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紙の本
不思議な感覚
2002/06/12 16:23
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みっつ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「8月のある日、男が一人行方不明になった。」で始まる、砂の穴に閉じ込められた男の物語。昆虫採集・砂の穴・抵抗もせず砂の穴に居続ける女・陥れる老人。読み始めて、得たいの知れない世界にひきづりこまれたような気分になった。この話はいったいどうなってしまうのかともおもった。感想としてはあっさりした文章のなかに、うまいこと書くな〜と思った。砂の感じがまるで読み手にまで伝わってくるようで、その嫌悪感に何度か顔をゆがめてしまうくらいだった。
男は脱出をこころみる。思わず「逃げて〜」と興奮してしまう。しかし逃げられない。結局7年後失踪者となる。そこまで思ったのに、逃げれなかったことに対しての喪失感みたいなものを感じないのが不思議だ。なぜだろう。
最初から最後まで不思議な感覚にとりつかれる本だった。
そういった意味で、すごい作品だとおもう。
紙の本
ノドがカラカラ
2017/01/08 18:49
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投稿者:papanpa - この投稿者のレビュー一覧を見る
昆虫採集に来た男が、砂にまみれた村で村人の罠にかかり、大きなアリ地獄のような砂穴の底に落とされます。そこには、砂に埋もれそうな「あばら家」が一軒だけあり、三十路の女がひとり住んでいました・・・。という話。
砂で口や鼻腔が乾き、全身が火脹れしそうな雰囲気と息苦しさ、何とも言えない淫靡さが漂います。
岸田今日子さんで映画化されたのを見た記憶はあるのだが、すっかり内容は忘れてしまっていました。
最後、ある時点を境に、急に尻すぼみで終わりなのが残念(まあ、男の変化を表しているのですが・・・)、もうひと捻り欲しかったところ。
紙の本
砂、砂、砂…。
2015/09/07 20:09
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投稿者:夜メガネ - この投稿者のレビュー一覧を見る
何が普通じゃないのかって、「砂が、ずーーっとある」それだけ。
それだけのことを、こんなに不気味な日常化してしまうのがこの作者の手腕なのです。
高校生のころに初めて読んで、終始まとわりつくモチーフ手法にはまりました。
他の作品でも、ある物(物体・空間だとしてもごく一部)がドラマを握る鍵とまでいかずに
居続ける描写がみられます。
わたしは好きです。
恐怖というより、そこまでの非現実さを読者に想像させる手腕がすばらしいと思う。
紙の本
明るい不条理。
2002/07/26 18:15
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投稿者:凛珠 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昆虫採集に出かけた男が、砂に覆われた部落に捕らわれの身となる。砂の家には女がいた。男は脱出しようと試みるが、なかなか上手くいかない。だが、ある時好機が訪れる……。
日常にはありえない世界を現実的に描いた不条理劇だが、明るい仕上がりである。純文学とはいっても読みやすい。人間は苦境に陥った時、そこから解放されようとするが、苦境の中に居場所を見つけた人間は、苦境を住み良い世界にしようとするものなのかもしれない。
紙の本
シュールな絵画
2002/05/11 23:26
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投稿者:ゴンス - この投稿者のレビュー一覧を見る
『砂の女』というタイトルにはどこか蠱惑的な響きがある。コケティッシュな匂いがする。シュールな香りが漂っている。見てはならないものを木陰からそっと眺めているような気がする。それは例えば全裸の女性が砂にまみれている姿。それは例えば夜な夜な誰もいない公園で砂を口しているグロテスクな女性。それは例えば砂場に埋もれた女性の死体。それは例えば砂場に全裸のまま仰向けになって「ああ、冷たい」と小声漏らす傷を負った女性——そのどれもがあまり日本的な情景とは言えない。そう、言うなれば『砂の女』はシュールレアリスムの絵画なのである。読んではならないのである。
確かに、多くの識者が言うように『砂の女』にはある種の回帰願望もあるのかもしれない。奇しくも本書が刊行されて間もなく、江藤淳が『成熟と喪失』で母の崩壊を謳い、以来、それはあらゆるジャンルで一人歩きするようになった。従って時代意識としても本書はその象徴であったのかもしれない。砂の穴は母という自然への回帰であった、と。
しかし、繰り返すが本書は読み物ではない。鑑賞するものなのである。
昔、小学生の頃だったか、かの有名なルネ・マグリットの『恋人たち』を観たことがある。怖かった。迫ってきた。二人の顔は布で覆われているが、まるで僕を見ているようでもあった。『砂の女』もそれと同様に、読者と書物が相互に向き合う一種の絵画なのである。
紙の本
汗の臭いと砂埃
2001/05/30 12:57
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投稿者:川原 いづみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
新種の昆虫を発見しようと、ある砂丘を訪れた男。そこで砂に埋もれかけた一軒家に男は閉じ込められてしまう。
読みはじめてしばらくして感じたのは、文章のセンテンスの区切りがきれいだなって事。あと、ことばのちりばめ方。ひとつひとつがぴたりと文章にはまっているとも感じた。本を読んでいて、そんなふうに思う事はあまりないのだけど。ひらがなと漢字のニュアンスっていうのかな…。
読み終わって残ったのは、埃と汗の臭い、べたつき、それと砂の存在感。かすかに後をひく筋肉痛みたいなけだるさ。
男は知性を持ちつつも、動物としての人間臭さぷんぷん。一軒家の主である女も、受け身なだけのぱっとしない、垢抜けない人間。「俗」なんだな。そんな女と一緒に閉じ込められて、他人として距離を保とうとする男の、すれすれのその視線はすごく粘っこい。目を背けてしまいたくなってしまう。
何もしなければ、どんどん砂に埋もれていってしまう家、腐りかけた、大した価値もないように見える家。それを守るために毎日黙々と砂をかきだし続ける女と、その作業に意味などないと言い、ひたすら逃げようとする男。結婚生活というか、日々の雑用というか、食べるために生きるために、生涯逃れる事のできないものたち。いろんな事を想像してしまう。あー、なんだか気だるくなってきちゃうなぁ。
ちょっと驚いたのが、そんな日々から男が脱出しようと試みるくだり。そこでしっかりとサスペンスしていた事でした。そうか、これってサスペンス小説だったのね。
<初読:99/04/08>
紙の本
斜な楽しみ
2001/03/22 16:52
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投稿者:がくし - この投稿者のレビュー一覧を見る
昆虫採集に行き、砂の穴に閉じ込められた(笑)中学教師が、穴に住む女と共同生活を強いられる、という話。カフカをはじめとして、こういう、設定が不条理で、その一点以外、変哲ない日常を書く話には、純文学というレッテルに似合わない、本の面白さがあります。
教師の男は、穴を脱出しようと、大真面目です。その試行錯誤は、推理小説の、鍵の掛かった部屋からどうやって犯人は消えたのか? という興味に引っ張られるのと同じように、読んでいて飽きません。しかも終盤にはきっちりと、脱出のカタルシスも用意されているのです。
もちろん、というと後付けめいて申し訳ないのですが、現国にもとりあげられる真面目な本です。楽しむ以外に、これこれは何を意味するのだろう、とか悩むのもいいんじゃないでしょうか。