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泳ぐのに、安全でも適切でもありません みんなのレビュー

第15回山本周五郎賞 受賞作品

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みんなのレビュー124件

みんなの評価3.5

評価内訳

124 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

It's not safe or suitable to swim.

2008/08/17 07:18

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:サムシングブルー - この投稿者のレビュー一覧を見る

 この本を読もう、と決める瞬間が好きです。『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』を読み終えて、この本に出会えたことを誇りに思います。
 主人公、葉月は無職で酒飲みで散らかし屋で甘ったれの男と暮らしています。一緒に住んでいる男と別れようかどうしようかと考えながら紅茶を飲んでいる葉月のもとに妹、薫から祖母が救急車で運ばれたという電話が入り、病院にかけつけます。病室の祖母を取り囲んで話す母と姉妹の会話が小気味好く、爽快感すら感じます。彼女たちは自立していて、誇り高いです。
題名になっている It’s not safe or suitable to swim.
「ふいに、いつかアメリカの田舎町を旅行していて見た、川べりの看板を思いだした。遊泳禁止の看板だろうが、正確には、それは禁止ではない。泳ぐのに、安全でも適切でもありません。私たちみんなの人生に、立てておいてほしい看板ではないか。」
そして江國香織さんはあとがきに「瞬間の集積が時間であり、時間の集積が人生であるならば、私はやっぱり瞬間を信じたい。SAFE でも SUITABLE でもない人生で、長期展望にどんな意味があるのでしょうか。」と書いています。
 この短篇集に江國香織さんのメッセージが凝縮されています。私はもう一度、すべての作品を読みました。物語は淡々と書かれています。それがかえって胸に迫ってきます。私の生き方にもっとも影響を与えた本になりました。

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紙の本

溺れずに泳いでいく

2002/03/30 13:37

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:田川ミメイ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 海には、青のグラデーションが波打っていた。白い砂浜は悠々と長く伸び、人影もまばらだ。遠くの波打ち際で、ジュニアスクールの子ども達がはしゃいでいるが、その歓声は波と風の音にかきまわされて、夢の中の音のようにくぐもっている。わたしたちの目の前には、白く簡素な立て札が、青い風景を四角く切り取っていた。【WARNING】という大文字の下に、細長い紐のような生き物の絵。そして、Portuguese man-of-warという綴り。マン、オブ、ウォー。たどたどしく読みあげると、傍らで夫が言った。「クラゲだ」。
 強風のせいか波も高く荒い。だが、そのことには一切触れていない。クラゲがいます。ただそれだけだ。夫が、どうする? と目で問いかける。ボディボードとランチボックス、ドリンクを車に積んで、ここまで来たのだ。こんなに人が少なくて、これほど美しいビーチは珍しい。水を見たら飛び込まずにはいられないわたしが、躊躇するはずもない。夫は、仕方がないな、という笑みを浮かべて、抱えていたビーチチェアを白砂に降ろした。

 「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」。小説のなかにもあるように、警告ではあっても禁止ではない。日本では、日常(公式発言においては、もっと)曖昧な表現を好むくせに、海水浴場には「遊泳禁止」の立て札が立つ。「禁止」したのだから、ここで溺れたとしても、それはわたし達の責任ではありません。そう言い逃れができるように。「安全でも適切でもありません」。それでも泳ぎたいのなら止めません。あとはあなた自身の問題です。この立て札には、そんな続きがあるような気がする。

 確かに、この短編集に出てくる人たちは、皆、どこかちょっと変わっている。死に瀕した「ばばちゃん」を見舞ったあとで、揃ってサングラスをかけ、ワインを啜り、5分に一度は笑い声をたてる母と、ふたりの娘。兄の元妻に自分の夫が惹かれている(しかも、彼は犬小屋で寝ている!)のを知りながら、ふたりを責めることもなく、「みんな変だわ」と怒りを含まない声で呟く女。「私の好きな男が妻と別れないのは、そこに帰るのが彼の習慣だからだろう」。人にはみんな習慣があるのだからと、全てを受け入れる帽子のデザイナー。
 彼女たちは、誰もが、自分の人生を、ちょっと退いた目でみつめているように思える。なんらかの渦中にあるというのに、感情を煮えたぎらせたり、迸らせたりはしない。はじめての恋を失った少女だけは、さすがに泣き通すが、それでも食事だけはしっかりと採る。

 人生という川は、誰にとっても、「泳ぐのに安全でも適切でも」ない。だが、どんな川であろうと、飛び込んだのは自分だ。人に責任を押しつけることはできない。すべては、自分自身の問題。この短編集に出てくる女たちは、皆、そのことを知っている。静かに悩みながら、密やかに泣きながらも、自分の手足で泳いでいく女たちは、切なく、哀しく、凛々しく、愛おしい。

 南国の海で、結局、わたしはクラゲに刺されなかった。刺されたのは、泳ぐことに渋々と同意した夫のほうだった。可哀相に。木陰で眠っていたライフガードを起こし、刀傷のように赤く長く腫れた脚を見せると、彼は肯いて、ボトルに入った液体を吹きかけてくれた。それは何? と聞くと、にっと笑って「ビネガー」と言った。毒を中和して溶かすのだという。遙か遠く置き去りにされたようなチェアに戻るまでのあいだに、腫れは魔法のようにひいていった。

 溺れそうになりながらも、溺れずに泳いでいく女たち。その静かな物語は、しんしんと切なかった。だが、読み終えたとき、わたしは、なぜか微笑んでいた。しばらくすると、幸福な気持ちにさえなった。きっと。物語のなかに潜んでいた筆者の“人生への愛情”が、それぞれの痛みや哀しみを、優しく溶かしてくれたにちがいない。魔法のように。

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紙の本

十の蜜のような愛の瞬間

2002/03/27 22:56

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ふわふわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 1998年の『すいかの匂い』から4年ぶり、江國さんの書き下ろし愛の短編集。十二分に楽しめました。 
 「私もまた、考えるまでもなく、彼女たちの一人なのでした」とうかがうまでもなく、鎌倉の病院の「ばばちゃん」1987年デラウエア大学のルームメイト、フランスにいて米英語をしゃべるマーク、肉汁がしたたるみたいな裕也の肉体と果汁がしたたるみたいな私の肉体、待ちきれずに抱き合う毎月曜日の逢引…、「江國さん」のいろんなかたちのそれぞれの蜜のような瞬間をかいま見る事ができて幸せです。
 紫式部文学賞のトークで来年は短編の年にしますと宣言して一年余り、愛の感性を益々研ぎ澄ませた江國さんが書きたいと思ってその作品のために仕上げた『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』読む度に応えてくれます。松尾たいこさんの果てしなくつづく歩道のポプラ並木の装画とともに、果てしない生活のお供にぴったりです。

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紙の本

女性たちの生きざまを継ぎ接ぎ

2022/11/02 09:26

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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る

無職で酒浸りのどうしようもない男と同棲中の作家、葉月を主人公にした表題作が良かったです。祖母、母、妹と3世代の親族との関係性も巧みに織り交ぜていました。

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紙の本

物悲しい短編たち…。

2003/11/30 04:44

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投稿者:かず吉。 - この投稿者のレビュー一覧を見る

まずタイトルが忘れられなかった。妹からのメールでこの
本のタイトルがあったときに、なんだかちょっと変なタイトル
だなぁと思ったことを憶えている。そして、偶然本屋で見つけ
て、迷わず買ってしまった。「泳ぐのに、安全でも適切でも
ありません」なんてちょっと遠回しな言い方で、他人行儀な
感じが心にひっかかっていたのだろう。

この本は江国さんのテイストがぎゅっと詰まった短編集で、
文章自体はものすごく読みやすいし、一つの話もちょうどいい
くらいの長さで終わっている。だけど…。一つの話を読み
終わる毎に、せつなさや悲しさと共に、ちょっと考え込んでし
まう。世間一般の「幸せ」の基準からは大分外れてる人たちが
「泳ぐのに、安全でも適切でもない」人生を渡っていく。しか
も短編だけに、短くさらっと語られているなかに、江国さんの
独特な世界が広がっているのだ。きっとこういう人たちはいる
だろうと思わせるリアリティに溢れている。映画やドラマに出
てくるような幸せって言うのは、夢見る物であって、現実には
こういう生活ですという感じ。ちょっとした暗さもそう思わせ
る手助けをしている。

この本を読んでいて、久々に「きらきらひかる」を読みたくな
った。せつなくて、かなしくて、ちょっと暗くて…そして
ちょっとあたたかい。そんな江国さんの小説の世界。久々にそ
の世界にどっぷり浸かっている、今日このごろ。

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紙の本

タイトルに惹かれて。

2003/07/30 23:55

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投稿者:オレンジマリー - この投稿者のレビュー一覧を見る

 本当に多くの女性を、いろんな角度から眺めそして輪郭をなぞっている。

 私が江国さんの信者なのは、江国さんがあまりに多くの、私にとって理想の女性を描いているからかもしれない。一冊で多くの女性を描いた「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」を手にしてから一年…。再びいろんな魅力を放出し、恋愛をし、お腹を空かせてディナーをし、読書をする女性たちがひしめく本と某書店にて出会う。私が憧れる女性像を江国さんが一番多く描いている気がする。女性を知る、経験のない恋愛を知るきっかけの一つだ。

 中でも一際印象に残り、喜びで胸を膨らませて読み終えたのは、うんとお腹を空かせてきてね、だった。活字なのに料理本を眺めている感覚になり、気が付けば空腹状態(これは、お腹が空いている人が読むには厳しいかも!)。
 
 江国さんの描く女性のように生きたい、何度も思った。自由奔放に、適度に悩んで恋愛をして、人生をとびきりの贈り物と思える生き方をしたい。

 恋愛に冷めがちな私にとって、江国さんの数々の作品にきらめく恋愛は沁みる。こんな恋愛がいつかできたらいいな、こんな女性になりたいなといつも目標なり一番星になってくれる、そんな小説。

 これからもそんな女性を、より多く誕生させて欲しいと願う。
 

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紙の本

安全でも適切でもない恋愛

2002/07/23 23:42

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投稿者:ごまた - この投稿者のレビュー一覧を見る

主人公の葉月は無職の男と5年間同棲して、別れようか悩んでいる。ある日祖母の突然
の入院で女だけの家族が3人集まった。その時彼女は昔アメリカで見た看板の言葉を
思いだし、腐れ縁だと思っていた男との関係が大切なものだと感じる。その看板の
言葉とは、それこそがこの本のタイトルとなっている。
「安全でも適切でもない」そんな恋愛を経験した女性の10のお話。
なんだか不思議なタイトルに惹かれ、読み終わってもこの言葉があたまに残っている。

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紙の本

ゲーム、しませんか?

2002/05/16 23:40

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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る

トランプのゲームで、互いに手持ちの札から一枚出し合って数字が大きい方が勝つというゲームがあった。あれは、何というゲームだっただろう。そのゲームみたいに、江国さんのこの本の10編の短編から、好きな1編を出し合って、もし同じ短編だったら僕の勝ち、違えばあなたの勝ち、ってしませんか。もっとも景品はでませんが。
では、せいので出し合いしますよ。もう決めましたか。僕は決めましたよ。いいですか。あなたが出そうってしているそれって、当然過ぎませんか。僕はひねくれていますよ。いいですか。では、せ・い・の…
……………………………………
……………………………………
「愛しいひとが、もうすぐここにやってくる」
どうでしたか。

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紙の本

タイトルは江国氏曰く、人生そのものをあらわしてる

2002/04/05 08:24

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投稿者:朱鷺 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 始めの2編(「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」「うんとお腹をすかせてきてね」)を読んで、あれ、これは江国香織の文章なのかな? と思ってしまいました。文体が変わったように思えたのです。ちょっと疑問をもちながら読み進めてみると、ああ、やっぱ江国香織だ、と思い直しました。まったく違う場所でまったく違う悩みを抱きながら生きる、まったく違う人々を書いた短編集なのです。ですから、それぞれが違ったカラーをもっています。私は早とちりして上述のような感想を抱いてしまったのです。読み返してみると、ところどころに江国香織独特の言い回し、擬態語などがあふれていました。
 とはいうものの、やはり、この作品は今までの作品とはすこし味が違う、という印象は完全にはぬぐいきれません。例えば、表題作の「泳ぐのに、…」。こういうテーマを彼女はこんなふうに書く作家だったでしょうか? 彼女は死と言うテーマを扱っても、暗くならない程度にその表面の悲しみのみを書いていました。しかしこれは悲しみと言うよりも、悲しみと共にあるこっけいな感じなどまでもが書かれているのです。見事です。江国香織がここまで突っ込んだ構成で文章を書いたということが驚きでした。
 それから「十日間の死」。人を殴るシーンがあります。こういうシーンを以前の江国香織なら、物凄く抑えた表現を使ったと思います。しかし、ここではけっこうきつい表現、痛みがダイレクトに伝わる表現をしています。
 また全体を通していえることだと思いますが、しっかりとしたストーリーラインと山場があります。江国香織の作品は、例えば『ぼくの小鳥ちゃん』のように、ただ淡々と日常を描いた物語が多数あります。そういう作品群と比較すると、この短編集はあきらかに躍動的です。
 この作品によって江国香織はまた更に多くの読者を獲得するのではないでしょうか。

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紙の本

躊躇わない女たちの物語!

2002/03/26 21:20

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投稿者:よしたか - この投稿者のレビュー一覧を見る

 なによりも、タイトルがとても素敵だ、と思う。これはもともとアメリカの海岸にたてられた看板だという。この海は、泳ぐのには、危ないし、泳がないほうがいいですよ。でも、それを承知の上であなたが泳ぎたいのであれば、その意志を尊重します。こんなニュアンスだろうか。
 日本人のメンタリティからすれば、素直に、「遊泳禁止」にしてしまえばいいのに、とも思うし、なんだか突き放したような感じも受ける。さすがは、個人主義、自己責任の国だと思う。日本だったら、泳ぐまえに、誰かが止めるだろうし、あるいは、なぜ遊泳禁止にしないのか、と市役所に文句を言いにいく人もいるだろう。よく言えば世話好きな人間が多いし、悪く言えば、よけいなお世話、な人が多いともいえる。

 著者もあとがきで言っているように、たしかに人生は、安全でも適切でもない。とくに、恋愛については、そうだ。ただ、メリット・デメリットだけで判断してしまえば、恋愛はしないほうが賢いのかもしれない。でも、賢く生きたからといって、それがなんになるんだろうか。本書におさめられた短編は、そう言っているような気がする。
 たとえば、ある女が、ひどい男とつきあって、恋愛が上手くいかないので、友人に相談する。たいていは「別れちゃいなよ」、というだろう。それが、正論なのだ。でも、友人の忠告どおりに別れようとする女は少ないだろう。安全でも適切でなくとも、やっぱり一緒にいたいのだ。その気持ちのまえでは、理性的な判断なんて、まったくの無意味だ。著者は言う。「愛だけには躊躇わない女たちの物語だ」、と。

 たしかに、この短編集に出てくる女たちは、どの女も潔い。財布からお金を抜き取ってしまう男。不倫の男。いつまでたっても妻と別れない男。どたん場になると、自分よりも妻を選ぶ男。あまり条件のよくない男とつきあっているけれど、それを必要以上に嘆かない。それはそれとして、情事の蜜はじゅうぶんに楽しむ。そのうえで、相手の男が、最終的に自分を選ぼうが選ぶまいが、その結果を受け入れる。結果がでるまでは、疑心暗鬼になって、現在を悲嘆するようなことはしない。とても覚悟がきまっているのだ。

 本書は、もちろん、恋愛小説だけど、恋愛にかぎらず、不確かな人生を生きていこうとしたり、かなわないかもしれない夢を追いかけていこうとして、心細くなってしまうときに、本書を読めば、きっと力づけてくれる。

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紙の本

人生は瞬間の集まりで

2002/03/20 19:45

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みなとやヨーコ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ここに集められた江國物語は短いのだけれど、短いからこそ、どれもより甘くて、切なくて、いとおしかったり、そんなアワアワとした、人間の感情が鮮明に湧き上がってくる。そして物語の余韻がとてつもなく長いのも降参なのだ。
 なんの前触れもなく、「私」という日常生活のふとした瞬間に、この中のどれかの物語のワンシーンが再生されるようだ。それも決してハリウッド映画みたいな派手さでもなく、ヨーロッパ映画みたいなマニアックさでもない。そう、まるで古い8mビデオをジーコジーコ言わせて眺めているような感じ。台詞はあっても話し声は聞こえない。車の通り過ぎる音や降る雨の音、店の雑音、街そのもののざわつきがBGMのように流れている。同時にそれぞれの匂いまで漂ってきそうなリアルさ。そう言えば8mって瞬間瞬間を封じ込めているような映像だ。
 楽しかったね、悲しかったね、大変だったね…なんていうノスタルジックに浸れるほど、時は経過していなくて、だからまだ終わってしまっていなくて、ずっと続いてるようなのに短い物語という不思議さを醸し出す。だから時には息苦しくなるくらい、物語をすぐそばで感じる。だから忘れない、忘れられない。
 男と女がただそこにいるだけで、人はこんなにも弱くて強くて、わがままで従順で、敏感で鈍感で、憎たらしくててかわいくて、なんという矛盾の中で暮しているんだろう。瞬間というとてつもなく短い時間を優先しながら、暮していけたらいいな、私も。

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紙の本

果たしてどちらなのだろう

2003/08/02 23:13

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オクヤマメグミ - この投稿者のレビュー一覧を見る

果たして安全なのかどうか。
きっと私はその流れを前にして首をかしげることだろう。
 先の事を考えて行動しなさい。
幼少の頃からそう教わり、大人になった今でもその意味を噛み締めながら生きてはいるが、著者のあとがきの言葉同様
 長期展望にどんな意味があるんだろう。
と思う事がある。

 この短編集に登場する女たちは皆、先の事なんて考えていない。
しかし瞬間を精一杯生きているという印象を受けた。
無責任で、無計画な女たち。
そう言われても仕方がないのかもしれないが、その時心から欲しているものを求めてやまない、愛すべき女たちだと思う。
 明日がどうなるかなんて誰にもわからない。
長期展望も大切かもしれないが、自分の生きているこの瞬間をもっともっと大切にしようと思った。

瞬間と言う点も、つなげていけば1本の線になるはずだから。 

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紙の本

いわゆる日本文学が苦手な人に、受けるかもしれない。

2002/05/15 02:42

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投稿者:ame - この投稿者のレビュー一覧を見る

アメリカの完成度の高い短編小説集を思わせる。
あえて挙げれば、エリザベス・ギルバート著『巡礼者たち』のような。

しかし読んでいてちっとも疲れない。
一編一編、設定も登場人物も違うのに、場の空気感が同じであるからだろう。

『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』『東京タワー』などで試みられてきたような、著者の、自分ひとりの完結した甘美な世界から足を踏み出し、なおかつ完成度を保とうとする姿勢が如実に感じられ、また今までの作品でもっともその成果が現れている。

今後の作品への期待の大きさから、評価は3にとどめた。
 

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2004/10/04 14:28

投稿元:ブクログ

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2004/12/02 11:56

投稿元:ブクログ

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