- 販売開始日: 2012/11/30
- 出版社: 早川書房
- レーベル: ハヤカワSF・ミステリebookセレクション
- ISBN:978-4-15-010568-6
高い城の男
著者 フィリップ・K・ディック (著) , 浅倉久志 (訳)
第二次世界大戦が枢軸国側の勝利に終わってから十五年、世界はいまだに日独二国の支配下にあった。日本が支配するアメリカ西海岸では連合国側の勝利を描く書物が密かに読まれていた…...
高い城の男
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商品説明
第二次世界大戦が枢軸国側の勝利に終わってから十五年、世界はいまだに日独二国の支配下にあった。日本が支配するアメリカ西海岸では連合国側の勝利を描く書物が密かに読まれていた……現実と虚構との間の微妙なバランスを、緻密な構成と迫真の筆致で描いた、D・K・ディックの最高傑作!
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はるさめに ぬれつつやねの てまりかな(与謝蕪村:本書p.66より再引用)
2007/09/13 08:45
20人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は今、安部晋三氏の辞任の新聞記事を読み終え、本書を久々に取り出した。本書を、文字通り、喜びに胸震わせつつ、手にとって、もう二十数年。今も昔も乱雑な部屋の中、さらに混乱を極めた本棚ではあるが、机に向かって左手を伸ばせば、本書だけは目をつぶっても取り出せるようにしてある。裏ディック(神秘主義)・表ディック(ストーリーテラー)双方の長所が最大限生かされた彼の最高傑作である。安部氏を批判する資格も意志も私にはない。ただ彼ないしは彼の身体がいちはやく気がついただけだ。日本の世間の一部が気がつかないうちにはじまっていた世界戦争(文字通りの戦争である)が、彼の意志を超えた動きを見せ、彼自身の物理的存在さえもおびやかしはじめたことに。私もまた抵抗できない大きな流れの中の、ほんの小さな芥子粒として巻き込まれつつあるのだ。まだ飯の後始末もしていないのに。でもやるんだよ。流し台で意味もなくピカピカにシンクを磨こう。
本書は独・日・伊:枢軸国が第二次世界大戦で勝利し、地中海地域をムッソリーニが比較的穏健に統治する新ローマ帝国(この辺のディックの、「身体を愛する」一独裁政治体制であるイタリア・ファシズムと「身体を抹消する」本質的に政治体制ですらないナチズムのさりげない区分は見事である。「天皇制ファシズム」などという、戦前のコミンテルンの用語を使ってしまう方々には、この意味でも本書をご一読されたい)、ユーラシアの大部分、アフリカ(ホロコーストのさらなる発達・拡大)、南米、北米大陸の半分を支配し、さらには、月面にも手を伸ばす(V2ロケット技術の継続)、ヒトラーの後継者、ボルマン率いるナチス、そして戦前からの議会制に復帰し、民生品生産技術を発達させ、ユダヤ人をも許容する穏健な統治を環太平洋地域・北米の半分で布く日本(買いかぶりすぎではあるが、日本の戦前「デモクラシー」との連続性のディックの認識はここでも的確である)、この三つの戦勝国で三分割された世界が舞台である。そんな状況下、2冊の書物が人々の間で流通している。中国の古典『易経』(実在の書物である:岩波文庫刊)、そしてもう1冊は地下出版のベストセラー、『イナゴ身重く横たわりて』というアメリカ:連合国側が勝利した後の世界を描いた『SF小説』である。
米国駐在の一日本人中年官吏田上氏(戦前アメリカ小物オタク)、一ユダヤ人失業者フリンク氏、彼の離婚した妻ジュリアナ、戦前アメリカ骨董店の店主チルダン氏は、それぞれに平穏とは言えないが、普通に悩み、職探ししたり、ナンパされたり、商売に励んだりしていた。幸福ではないが凡庸な日々。
しかし、ある一人の男の死が、薄皮一枚で隠蔽されていた戦争状態を露わにする。ボルマン・ナチス総統の死去の噂:次期総統を巡る権力闘争:日本側の介入の試みが、一官吏田上氏、そしてそれぞれの平凡な人生を大きく動かしていく。そして彼らは、全体像も見えぬ、目的も定かではない、流れの中で、限りなく小さく、はかない存在として、懸命にもがき続ける。
「われわれは自分の生命を守るために、悪の権化が政権につくのを後押ししなければならないのか?それがこの世の状況のパラドックスなのか?」と田上氏は自問する。(本書p.284より)。しかし。彼は一官吏として、そこから逃げずに踏みとどまり、苦しみを引き受ける。
「ほんとに、輪タクだったかい?運転手がペダルをこいでいたかい?」(本書p.353より)
そして、ジュリアナは歩き出す。
「動くもの、光り輝くもの、生きたもの、彼女をモーテルまで運んでくれるものを探し求めて。」(本書p.391)
派手さはないが考えさせられることの多い傑作
2017/04/29 15:45
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コスモス - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドイツと日本(とイタリア)の枢軸国側が第二次世界大戦で勝利していたら・・・
そんなことを考えたことのある人はきっと多いはず。その答えと言うわけではありませんが、
この小説の世界は、「もしかしたら世界はこうなっていたのかもしれない」、そんな風に思えてなりません。
特定の主人公を設けずに群像劇の手法で物語を展開させることで、様々な角度からこの世界の姿を描くことで説得力を与えています。
SFが嫌いな人達に
2003/01/12 22:23
12人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kokusuda - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは小説は読むがSFは嫌いだ、読んだこともない、という人に
奨めたい作品です。
長編に関して言えばディック氏はとてつもなく落差を感じる作家です。
良い意味でも悪い意味でも…
ツボにはまると、とんでもない傑作に仕上がるし破綻すると
麻薬患者(ピー)の戯言になってしまいます。
傑作を読んだ時には宇宙に達するような高峰から下を覗き込む
ようなクラクラした感覚に陥りますし、違う場合は何でこんな物を
読んじゃったのかな〜頭痛がグラグラしてきます(笑
この作品はアイデアに降りまわされずプロットも破綻せず
淡々と話が進んでいきます。普通の小説のように…
しかし、その中にも異世界がちりばめられているのです。
易経という形で、枢機国という形で、登場人物の言葉の中にも…
ストーリーの中にちりばめられた異世界はサブリミナルのように
貴方の心の中に染み渡っていきます。
そして読了後の自分自身の中に何を見出すのでしょうか?
ちなみにその後の作品に関係する単語やプロットがいくつかありました。
SF好きな貴方は、いくつ見つけられましたか?
1964年に早川書房から出版され1984年に文庫になっています。
64年版の故川口正吉氏の訳を一度読んでみたいものです。
読後すぐよりも時間が経ってからじわじわくる独特の雰囲気
2016/05/21 14:21
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
もし・・・だったらというifものですが、読んですぐよりも時間が
経ってからの方がじわじわときます。
全体を通して「陰の世界」何をするにも易経で占ってからという所に、
現実とは違う戦後の人々の不安と不信を見るような気がします。
そして物語に書かれた世界が、逆(本当の歴史通り)だとしてもどこか違う。その違いが奇妙な違和感となってざらざらとしています。
決して読みやすくはなかったけれど、それでも登場人物たちの憂鬱感は、
著者独特の世界。
何故か現実感あり
2016/01/11 00:44
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hiro - この投稿者のレビュー一覧を見る
ディックの作品は、近未来を描いたSFなのだが、妙に現代社会と重なるところがあり、彼の考えた近未来と現在とが妙にリンクしているような気がする。
ディック再見。
2015/09/29 14:07
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:easygoer1963 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ディックの最高傑作と誉れ高い本作がAmazon Studiosによってドラマ化されるというニュースを見て、およそ30年ぶりに読み返してみました。
今までは電子書籍に抵抗がありましたが、いろいろな端末で読めて場所も選ばず便利ですね。
久しぶりに自我を揺さぶるディック・ワールドを堪能しました。
これを機に他のディック作品も再読してみようと思います。
最高傑作か?
2019/03/07 01:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
ディックはそれほど得意ではないが、これは傑作。かなり有名な小説でもチープさというか安易さが鼻につくものばかりの中(暗闇のスキャナー以外)、この作品では枢軸陣営が戦勝した改変世界がしっかりと描き込まれていて、むしろ作品が短く感じるほど。作中で人物たちが易に左右されているのもユニーク。筋書きが波乱万丈ではないが、物語の結末にたどり着いたある認識が、微妙なアンビバレンツをうまく表現していて納得のいくラスト。ディックを見直した。
あまりに抽象的・哲学的で理解不能のまま読み終えてしまいました。
2017/04/26 00:09
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
3点
あまりに抽象的・哲学的で理解不能のまま読み終えてしまいました。結局全てが中途半端に終わってしまい、これが何故、名作SF小説なのだろう???????という感じでした。
第二次大戦?で、日独伊の枢軸国側が勝利し、世界は主に日本とドイツによって分割統治されている。日本統治地域は政治・経済・科学的にむしろ後退した雰囲気なのに対して、ドイツ統治地域は人種淘汰による殺伐とした雰囲気にある反面、科学的には火星にまで進出するなど明らかに進歩を遂げている。このギャップが面白い。しかし、お話は、余り相互関連のない場所と登場人物からなる差し障りない話が淡々と続き、何が問題で何処へ収斂するのか全く予想のしようがない。唯一共通しているのは、何らかの形で“高い城の男”と異名をとるH.アベンゼン著『イナゴ身重く横たわる』という書籍が出てくることである。この本では、戦争は英米の勝利で終わった後の世界が描かれており、現ドイツ統治地域においては発禁本となっているが、現日本統治地域ではそれ程厳しい禁止処置は取られていない。
中盤に入った辺りでやっとドイツ首相:ヘル・ボルマンが逝去したことで、後継者問題を巡っての政変が予想される。一方、美女ジュリアナ・フリンクは怪しげなジョーとお楽しみの旅行に出かけ、目的地に近づいたところで「高い城の男」の住まいが近いので会いに行くことにする。どうも『イナゴ身重く横たわる』の著者:H.アベンゼン暗殺と言うきな臭さが漂い始める。そこに突然P-305で、ドイツ諜報員から元日本軍将校で未だに隠然たる影響力を持つ矢田部=手崎元将軍にタンポポ作戦(核兵器よる奇襲攻撃で日本を壊滅してドイツの単独世界支配を確立する計画)の情報がもたらされる。さて結末。美女ジュリアナは直前でジョーの目的がアベンゼン暗殺だと確信して殺害してしまう。日本側では、矢田部=手崎元将軍が「タンポポ作戦」の情報を持って日本へ向かい、ドイツ諜報員も任務を完了してドイツに帰国する。
ムーーー、結局全てが中途半端に終わってしまったという感じ。あれだけ何度も出てきたH.アベンゼン著『イナゴ身重く横たわる』は何だったのか。著者H.アベンゼンとは何者で何の役割を担っていたのか。その他、美女ジュリアナの夫、フランク・フリンクの役割は。などなど判らないことばかり。一体何を読まされたのかさっぱり分からないまま終わってしまったです。これが何故、名作SF小説なのだろう???????
名作との評判ですが(抽象的なネタバレ)
2020/05/05 12:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nkybgs - この投稿者のレビュー一覧を見る
かねてから名作と聞いていたことや,もしも第二次大戦で日本とドイツが勝っていたら・・・という設定に惹かれたこと,バーナード譲でも紹介されていたことから購入しました。しかし肝心のストーリーが。大がかりな設定のわりに,起こる事件は小さく,拍子抜け,期待外れでした。でも,本を買うときのワクワクが得られたのは良かったです。
もやもや・・・
2016/05/03 06:54
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
第二次世界大戦で日独伊同盟が勝つと、イタリアは勝ち組から落ちこぼれ、宇宙開発が今より進み、易経が意思決定の基準となり、将来的に日独も敗北する卦が出ているという虚構に未来を託すというもやもや感で終わってしまう書。
高い城の男
2016/11/07 12:40
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:によ - この投稿者のレビュー一覧を見る
まさに、今欲している言葉が山ほど出てきた。
この本で重要なのは「第二次大戦でドイツと日本が勝っていたとしたら、その時のアメリカは…」という設定自体ではなくて。
・狂気と正気。
・闇の中に生じる光の種子と、その芽吹きによって生じる闇とによって繰り返される、消滅を免れる世界というもの。
・主観的歴史にまつわる、<仏教の文化>と<キリスト教の原罪>という考えについて。
・そして、全ての道が何らかの悪に通じているとしても、一歩一歩選択することでしか結末を左右出来はしないのだということ。
真逆のようで一対のそれらの上で混乱をきたして選択を放棄しようとした私が、今確かに、読むべき本だったのだ。
すごい本だった。
(たとえ、登場人物の日本人がハリウッド風の謎日本人と謎中国人のハイブリッド的だとしても。)