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言わずと知れた澁澤龍彦による幻想文学の名作であります。
実は宇月原晴明の「安徳天皇漂海記」を読みかけていて、そのあとがきで触れられていたので再読したもの。
平安時代に高丘親王が天竺に向かおうとした逸話をベースにしているものの、決して歴史小説ではなく、珍妙な生き物などが次々と登場する幻想譚となっています。
天竺を目指して進む親王は、同時に夢と現実のはざまを旅していく。人語を解すジュゴン、鳥女を閉じ込めた後宮など、ある意味バカバカしくも、しかし非常に美しい世界観に魅了されます。
澁澤龍彦氏はガンによる死を前にしてこの小説を書き上げたとか。美をもって死を迎え入れる姿勢に、遺作として単純に心打たれます。
初めて読んだときはそれを知らなかったため、衝撃的なラストは氏の芸術至上主義とニルヴァーナ願望を表出したものと考えてたんですけど。
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私が持っているのは、1987年版、文藝春秋のケース入りの美しい単行本。「遺作」「幻想」「綺譚」との帯に惹かれ、すぐに手にしました。でも、まだちゃんと読んでない。遺作って、もったいなくて、なかなか開くことができない。私には、何冊かそういう本があって、こっそりひっそり、棚で出番を待っている。
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耽美で幻想的な1冊・・・なんてありきたりな言葉ですみません。
きっと30代、40代、50代と歳を重ねるごとに、またもっと違った読み方が出来るんだろうな。
読書好きな人ほど読んでほしい1冊。
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旅とは浪漫であって、それが目的になってはいけない。親王は天竺に行って何をしたかったのだろうか。遠い遠い距離を進んでいくことは一生懸命に生きることと似ている。
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今まで意図的に澁澤の小説を避けてきたけど、極上の物語だった。これがウンベルト・エーコのバウドリーノより数10年前に書かれていることが誇らしい。
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貞観七(865)年、高丘親王67歳は、
お供を連れて船で天竺(インド)を目指す。
奇妙な人獣との邂逅や、うたた寝に見る夢のまにまに、
親王は徐々に自身の「死」へ近づいていく。
しかし、悲壮感はない。
むしろ、旅の果ての、そのまた向こうの世界へ赴くことを
心待ちにしているようだ。
読むたびに目頭が熱くなる美しい小説。
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実在した高丘親王の話を元に作り上げた物語.高丘親王が天竺を目指して弟子たちとともに旅に出る.道中の不思議な,夢とも幻とも言えるような出来事の話.この本には面白いか,面白くないか,といった評価基準はあまり適していないと思う.適しているのは気持ちいいか,気持ちよくないか,という基準である.そしてこの本はものすごく気持ちのいい本である.両手両足が伸ばせるお風呂があったとする.仰向けに寝っ転がってもおぼれないような深さのお風呂.そこでぬるめのお湯につかりながら,仰向けになってぼーっと上を向いている感じの心地よさ.そういう心地よさの本.最後に書かれた高橋克彦の解説は実にくだらないが,ただ「これは大人の小説だと思う.できるならば,四十になり,五十になって読み返して欲しい.その時期ごとに別の思いが生ずるはずである.」という部分には賛成できる.きっとその通りだと思う.
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夢を見ているような航海記だった。難しい言葉が多くもとても面白く、決して楽でもない不思議な旅を一緒にしていたような気分にさせられた。
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幼少期、父平城帝の愛人・薬子に寝物語で聞かされた天竺のことが忘れられず70歳に至って天竺を目指す高丘親王のお話。
不思議な感触の小説である。
天竺を目指しあらゆる島々を巡り、そのたび親王は夢とうつつの淡いを行き来する。
一見ファンタジーのようだけれど、親王の行動や奇態な夢に強烈な「男の性」を感じるというか……男の腋の下の臭いをかぐようなリアリティがおもしろいのだ。
それぞれの女の役割というのを考えてみても、なんだかおかしいというか割り切れない。
薬子は親王の母代わりのようであり愛人のようでもあり、そこに実の父平城帝に対するエディプスコンプレックスも感ぜられる。けどそういう事は意外と瑣末なことであるかもしれず、親王が抱く薬子の思い出はどこか「やわらかい」。
秋丸・春丸もどういうものだろう。
「蘭房」において、口惜しそうにしながらも親王を欄房に見送る秋丸の姿に僕はどこかくすぐったい気持ちになる。
解説にあったが40歳くらいになって読むとまた違った感慨が湧いてきそうである。
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ちょっと切なくてちょっとエロティック、夢のような冒険譚。
自分の知識不足が悪いのだが、読みづらい漢字が多いのが唯一の難点。
広辞苑と漢字辞書を入れたiPod Touch(など)を片手に読むのがお勧め。
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紀行小説かと思ったらファンタジー小説だった。
西遊記の東南アジア版?
最後の解説で物語の大半が夢だったことがわかり少し納得。
時間が経って読んだらまた感想は変わるんじゃないかと思った。今はまだいまいちはいってこなかったなあ。
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天竺へ向かう高丘親王らが波瀾万丈の旅の途上で目にしたのは、人語を操る儒艮や、えもいわれぬ香気を放つ糞をひる獏や、怪しい真珠や、砂地を離れて空を飛ぶ舟。飄々とした口調で蘊蓄を垂れる、めくるめく幻想の世界へようこそ。
率直な感想は3.5、とはいえこの手の小説はレアなので加算0.5、総計星4と言ったところ。澁澤龍彦の文体が、個人的にそこまでぐりぐりと壺に入らないせいかもしれない。
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澁澤龍彦の手になる唯一の長編小説。
お伴を三人連れ、天竺へ旅する高丘親王の航海記。
メロドラマ以外でひさしぶりに面白いと思える小説を読んだ。
歴史小説の体をし、旅行記という面をつけてはいるものの、実態は幻想小説だ。
つまり、物語の中で、現実世界に唐突に不思議や怪異が現れる。
さらに面白いのは、その少しねじれた現実世界の中で高丘親王が夢を見る。
夢は高丘親王のいる現実世界の続きであり、彼にとっては不思議というより妥当な世界に違いない。
だがそれを読む読者にとっては、(両者がはっきりと書き分けられているにもかかわらず)両者の質的な差は判別しがたく、それゆえ二重に覆われた虚構といった様相をあらわしてくる。
ひとつひとつの幻想の描き方もさることながら、その仕組みがこの物語に一層、いわば夢以上の儚さを与えている。
一方で、歴史小説の体をなしているおかげで器はしっかり作られており、物語としての終わりもきちんとやってくる。
これはうまいこと作ってあるなぁ、とただただ感心するばかりだ。
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過去に読んだ本。
マンドリンの曲に、この本と同じ題名の曲があるので、どんな本なのだろうと手にとってみた作品。
濃厚な幻想世界が繰り広げられている。
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ゴチャゴチャした高度で奥行深い世界を一所にまとめ、壁天上を抜いて、練乳を掛け太陽に透かして覗いた様な印象。淡泊な気もしたが無性感が良いのだろう。直ぐに読み終わった。