紙の本
アラスカのひとつの時代を生きた人たちの物語が綴られてゆく、深い輝きに満ちたエッセイ集
2009/05/09 17:47
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ただアラスカに飛んでゆきたいという強い憧れのもと、半世紀近く前の1946年にアラスカに舞い降りたふたりの女性パイロット、シリア・ハンターとジニー・ウッド。1960年代の初め、アラスカでの核実験計画の国家プロジェクトに反対し、アラスカを追われた生物学者ビル・プルーイット。白人の血が流れていても精神的にはエスキモー、違った価値観と文化を持つふたつの世界のどちらにも属しきれないジレンマを抱える若者、セス・キャントナー。アルバムをめくるようにして、アラスカのひとつの時代を生きた人たちの物語が語られてゆきます。
白黒、カラー取り混ぜて、多くの写真が掲載されているせいでしょうか。それは全くアラスカのアルバムをめくるような感じで、それぞれに旅をしている人間の物語が綴られていきます。<さまざまな人間の物語があるからこそ、美しいアラスカの自然は、より深い輝きに満ちてくる。人はいつも、それぞれの光を捜し求める、長い旅の途上なのだ。>(p.276)と記す著者のアラスカへの想い、アラスカで出会った忘れがたい人たちへの親しさが、あたたかく息づいているんですね。決して声高にならない、静けさをたたえた文章の底に流れる、アラスカの自然とアラスカで暮らす人たちの精神的な豊かさ、スピリットの輝き。清々しい風のような物語に魅了されました。
掲載された写真のなかでは、マニトバ大学の研究室に立つビル・プルーイット(本文庫でも紹介されている彼の著作が、『極北の動物誌』という書名で出版されています。ただし、現在は絶版中)を写した一枚と、部族の集会に参加したグッチンインディアンの人たち(全部で200人くらい、いるかな)を記念撮影した見開き二頁にまたがる一枚が印象的。ほのぼのとして、あたたかな気持ちに誘われました。
1996年8月、不慮の事故により著者が急逝したことにより、未完のまま刊行されることとなったエッセイ集。アラスカの風と匂いが行間の隅々にまで浸透した、豊かな味わいに満ちた一冊です。
紙の本
アイデンティティ
2005/11/01 12:49
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つな - この投稿者のレビュー一覧を見る
自然や動物の写真で知られている著者であるが、文章にも非常に味がある。穏やかで、思慮深い人柄が伝わってくる。本書は、シリアとジニーという二人の年老いた女性が、「アラスカに遅れてやって来たミチオ」に語る、開拓時代のアラスカのお話を綴ったもの。この二人の女性は、年老いたといってもまだまだ元気。彼女達の若き日の話には、そんな昔にこんな女性が存在したのか、と衝撃を受ける。
アラスカの過去の話、現在の話が丁寧に語られていく。「アラスカはいつも、発見され、そして忘れられる」。単純な自然賛美の本ではなく、過去の痛み、喪失も語られる。
星野氏の人柄によるものか、周囲の友人たちがとても素敵だ。彼らは、痛みや喪失を越えて、再生を果たしている。厳しい自然と対峙して生きてきた人々の中には、きっと何らかの人生の真実がある。
特に印象的だったのは、この中の「タクシードライバー」と「思い出の結婚式」の二編。
「タクシードライバー」は、白人でありながら、誰よりも遠い昔のエスキモーの心を持っている若者・セスの物語。彼は老いてゆくことが無用な存在になってゆくアメリカ社会と、それが重要な存在になってゆくエスキモー社会との違いを身を持って感じる。
「思い出の結婚式」はアサバスカンインディアンであるアルの物語。アルはインディアンである自分と、白人であるゲイから産まれた一人息子カーロに、古いインディアンの歌を聞かせながら、こう語りかける。「一緒に歌わなくてもいいから、今自分がやっていることを止めて、ただ黙って聞け・・・」
先住民の人々の暮らしの中には、それまでの彼らの知恵が沢山詰まっている。急激な開発は、彼等の内、特に若者からその知恵を奪ってしまう。
静謐なアラスカの美しさもさることながら、アイデンティティについて考えさせられる本である。
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こうしている間にもアラスカで自然が息をしているという、当たり前の事に感動しました。
ちゃんと生きなくちゃ、と。
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写真家だからこその、文章はあまり巧くはないけど繊細な自然の表現に、アラスカへの深い愛情を感じる。私も真冬の極寒アラスカへ行きたい・・・
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決して巧いとはいえない文章。でも、だからこそ、アラスカの果てしない自然の美しさと、それを本当に愛している星野道夫さんの優しい視線が伝わってくる。
あぁ、真冬のアラスカに行ってみたいな。
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星野さんがアラスカの自然、それにその自然に根ざして暮らしている人たちとのふれあいの中で思うことを綴っているほかの本と、この本は少し違いました。そこに暮らしている人たちのことだけでなく、ヨソで暮らしアラスカを利用できる豊かな資源として認識している人たちのこと、そういう人たちとどのように関わってきたか、関わることによって変わってきたか、そういったような、少し引いたより広い視点で書かれているように思いました。
ジニーとシリアという、魅力的な女性(ふたりとも元パイロット!)の語る体験を元にアラスカを巡るいろいろのことを綴ったこの本は、もうすぐ80歳になるというジニーとシリアとともにキャンプしながらボートで川をくだる旅をしたエピソードで終わります。いつかね、と約束しながら10年以上経ってからようやく実現した旅の、出発と穏やかで楽しそうな様子が書かれた章の後に続く最終章は、星野さんではなく、シリアによって書かれています。その文章がとても印象的でした。
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星野道夫さんの文章を読むと、その自然の大きさに圧倒されて、すっと心が広くなる。自分の生きている世界なんて狭苦しくて、自分のことなんてほんの些細なことなんだって思える。アラスカの自然に比べたら、アラスカの厳しい自然で暮らす人々のことを思えば。
とても救われる。
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【内容】
ノーザンライツとはオーロラ、すなわちアラスカの空に輝く北極光のことである。この本には、運命的にアラスカに引き寄せられ、原野や野生生物と共に生きようとした人たちの、半ば伝説化した羨ましいばかりに自主的な生涯が充ち満ちている。圧倒的なアラスカの自然を愛し、悠然と流れるアラスカの時間を愛し続けて逝った著者の渾身の遺作。カラー写真多数収録。
【感想】
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きっと私の生涯で、アラスカに関わりを持つことはないだろうと思う。
でも、ここに記されているアラスカに生きた伝説の人々、そしてアラスカの新たな時代を切り拓こうとしている人々。
アラスカの自然と歴史を感じ、想う。
私たちとは違った価値観のもと、豊かな暮らしをしているアラスカの人々の暮らしを知るにつけ、私たちが進んできた道程の遠さと、先に続く道の危うさを感じずにはいられない。
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星野道夫さんの文章はとても美しい。
難しい語彙を使っているわけではないのだけど、アラスカへの愛と彼の目を通した自然の表現の仕方が透明感にあふれている。
寒さを恋しいと思う心境を初めて教わった気がする。
本がキラキラして見えるのです。
彼の様に好きな物をつきつめて生きて行きたい。
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アラスカの大地に魅せられた「白人」たちと、選択の余地もなくアラスカに生きるネイティブたちの物語
しかし一番の主役はアラスカそのものであろう
今となっては滑稽な核開発計画「プロジェクト・チャリオット」が単純に核にとりつかれた男の妄執であるとは断言できない
この計画は「人工」と「自然」との対比だけではくくれない
人として「生きる」とはどうあるべきか、自分たちの存在意義を確認する通貨儀式となってアラスカのネイティブたちの心を揺さぶる
計画に反対する人々の魂がさざなみになってアメリカそのものを動かす過程は感動的である
「核」があたかもダモレスクの剣のようなものである、というのは妄想でしかないのではないか
「自然」と「人」を考えさせてくれる良書
きっと、星野 道夫さんの魂は「ノーザンライツ」(オーロラ)のもとで、輝いているのであろう
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イニュニックとともに、アラスカにいたときにずっと読んでいた本です。
カラー写真がたくさんあります。
とても良い本です
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この地球上からさまざまな伝説が消えて行った中で、何とか間に合って見ることが出来た大切な世界。
星野道夫がアラスカで見聞きした事柄を綴っています。
事実にも関わらず、おとぎ話の様な、昔話を読んでもらっているような暖かさを感じます。欠点は気持ちよすぎて眠くなってしまう事かもしれない…
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アラスカ、フェアバンクスの美しい大自然の物語。新しくて古い物語。『フェアバンクスの町もわ何もない原野に一人の詐欺師が現れたところから始まったのだ』という序章の文章はとてもいい。
このノーザンライツではフェアバンクスが核実験場化計画によりエスキモーや神話が息づいている時代から近代の波に晒される中で、人々が何を感じているかを描いている。
運動のリーダーだったシリアは言う『時代はいつも動き続けていて、人間はいつも、その時代、時代にずっと問われ続けながら、何かの選択をしてゆかなけらばならないのだから』。
最後は新しい時代の担いてに託して物語は終えている。
オーロラ、数十万頭に及ぶカリブーの群れ、トーテムポールや墓守…
どれも美しく、一つの所作や秘められた物語にこころをつかまれる。
そして人が人である営みがそこにはあった。
人の豊かさとはなんだろう?そう思わされた。
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アラスカに夢を抱き愛した白人たち、そしてアラスカに生きてきた先住民たちの姿が、胸を打つ。
アラスカに核実験場を作ろうとする計画(プロジェクト・チェリオット)があったのは、初めて知ったのだが、こうした人々の根強い運動で回避されたのは本当によかった。もしも核実験場が作られていたら、環境や生態系などの地球の問題は、きっと今よりも大変なものになっていたのではなかろうか。
とはいえ……先住民たちの生活環境は厳しい。昔のような、狩猟による共同体的な生活は望めない。でも圧倒的マジョリティである白人と同じ地位を手に入れることも難しい。この本を読むまで、アラスカの先住民といえば、単純にエスキモーとインディアンだと思っていたが、その部族はまた細かく分かれているらしい。
どうしてこんな厳寒の地に暮らそうと思ったのか、不思議に思っていたのだが、厳寒の地ではあっても不毛の地ではなく、むしろクジラ、アザラシ、カリブーなど、さまざまな動物が生息している豊かで魅力的な地だという説明に、はっとしてしまった。物事は、一面だけでは語れない。