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紙の本
夢と夢とが織り合わされ、軽やかに羽ばたいている玲瓏、珠玉の物語
2004/05/03 02:47
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
西暦865年、日本の暦では貞観7年、高丘親王は唐の広州から天竺に向けて船出した。弟子の安展、円覚、ひょんなことから一向に加わった秋丸とともに。これはその道中記、南海諸国で高丘親王が出会った(あるいは親王が夢で織り上げた)7つの航海記である。
澁澤龍彦さんの遺作となった本書には、著者の紡いだ夢まぼろしが軽やかに、自由に飛翔している趣がありました。
時間と空間を越えてのびのびと羽ばたいている想像力のきらめき。話の底を流れている透明感と清々しい風韻。おおらかで屈託のないほがらかさ。素晴らしい夢幻譚の数々に酔いしれました。最後のほうでは目頭が熱くなって、胸がいっぱいになりました。
航海の途中で親王が体験する不思議な話のいくつかを読むうちに、このまま天竺に着かずに南海諸国をうろうろしててくれたらいいなと、そんなことも思ったりして。今回は親王、どんな夢を見せてくれるのかなと、それがとても楽しみで頁をめくっていきました。
「そうれ、天竺まで飛んでゆけ」という魔法の呪文めいた言葉が素敵だし、登場人物にパタリヤ・パタタ姫なんてのが出てくるんですよね。ネーミングがいいなあと、にこにこしちゃいました。
巻末の解説で高橋克彦さんが、> と絶賛されていますが、いやホント、この作品は素晴らしかった。単品としてなら心に残る名品がいくつか思い浮かびますが、作品集としてこれほどの境地に達した夢幻譚、幻想譚となると……ちょっと思いつきません。
ただひとつ残念なのは、文庫の装丁、表紙カバーのイラストがぱっとしないこと。例えば本書をハードカバーにして、小浦昇さん(『青い月の物語』の絵を描いている方)のイラストを装丁にしたら、きっと素敵だろうなあ。
何にせよ、透明感に包まれた美しい夢幻譚にこうしてめぐり会えて本当に良かったです。読書の至福のひとときに浸ることができました。折に触れてひもとき、読み返したい一冊になりました。
紙の本
渋澤小説の最高傑作だと思います。
2013/09/01 10:57
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
史実をベースとしているのに、完全に渋澤龍彦の世界になっている。卑近な例だが、永井豪のバイオレンスジャックや横山光輝のジャイアントロボのように、著者のあらゆる要素が盛り込まれているように思える。各話の端々まで静謐で美しい。旅先で読んでも渋澤家の書斎が喚起される高い強度と求心力を持つ傑作だと思います。
紙の本
これが澁澤龍彦氏の遺作とは…
2016/10/07 23:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:卯月 - この投稿者のレビュー一覧を見る
澁澤龍彦の作品は西洋の異端を扱った翻訳物しか知らなかったが、この小説は今まで読んだ どの作品とも違った。
エキゾチックで妖しく、美しく儚い物語。
天竺に行きたいと旅立った高丘親王の奇想天外な物語。その物語の1つ1つが美しくもあり不思議であり、時に そこはかとなく漂うエロス。
儒艮(ジュゴン)や人の顔をした鳥・迦陵頻迦、人の夢を食べる獏などが登場する。物語の中で高丘親王が吹く還城楽(現存する雅楽の曲)等、どれもが幻想的である。
親王が見る夢と現実とが錯綜し、物語は段々と薄いベールに覆われて行くように感じる。
物語の終末もまた儚く不思議な世界へと続いて行くような気がするが、これが澁澤龍彦の遺作と知り、この独特の感触はそれ故だったのか…とも感じた。