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紙の本
江戸川乱歩受賞、さすがである。
2003/08/23 09:43
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オレンジマリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
始めは入りにくく、読み進めるのを苦とした。難しい漢字の羅列、慣れない言葉に戸惑いつつ意を決して読み続けた(漢和辞典を片手に…)。文緒さんや江国さん、村山さんを愛読している自分には本書は全く違う分野なので、慣れるまでに時間を必要とした。
本書を読んでいる一瞬一瞬、いろんなことを考えた。犯罪者の心理、遺族の恨みや死刑執行する刑務官の心情。普段そういう社会とか刑事とかについて考えることなどないので、本当にじっくりと考えていた。死刑制度について熟考したのは人生で二度目である。
一度目は高校時代だ。政治経済の時間に先生が死刑制度について賛成・不賛成にクラスを二分し、考えをまとめあげた。私は不賛成に属していた。その頃は、極刑に値する罪を犯した人が、死をもって償うというのは生温い(なんて高校生だ!)と思っていた。なぜなら、死は一瞬であるから。終身刑やアメリカのように罪の数だけ懲役年数が増していく方法を用いた方が、罪の重さを痛感するのではないか。生き地獄で苦しんだ方が、償いになるのではないか。懲役180年の実刑判決を受けたら、被疑者はどう思うだろうか? 生きて刑務所を出られない事実を叩きつけられたら、改悛の情を持てるだろうか? でも、世の中の犯罪者たちは死刑や終身刑の制度を知った上で、罪を犯すのだ。その心理はさすがに分かりかねる…。
そして二度目。死刑執行する刑務官の苦悩を思慮し、やはり私は死刑制度には反対である。死刑執行した刑務官は、人の命を奪ったという意識に蝕まれ、苦しみを抱えて生きていかなければならない。
しかし本書は冤罪を晴らすという、素晴らしい試みを見事に描いている。本当に厄介なのは冤罪だ。犯してもいない罪によって実刑判決を受けたり、最悪極刑に処される。これは道理にかなっていない。無実の人間が罪を着せられた時、真犯人は自由を手にするのだ。考えただけで強烈な怒りがこみ上げる。
中盤にさしかかると、私はすっかり物語に浸ることができた。浮上する全ての人が怪しく思えて、真犯人が誰だか予想もできなかった。純一の指紋が凶器から発見された時は、目の前で何かが弾けた思いだった。緊迫感、恐怖感、不安、あらゆる感情が飛び交う。宇津木夫妻の悲惨な殺人現場、南郷の死刑執行の模様を回想する場面では、思わず本から目を背けたほど生々しい。あれには閉口である。
最後のどんでん返し、見事だった。純一を真犯人に仕立てあげるための凶器捏造の真相、宇津木夫妻を殺めた犯人の解明、そして冤罪で処刑されそうになった人の結果。意外の積み重ねで、意外な快い結末を迎えた。
読み終えた今、罪には際限がないのだと思う。罪から罪が生まれ、それは果てなく続く。報復思想、正しいか否か。宇宙ほどに広い、罪の深層。ここでは書ききれないほど、本当に色々と考えさせられた。結局のところ、何が正しいなんてのは法によってでも、誰にも定められないのだ。人間の数だけ、罪は存在する。混沌とした世界で、人は生きていかなければならない。正義という輝かしい言葉を信じて。
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死刑に潜むねじれの構図を炙り出した
2004/04/22 11:28
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投稿者:13オミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドキドキハラハラのサスペンスを期待すると足元を救われます。最後の事件解決のシーンも盛り上がりに欠け、江戸川乱歩賞としてのエンターテイメント性は皆無です。そういう意味では冗長で単調な話かな。
さて、この本を読んでいて思い出したことがあります。大学生のときにとった「刑事政策」の講義。初日、大講堂には300名強の学生がわいわいがやがやと授業が始まるのを待っていました。遅れて教授がやってくると、彼の手には一台のテープレコーダー。それをどんと机上に置くとスイッチを入れました。20分程度でしょうか。一家強盗殺人事件の死刑囚の肉声が講堂には流れました。この間、講堂内の学生はしんと静まり返り、最後にはすすり泣く女子学生の声があちらこちらで聞こえてきました。彼は死刑執行され今はこの世にいません。しかしながら、確実にそのときの彼の肉声は「改悛」していました。それはそこにいた学生の誰もが認めることでしょう。冤罪を描いた13階段ですが、中心はそこではないなと思います。「人が人を裁いていいのか?」そこには冤罪の可能性や改悛の情や復讐の連鎖や執行者の心情などものすごい複雑な問題が提起されています。
刑務官南郷の辛さと仮釈放中の三上の辛さは異なりますが、刑事政策の渦中に生きた二人の心はとてもよく描かれています。死刑は、公刑であっても私刑であっても必ず人々の遺恨となります。あなたは、この日本の刑事政策をどう思うの? …かなり恐ろしい問題を突きつけられました。
高野氏にはエンターテイメント性ではなく、今後もこうした重厚なテーマを描いてもらいたいです。できるのなら、制度として認められているものを取り扱ってほしい。学校制度=「人が人を指導してもいいのか?」とか医師制度=「人が人を治療していいのか?」とか誰かがやらなければいけないという制度の中に潜むねじれのようなものを炙り出してほしい。
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登りつめた先に見えてきたモノは……。
2002/05/21 00:24
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投稿者:青月堂 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第47回江戸川乱歩賞受賞作である。著者の言葉に「今後も気取ることなく、誠心誠意、低俗ではない娯楽作品を作り続けていこうと思っております」とあるが、この本は、まさに「低俗ではない娯楽作品」と言える。
殺人を犯してしまい仮釈放中の三上純一、死刑を執行したことがある刑務官の南郷。この二人が、死刑執行を目前に控えた死刑囚の冤罪を晴らすために、困難な戦いを挑む。残された期間は3ヶ月。
サスペンス溢れる展開に酔い、次々と明かされる意外な謎に震える。そして、事態は二転三転し……。
娯楽小説としても一級品であることは間違いないが、それだけではない。死刑囚の絶望が語られ、刑務官の苦悩が描写され、死刑制度の実体が明らかにされる。
作者は決して安易に死刑を否定しているわけではない。もちろん、肯定しているわけでもない。誰も死刑になんかなりたくないし、死刑をするのも嫌だ。なのに死刑がなくならないのは、罪を犯す人間がいるからだ。そう言っている。
読み終わって、ほぼ全ての登場人物が、何らかの傷を負っていることに気付いた。少し苦いものが残るが、嫌いではない。
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社会派推理はあんまり好みではないのに。
2002/03/15 23:38
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投稿者:すずき - この投稿者のレビュー一覧を見る
本格がすきなわたしは社会派の推理小説は好みではありませんが、とてもおもしろかった。
作中の登場人物がそれぞれの人生観を持っていて、死刑を通して、自分の生き方を模索し、生きていく姿は身につまされました。死を思いながら自分の生を考えるのはかなりつらい経験ではないでしょうか。
人は死に触れようが触れまいが、どうやってでも生きていかなくてはいけないのだから、普通の人はなるべく触れずに生きていこうとするし、ましてや、死刑制度のことなど考えた事もないのでは。しかし、実際この社会にある制度なのだからみんな少しは考えてみるべきなのでしょう。
この作品を読んで死刑制度についての新たな一面を見せられたきがしました。
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ラストのどんでん返しが魅力
2002/03/04 18:44
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投稿者:もえ - この投稿者のレビュー一覧を見る
題名は、こう首台の代名詞だが、ここでは死刑判決の言い渡しから執行までの手続きの数を指す。傷害致死の前科を持つ三上と元刑務官南郷は、死刑囚樹原の冤罪をはらす仕事を引き受ける。樹原は、保護司であった宇津木夫妻を惨殺した罪で、死刑を言い渡されていたが、犯行時の記憶が無く、冤罪の可能性があった。
ラストには、思わぬどんでん返しもあり、ドキドキハラハラと楽しめる。スピード感のある一冊。興味深かったのは、死刑執行の全過程だ。一般の人々は、知ることの無い事実に驚く。これぞ、読書の醍醐味です。
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13階段の下に埋もれてしまったもの
2004/07/16 16:57
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投稿者:luke - この投稿者のレビュー一覧を見る
第47回江戸川乱歩賞受賞作「13階段」高野和明はエンターテイメントを目指している著者の想いは十分伝わります。現行の刑法の問題や矛盾は我々も日常的に考える事もあると思います。犯した罪に匹敵する罰とは? 更正は償いなのか? 償えるのか? 善良な市民はいかに犯罪に無力なのでしょうか。癒されない被害者の傷は誰がどの様に癒すのでしょうか。
全編に流れる罪と罰というテーマは決してこのミステリーのおまけや添え物じゃないのです。重いテーマながら、これなくしては成立しないミステリーでもあります。傷害致死罪の仮出所の男と松山刑務所の刑務官は死刑囚の冤罪を晴らすために再調査を開始します。それぞれの目的のために、報奨金欲しさから請け負った仕事ですが、ミステリアスな世界は望むと望まざると過去へのドアを開いて待ち受けているのでした。解き明かされる真相は決して朝陽が昇るようなスカッとした大円団じゃないけれど、深く心に残るフィナーレとも言えます。死んでしまった被害者の人権は何処に? 被害者の無念は? まさに土に埋もれてしまった階段の下から悲痛な叫び声が聞こえるようです。法の裁きは敵討ちじゃない?……じゃあ、何なのさ
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死刑囚執行者の心境について
2003/06/10 22:14
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投稿者:よっしー - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルから大体の想像をして読み始めたが、南郷さんの死刑執行の場面は想像を超えるものがあった。死刑制度があるかぎりこれを執行する人がいるということを始めて考えさせられた。これ以上のつらい仕事は無いように思う。
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死刑になるような罪を犯す人が少しでも減りますように
2002/02/16 16:04
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投稿者:川原 いづみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
正直な所、最近の乱歩賞受賞作はあまり好みに合わないかも、と思っていた。ハードボイルド寄りのミステリはあまり好きではないので。この本も出版されてすぐは読もうと思わなかったけど、あちこちで良い評判を聞くもので、読まないのって損かなーってな気持ちで手に取った。
よく出来ていると思う。ただ何となく読み終わって「感想? うーん…。」ってな小説とは違う。読みながらも読んだ後も、一体なにが善で何が悪なのか、人がそれを決定していいものなのかがわからなくなってしまって、頭の中がごちゃごちゃした。死刑制度もそうだけど、それ以外のあらゆる物事にあてはまるのではないかと思えてくる。関係者じゃないとわからない、関係者でもわからない事ってきっとたくさんあるんだろう。
死刑になるような罪を犯す人が少しでも減りますようにと願わずにはいられない。
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一気に読み終えました
2002/01/05 23:42
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投稿者:アウェイカン - この投稿者のレビュー一覧を見る
“人を殺す”ミステリーは星の数ほどあるが、“人を殺すことについて深く考えさせられる”ミステリーというのは意外と少ないような気がする。 この13階段は、プロットにやや無理がある部分は感じるものの最後まで一気に読んでしまえたのはなぜか自分なりに考えてみた。
それは死刑制度も含め“人を殺す”という問題がこの作品の中で並ならぬリアリティーをもって読者に迫ってくるからなのではないか、そしてその源が著者自身が持つ誠実な探求心から生まれてきているからなのではないかという結論に達した。
次は何をテーマに、どういった物語を織ってくれるのか楽しみです。
紙の本
暗部を見事に描ききった作品
2001/12/08 09:38
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投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の死刑制度をテーマにしたミステリー。第47回江戸川乱歩賞受賞作。重いテーマを扱った本書だが、ある死刑囚の死刑執行時がデッド・リミットと設定され、そこそこにスピード感もあり、最後にはどんでん返しが待っているという王道型ミステリー。
何といっても、私には、死刑執行の事細かな描写がショッキングだった。床が二つにパックリと割れてぶら下がる…。著者は、この場面を演出として使っているのではなく、死刑執行の書類が13の階段を一歩一歩上がっていくように13人の手に渡っていく様子や、実際に執行に携わる人選の様子、携わった人々の心理、政治家が自己擁護する様子など、死刑執行から様々に絡み合いながら放射状に伸びる要因、あるいは点になるまでの経過を描写することによって、死刑執行の場面を読者の頭に焼き付ける。
ストーリーとしては、傷害致死で服役して仮釈放になった三上という若者と、彼が服役していた刑務所で刑務官を務めていた南郷の二人が、ある死刑囚の冤罪をはらすために奔走するというもの。対称的な二人を主人公に持ってきて、且つ、警察官、検察官、保護司、裁判官、弁護士、被害者遺族など立場の違う登場人物が次々と出てくる。
読者の頭を混乱させることなくストーリーを楽しませ、読後には、自分なりにテーマについて深く考えずにはおれなくさせる著者の腕はすごいと思う。どっしりとした良い作品をこれからも期待したい。
紙の本
記憶喪失の冤罪の死刑囚を執行前に救え!罪と裁きの在り方、司法という官僚制の矛盾など重い問題を無理なく昇華させた見事な構成のサスペンス。
2001/10/12 11:32
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
H13年度の江戸川乱歩賞。8月発売以来、売上ダッシュがすごいらしい。「BSブックレビュー」で3人の評者が「よく出来ている」と絶賛していた。評判の高さにつられて読んでみた。
乱歩賞受賞者リストを見ると陳舜臣、西村京太郎、森村誠一、栗本薫、東野圭吾、真保裕一、藤原伊織と人気作家がずらり。
私は桐野夏生『顔に降りかかる雨』渡辺容子『左手に告げるなかれ』新野剛志『八月のマルクス』しか読んでいなくて寂しい限りだけれど、「気取ることなく、誠心誠意、低俗ではない娯楽作品を作り続けていこうと思う」という作家の弁の通り、本書はエンターティメントとして期待される水準をクリアしながら、一般の人には隠れた場所で展開される司法制度のひずみをあぶり出すなどジャーナリスティックな視線もあり意欲的な内容だと思う。 死刑執行の前に冤罪の死刑囚を救わなくてはいけないというデッド・リミットの設定も、小説に映画のような緊張感やスピード感をもたらすのに成功している。
乱歩賞では毎回異なる職業の人物が主人公となっているらしいが、弁護士のアシスタントとして動く二人の主要人物の身分が大いに興味を惹きつけられるところである。
先ず、行きずりの喧嘩で偶然相手を死に至らしめ、二年の刑期を終えて仮釈放された純一という青年。
交通違反でもムショに逆戻りという重圧を抱え、家族の経済的困窮や被害者の遺族の怒りを目の当たりにするなか、無実の人を救ってブレイクスルーしたいと願う。しかし、捜査することになった房総の地域は、昔10代のころ恋人と家出をして過した場所で、彼はそこで人に隠しておきたい体験をしている。このミステリーに最後の最後まで引き摺られる。「罪」「裁き」「改悛」「償い」といった全体を貫くテーマが、謎が明かされるラストでも深い意味をもってくる仕掛けだ。
いま一人は、純一に仕事をもちかけた刑務官。俗に言う看守である。過去に2件の処刑に携わったことのある彼の思考や行動を辿ることで、読み手は実に多くの専門的な情報を授けられる。
出所者の保護観察制度、受刑者を締め上げる管理行刑の方法、刑罰は犯罪者への報復だとする応報刑の思想と犯罪者を教育改善しようという目的刑の思想、刑務官の職務体系、刑場の詳しい様子や死刑の実際、法務大臣の死刑執行命令のタイミングなど、緻密な記述はこの本の読み応えの一つであると言える。
情報の魅力だけでなく、任務とはいえ人を殺さざるを得なかった刑務官の苦悩、その結果、人命を救助しようと考え動く彼の存在感が大いに共感を呼ぶところである。
専門的な用語を書き出すと読みにくいようだが、そられはただ目で追っていくだけでも構わないのではないだろうか。
入り組んだ事実が、進行する事件とともに絡み合って「どうなっているの、どうなっちゃうの」と一気に読み進めていくうちにも複雑化していくのだが、意外な真相がいくつも現われていくという驚きや楽しみを後ろ向きに牽引するものはない。
唯一の不満があるとすれば、優秀な複数のシナリオライターによって構成されるハリウッド映画にも通ずるが、作家の体臭というものがもっと漂っていてもいいのに…と思ったことぐらいだ。
紙の本
ここ数年にない乱歩賞の傑作
2001/10/12 06:10
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投稿者:ひで - この投稿者のレビュー一覧を見る
死刑とは、最高刑であり、国家による殺人であり、遺族の復讐を国家が代わって行う行為でもある。だが、その詳細について、我々はほとんど知らないのではないだろうか。刑が執行されたことさえも新聞の簡単な記事で知るだけであり、どこか遠い国の事件のようでもある。だが、それで本当に良いのだろうか。本作は、そんなことを感じさせてくれる作品である。
ちょっとした諍いで人を殺したしまった青年、三上。仮釈放された彼が見たのは、彼の事件の起こした思いもよらないトラブルの数々だった。多額の賠償金を払うため苦労を強いられた両親を見る彼の元に、刑務官の南郷が仕事を持ちかける。成功報酬は1千万。そして、その仕事は3ヶ月以内に、死刑囚の冤罪をはらす証拠を見つけることだった。事件の記憶を失った死刑囚、榊原の思いだした階段。それだけを頼りに証拠探しを続ける二人。迫り来る死刑執行の時。そして彼らの前に現れる意外な真相とは。果たして彼らは、死刑を防ぐことが出来るのだろう
か。
人が人を殺すことの代償。それは想像もつかないほどの苦悩を生み出す。主人公、三上と南郷はその苦悩を背負っている。三上は自ら起こした殺人事件が周囲の人間に与えた衝撃を感じ、南郷は死刑を執行し、その苦悩を誰にも相談できず、ついには家族すら崩壊させる。その二人が、贖罪と自分に何が出来るかを探し、無罪の男の嫌疑を晴らしていく。
だが、その過程においても彼らは悩み続ける。三上は、真犯人を捕まえたとしても、死刑に処せられる人間を取り替えるだけだということに悩み、南郷は死刑制度そのものへの疑問を感じ続ける。そしてまた、彼らと出会う人々もそれぞれ苦悩を背負っている。本作は、そんな二人の心情を克明に描写し続ける。読者はこの仕事が完了した暁には、必ず彼らの元に希望が訪れる、そんな願いを込めてこれを見守る他はない。
こんな重い問題を背景にしながらも、本作は限られた時間を設定することで、圧倒的な緊迫感とサスペンス色を盛り込み、一つのエンターテインメント作品として仕上げている。刻々と迫る時間、仕事の裏にある真の狙い、彼らに隠された真実。そういったものが一気に噴出する終盤は、読者に時間を全く感じさせない。
確かに本作はエンターテインメントであり、作者もまたそれを十分理解して書いている。しかし、既存のデッドリミット作品のようにただの英雄譚としては終わってくれない。そこにこそ、本作の狙いがあり、書かれた意味があるのだろう。背景と物語とが完全に合致した本作は、ここ数年にない、乱歩賞の傑作といえる。
紙の本
それぞれの苦悩
2001/09/30 10:09
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投稿者:YASU - この投稿者のレビュー一覧を見る
松山刑務所処遇部門首席矯正処遇官である南郷は、東京拘置所の死刑囚監房に収監されている樹原亮の冤罪を晴らす依頼を弁護士から受ける。期限は三ヶ月。様々な思いを秘め、彼は刑務所を仮釈放され保護観察中の三上純一を助手として選ぶ。
記憶を失ったままの死刑判決、因縁を付けられた挙げ句の傷害致死そして投獄。純一は全編を通し、穏やかで思慮深く誠実な青年だ。そういうこともあり単純に「何て理不尽な」という考えが始終頭を離れなかった。ただもし被害者の家族の側に立ってみれば…何とも難しいテーマである。そして、自分とはあまりにもかけ離れた世界の話だからこそ、ああだこうだとあちらこちらへ考えを巡らせることが出来るのかもしれない。南郷が最後に呟いた言葉、自分と純一への言葉が深く心に響いた。
『13階段』という言葉が含有するもの、幼い頃から友達同士の決まり事だった「赤い色で名前を書いちゃいけないんだよ」の意味。初めて知ること、また終始重い内容で考えさせられることも本当に多かったが、とにかく一気に読み通してしまうぐらい迫力があった。
紙の本
死刑囚を救い出そうとする元刑務官と仮釈放中の青年の闘い
2001/09/02 19:56
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投稿者:格 - この投稿者のレビュー一覧を見る
喧嘩の末に誤って人を殺してしまった後、服役し、仮釈放された青年純一の所に、刑務所の刑務官南郷が訪ねてきて、ある死刑囚の冤罪をはらす手伝いをしてほしい、という。3か月のうちには、死刑が実行される可能性が高く、それまでに解決しなければならない。しかし、報酬は1000万円という。その事件の地は、偶然、昔青年が問題を起こした千葉の中湊であった。ここから二人の事件追及が始まる。
南郷は刑務官として二人の死刑囚の死刑執行に立ち会っている。この南郷の回想、死刑執行シーンの描写が迫力がある。『僕はやってない』と叫びながら抵抗する死刑囚。そのクビに縄をかける刑務官。被害者側から助命願いがでる場合は、いったい何のために死刑を実行するのか。刑務官達の苦悩が分かる。その苦悩から南郷は刑務官をやめ、死刑囚の冤罪をはらす仕事をやっていこうとするのだ。重いものをもちながら、明るい性格のキャラクターに好感がもてる。
純一はただのまじめな青年が単純な過ちをおかしてしまっただけなのか、そうでもないのか。元の恋人との関係もいま一つ分かりにくい。
南郷と純一が、警察がさんざん調べて分からなかったことを、徐々にではあるが、わりと簡単に次々と新事実を発見していくのは多少不自然。しかし、無実を前提とした捜査と、明らかに犯人と思われる人間がすでに存在していた場合の捜査の違いと思えば分からないこともない。
江戸川乱歩賞としてはかなりの傑作の部類と思う。
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極刑までのカウントダウン
2001/11/25 00:56
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投稿者:ひいろ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「あの時、自分は階段を上っていた」 その言葉を信じ、刑務官の南郷と仮出獄中の三上は 死刑囚樹原亮の冤罪を果たすために、調査に乗り出した。 死刑執行までの時間は残りわずか。 果たして、樹原の冤罪は真実なのか?そしてその真実を突き止められるのか?
次から次へと謎が深まっていく過程は非常にドキドキしながら読めました。 ただ最後の盛り上がりがやや物足りないかなって感じもしましたが。 とはいえ、久しぶりに「これはすごい!」と思った作品でもあります。 表紙の絵の意味にも納得。