紙の本
ぬか床のぬくもり
2006/04/04 12:59
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ジェニファー - この投稿者のレビュー一覧を見る
叔母の死をきっかけに「家宝」のぬか床を託された独身の女性が、そのぬか床をかき回しているうちに、あるはずのない「たまご」をその中に発見するところから始まり、「菌」と「生命」をめぐる不可思議な世界が展開されていく。前代未聞の「ぬか床小説」である。
一昔前の日本なら一家に一つはぬか床があったのかもしれないが、とにかく手入れが面倒くさいし、スーパーに行けば日本全国の漬物が手に入るので、最近では持っている人も少ないんじゃないだろうか。かく言う私の家には、祖母が丹精してきたぬか床が存在する。もちろん「家宝」でも「先祖伝来」でもない、ごく普通のぬか床である。祖母は腰を悪くして、半分寝たきりの状態なのだが、痛みをこらえながら起き上がり、台所の隅でぬか床をかき回している背中には鬼気迫るものがあった。あれだけの念が込められたら、確かにぬか床からおかしな者が現れても不思議はない。
さすがに最近ではそれもままならなくなってきて、母にバトンタッチされたはずなのだが、私と母は「マメ」には程遠い性格のため、ついついぬか床の存在を忘れがちで、最近では心なしかぬか床から異臭が漂っているような気がする…気のせいであることを祈るが。
個人的に漬物はあまり好きではないので、私がぬか床の面倒を見るくらいなら、このままゆるゆるとフェイドアウトさせてもいいかな〜などと考えていたのだが、この小説を読んで考えを変えた。ぬか床はおろそかにしてはいけないのだな。
しかし、ぬか床しかり、カスピ海ヨーグルトしかり、意外に「菌を育てる」という行為が、私たちの普段の食生活と密接に結びついていることに改めて気づかされる。抗菌グッズが流行している今、「菌」というのは嫌われ者になりつつあるが、それでも生命の一形態であることは間違いない。ただ排除するのではなく、その役割をもう一度見直すべき時期にきているのではないだろうか。
…まあ冷蔵庫の野菜室の奥深くでひっそりと増殖している菌は、ゴールデン・ウィークまでには何とかしようと思っているが。
紙の本
命 血脈 継承
2017/10/19 15:37
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投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
小道具だけど思っていたぬか床があんな重いものだとは。以前なら 当然のように女から女へと継承されていっただろうぬか床は変わってしまった時代と共に あんな形で終わるしかなかったのは ちょっと切ない。大切な人を亡くした身としては フリオのエピソードは胸を抉られた。
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そうくるのかー、というラストでした。
ラストが近づくにつれ、好きではない方向に話が進んでいったので「うわ…」と思いましたが、(今でも思っていますが)それはそれでいいか、という気持ちです。
昔はうちにもぬか床がありました。いつの間にか姿を消していましたが、どこに行ったのでしょうかね。
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代々受け継がれてきた不思議なぬか床……梨木果歩らしい奇譚でした。
「今」の話と「「沼地の中」の話。大きく2つの話からなっているけれど「沼地の中」の話はちょと私には難しかった。
もっとぬか床から湧く人たちの話を読みたかったかも。
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決してハズレのない梨木果歩。頭痛いのに一気に完読!子供向けばかり読んでいたので、読み応えがありました。ぬか漬けは取り出してすぐがおいしいのね。やっぱ自分でつけないとダメって事か。ムムム。自分には無理。
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読み終わって「ふ〜」という達成感。生命についての神秘的で壮大なテーマだったので。前半部分は好きだなあ。後半はどうなるのか楽しみ?で一気に読み終えました。
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なんだこれは?ぬかどこがしゃべる??って思いつつも、ぐんぐん読んでしまう面白さ。突拍子もないのになんで納得できちゃうんだろるな。最後はそこに落ち着くのかーって少し思った。
☆☆☆☆
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この本に出会えてよかった、と思いました。梨木さんの本の中では、もっともロマンチックな恋愛小説―と感じました。小さいようでいて、とても壮大な命の物語...この命を大切にしないといけないと思いました。ここには書き現せない位に繊細で大切な物語でした。
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梨木作品にはまった読者が行き着く書き下ろし最新作。ひとつの糠床からはじまる物語は、母なる生命、命の連鎖、連なり続くための呪縛と解放へ。突然この作品を読むとたいへんかもしれません。彼女の多くの著作を読み重ねて「これは何かある」と思ったなら、この最新作は手に取るべし!
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きっぱりした性格の大人の女性の一人称といい、フリオの壊れた (?) キャラクターといい、他の梨木さんの作品とはちょっと違うトーンにとまどい、ぬか床から人が出てくるという奇想天外な展開に驚き・・・でもそのうちすっかり引き込まれていました。間にはさまれた童話のような章と、本筋の物語が最後に合流するのは圧巻でした。
風野さんは、本文では特に美男 (美女?) とは書かれていなかった気がするけど、私の脳内では美形になっているのはなぜかと思ったら、恩田陸の『MAZE』『クレオパトラの夢』に出てくる神原恵弥とごっちゃになっているらしい。かたや細菌研究者かたやプラント・ハンターだし。
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「ぬか床」「酵母」「沼地」
一見、意味のわからないキーワードだけれど、読んでみると、これ以上ないぐらい的確な組み合わせであり、人類の成長の中でもっとも重要なことだと思うことができる。これはこの作品を最後まで読んでみなくてはわからない達成感のような、正解を見つけたような気持ちになることができた。(1/27)
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なんと言えばいいのか。梨木版『パラサイト・イヴ』?この人の描く昔の日本はすごく日本的であると同時にどこか外国のように感じる雰囲気を持ち合わせている。今作は家宝のぬか床を預かる事になった主人公くみが、ぬか床の世話をしているうちにぬか床に卵が生まれて…という摩訶不思議なストーリー。しかしくみは菌の基礎研究を職業としており、単なるファンタジーと言い切れないように現実世界を重ねてくる。ぬか床との奇妙な生活。作者はこの本を書くにあたって菌についてきっと調べたに違いないが、『博士の愛した数式』よりずっと愛と信念を感じる作品。かなり面白く一気に読める一冊。
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糠どこ、沼がテーマの小説です。今までより対象年齢が高いように思います。その分少し分かりにくかったので、評価は低いけど面白いです。
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正直一瞬引いた。
糠床から人が出てくる?アリエネエ・・・。
しかし、読み進むに連れてなんかどんどん面白くなっちゃってそれもまた不思議だけどね。
考えてみれば梨木さんの本には理屈じゃ割り切れない不思議な人が沢山出てくるんだったね。
それがいい所だし。
風野さんのキャラも結局どこに行くんでしょうか・・・。あれでいいの?
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梨木香歩さんは、私の好きな作家さんの一人です。児童文学という印象が強いかと思いますが、こちらは思春期〜大人向けといった印象を受けました。
主人公の家に代々伝わる因縁のぬかどこに、ある日突然卵が現れるところから物語は始まります。
ぬかどこから生まれた命、ぬかどこに生息する菌や酵母。こういったことを題材にして、「全と個」というテーマがあるように私には感じられました。
この物語は、「個々の生命の繋がっている部分」をメッセージとして伝えていて、ユングの普遍的無意識を髣髴とさせるような印象を受けました。そしてこの本の面白いところが、そういった「境界のあいまいさ」というところをテーマにしているせいか、梨木さんの文章も境界があいまいなところがちょこちょこある点です(笑)。たまに、「ん?このセリフ誰が言ってるセリフなんだ?」というところがあったり、物語の進行も、いつもカチッカチッと緻密に人物関係の網やストーリーを張り巡らせる梨木さんにしては、かなり自由に書いておられるような感じがしました。ご本人が意識してそうしたのではないとおもいますが、そこらへんも見所です。
全に混じって薄まっている人には個の大切さが、個に執着しすぎている人には全の感覚が感じられる作品だと思います。