紙の本
恋とは必ず誰かを裏切ることだとすれば
2007/06/24 18:25
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
世紀の恋、世界を変えた恋、TVの教養番組にもってこいの題材ではあるが、その体裁まで画面効果のために美化してしまっては陳腐に落ちる。蝶々夫人との在日米軍将校との間に生まれた子供達にもまた複雑な運命が待ち受けていたのだと。人々の生き方は必然歴史に左右されるが、歴史自体もそもそも一人一人の生き様の集積であり、片方が一方的に影響を与えるという代物ではない。歴史に翻弄されたとか悲劇だとかいいうのもフザケタ言い草だ。
歴史というのが社会制度や科学技術の発達の過程であるというはマクロに見た一面だろうが、ミクロには人間一人一人の営みの集積でもある。直線的な発達を辿るわけではなく、だから必ず紆余曲折を経るし、何度も後退を繰り返す。ヒトラーやスターリンが権力を握った過程はまさしくそれだし、そういったイデオロギーに仮託した自己実現でなくもっと直裁的な欲望に基づくものはさらに無数にあるだろう。
だからといって個人と歴史の二項対立的な図式に落とし込むのも単純すぎてつまらないのだろうね。悲劇のロマンスに涙する風潮を突き放そうとしつつ、だがそんな理性を突き崩す激しい熱情を求める、両方向に意識が振らされつつ読むのが面白い。
美男美女だらけの登場人物達には、いささか鼻白む気もないではないが、恋の障害は戦争であり、国家、民族の対立であり、あるいは国民すべてでもありえることになれば、かなりスリリングなことだ。権力者より軍隊より強い力でこの国を支配する、無言の空気に反抗するのは勇気が要る。あるいは美男美女でなければ、あっという間に圧力に押し潰されてしまったかもしれない。圧殺される側の人々にとって、彼らは体制に風穴を開け得る希望の存在でもあるのだろう。
本書は三部作の第一部なので、この恋の続きが果たして、体制転覆とか、この国の空気に敗北感を与えるなどのカタルシスをもたらすのかどうかはまだ分からない。少なくともここまでは、秘かにその快楽の血脈を繋いできただけに留まる。それを僕らはササヤカな勝利と呼ぶのだろうか。
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島田雅彦の小説は、ストーリー性を楽しむものではない、という思い込みを覆させられた1冊。
読み終わった際に「春の雪だ・・・」と呟いた人は多い筈。
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無限カノンは島田先生の最高傑作になるのでは.作家の想像力が持つ凄みがここにはあります.詰まらん恋愛小説を何冊も読むくらいなら,本作と続編「美しい魂」を読んだほうがずっといい.
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今一番はまっている本です。三部作の一作目。
こんな恋愛、現実では絶対経験することはないだろうけど、小説を読むという追体験で読者はこの恋愛を自分のものに出来る。
夢心地でいっきに読めました。
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一八九四年長崎、蝶々さんと呼ばれた芸者の悲恋から全てが始まった。息子JB
は母の幻を追い、米国、満州、焼跡の日本を彷徨う。三代目蔵人はマッカーサー
の愛人に魂を奪われる。そして、四代目カヲルは運命の女・麻川不二子と出会った
刹那、禁断の恋に呪われ、歴史の闇に葬られる。恋の遺伝子に導かれ、血族四代
の世紀を越えた欲望の行方を描き出す画期的力篇「無限カノン」第一部。
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島田雅彦の大傑作恋愛小説、「無限カノン」シリーズの第一作。いつになく本気な作者、笑。親子4世代100年に渡る悲恋の歴史を圧倒的な筆致で描く。圧巻。
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春樹の『ねじまき鳥クロニクル』と並行して読んでいたアンチ春樹の島田雅彦による三部作の第一部。
あとがきに、「考えられる限り、もっとも危険で、甘美で、それを描くことが難しい恋」を描いたと作者自身が語るように、国家レベルの非常に壮大なスケールで壮大なスケールの「恋」が描かれる。
恋愛ってこんなに真剣で、非情で、苦しくて、でも結局美しいんだってヒシヒシと伝わってくる。
また、作者は「ほかの誰にも書き得ない小説」を書きたかったともあとがきで述べており、その意気込みも充分に伝わってくる。
2部作に期待。
ヨーロッパ行きの時間がたっぷりある機内で読み始めちゃいます。
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「私は信仰の対象たる神も教祖も持たない。毎回、何か信じるに足るものを見つけては、何とか書き続けてきた。今度は恋というものを信じてみることにした」という島田雅彦。見事な力量。
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島田雅彦氏の作品です。
3つの小説ですが、無限カノン三部作として副題が与えられています。
『蝶々(ちょうちょう)夫人』をご存知でしょうか。
蝶々夫人はマダムバタフライの邦訳タイトルです。『マダムバタフライ』という小説は弁護士
ジョン・ルーサー・ロングが1898年にアメリカで発表した作品。
とゆらはこの作品に触れるまで、『蝶々夫人』の名前を聞いたことがあるという程度でした。
この小説『蝶々夫人』は後に、プッチーニによって2幕もののオペラとして発表されますから
こちらでご存知の方の方が圧倒的に多いことでしょう。
この『蝶々夫人』のストーリーは長崎が舞台です。
没落藩士令嬢の蝶々さんとアメリカ海軍士官ピンカートンとの恋愛の悲劇なのですが、島田氏
の『無限カノン三部作』はまさにこの続編とも言える作品です。
蝶々の遺児、ベンジャミン・ピンカートン・ジュニア(ニックネーム\\\\\\\"ジュニア・バタフライ\\\\\\\"
略称J.B)の母との死別・米国へ引き取られるところからストーリーが始まります。
JB、そしてその子供である野田蔵人、更にその子供の野田カヲル、そしてその子供である椿文
緒へと物語りは伝えられます。JBから数えて4代の一族の物語。そしてこの物語は、4代目の
椿文緒がストーリーを追う形として進められていきます。
2冊目の『美しい魂』では物語が大きく変容し、3冊目の『エトロフの恋』では静かにうねる
ようにラストに向かっていきます。
物語が壮大すぎて一冊ずつを切り出すのも、まとめてご紹介するのも難しい作品ではあります
が、先を読まずにはいられないという衝動に駆られた久々の作品でした。
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一八九四年長崎、蝶々さんと呼ばれた芸者の悲恋から全てが始まった。息子JBは母の幻を追い、米国、満州、焼跡の日本を彷徨う。三代目蔵人はマッカーサーの愛人に魂を奪われる。そして、四代目カヲルは運命の女・麻川不二子と出会った刹那、禁断の恋に呪われ、歴史の闇に葬られる。恋の遺伝子に導かれ、血族四代の世紀を越えた欲望の行方を描き出す画期的力篇「無限カノン」第一部。
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無限カノン3部作です。第1部読み終わるのに、1ヶ月かかったよ!なんてこった!血族4代にわたる恋物語。
「カヲルは偶然にも十八歳だった。彼は蝶々夫人が自分の恋を殺したのと同じ歳に、自分の恋を蘇生させようとした。蝶々夫人から数えて四代目、恋の遺伝子は、カヲルにも確実に受け継がれ、まさに開花しようとしていた。蝶々夫人は末期の夢にも見なかっただろう。おのが恋が遠い未来の子孫の恋をも左右するとは。恋は喜怒哀楽をゆがめ、理性を壊し、命さえ危険に晒してもなお、終わらず、滅びず、きょうもまた別の誰かが繰り返す。たとえ、恋人たちが死んでも、彼らの満たされなかった欲望は未来に持ち越され、忘れられた頃、蘇る。」(P492)
「記憶というものは恐ろしい。君が生まれる前から、彼岸にいた人々が話し、嘆き、笑い、恋をし、旅をするのだ。それが記憶の中で生き長らえるということなのか。ならば、彼らはアンジュ伯母さんや君の意識の中で、性懲りもなく、旅をし、恋をし、話し、嘆き、笑い続けるのだ。」(P306-307)
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それは、まるで、
少女漫画をオトナ買いして読み漁るかのごとく。
読み進めると、どんどん先が気になる。
最近、そういう話に出会ってなかった。
こころにいちいち引っかかるんじゃなくて、
ただ単純に先がどうなるのか、知りたい。
という欲求のみに忠実になって、
夜が朝になることも。
そして、また、自分の悪いクセで
身近な人間を本の中に投影。
あー、このクセが出るところまでもが、
少女漫画的だ!はまった!!
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作者のいうとおりこれは「考えられる限り、もっとも危険で、甘美で、それを描くことが難しい恋」のはじまり。
読んでてくらくらした(もちろんいい意味で)。
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歴史をめぐった恋愛と出世の物語。残酷甘美な、過去へと遡るお話。重たくて暗くて、ロマンチックで先を知りたくない。悲劇がまっていたら、すごくいやだもの。
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無限カノン三部作の1作目。
主人公の両親、祖父母、曽祖父母の出会いと恋が語られる。
曽祖母は蝶々夫人、その息子が祖父。祖父は通訳として占領軍と関わる。その息子である父は占領軍元帥の愛人を寝取る。そんな血脈を主人公は受け継ぎ、自身も恋が生きる目的とする人生を無意識に歩む。
二部への布石という役割は否めないが、それぞれが個性的であり共通点を持っている。本当に欲した人とは悲恋に終わるが、結果的には添い遂げる相手があり子も授かっている。まぁ、それはそれでな感じ。
やはり文章がきれい。