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太平洋戦争裏面史の短編集だが、意外な事実もあった
2009/02/01 21:35
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉村昭が取材を重ねた記録から、太平洋戦争での知られざる裏面史を6つの短編で著わしたものである。
6つのうち、最初の2編は海軍の駆逐艦と水雷艇の海難についてである。この2編で全体の半分を占めている。実際に外洋に出て訓練をすることは当然行われる。気象状態のよいときを選んで実行されるのかと思いきや、台風が迫っている際にも行われた。実戦で気象を考慮して出撃を見合わせることはできないからであろう。
それにしても、荒天で訓練を行えば、必ず犠牲者は出ると予想される。たとえば、乗組員が海にさらわれるなどの事故である。しかし、この2編はそうではなかった。駆逐艦といえば、軍艦の中で戦艦や巡洋艦に比較すれば、規模が小さい。しかし、軍艦は軍艦で、多少の波浪などにはびくともしないと思っていた。誰しもそう考えていたのだが、この場合の訓練ではそうではなかった。もちろん、海軍はその事実を隠蔽していたので、世に知られることはなかった。
終戦間際の沖縄における少年兵の悲劇である。捕虜になった際の心得について、時代や社会背景の非人間性について考えさせる一編であった。さらに、もう一編では女性の戦いを描いている。沖縄での守備戦では、ひめゆり部隊に見られるように、女性の犠牲が多かった。そういう事実も戦後60年以上も経た現在では人々の記憶から遠ざかりつつある。
一式陸攻に搭乗していたが、敵戦闘機の銃撃で墜落して戦死した山本五十六連合艦隊司令長官の話は有名であるが、別機に搭乗して撃墜されたが、生存した宇垣参謀長の後日譚は知られていない。宇垣参謀長はその後連合艦隊司令長官となったが、終戦が決まった日の前後に最後の特攻機に搭乗して敵艦船に突っ込んだ。
吉村の書いた別編『戦艦武蔵』で、機密であった設計書類の紛失事件が描かれている。実は、これは少年兵の他愛ない行為であったが、最後の一編はその後の少年兵を追跡したものである。
いずれも戦争の中で生じた人間の生死を考えさせる作品であった。まさに『空白の戦記』というタイトルに相応しい短編群であったと思う。吉村が諦めずに丹念に調査を重ねた結果で、しかも当時でも誰もが知っていた事実ではない点に意外性が秘められている。
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タイトルのとおり、正史から抹殺、あるいは無視された人々の物語。
どうやら著者のノンフィクション系の作品が好きなようだと思うようになった。いくらでも読めるし、読みたい。純文学系の方の作品はちょっと取っ付きにくいが。
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人々が、戦争の、時代の影から逃れられずにいる。日の目を見ないままに消えていく。最終話がそれをすべて凝縮していた。
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2011.4.17(日)¥105。
2011.5.3(火)。
艦首切断 顚覆 敵前逃亡 最後の特攻機 太陽を見たい 軍艦と少年。
メモ:第四艦隊事件(だいよんかんたいじけん)、1935年(昭和10年)に日本海軍で起こった台風災害による大規模海難事故。これにより、艦体の強度や設計に問題があることが判明し、前年に発生した友鶴事件と共に後の海軍艦艇の設計に大きな影響を与えた。wikipedia http://goo.gl/oPTmk
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戦争を題材にした、著者の短編集。
友鶴事件や、第四艦隊事件など有名な題材を扱っているのもあれば、事実を元にしたフィクションの「敵前逃亡」などもある。
それも臨場感や、情感に溢れ、戦争のいろいろな側面に触れる事が出来ると思う。
武蔵に関わったある少年を描いた、「軍艦と少年」がなんとも物悲しい。
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【目次】
「艦首切断」第四艦隊遭難事件
「顚覆」水雷艇友鶴遭難顚覆事件
「敵前逃亡」沖縄鉄血勤皇隊中学生
「最後の特攻機」宇垣纏海軍中将の突入
「太陽を見たい」沖縄伊江島の女子切込隊員の記憶
「軍艦と少年」戦艦武蔵設計図紛失事件
【再読】
2022年8月4日
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素晴らしかった!
泣きながら読みました。
特に、『艦首切断』と『顛覆』(本書どおりの漢字がでなかったけれどてんぷくです)は感極まって一気に読むことができませんでした。
シンプルながらも的を射た表現が想像力をかき立てます。
大変よい本でした。
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【艦首切断】
「峰のような波」、「30mの三角波」
まったく想像がつかない。自然の力の恐ろしさ。
東日本大震災後の津波映像で見た波よりさらに巨大な波が・・・ということなのだろう。
そして、「お国のために・・」との名のもとに闇に葬られた 事故の事実 と、生存者がいたかもしれない艦首部分…。やるせない史実。
【顚覆】
40時間以上もの間、助けがいつ来るか分からない状態で(むしろ、助けが来るかどうかすら不明)暗闇に閉じ込められる……。 発狂するよね。。。。
地獄のような時間を耐え抜いた13名が、凄い。
そして・・・・またもや、事実は隠蔽。
【敵前逃亡】
なんという…(絶句)。
子をもつ身としては、住民兵の言葉にこそ強く胸を打たれた。
フィクションであってフィクションでは無いのであろう狂気の沙汰を描いた一遍。日本人は、これを読んでおくべし。
【最後の特攻隊】
宇垣中将の終戦後特攻。他の読み物でも目にしたことのあるエピソード。宇垣中将の心象を追う形で編まれたこの話を読んでの感想は・・・・
「一人で死ねよ」
「いや、“死”に逃げるな!!」
という相反する二つの感情だった。彼と行動を共にした10数名は、全くの犬死に、無駄死にだったのだから。
筆者の持論「(愚かすぎる作戦)指揮者を責めることはあっても、隊員の死を蔑むことは許されない」にも、共感。
【太陽を見たい】
“教育”というものの偉大さと恐ろしさを実感した。
明治維新から80年余りの教育が、沖縄戦の悲劇(犠牲者数)を何倍もに膨れ上がらせたことは、間違いないと思う。
そしてそれは沖縄戦に限らず、日清・日露の戦から満州での展開も含めて言えるだろうと。
【戦艦と少年】
少年が設計図を盗み出して焼却してしまった、その理由…。国家を語るにはたしかに「些細な動機」ではあろうが、軍人でも軍属でもない少年には、切実な想いだったのだろう。
・・・・読了・・・・
「戦艦武蔵」も、読まねばらならいなと思わされた一冊。
※「戦艦と少年」作中で製作されていたドキュメント映画、観てみたいものだ。
★4つ、9ポイント。
2018.09.26.新。
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徹底した調査に基づく記録文学の短編。大自然との戦いを描いた「艦首切断」「顛覆」は圧巻! 「敵前逃亡」「太陽を見たい」でやるせない気持ちになり、「最後の特攻機」の不条理...。「軍艦と少年」は『戦艦武蔵』の後日譚。240頁ほどだが心にずんっとくるどれも素晴らしい作品。
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3,4回目か。ちょうど、今頃に読むと、先人が悲惨な国情に伴い、命を捧げた時間に少しでも近づけ弔意の首を垂れることが出来たらと。
7編は長短あれど、重さはいずれ劣らぬ力作、熱く、するフド委痛みで突き刺さってくる。臨場感はとてつもなく、読み手の周囲の時間が停まったかのような想いを抱かせてくれる。
中身をそらんじられるほどに熟読した「艦首切断」は圧巻。吉村氏のペンはいつもながら、その場に居ないのになぜにこうまでと息をのむ想い。
下手な戦争追悼番組や政府の域が掛った様な追従モノより、中学生に読んでほしい・・難しくてもこうして日本の軍は新た貴重な命を散らして行ったのだと。
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面白かった。最初の日本海軍の艦船の設計ミスについての二篇は知らないエピソードだったので良かった。さすが吉村昭。他の作品もそれぞれ良かったけど、敵前逃亡だけがフィクションで、かつ別種の独特の読後感で居心地悪かった。読むものがなくて某所で困ってたら置いてあったので借りて読んだ。