紙の本
これはすごい
2015/12/08 21:55
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:玉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヒトラーがなぜあそこまで、ドイツ国民に支持されたのか?なぜ、どのように、ユダヤ人差別、迫害を強めていったのか?などなど、素朴な疑問の数々が解けます。しかも、新書版で読みやすく。若い方から、年配の方まで、広く読んで考えてほしいものです。そして、現在の日本をさらに読み解いてほしいです。まさに、必読の書。
紙の本
ヒトラーとナチ・ドイツ
2021/08/10 23:25
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヒトラーの生い立ちからナチ・ドイツの崩壊まで、詳細にまとめた本。新書形式でとても読みやすい。戦争についてはあまり触れられておらず、その分他の分野の記述が充実している。
よくあるナチス擁護の常套句である経済復興についても、しっかりとページを割いて記述している。たとえばアウトバーンはヒトラーが考え出したものではなく、その前に議会で提案されたときにはナチスは無駄遣いとして反対していたことや、そもそもヒトラー政権直前に市場は経済回復の条件を満たしていた、ヒトラー以前の政権による経済政策が効果を表していたなど。
ヒトラーが何故ユダヤ人絶滅にあそこまでこだわったのかについても著者の考察がまとめられており、とても興味深かった。
紙の本
なぜ「ヒトラー」が生まれ、死んでいったのか
2020/06/28 12:18
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トリコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
大筋では、ヒトラーの生涯を、彼の思想形成や政治家としての事績をたどりながら、ナチスがどのような存在で、なぜホロコーストのような残虐な殺戮が行われたのかを描く。
歴史学者の本だが、非常にわかりやすかった。
紙の本
ヒトラーとナチ・ドイツのイメージを変える一冊
2018/03/31 14:17
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:文学少年A - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は今まで語られてきた定説やイメージが、新たに出できた資料や文献に基づく歴史学による最新研究によるヒトラーの実像とホロコースト(ユダヤ人の大量虐殺)の真実まで描く。
紙の本
まず読むべし
2023/12/27 15:39
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヒトラーやナチスについてはいい加減な本も数多いが、そんなものをいくら読んでも百害あって一利なし。ヒトラーやナチスについて関心を持ったら、とにかくに本書をまず読むべし。
紙の本
未知識でも読みやすい
2017/02/09 12:28
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:弥生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
テレビ番組きっかけで興味が出てきて購入。ナチスが成長した経緯がほぼ時系列で掲載されていてわかりやすく、ほとんどのことが知らないことだったので考えさせられた。
今のアメリカトランプ政権とも少し似ているのではといった部分もあり、さらに怖くなってきた。
電子書籍
ヒトラーとナチスについての入門的な内容の本
2016/02/29 20:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Shigenobu Fujioka - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヒトラーとナチスについての入門的な内容の本。
ヒトラーの生涯を軸に、ほぼ年代に沿って、いかにヒトラーとナチスが政権を獲得し、そして崩壊したのかを解説している。
なぜヒンデンブルクがヒトラーを首相に指名したか、なぜナチス政権の初期時代を人々が高く評価するのかなど、所々で、筆者独自の見解を述べている。
巻末には、各国語の多くの書籍が挙げられており、より深く知りたい人々のガイドにもなっている。
投稿元:
レビューを見る
“なぜ文明国ドイツにヒトラー独裁政権が誕生したのか? ヒトラーの実像からホロコーストの真実までを描く決定版!”
とうのが帯の惹句。
色々と知らないことも多かったので勉強になりました。とくに何だか印象の薄かったヒンデンブルク大統領の立ち位置とか、ナチ党が危機に瀕したときの対応とか、ヒトラー政権下での雇用対策・公共事業政策とか……。アウトバーンってヒトラーが考えたんじゃなかったんですね。^^;;;
開戦後の過程で反ユダヤ主義思想、優生思想がどのようにホロコーストへと発展していったのかについては、とくに第6章・第7章を割いて詳述されています。
もちろん、新書一冊で帯の惹句に挙げられていることがすべてわかるとは最初から期待していませんので、ないものねだりは措くことにしましょう。
投稿元:
レビューを見る
ヒトラー政権についての概説書。
本分野には既に多数の研究の蓄積があるが、帯の「最新研究をふまえ」という一文に惹かれて購入。
ところが、目から鱗、という指摘は殆ど見られなかった。
本書は話題の幅と深さの選択を誤った印象がある。
新書サイズで、ヒトラーの生立ち、ナチスの台頭、政権獲得、体制確立、ナチ政権の内政・外交、そして人種主義政策とホロコースト・・・
と、それだけで何冊も本が書けるような話題の幅である。
それを入門書らしくズバズバと簡潔に書くのではなく、ある程度詳細にあたりながら・・・・、でも新書の紙幅に制限されながら・・・・、と深さの点では実に中途半端な印象がある。
また冒頭指摘した点だが、(まだ勉強の浅い身分なので恥を覚悟で言うが)本書は最新研究を踏まえている点をウリにしているものの、正直50年前に書かれ「古典的名著」とされている書物群と、そう大幅に違う見解は述べられていない。
本書「はじめに」に記述があるように、近年「歴史の細部」が詳細に分かるようになってきたのだそうだが、その通りで、過去の研究と細部の異同がある程度の印象だった。
もちろん、「今まで読んだ本と違うぞ」と思うような発見も中にはあったが、350ページもの本を読んだ割には、物足りなさがある。
ヒトラー、ナチスについて学んでいく際の最初の一冊にしてはちょっと深くて狭いし、既にある程度読んだ人には広すぎて浅い。
帯に短し襷に長し。
個人的にはこれを読む時間を取るなら、本書の章立てになっているそれぞれのテーマについて書かれた(定評ある)概説書を一冊ずつ読んでいく時間を取った方がいいように思う。
投稿元:
レビューを見る
不謹慎ですが、「悪い男たちがゼロから成り上がっていく、悪漢ドラマのような面白さ」がありました。
実録やくざ映画とか、ギャング物とか、犯罪者物みたいな。
むちゃくちゃな分だけある種、スリル満点。悪だくみ。
「スター・ウォーズ」のエピソード1~3も、悪役パルパティーンが議会制民主主義を滅ぼすまでのお話でしたね。
#########
講談社現代新書「ヒトラーとナチ・ドイツ」石田 勇治【2015】
以前から、世界史に不案内なこともあり、ヒトラーとナチスについての入門的通史を読んでみたいなあ、と良き本を探していました。
いろいろ見て、これは良いのでは、と。
歴史学者の人が書いていますが、当然これは専門書ではなく一般向け。
厳密には詳細な通史というよりも。表紙のカバーに書いてあったんですが、「どうしてナチス政権が、民主的なはずだった国に成立しえたのか?」という問いかけが主な狙いになっています。面白かったです。
狙いがそういうことなので、「第二次世界大戦の戦争歴史」ではなくて、「ナチス政権が成立するまでのワケ」がほとんどです。
つまり、成立しちゃってから滅亡するまでの軍事的経緯は省かれています。
戦争についての詳しいことが知りたかったわけではないので、好都合でした。
読後の印象で言うと、
●国民にぼんやりした不満が溜まっていた。
なぜなら、第1次世界大戦の戦後処理で、無茶な賠償金を割り当てられ、経済がいまいちだったから。
当時の民主的な政権は、経済政策で目に見える効果を挙げれていなかった。失業者が多かった。
(ヒトラーも、まあ大まかに言うと失業者だった)
●資本家、権力者に、不安があった。
時代は共産主義台頭の時代。ロシアでは革命が起こって、金持ちが財産を没収されていた。
金持ちからすると、それだけはリアルに恐怖だった。避けたかった。
ヒトラーは「共産主義とユダヤ人との対決」という姿勢を明確にしていた。
●「大統領」と「首相」がいて、ヒンデンブルグ大統領の権限が強かった。
もともとこの人は軍人として国民的英雄で、議会制民主主義への愛情は無かった。
この人が最終的にヒトラーを首相に任命し、全権を与え、そして死んでしまった。
●大衆社会とでも言うべきものが、少なくとも今と比較すると未熟だった。メディアも含めて。
ヒトラーは大衆社会に受け入れられやすい過激で分かりやすい論法が上手かった。
(これは、「既得権益者を悪者に仕立てて、常に攻撃者の側に回る」ということとか、
「雑でも矛盾があってもちょっと過激な物言いをする」ということとか、だと思う。つまりは、橋本徹さんのような存在)
というようなことなのです。
そして、なんだかグサッと来たのが、ヒトラー政権になってからの記述で。
議会を通さずに法律を作る権限を持っちゃうんですね。もうこの段階で、議会の意味はなくなります。
そうして、色んな理由で「言論の自由」とか「職業の自由」とか、まあ基本的な人権が制限されて行きます。
(※失業率を下げるために、女性の就職を禁止した。女性を「失業者」の分母から削除したんですね。)
そんなときに、
●まあ、こんなことは長くは続かないし、そんなに酷いことにはならないだろう、となんとなくみんな、思った。
という記述。
(もちろん、学者さんですから、推測ではなくて、当時の色んな人の記録や文章から掘り出している考察です)
これ、グサッと来ましたね。大丈夫でしょうかね。2015年現在の日本の僕たち。
########
そして、「選挙と民意」という危うさもありますね。
ナチスだって一応、選挙で勝ったから政権取ったんです。
でも、「勝った」と言っても、圧倒的民意をあらゆる政策について取った訳じゃないんです。
2015年の日本の政権もそうですが、詳細に検証していくと、実は総国民の圧倒的多数の票を取った訳じゃないんです。
(選挙制度の仕掛の問題もあります)
########
それからぼんやり印象に残ったのは、とっても「ヤンキーっぽい」ということですね。
男性っぽいマッチョ不良みたいな価値観っていうか。
(そして、それはそれで、とっても2015年現在の日本の政権とも類似が…)
ちゃんと落ち着いて考えたら、言ってることやってること、無茶苦茶なんです(笑)。
そして、「ヤンキーっぽい」と思うのが、仕事=政権運営をする中で、役割分担とか権限とか、もう、ぐっちゃぐちゃなんですね。
結局、親分独裁、気分しだい。取り巻き天国。気分しだいだから一貫性がなくて、実は威勢がいいけど場当たり的。
むしろ、計画的で冷静であること、冷めていることを、批判して非難して突き進むんですね。
だから、最晩年、敗北の中でヒトラー本人が「ナチス党も政権も、何がどうなっているのかぐちゃぐちゃで分からん」とご自分で言ったそうです。
########
「ユダヤ人」について。
これはちょっと、もっとコレについての判りやすい本を読みたいです。
というのは、ヒトラーがユダヤ人を迫害していっぱい殺したのは知っていますが、
「なんで?」ということですね。
そして、ヒトラー以前にも綿々と、「ユダヤ人への差別、蔑視」というのは、「ベニスの商人」じゃないけど存在したわけです。
キリスト教と権力、ユダの裏切り、とかそういうのはぼんやり判りますけど、ちょっとハッキリしない。そこのところの「気分」が、分からないんですね。
########
「われわれは、わが民族は、わが国家は、他の民族や国家よりも歴史的にも倫理的にも正しい」
と、言うんですね。
(でもその根拠はあいまいと言うか、公平と冷静を欠くというか。ほとんど愚連隊不良の我田引水な理由だったりします)
「だから我々はもっと恵まれているべきで、我々は不当に屈辱を受けているのだ。あいつらは不当に恵まれているのだ。もともと悪い奴らなんだ」
と、言うんですね。
(これは、失業者が多かったり経済が行き詰っていると、誰にでもちょっと耳に心地いい魔力があります)
「我々が油断していると、あいつらにヤられてしまう。議論している場合じゃない、行動だ。その為には行動力、決定力が必要だ。それを俺にくれ」
と、言うんですね。
(アクション映画のヒーローなら、それが正論ですね。だから、見方によってはカッコよく映ります)
「それに反発するひと、冷めてる奴らは、愛国心が無い。非国民だ。そんな奴らはちょこっと迫害されても自業自得だ。そんな奴らより、俺ら愛国者が恵まれるべきだ」
と言うことになるんですね。
(どこでその線引きをするのか、そんな線引きをする能力や資格を持っていいのか、というような議論は、ヤンキー的に無視されます)
いやあ、まったくもって、「古い話」ではないですよね。
投稿元:
レビューを見る
事前の知識がなくても、ヒトラーについて、また第二次世界大戦終戦までのドイツの情勢を理解することができる良書
投稿元:
レビューを見る
ヒトラーがいかにナチ党を結党し、国民の人気を博し、形式上は合法に独裁を進めていったかを説明する。
時系列を追いながら、共産党を潰し、議会と国会を無力化し、国民の人気を得る政策を断行していったかを、詳しく、かつ適当なレベルで説明され、とてもわかり易かった。
同時に、なぜ国民は止めなかったのか、大統領との関係はどうったのかなど、折々に浮かぶ疑問にも明快に答えていた。
ホロコーストやユダヤ人迫害にも紙面を割き、ヒトラーの意識にある「アーリア人至上主義」、「ユダヤ人敵対視」がいかにして具現化していったかも恐ろしいほどに実感してしまった。
ヒトラーが民主的に選ばれたとか、世論の後押しもあったといった、よく聞かれる説がどんなものかを知れてとても興味深かった。
特にユダヤ人迫害を横目に、自分たちの利益や、長期的な展望を踏まえた時に短期的な犠牲はやむなし、と考えたドイツ市民の姿勢は考えさせられるものがあった。
投稿元:
レビューを見る
第1章から第5章まで、ヒトラーが政治家となり、ナチ党首となってから、ヴァイマル共和国のヒンデンブルク大統領によって首相に任命され、その後どのようにして議会制を崩壊させてナチ党が唯一の政党となったか、そして「安定した時代だった」とドイツ国民によって評されるナチ体制下の政治はどのようなものだったのかが解説されている。第6章、第7章はユダヤ人政策、ホロコーストに至るまでの話が、最新の研究成果をもとに論じられている。
新書としては300ページを超えており、年表や数多くの参考文献も載っているなど、一般向けながらもそれなりに本格的なもの。例えば、「ホロコーストはこのヴァンゼー会議で決定されたとしばしばいわれるが、それは正しくな」(p.326)く、「四一年の晩夏から初冬のどこかの時点で、ヒトラーは、ヒムラー、ハイドリヒに対して、すでに現実のものとなったユダヤ人政策の転換、すなわちホロコーストの始まりに承認を与え、これを加速させた」(p.322)など、当時のヒトラーを中心とした動きが仔細に述べられている。
ところで、「ホロコースト」という言葉は、アメリカでヒットしたテレビドラマから広まったらしいが、「旧約聖書の『神への供物』の含意があることから、イスラエルでは好まれず、ヘブライ語で破局・破滅を意味する『ショアー』が用いられている」(p.254)というのは知らなかった。他にも意外、というか知らなかったことが多くて、ヒトラーが首相になった時には、その直前の国会選挙で「得票数をかなり減らし、党勢がすでに下降局面に入った」(p.114)という事実は知らなかった。勢いに乗っている途上、という訳ではなかったらしい。しかもその「一番の原因は、ヒトラーのカリスマ性の限界」(p.116)というのも意外だ。この段階で、もうカリスマがカリスマであり続けることの難しさを露呈していたということは知らなかった。そしてヒトラーを首相に含めたリストを作成したのは、ナチ党などの賛成で内閣不信任とされたパーペンという人物だったらしい。その目的が3点、p.131に示されているが、ヴァイマル憲法からの揺り戻し、というかかなり右傾化をよしとする風潮が政府側にあった、ということが分かる。そして、ヒトラーの政治弾圧に「なぜ人びとは反発しなかったのか」(pp.168-72)という部分で、要するに日和見主義の人々がどちらかの極に引きずられていく、という集団心理の構図が見える気がする。そして時が進み、ユダヤ人への弾圧に対して「なぜドイツの国民から抗議の声があがらなかったのか」、「共犯者となった国民」(pp.289-93)の部分では、多数派さえよければ何でも、という多数決の弊害を描いている。あとは、ナチ党内部の権力構造があまりに複雑になり過ぎている上に、「ヒトラーの命令は、会食の席や二人だけの立ち話で伝えられることが多かった。側近たちは与えられた裁量の範囲で、ヒトラーの歓心と寵愛、より大きな権限を得ようと、『総統の望み』を慮っていっそう過激な行動をとるようになっていった。」(pp.306-7)という部分は、組織上の問題点、というか敢えてそうなるような「システム無きシステム」のようなものが構築されていた、ということなんだろうか。
社会的や政治的な出来事から、そこに���きた人々の意図を読み解いていくことのできる、興味深い本だった。(15/11/05)
投稿元:
レビューを見る
ホロコーストを引き起こした根底には3つの考え方があった。極端なレイシズム(人種主義)、優生思想、反ユダヤ主義だった。それらは相互に重なり合い、関連していた。レイシズムとは人間を生物学的特徴や遺伝的特性によっていくつもの種に区分し、それら種の間に生来的な優劣の差があるとする考え方で、そうした偏見に基づく観念、言説、行動、政策などを意味する。ある個人や集団が自己とは異なる文化的・宗教的背景、親t内的特徴を持つ者に敵愾心や恐怖感(ゼノフォビア)を抱いたり、異質な民族集団を自己中心的な尺度で見下したりする態度(エスノセントリズム)は、時代と地域を超える普遍的な現象である。これに対してレイシズムは押収列強の海外進出と歩調を合わせて生成し、19世紀後半に登場した進化論や人類遺伝学から知的養分を得て発展し、20世紀に世界各地に広まった排除と統合の施行原理だ。レイシズムが大きく発展したのは19世紀後半のことだ。そのころのヨーロッパでは急激な産業化、世俗化、都市化、人口の爆発的増加、大衆ナショナリズムの台頭などによって既存の社会構造と伝統的な価値体系が崩れ、人々の不安を掻き立てた 。キリスト教世界に連綿と引き継がれてきた反ユダヤの教えも、ホロコーストにつながる1つの要素となった。だかrあヒトラーの反ユダヤ主義には宗教的な動機はなく、人種的な反ユダヤ主義だったといわれる。ヨーロッパのユダヤ人は、ユダヤ教徒であるがゆえに長らくキリスト教徒の迫害と差別に晒され、ゲットーでの居住を強いられるなど、多数は社会から隔離された生活を送って来た。ユダヤ人の会報を撤回せよと論陣を張った人々が宗教の違いの代わりにレイシズムの施行原理を議論に持ち込んだ。「ユダヤ人は宗派集団ではなく人種だ」「ユダヤ人は改宗してもユダヤ人だ」と主張した。彼らはその主張を「反セム主義」という造語を用いて展開した。ユダヤ人との人種の違いを強調する者にとって、ユダヤ人のキリスト教への回収は人種の違いをごまかすための手段にほかならず、キリスト教徒との結婚はアーリア人種を混交によって対価させようとする危険なユダヤ人のたくらみだとされた。改宗も同化も許されない社会で「ユダヤ人問題」を解決したければ、ユダヤ人を国外へ追放するしかないと彼らは考えた 。
投稿元:
レビューを見る
本書はドイツにおいてナチ党(国家社会主義ドイツ労働者党)の党首アドルフ・ヒトラーが政権を担っていた1933年から1945年、いわゆるナチ時代及びそこに至るまでの過程を取り上げたものである。
筆者の石田勇治は東京大学大学院教授、近現代ドイツの研究者であり、本書以外にも『ナチスの「手口」と緊急事態条項』(集英社新書、2017年)や『20世紀ドイツ史』(白水社、2005年)などの著書があり、メディアでもヒトラーやホロコーストに関する解説として出演している。
本書の特徴はヒトラーとナチズム、ホロコーストに関する最新の歴史研究の知見をコンパクトにまとめている点にある。そもそも、そうした研究は冷戦終結後の1990年代になって一気に進展したという背景がある。それに関して本書では「旧ソ連・東欧圏の文書館資料が閲覧可能となり、長らく不明とされていた歴史の細部に光があてられるようになったこと、またそれまで自国の負の歴史の解明に必ずしも熱心でなかったドイツの歴史学が、研究者の世代交代も相俟って、若手を中心に積極的に取り組むようなったことに負っている(本書5頁引用)」 とある。
このように、第一次世界大戦終戦から100年を迎える現在、ドイツ・ナチ時代の研究の成果を読む事は、今の時代を見る視点を養う事でもあると思う。ナチ時代に本当に何が起きたのか。それを考察する現代的な意味は大きい。
全体の構成は全7章で構成される。1~2章はヒトラーの登場からナチ党の台頭、1910年代からナチ党がその得票率のピークを迎える1932年7月の国会選挙までを描いている。3~4章ではヒトラーが首相に任命され、ヒトラー政権が成立した1933年からのその権力基盤が確固とした1934年末にかけての1年半に起きた社会の「ナチ化」の過程を取り上げる。5~7章では1933年から1945年までの「ナチ時代」を扱う。1939年の第二次世界大戦勃発までを前半とし、その評価の難しい「平時」における人々の捉え方、つまり「比較的良い時代だった」という声を雇用の安定と国民統合という観点から捉える。後半、つまり戦時において起きた国家的メガ犯罪と筆者が表現する「ホロコースト」に帰着した要因を、レイシズム、反ユダヤ主義、優生思想の発展とともに検討している。
非常にまとまっている上にどの章にも気になる点があるのだが、ここでは二つ気になる点を取り上げる。
第1章のヒトラーが従軍していた時代の話で、「過酷な塹壕戦の中で生じた無二の戦友愛と自己犠牲。階級や身分、出身地を超えて堅く結びついく兵士の勇敢な戦い」(本書26頁引用)を基に民族共同体の原風景を描いた、という部分だ。しかし、実際にはそれを経験していないヒトラーの矛盾という形で本書の指摘はあるように思われる。むしろ、実際に経験していないからこその「民族共同体」という幻想を生み出すことが可能とも考えられる。つまり、「戦争を経験していないからこそ戦争を美化する(できる)」という現代にも見られる現象がここにはあるように思えた。
第6章において反ユダヤ主義の法律「ニュルンベルク人種法」の中でユダヤ人の定義に関する矛盾がでてくる。これはユダヤ人を宗教ではなく人種として規定してきたナチスが結局帰属する信仰共同体によって判断するという矛盾だ。こうした矛盾とまではいかないが違和感は現在でも国際ニュースを見ていて感じるときがある、それは今でもユダヤ教徒をユダヤ人と呼称するからだ。その理屈であれば、イスラム人やキリスト人もいなければならないのでは?と思ったりもする、そんな違和感を感じた。