紙の本
無垢と狂気
2009/03/06 10:16
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
久しぶりに読み返したのだけれど、
きれいな文章<わかりやすく書かれたきれいな表現>には
感動してしまう。
比喩も擬態語も会話も描写も、なにもかもが美しかった。
私はこの人の書く文章が本当に好きだ。
江國香織の本を読み始めるときは
すてきなものを選び取るとき・・・・・・。たとえば
「キルフェボン」みたいな美味しいケーキ屋さんで
ガラスケースの中からとびきりの一個を選ぶときに
似ている。あれとおなじくらい、わくわくする。
そんなときめきを与えてくれる。
物語はある母娘の、あてどもない旅。
母・葉子の、『のっぴきならない恋愛事情』により
娘・草子と共にふたりは『神様のボート』にのってしまったのだ。
消えてしまった『あのひと』(草子の父親)の、一言を信じて
少女のようにひたむきに待ち続ける葉子の、
『しずかな狂気』をはらんだ恋。
娘の草子はだんだんと成長していき
やがて一緒に父を待つことができなくなる。
「ごめんなさい。ママの世界にずっと住んでいられなくて。」
いつの間にか母親よりもしっかりして
地に足をつけた考えを持つようになった草子のこのせりふに
心がふるえて泣いてしまった。
葉子はひとつの場所に留まって『あのひと』を待つ恐怖に耐えられず、
何年かごとに引越しを繰り返す。
いちずという狂気を、これ以上ないくらいの無垢さで持ちながら。
恋を、孵らないかもしれない恋の卵を温めずにはいられない。
色々な形があるだろうけれど、いずれにせよ
娘はいつか必ず母親を卒業していく。
ある面は母以上におとなになり、ある面は母を永遠に超えられない。
そんなギャップを抱えながら。
揺れ動く思春期の娘の心と
いつまでも若くはいられない、やはり揺れ動く思秋期の母の気持ちが
それぞれ見事に切り取られていて
せつないくらいに伝わってくるものがある。
物語は葉子の視点からも草子の視点からも読めるようになっているので
読者は、ふたりぶんの思いを抱きながら、いつの間にか
『神様のボート』に一緒にのせられて漂流することになる。
いったい神様はどんなシナリオを用意してくれているのだろうかと
水のうえをさまよいながら、どきどきはらはらの旅がはじまってしまうのだ。
おもったことがふたつある。
狂気は無垢の中に存在するのかもしれない。
無垢だからこそ狂気をもてるのかもしれない。
『狂気』だなんてちょっと危険な言葉を多用しているけれど
葉子のもつ狂気は、ストーカー的な粘着質なものとは別格である。
もっと透明な、水のようなひたひたした、狂気。
それは葉子が水のようにピュアだからなのか。
そして、母と娘という関係性に含まれる不思議のこと。
少し立て込んだ事情でもさらさらした手触りで描けるのは
やはり江國マジックなのだろう。
読み終えて本を閉じると
華やかなのにさりげない、江國さん愛用(?)のエスカーダの香りが
ふわっと思い起こされた。
紙の本
漂っているような空気感
2020/09/12 09:22
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投稿者:makiko - この投稿者のレビュー一覧を見る
娘の父親で、いつか必ず会いにいくと約束していなくなった男性を信じて待ち続ける母親と、その娘の話。最後の部分の意味がよくわからなかった。結局、男性と再会できたのかできなかったのか。死を暗示するような記述もあったから、夢の中の出来事?
久しぶりに江國さんの本を読み、漂うような不安定さのある主人公の空気感を味わいました。
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江国文学の最高峰だそうで…。でもな、私は思った。江国も終わったなって。一体、これのどこがいいんだ?? ま、話のきっかけとしては面白い。恋人を思うあまり根無し草みたいな生活をしてる母娘っていうのはね。でもそれだけ。だいたい、ピアノ教師をしてるっていう母親だけど、引越しのたびにピアノ運んだですか? でもな、ピアノいれるっていうと不動産、いやがりまっせ。で、引越しも簡単じゃないですぜ。と、どーしても現実的にみてしまう。母親の前の夫との生活も、おいおいだし、待ち続けている恋人に対する思いにもだ。いっそ、すべては夢でしたって夢オチにしてくれたほうがすっきりしたよ。
とにかく、読後がすごい不愉快。(終わり方も、いきなりご都合主義になってて頭かかえちまったよ)
本当に、すごい良質の物語なら、上記のリアルティのなさなんて、問題なくなるものだ。それを気にさせてしまうのは物語が破綻してる証拠でしかないと私は思う。
でもって、一番嫌なのはこれを読んで「ああ、私もこんな恋をしたいわ」なんて思うバカがいるだろうなって想像できるし、江国も「素晴らしい恋をしてくださいね」ってしたり顔で言ってるのが見えるし、でもって、私みたいに感じるのは「ひねくれた、もう恋愛体質じゃなくなったから」みたいに思われるんだろうな、ってここまで連想できるから。サイテー。
結局、作家ってマスメディアにのってしまうと、駄目になるんだな…。
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う〜ん。すごい恋愛小説だな、と言えばそうだし、母と娘の親離れだ、といえばそうでもあるし。非常に切ない狂気、のようなものを感じる物語ですね〜。うん。
母・葉子と娘・草子の、二人の視点から書かれているんだけど、葉子のほうは変わらずに漂っている(とはいえ、変わらないわけにはいかなくなってくるんだけど)そして娘の方は、最初は一緒に漂っていくんだけど、やがてしっかりと根を張ろうとしてゆく(ここらへんが親離れ、自立って感じがしますが)う〜ん。
しかしぶっちゃけ、現実社会にこんな母子がいたらちょっと「あのなぁ、アンタ子供のことも考えなアカンで!」とか言いたくなっちゃうかもしれないけど(笑)そこは小説だから…(笑…それを言い出したら、ピアノ教師でGETできるお金はそれほどないぞ、とかそういう話になってしまうけど)
恋愛に殉じることができる、としたらそれはそれですばらしいことなのかもしれないけど。
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江国香織の神様のボートを読みました。淡々と描かれている、静かに流れていく物語です。しかし、裏側に恋愛は狂気の一部なのだろうか、と思わせるような危うさを秘めた少説です。読んでいる途中はそうでもないのですが、読み終えると不思議に心に残る物語でした。
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この人っぽいきれいな表現で描かれていたが、私はやっぱり、すごい好きって部類の小説ではなかった。”すばらしく~”という表現があまりにも多く、ちょっと疲れた。でも描写の仕方はすごくきれいだと思う。母と子の話、最後はハッピーエンドっぽく終わったのは良いが、なんかあまり”おっ”と思うところは正直なかった。ちょっとよくわからなかった
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初めての「江國 香織」
必ず帰ると約束した彼を待つ母親とそんな母親を見ながら成長していく娘の話。
まった〜り感が、今のアタシにはちょっと。昔はこういうのすごく好きだったんだけどな。
でも、結末はこれで良かった。うん。
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恋をしているひとの傍にいることは確かにしあわせだと思う。だけど甘い砂糖菓子の裏に絡みついた胸の焼けるような怖さにどのくらいの恋人たちが気づくだろう。それを秘めているからこそ恋が美しいということ。
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「必ず戻る」といって消えた夫を待つ葉子は どこか子供のよう そんな母親をみつめる草子のほうが母親みたい でもやっぱり子供なんだけど
すごく素敵な親子
でてくるバーの名前が「デイジー」なのがお気に入り
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江國さんの作品の中でも1番か2番に好き。
あとがきにもあるように本当に狂気の物語だと思う。
人を愛してここまで純粋に、無心に、貪欲になれるのか、と思わされる。
草子が最後ら辺に泣きながら言う台詞がとても心に残った。
(ここでそれを言うと台無しだから言わないけど)
話中に出てくる街や家や小物の描写もどれも好き。
特に佐倉の話が好きだった。母子の生活が綻び始める頃。
高3の時初めて読んで今年また何となく読んだけれど、
読み終わった後今年は葉子さんとあの人が再会する年なんだなーと気付いた。
その後、を望むのは無粋だと思うけど何となく気になってしまう。
でもきっとボートはちゃんと船着場に止まったんだと思う。
画像はわたしが持ってる文庫版のものなんだけど
わたしはハードカバーの装丁が好きだな。
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とてもとてもとてもとても
切ないお話。
この物語の母葉子のような恋をしてしまいそうで、でもできなそうで、読んでて胸が苦しくなる。
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娘が小さい頃の母娘の生活はとても穏やかで美しくて素敵。途中から母親が静かにどんどん狂っていくさまがせつない。娘が大人に成長していくさまもせつない。でもラストがほんとに鮮やか。読んでよかったなー、と思えた本。
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初めて江国さんの本を読みました。言葉の選び方がうまくて、やっぱりすごい人だと思った。初めのほうの幸せな母子の生活も素敵でしたが、だんだん草子が成長して、変わっていく様子も、切ないけれどリアルでよかったです。
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最後のどんでん返し?がいいね。
本当に逢えたんだー、って。
これは読み始めたら最後まで読んだ方がいいですよ!
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コレも大好き。江國さんファンになったのはこの作品からだったなぁ。
どこにもとどまらない母親と女の子のお話。