こさせる一冊であると言える。
読書にとって心の痛みを強く感じることを余儀なくされる機会を与えられる。

翻訳小説の醍醐味だと思っているその心地よさに酔いしれつつ、自分自身の道徳心にも自問自答したい作品である。
いかに人間って潔白に生きれるかどうか。
愛を貫くことも心を打たれるのであるが、潔白に生き抜くということは本当に尊くて難しい。

読書ってこんなに奥深いものであったのであろうか。
この余韻の心地よさっていったいなんなんでであろう。
海を越えて作者シュリンクに感謝したいなと強く思った次第である。

2人の年齢差は21歳。恋愛に年齢差がないように読書に国境はないということを痛感した。
なぜなら読み終えて2人の気持ちが本当に切なすぎるほどよくわかるからである。
おそらく再読すればもっともっとわかるであろう、離れていてもお互い心を開いていたことを・・・
何度も読み返したい名作に出会った喜び、それは読書人にとって究極の喜びにほかならないのである。

少し余談ですが、光文社古典新訳文庫にて本作の訳者である松永美穂氏がヘッセの『車輪の下で」を訳してます。機会があれば手に取りたいですね。名作です、何年振りだろうか(笑)

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紙の本朗読者

2011/09/27 07:30

読む者を揺らす

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 この物語は、語り手、ミヒャエルの回想文の形をとっています。

 全体が三部に分かれますが、あらすじを書くだけでものすごいネタばれになってしまう
書きにくい物語なのですが、これほど、たまげた物語もない・・・とも言えましょう。
作者、ベルンハルト・シュリンクは、本職はドイツの法学部教授であり、そのプロフィールを
見るとこの物語の語り手と酷似しています。
では、告白小説か?というとそうではないフィクションの部分が大きいそうで、作者は
前にミステリー小説を発表しているそうですが、この本は、色々な事を読む側に投げかけて
きます。

 あとがきでジョージ・シュタイナーはこの本を二度読むことをすすめているそうですが、
それは、わかりにくいからではなく、一度目は確かにインパクトの強いなりゆきに驚く
けれど、二度目では、見事に登場人物たちのその後を含んだことが、緻密に描きこまれて
いる、ということです。
発表後、話題となり、賛否両論にもなったそうです。確かに物語のインパクト、ラストは、
良い印象であれ、疑問、不満であれ、読者を揺らす・・・それを覚悟の勇気で書かれた物語。


 最初は15歳の「ぼく」ことミヒャエルが、黄疸にかかって入院せざるをえなくなるところ
から始まります。
回復したと思った矢先、気分が悪くなって町で吐いてしまう・・・・そこを手際よく介護して
くれたのが、ハンナという女性でした。
ハンナは36歳だという。21歳も年上の女の人に、ミヒャエルは恋をして、夢中になって
しまう。
このあたりだと、ちょっと甘酸っぱい青春回顧ものかなぁ、と思ってしまったのです。
しかし、ミヒャエルは、ハンナが美人だったから、やさしかったから、好きになったのではなく、
「ストッキングをはく動作」に魅力を感じた、というハンナが全身からかもしだす空気に
ミヒャエルは恋をしてしまう。

 ハンナもミヒャエルを受け入れ・・・しかし、ハンナはミヒャエルに「あんたはとってもいい声
してるじゃないの、坊や、あたしは自分で読むよりあんたが読むのを聞きたいわ」
朗読してよ・・・・ということになります。
そこで今、学校でやっているテクストを朗読することになりました。
そんな関係が続き、いわば蜜月時代です。

 しかし、突然、ハンナは町から姿を消してしまう。
それは、健康になったミヒャエルが友人たち、ガールフレンドたちと遊ぶのにも興味を持つように
なったから?
別れの理由がわからない、ミヒャエル。しかし、ハンナの思い出からミヒャエルは離れられない。

 しかし、大学で法律を専攻する大学生になったとき、ミヒャエルは法廷を傍聴するゼミに
参加して、ハンナと再会する。
罪を憎んで人を憎まず・・・法律を学ぶ一学生としては、とても真剣にならなければならない
状況に追い込まれたミヒャエル。

 一人の女性に恋して、別れて、再会して・・・・そして、結局、理不尽につきあたる。
とても切ない物語ではありますが、ドイツの風景、寒い冬、まぶしい夏・・・年上の女性の
魅力、恋の魔力そんなものがとても几帳面に描きこまれていて、法廷裁判の様子も
法学が専門ならではの緊迫感。

 朗読には、声に出す者と、それを聞く者、最低でも2人います。
1人で本を読むのとは違うものです。1人だけでは、恋愛関係、人間関係はなりたたない・・・という
男女、人間関係と似たようなものです。
私は哲学というものがよくわからないけれど、もし考える、という事が大きいものだとしたら
十分これは哲学書でしょう。 
私だったらどうすればよかったのだろう。私も多分、朗読してもらいたい方だ、と
読み終わって考えてしまいました。

 長い小説ではないので、是非、もう一度、読み返そうと思う次第です。
読者を楽しませる、満足させる、データとして情報を提供する・・・そんな本の魅力はたくさんありますが
その中に「読者を揺らす」というタイプもあるということをこの物語から学びました。

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紙の本朗読者

2003/07/19 17:00

なだらかな坂を下る

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:深爪 - この投稿者のレビュー一覧を見る

実に巧妙な小説でした。決してネガティブな意味じゃなくてです。起伏の少ない静かなストーリーですが、しかし虚を衝くような展開もあり、なるほどと思わせる伏線と種明かしもあり、それでも全く無駄な部分がなく、長さも程良く…素材もさることながらその「練り方」にかなりの熟練を感じます。わりと大ベストセラーだったので、もっとドラマティックでキャッチーな話なのかと勝手に思ってました。こういう比較的地味な内容で売れてたなんて、なかなかどうして、ですね。

特に、本書の三部構成のあり方は白眉です。若々しく躍動的な第1部、停滞し、霧のヴェールに包まれたような第2部、そして静かに海の底に沈み込んでいくような第3部。
第2部から第3部にかけて、「過去」が長い年月を経て解き明かされていくんですが、なだらかな坂をゆっくりゆっくり下っていく、そんな趣があります。

主人公は、かつて愛した人の「過去」をどう捉えるべきか苦悩し、そこから逃れなくなり、「何も感じず、感情が麻痺してしまっている」自分に気付きます。それは、村上春樹著『ねじまき鳥クロニクル』に登場する間宮中尉の長い話を想起させます。というより重なり合います。外蒙古の砂漠にある深い井戸の中に突き落とされた彼は、そこで体験したことにより、「それ以来私は何を見にしても、何を経験しても、心の底では何も感じなくなってしまったのです。(中略)私の中のある何かはもう既に死んでいたのです」と語ります。

文学は戦争を、或いは戦争的なものを描くことを未だ終えませんが、私は本書を読んで遅まきながら、それは永遠に終わることなどない、と知ったのだと思います。著者はある雑誌のエッセイでこう語っているそうです。「(過去の)克服は存在しない。しかし、過去が現在においてどのような問いや感情を引き起こすのかを意識しつつ生きる生というものは存在する」。だとすれば、「過去」から自由になることもできず、更に同じことを繰り返す私たちとは、いったい何なのでしょうか? 

終章で主人公は、この物語についてこう語ります。「いまのぼくは、これが真実の物語なんだと思い、悲しいか幸福かなんてことにはまったく意味がないと考えている」。
私たちがそれでも私たちにできることをするのだとすれば、私たちは本に書き、書かれたものを読みます。時に声に出して読みます。

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紙の本朗読者

2020/10/26 21:32

いろいろと読後に考えてみる

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

この作品には、私たち読者の判断に委ねられている箇所がいくつかある、「どうして主人公は服役中のハンナに手紙を書かなかったのか」「どうしてハンナは文盲であることがばれることをあんなにも恐れたのか」「どうしてハンナは自殺したのか」、手紙を書かなかったのは主人公はハンナに許してもらえていないと思ったからなのか、自殺したのは字を知って初めてナチス時代に自分がしたことがやっと理解できたからなのか、文盲であることがばれるより罪が重くなることを選んだのはハンナがルーマニアの出身だということは、ひょっとしたらロマではなかったのかという想像もできる、ただ、ヨーロッパの歴史に疎い私にはロマであることを知られるということがそこまでの意味を持つことなのかどうかまでは自信がない

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紙の本朗読者

2014/08/24 18:31

父親世代への反抗

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:セテムブリーニ - この投稿者のレビュー一覧を見る

戦争責任問題を提起する作品。もし、愛する人がナチスのホロコーストに加担していたら?という質問も大事だが、二つの論点を見出した。一つは、他人への干渉が正義となるのかということ。ハンナは読み書きができないことを恥じた故に裁判で絶対的不利になった。その恥を知ったミヒャエルは自分が裁判でそのことについて話そうかどうか迷う。終いには哲学者である父に相談するが、父はそれを条件付きで否定する。本人に許可を得る必要があるのだと言う。結局それはできず、ハンナは無期懲役を言い渡される。恥か真実か。この二つを見事に対立させている。ミヒャエルの視点から、干渉が正義になるのかという倫理的な論点を提示している。二つ目は、ユダヤ人虐殺の執行者はどのような気持ちで実行していたかということである。本作の中で、「感覚の麻痺」という言葉が度々出てきたことに加え、ヒッチハイクでミヒャエルを拾ってくれた運転手のおじいさんの話も参考になった。ここでは、明確な答えは与えられない。作品を通して、鋭い質問を提起するのだが、そのほとんどは考えをめぐらすだけで、答えにはたどり着いていない。ただし、論点の提示は素晴らしい。答えは読者に委ねているのだろうか。

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紙の本朗読者

2010/11/24 22:06

朗読者

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:hiro - この投稿者のレビュー一覧を見る

 少し前に映画化もされ、高い評価を受けた作品だったこともあり、小説を読んでいなくてもその内容を知っている人は多いのではないか。原作と映像作品との距離が、かなり近いという数少ない映画でもあったと思う。
 15歳の少年が母親ほど年の違う女性と恋に落ちる。少年は当然のことながら性の虜となっていく。そんな2人の関係を軸に、物語は主人公の過去の回想として語られていく。逢い引きを重ねるたびに深まっていく少年の女性への思いと、肉体関係は続けながらも一定の距離をおくような女性ハンナの思いとの微妙なズレが、物語前半の大きなポイントだろう。2人の間にあるものを、少年は「愛」と感じたが、ハンナは果たしてどうだったのか。やがてハンナはそんな謎を残して姿を消してしまう。
 成長して法律を学ぶ学生となった主人公が、ナチ戦犯を裁く法廷でその被告人となったハンナと再会するところから、後半が始まる。被告人となった元恋人ハンナへの主人公の複雑な思いとともに、ハンナの謎ともとれる生き方の理由が裁判を通して明されていく。
 結局ハンナは少年を愛していたのだろうか。それはハンナが逢瀬を重ねるごとに少年に求めた物語の「朗読」のことを思えば、明らかなのではないだろうか。2人の肉体関係は、少年にとっては愛の証に他ならないが、ハンナにとってはその報酬に過ぎなかったのではないか。そう考えると、ハンナが自身の抱える大きな懊悩故に生き方を過ち、ナチ戦犯となってしまった罪よりも、一層重く残酷な罪のように感じられる。ハンナの最後の身の処し方が、それを象徴しているのではないだろうか。
 ドイツの人々の負の遺産に対する、世代によっても異なる複雑な思いとともに、人にとって大切なものは何なのかということを考えさせられる一冊だった。

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紙の本朗読者

2023/08/28 09:49

ハンナの気持ち

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:えんぴつ - この投稿者のレビュー一覧を見る

「朗読者」とは・・・。

著者は、ミヒャエルの側で話を進める。

15歳の少年の、年上の女性との恋。それを恋と呼べるのかどうかは、よくわからない。しかし、強い憧憬の思いを淡々と追う。

ハンナは「朗読」をせがむ。それなくしては、肉体的な交情はない。読んでもらうことで、ハンナは心を満たす。読んでいく途中で、ふと思った。ハンナは「読めないのか・・・・」

後半、ハンナの謎が明かされる。ナチス収容所に勤務していたこと、死の行進の途中での教会爆撃・火災の悲劇・・・なぜ助けなかったのか・・・。

裁判で、ハンナは報告書を「書いた」と証言し、それによって重刑を下される。字を書けない彼女が書けるはずのない報告書だ、なぜ「書いた」と証言したのか、「私は文盲で字を書けない」ということは、ずっと隠してきた秘密であり、それを明らかにすることは、重刑を下されることよりも辛いのだ、彼女にとっては・・・何故?・・・著者は黙す。

収容所で、ハンナは“お気に入り“の少女を傍におき、「朗読」をさせる。読んでもらうことがハンナの心の渇きを癒すのか・・・著者は黙す。

ナチス弾劾裁判は、終わりがない。今後も続く。
命令だから、それに従っただけだという抗弁は、繰り返される。あのアイヒマンでさえ、そう言った。果たして、それでいいのか。

ハンナはどんな人生を抱え込んで生きてきたのか、自ら、文字を読むこと、書くことを長い間してこなかったのは何故か。刑務所で、初めて読み書きを学習する彼女の心の推移を推し量ることは悲しく切ない。

この本は、ミヒャエルの物語だろうか、否、ハンナの物語だ。見えてこないハンナの物語だ。

出獄前に、自死を選んだハンナは、この世を捨てたのかもしれない。重たい気持ちのままに。

15歳の少年の淡い恋の話などではない、悲しみがある。ハンナの気持ちを思いやる・・・。

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紙の本朗読者

2004/04/04 11:39

最高によく出来た中年男の初体験自慢

7人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:三月うさぎ(兄) - この投稿者のレビュー一覧を見る

ぼくは、これ、年上の女性と何がしかの経験のある、現在ある一定以上の年齢の男性だけが楽しめる小説だと思うのです。

後半のナチ裁判も歴史の再審も本筋とはまったく関係がなく、中年男が昔の女性の記憶を甘く苦くネチネチネチネチ舌の上に転がして何度も何度も反芻する楽しさを非常にうまく再現した作品、
だと思うのですが、いかがですか?

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紙の本朗読者

2003/06/04 03:15

出版社からのオススメ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:新潮社 - この投稿者のレビュー一覧を見る

江國香織、池澤夏樹の両氏も大感動、大絶賛!!


15歳のぼくは、母親といってもおかしくないほど年上の女性と恋に落ちた。「なにか朗読してよ、坊や!」──ハンナは、なぜかいつも本を朗読して聞かせて欲しいと求める。人知れず逢瀬を重ねる二人。だが、ハンナは突然失踪してしまう。彼女の隠していた秘密とは何か。二人の愛に、終わったはずの戦争が影を落していた。現代ドイツ文学の旗手による、世界中を感動させた大ベストセラー。

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