紙の本
「文筆の荒法師」が描く怒涛の840ページ!朝日新聞 ゼロ年代の50冊第3位
2010/09/22 02:06
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸末期に河内に生まれた城戸熊太郎は子どもの頃からあふれるような思考と口に出す言葉とが合一することのないことに思い悩みながら育った。長じて博打に興じるばかりの生活を送るようになるが、明治26年、妻お縫が男と通じたことをきっかけに、舎弟の弥五郎とともにその男の一族郎党10人を次々と殺害するに至る。「河内十人斬り」に歌われた史実をもとに描く840ページの大長編小説。町田康に付された「文筆の荒法師」という修飾語がまさにふさわしい、俊敏で諧謔味あふれた魔術的な文章が大変魅力的な作品です。
定まった仕事も持たず、放埒な生活におぼれる熊太郎ですが、彼の内に秘めた河内弁による思弁の流れを見ると、彼が私たちとは縁遠い単なるヤクザ者の一人ではなく、明治前期に立ち現れた悩める近代日本の精神であるように思えるのです。ですからこの小説は平成に書かれたものとはいえ、明治文学を読むかのような錯覚を覚えます。
一方で、岩室の中で起こる森の小鬼とその兄・葛木ドールとの一件は熊太郎の精神と行動を生涯にわたって縛る大事件なのですが、人間の理知が届かね奇怪きわまりない描かれ方をしていて、あたかもガルシア=マルケスが描く南米の呪術的小説世界に紛れ込んだかのようで、大いに惑乱させられます。
さて、熊太郎は大量殺人に手を染めるための思考を巡らせますが、実のところこの殺人の理由は理詰めで解きほぐせるような類いのものではないように思えます。熊太郎は事実、「ほんのちょっとの駒の狂い」(514頁)という言葉を使い、また「もっと早くに勝負を降りるべきだった」(838頁)という悔悟の念を抱きます。私はそこにこそ、ひょっとしたら第二、第三の熊太郎になりかねないかもしれない危うさをはらんだあなたや私が生きる上での知恵が秘められているように思えてなりません。
紙の本
ずしりとくる河内弁
2024/02/01 11:08
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の熊太郎やその舎弟弥五郎、そして登場人物のほとんどの人がかなりディープな河内弁で会話する、それがまず面白い(ただ、私が河内に近いところに住んでいるからその意味、アクセントはほぼ理解できるのが他地域の人はどうなのだろう)、そして主人公の熊太郎が面白い、初めは「ほんま、けったいな男やな」と嘲笑していたのだが、読み進めていくうちに理解できた、「これは私だ」と、本当は小心者なのに煽てられると調子にのって虚勢をはってしまう、すぐに空想の世界に入りこんでしまって現実を顧みない、といったところ(ということは私も取り返しのつかないとんでもないことをしでかしてしまってもおかしくないのだ)
紙の本
谷崎潤一郎賞を受賞した「人はなぜ人を殺すのか?」という永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説です!
2020/08/05 09:45
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、ミュージシャンでありながら、作家活動もされており、『くっすん大黒』(野間文芸新人賞)、『きれぎれ』(芥川賞)、『土間の四十八滝』(萩原朔太郎賞)、『権現の踊り子』(川端康成文学賞)などの傑作を発表してこられた町田康氏の作品です。同書は、河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフにして、永遠のテーマである「人はなぜ、人を殺すのか?」といったことに迫る著者渾身の長編小説です。同書は、谷崎潤一郎賞を受賞した傑作でもあります。ぜひ、一度、読んでみてください。。
電子書籍
貴方も私も「熊太郎」
2020/04/15 22:04
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投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「河内十人斬り」と聞くと確かにおどろおどろしいのだけれど、物事にはなにもかもやはり過程がある。
実在の城戸熊太郎がこうであったかはもちろん不明。
思弁的なのにそれを表現して伝える言葉がないとは何たる不幸か。回転は乱れ、思考だけが先走り、やがて脱線転覆して…。
「なにを言っているのか自分でも分からない」誰にもそんなスキがきっとあり、そのドツボにハマってしまった悲劇の男、熊太郎。
思考と行動が結びつかず、ついに窮地に追い込まれてしまう。そんなダメな男の脳内を丸々文字に書き起こしたような。
意思疎通の難しさそのものを内包しているのに、4-5ページおきに笑えてオマケに胸が苦しいとは何という巨編だろう。
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実際の事件をモチーフにしながらきっちり町田康。
うわー厚いなあと思いましたが一気に読みきってしまいました。
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第41回谷崎潤一郎賞受賞作品。
842ページ。
読み終えるのに1ヶ月もかかった。
いや、でもこの作品は、町田康の最高傑作であり、1ヶ月を費やすのに相応しい小説であった。
河内音頭で知られる明治時代の大量殺人事件「河内十人斬り」をモデルに、主人公・城戸熊太郎が犯行に至るまでの心の有様を町田康節で書き尽くす。
「人はなぜ人を殺すのか」
帯にも書かれている、この永遠のテーマを、町田康は「小説」という媒体を用いて、「小説」が持ちうる限り全ての力を使い、思考し、表現した。
現代日本文学に刻まれる名作である。
この小説には僕ら人間のあらゆる部分が網羅されている。
実は僕らは、本当のことは何一つ言っていない。
そんな自分に気付き、悩む熊太郎。
そして熊太郎は言う。
「俺の思想と言語が合一するとき俺は死ぬる」
彼の生き様を見よ。
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人はなぜ人を殺すのか。河内音頭のスタンダードナンバーで実際に起きた大量殺人事件<河内十人斬り>をモチーフにした長編小説。見た目が分厚くて「エー読めるか?」と思いきや、どんどん読みすすめられちゃいます。(吉田さん)
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重いし暗いし泥臭いし、もう読んでいて憂鬱になる。読み慣れない方便のオンパレードにもまいった。うちは単行本で読んだんで、本自体も重いし厚いしで、はたして根気良く最後まで読めるかかなり不安だった。ところが、なんだかんだで一気読み。面白い小説のパワー。主人公は思弁癖の持ち主で、あらゆることを一人で必要以上にあれやこれやと無駄に考えてしまう。考えすぎた行動の結果が良い方向に進めばいいけれど、彼がやることなすことすべては悪い方向へ転がり、その度に傷ついている。しかもその思いを何一つとして他人にうまく伝えることができない。彼に同情して読み進めるには難しい。同情だけでこれは読めない。
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長編だけど、町田節のおかげでするすると読み進めることができる。でも電車の中とかでは
笑いをこらえるのが大変だったなあ。やくざ者の熊太郎に対する作者のまなざしがあたたかく優しく、
切ない気持ちになりました。
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第41回谷崎潤一郎賞受賞。
実際に起きた事件「河内十人斬り」に着想を得た町田康による渾身の長編小説。
まるで自分のことを描いているのではないか。そう錯覚するほど、主人公熊太郎には並々ならぬシンパシーを感じた。熊太郎は、自分の頭の中の思考と口から発せられる言葉の不一致に苦しんでいる。廻りの人間は、腹が空いたら、「腹減った」と嘆くし、うれしいと思ったら「うれしいわ」と騒ぐ。思考と言葉が一致している。熊太郎はそうはいかない。うれしいことがあっても、ここで素直に喜ぶのは、餓鬼くさいし周りになめられる、そもそも本当にこれは喜ばしいことなのか、違うんではないか、それは他人に勝手に決められた価値観ではないのか。そんな風に思考があちらこちらに拡散し、出てくる言葉も出てこなくなる。言わないから伝わらない。伝わらないから廻りの世界との隔絶を感じる。やる気をなくす。熊太郎はこのような負のスパイラルに落ち込んでいき、最終的に十人斬りに繋がっていくのであるが、このような感覚を真っ向から否定できる人間は果たしているだろうか。誰しもが、心の奥底で似たような感覚を抱き、孤独を感じているのではないか。町田康が今作で描き出した城戸熊太郎の葛藤は、現代人の抱える病理そのものであると思う。そして、思考と言語の齟齬に悩む現代人の代表的一典型が作家であり、このタイトル『告白』は、そのものずばり町田康自身の告白を意味しているのだと思う。
途中、読んでいて泣きそうになったり、息苦しくさせたり、爆笑させたり、800ページを超える分量でありながら、まったく退屈しなかった。現代の作家で、これほどの質の長編を物にできる作家は限られてくるだろう。この作品は町田文学ひいては日本文学のひとつの到達点であると思う。読んで損はしないです。傑作。
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この本の素晴らしさを言葉で言い表すことなどできません。
なぜなら私の思考と言葉は一致しないから。主人公熊太郎と同じく。
どじょうのシーンが一番印象的でした。あの絶望感。だけどあれっての人の一生を表象しているような。
いったい狂人とはなんでしょうか。熊やんはまったくの凡人で、素直なおバカさんで、人情に溢れ、人の優しさを求め、愛を求め、少々思弁的であるがために思っていることを上手く表現できない、要領よく人と上手くつきあえない、すごーく不器用な、だけどもっとも人間らしい人間です。
人はなぜ人を殺すのか。生きること、死ぬこと、食べること、酒を飲むこと、愛すること、信じること、裏切ること、人生の全てが詰まった町田康渾身の告白。いや素晴らしいな、これ。
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初の町田康だった様な気がします。
衝撃を受けましたねー。
苦手な方は苦手かも知れません。
私は時間がある時に読み返したいと思える一冊。
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人はなぜ人を殺すのか。
この深いテーマを、あの町田康が書くことにまず驚き。
テンポのはやい河内弁はそれぞれのキャラが立っておもしろい。
内面をえぐられるような、重いテーマを方言が和らげる、
が、やっぱり重い、深い。
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ほんとにぶあついの
有名な河内十人斬りのおはなし
でもこの事件のこと さいご5分の1くらいになんないとでてこないけど
頭で考えてることがうまく口から出てこない、伝えられない
わかってくれる人がいないってきもち
さいしょからその葛藤に苦しんで
でもでもさいごに
頭の中には なんにもなかったっていう虚しさ
人一倍考えた故の事件だったと
読みごたえはあったかなー
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分厚い作品なので(842P)読み終わるまでがホネでした。
浮かんでくるのは「日本昔ばなし」のようなマンガの情景。んで、その主人公が自分語りする話。でも、本の最後に出典が出てるようだがこれは実話なのだろうか??
私自身が大阪に2年半ほどいたことがあり、仕事で付き合っている業者のお年寄りの中には「河内弁」を話す人々がいた。早口で、何をいっているのか全くわからない。この本の表記が当時を思い出させて、少し懐かしいような暖かい気がした。
時折サンタナやバンドの話が出てきたりするのは作者がロッカーゆえのことであって、「殺す。殺す。〜」のリフレインなども然り。でも、この話の結末が破滅に向かっていくとは、途中全く思いもよらなかった。でも、それだけ近代とは未だ未成熟な世の中で、死がそこいらじゅうに無造作に転がっていたのかもしれない。
かえって、シリアスなドキュメンタリーとなるとこれは救いようのない話となり、とてもこんな大作にはならなかったことであろう。