紙の本
世界屠畜紀行
2021/05/15 22:07
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
我々日本人の多くは肉を食べるが、その肉が生き物から食べ物にどのように加工されるのか、詳しく知っている人は少ない。それどころかそういった職業の人々はこれまで差別を受けてきて、いまでもそのような感情を持つ人がいる著者は何故このような差別が生れるのか、他の国の状況と比較している。本文に書いてあるが、予算や紙幅の都合上、そこまで多くの国にいけなかったらしく、日本以外では韓国、エジプト、イラン、チェコ、インド、バリ島、アメリカ、そして日本国内だが、文化的に屠畜に関わる人を差別しない沖縄も訪れている。
国によって、昔は差別をしていたが今では差別をしていない、という建前でいざ目の前にすると差別的な反応をしてしまう国や、そういった職業に経緯を持って接する国、旧社会主義国のため、職業差別が全くない国、宗教上や民族の違いから差別がある国など様々だった。
どの国を見ても、大概動物愛護団体の抗議を受けており、西洋のルールの元で回っている国際社会の立場上、多少は配慮をせざるをえず、伝統文化が変わってしまったり、上流階級の人々の生活が西洋化して儀式が形骸化したりと色々と考えさせられた。
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世界ではこの職業についての認識は様々のようですね
2019/01/30 11:40
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者は「屠殺」という言葉を使わずに「屠畜」という言葉を使うことによって、家畜を殺す行為に使う言葉を和らげようとしている。頭では、「誰もが肉を食べているのだから、動物の肉を製品にする行為をする人への差別があるのはおかしい」という言葉は当然のことと思っているのだと思うが、日本には(あとカースト制度のきついインドや韓国)いまだに彼らへの差別が残っている。以前に読んだ、角岡伸彦氏の「ふしぎな部落問題」にも、突然上映中止に追い込まれた食肉工場を取材したドキュメント映画の話があったが、なんでもオープンにしてくれという人々と同じくらい、そっとしておいてくれという人々もいるのは事実のようだ。
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純粋に知識欲として屠畜に触れたい
2011/04/24 20:01
12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikimaru - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本はニュース映像で、できるだけ残虐さのないものを選んで放送していると聞くが(いわゆる欧米諸国では遺体が写っているニュース映像がテレビに出る率は日本の比ではない)、本書のようなテーマには、家畜の命を奪うことを図解する以上の意味合い(行為をおこなう人々への差別という奥深い問題)があるため、なかなか書物などが出にくい背景があるようだ。
著者は製本を本業としてイラストレーターをしているだけあり、取材の発端は、生きている家畜からなめし革ができるまでを追ってみたいという思いだった。ご自身は昔からの部落問題、職業や婚姻の自由が制限されている状況について知識を持っておらず、ただ屠畜を扱う上で避けて通れない問題であると同時に、連載が部落解放という月刊誌であったことから、日本だけでなく各国の取材の際に、差別はあるかと必ず尋ねている。
結論から言えば、はっきりと「なんで差別が? 肉屋さんは金持ちですよ」と言いきってくれたのはチェコ在住の女性(日本人と結婚)のみ。あとは言葉を濁すか、質問の意図がきっちりと伝わっているかどうか曖昧な例、あるいは外国人(著者)にそんなこと聞かれたくないという態度を示すなど、あまりすっきりしない回答が多かったようだ。
さて、わたしも本来は部落問題や差別の問題が出てくる本とは思っておらず、著者はできるだけその問題を少なめに書いたようにお見受けするので、わたしも以下は屠畜について書きたい。ただ、食肉加工の現場にいわれなき誹謗中傷の手紙、メール、ファックスなどが届いているという話は、読んでいて胸が痛んだことだけは、書いておく。
内容の大まかな説明:
++++++++++
第一章 韓国
カラクトン市場の屠畜事情、マジャンドン(ソウルにある肉の市場)、差別はあるのかないのか
第二章 バリ島
憧れの豚の丸焼き、満月の寺院で見た生け贄牛
第三章 エジプト
カイロのラクダ屠畜、ギザの大家族 羊を捌く
第四章 イスラム世界
イスラム教徒と犠牲祭
第五章 チェコ
屠畜と動物愛護、ザビヤチカ・豊穣の肉祭り
第六章 モンゴル
草原に囲まれて、モンゴル仏教と屠畜
第七章 韓国の犬肉
Dr.ドッグミートの挑戦
第八章 豚の屠畜 東京・芝浦屠場
第九章 沖縄
ヤギの魔力に魅せられて、海でつながる食肉文化
第十章 豚の内臓・頭 東京・芝浦屠場
第十一章 革鞣し 東京・墨田
第十二章 動物の立場から
第十三章 牛の屠畜 東京・芝浦屠場
第十四章 牛の内臓・頭 東京・芝浦屠場
第十五章 インド
ヒンドゥー教徒と犠牲祭、さまよえる屠畜場
第十六章 アメリカ
屠畜場ブルース、資本主義と牛肉
終章 屠畜紀行その後
++++++++++
わたしは、食肉がいかにできあがるのか、その行程にとても興味がある。著者は毎日同じ場所にスケッチブックを持って出かけ、暑さのなか(生きものの発する熱で室内は高温になる)懸命に描いた。文章もとても読みやすいのだが、イラストには味わいのある文章も添えられ、その小さな文字を目を凝らして読んだ。
食品衛生の面からも、大勢の人間が出入りして実際に見学するような状況は今後も提供されないだろうが、生きものが食肉になる行程は、なんら忌み嫌うものではなく、知りたいと思う人が願う情報へのアクセスが、もっと容易になってもいいのではと思う。
東京の屠場における職人さばきは、実際に見てみたいと思うほど、イキイキと描写されている。
著者のような人がもっと現れ、純粋に知識欲として食肉加工を見られる日がくることを願っている。
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毎日のように肉を食しているにもかかわらず、家畜を肉にする過程である「屠畜」の場を想像したことはなかった。この本は日本の芝浦屠場をはじめ、韓国、インド、トルコなどの屠畜の場をイラストレポートするという本。日本の食生活に欠かせないはずのこの職業がほとんどメディアで露出されないのは、それを残酷と思ってしまう現代人の奇妙な感情とは別に部落差別に起因する屠場に対する差別感情があるとはしなかったよ。部落解放同盟の機関誌に連載されていた連載が元になっているので、当然差別というテーマが横たわるんだけど、著者自身も部落差別に馴染みのない関東圏の人らしく、部落差別起因の差別と動物を殺すことを「かわいそう」と思う現代人の感情に起因する差別との間でどっち付かずになってしまってる感じ。普段取り上げられることの少ない屠場の職人たちに光をあてた功績は大きいけれど、問題の出発点が揺らいでいるために一本筋通ってない感じが非常にもどかしい一冊。てか、部落差別の関係で屠畜に関わる人と差別する人って今はどの程度いるんだろうか・・・
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各国の”とちく”状況をルポしていくが、視線・文体・立ち位置が素晴らしい。イラストもキュート。
意図してか意図せずにか隠されている「お肉」製造過程を、わかりやすく細かに開き示してくれる。さらに最近の食にかかる各問題も射程にはいっている。何しろ面白く、そして読むからにうまそうである。
これも読んで損はない一冊。
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コンビニの弁当を食べているとき、ふとおかずのお肉に対して、「てか、おまえだれだよ!」とこころの中で叫ぶときがある。この肉は生きてたんだよな。うんうん、納得。
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動物の命が肉になるまでが鮮明につづられています。非常に読みやすいし、感覚的にこのことを捉えられていると思います。肉を食べる方はぜひ!
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普段食べている肉はどうやって作られているのか、つまり屠畜の方法は勿論、屠畜を巡る世界各国の人々の考えや食肉文化を細緻な描写のイラスト付きでわかりやすく説明している。
屠畜に対して忌避意識を持たない著者の体当たり取材は、屠畜への好奇心で溢れており、その文章は、現在の日本では乖離しがちな屠畜と消費者の関係を読者に突きつけてくれる。
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なかなか語られない世界の屠畜事情を内澤氏がレポート。
絵が綺麗で書体も平易であるため、読み易く分かり易い点が素晴らしい。
しかし世界というわりには日本にレポートが3分の1ぐらいをしめているので、
もっともっと世界の食肉事情を!と求めてしまいそうにもなる。
だが芝浦と木下川のレポはその仕事に携わる人々の姿がよく見えていて良い。
双方に足を運んだことのある身としてはとくに手に取るように様子が見えて大変面白かった。
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飯を喰う、調理する、楽器を奏でる、音楽を聴く、絵を描く、靴を履く、日々の生活は屠畜の延長線上にある行為の連続と言ってよいのだが、なんでかどうやって行うのか知らずに居る。足許を見ないまま歩くようで酷く不自然で野蛮なことだ。
その形容し難い不安をある程度解消……してくれるわけではないが、とにもかくにも第一歩になるだろう本。
作者はその好奇心とパワーとでもって、世界の屠畜の現場を歩きに歩き、見た聞いた感じたことをそのままに、ひたすらにひたすらにレポートする。無論彼女自身の感じたそのままを描いているので、「ああこれは違うなあ。血と汗と恐怖、読むと大体わかるよ」とか「いやゲルマン文化圏だしね」などと注釈したくなるところは多々あるのだが、それを敢えて行わないところがこの本の潔さでもあると思う。
ごく普通の日本女性のコモンセンスでもって、我々の日々の暮らしの根っこのところをしっかりと捉えようとした、本当によい本。さり気なく装丁がとてもお洒落なのも、作者の趣味のよさを感じさせる。かならずカヴァー下もチェックすべし。
実はこれ単純に紀行文としても一級品。イラストルポとか軽いエッセイとか、そういうのが好きなひとにもお薦めです。面白いから!
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家畜がお肉になるまでの肯定をことこまかにイラストルポされた本。世界各国編。牛豚鳥、屠畜方法からさばき方まで丸分かりです。
こんなの課題じゃなけりゃ読まねぇよってくらい嫌煙してきたジャンルでしたが、これ読むととってもおもしろい。
普段目にする事の無い世界を覗けるってのが一番のおもしろ所ですが、土地土地で出会った人の人間観察がまた楽しい感じに書いてあって旅行記のように読めちゃうのです。おまけに話し言葉でノリと勢い大事に書かれてるのでとっても読みやすい。おすすめ
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2008/07/20
どこかのサイトで紹介されていたのが気になって購入。
スーパーに行けばパックにつめられて並んでいるお肉ですが、もとは動物です・・・
著者は屠殺とは表現せずに屠畜と表現しています。
日本はもとより韓国、モンゴル、インドなどなど各国の屠畜事情がイラスト入りで表現されています。
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動物を“肉”にする一連の作業を屠畜または屠殺と呼ぶ。肉を食べる文化を持つ地域なら必ず誰かがやっているはずの仕事だが、動物を殺すという場面が含まれるため、なかなか目にする機会がない。そこに興味を持った著者(イラストルポライター)が、日本と世界の屠畜場を巡って綴るエッセイ集。
日本で屠畜を語ろうとすれば差別の問題は避けて通れない。では海外ではどうなのかという点にも強い関心を割いて取材されている。実は途中まで読み進んでから知ったのだが、この本はもともと『部落解放』という月刊誌に連載されていた記事を書籍化したものだ。世界と銘打ちながらも内容の半分近くが日本について書かれているのも、その辺りの事情かと思われる。
差別の問題も大事ではあるが、個人的にはもっと単純に「ものづくりとしての屠畜」に関心が湧いた。職業柄、金属やプラスチックで作られた製品の工場は大体想像が付くが、食肉の「作り方」は何も知らなかった。
ただ殺して切り刻めば良いわけではないことくらいは判るが、具体的にどのような工程で作業が進むのか、取引や流通はどんなシステムになっているのか、日本の話も海外の話も、この本で初めて知ることばかりで面白かった。
もちろん、肉と工業製品は同じではない。私はベジタリアンではないし、これからも肉を食べて生きていくだろう。そういう立場として一度くらい屠畜の現場を見学したいものだが、なかなかその機会には恵まれないと思うので、せめて食事の前には手を合わせて祈ることをまた心がけるようにしたい。最近すっかりさぼっていたので。
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イラストルポライターが世界の屠畜場を興味深々前のめりレポート。
豚・牛・羊・ヤギ・ラクダ・犬!まで屠畜を観て・体験してそして食べる。
現地コーディネーターも凝視出来ない様な現場を著者は常に前のめり。
更に深く、屠畜という職業差別・宗教との係わり、更にはそもそも食肉とは?と思考の根は深まっていく。
<第12章 動物の立場から>が深い。考えさせられます。
逆に大笑いは最終章<屠畜紀行その後>にある”獲物と死体”。
あれだけの体験を全くヒクことなくレポートして来た著者であるのに!!・・・・ネタばれっぽいので、言えない。
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世界の様々な屠畜文化が知れて非常に面白かった。
世の中色んな文化が存在するんだから、食肉のために牛・豚などを屠殺することを「動物愛護に反する」とステレオタイプに抗議するのは如何なものかしら、ホント。