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短いので手軽に読めます。
高利貸の妾お玉と医学生岡田の淡く若い恋を描いた作品……なんて表面をなぞればなんてことのない物語にしか聞こえないですが、無駄のない文章と行間に見える美しさ、人間臭さが味わい深く、クセになります。
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鴎外が好んで用いた独白に独白を挟む形式。ただし2つの独白に時間差がある設定。
ほんのささいな、しかし決定的なきっかけで歯車が狂う展開も得意の手法かな。
個人的には、お玉が蛇の事件をきっかけに岡田に急激にひかれていくシーンが気に入りました。
欲しいものと買いたいものの女性の心情変化には非常に共感。一度何かをきっかけに距離が縮まると、もっと近づきたい、近づいてもいいはずだ、と思ってしまうものです。
しかもそれがなかなか思うようにいかずに物思いに耽るようになって、生活が怠惰になる一方で美しさ・魅力を増していき、それが末造を勘違いさせる場面などは、恋する女性にありがちだと思いました。
舞姫と違って女性目線を中心に描かれているのもまた一つ面白いところ。鴎外は女性にお詳しかったのかしら。
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ちょうど100年前の小説とは思えない程リアリティが溢れてる!
末造とその正妻とのやり取りに代表されるように人間味豊かな場面が多い。
明治期の東京の風俗が手に取るように分かるのも興味深いね・・・!
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「雁」というタイトルからは想像もできない内容でした。
主に男性の側から描かれた小説ですが、多くの女性が感銘を受けたのではないでしょうか。
この本の面白さは、妾の娘、高利貸しの旦那、旦那の妻、医大生の相反する男女4人の、対比にあると思います。
はじめは光と影のようにまったく交わることのないように思われた4人ですが、次第にの境界線はぼやけはじめます。
わたしたちは気づかないうちに幻想を抱き、先入観で忌み嫌い、よく知りもしないのにあたかも知っているかのようにふるまっているものなのだと感じました。
明治の粋や、ゆっくりした時間の流れを楽しむのもいいと思います。
大人の女性におすすめの本です。
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今日も色々なお話が聞けて楽しかったです!せっかく本郷あたりが題材の本を読んだのに街歩きに参加できず、残念です。。
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旦那と妾奉公という古典的な状況設定の中に、人智のむなしさを込めた中編秀作。物語るようなわかりやすい文体の中に当て漢字の多用と、英語・フランス語といった外国語を織り交ぜるという鴎外ならではの、明治の香り高い文章になっている。
物語は高利貸しの末造一家、妾奉公することになったお玉一家、そして、学生岡田と「僕」周辺の大きく3つに分かれるが、特に末造と女房、お玉と高齢の父親の心情描写が優れていて面白かった。
才覚に優れた末造の思いに反し、しだいに別心するお玉。そして制御不能な女房。お玉は時を経ず図太くなって、学生岡田と心を通わせていく。そして、あの日あの時に投じられた思いがけない一球に全てが収斂していく。書名は人の思惑とは裏腹に状況が進展していく象徴なのですね。
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まだ子供の頃に「よろめきドラマ」なる言葉があって大人が使っていた記憶がある。
今ならば「不倫物」というような意味だろう。
森鴎外という文豪の作品に果たして「よろめき物」というジャンルを当てはめて良いものかと
思いながらもその思いは拭えず読み進んだ。
男親の暮らしのために大学の寄宿舎の小使い上がりの高利貸し末造の囲い者になったお玉が大学生の岡田に想いを寄せ、なんとかその想いを伝えたいと焦る。
これだけを取り出せば「よろめきドラマ」としても成り立ちそうな気配。
その気配を打ち消すのはやはり岡田の放った石で命を奪われた一羽の雁の出現だろう。
あれは何を意味するのか。
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森鴎外と聞くと、文豪という印象が強すぎて手が伸びにくかったのだけど、いざ読んでみるとスラスラと読めて面白い。明治13年の話なんだけど、文体も古くない。美少年の大学生と高利貸の妾がひょんなとこから知り合いになって、微妙な空気を作って、でも距離は縮まらず。最終的に青魚、友達、投げた石、雁と様々な要素がおりなって、二人は一生離れ離れになる。伏線もあったり、頭で映像化しやすい小説でした。
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テレビで主人公岡田が歩いた散歩道を再現していたのを見て、手にとってみました。名作ですが、読んだことなかったんだな。
こういう恋っていいなぁ、って思う。美しい。しかし、ハッピーエンドではないんです。
ただ、やたら地名が出てくるのですが、イマイチ映像化できない。横文字も多用していますが、はやりだったのかな。
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医科大学生の岡田は、散歩の途中の無縁坂で、寂しげな家に住む女を見かけ、心を惹かれた。それは、貧窮する父娘の生活を助けるため、高利貸の末造の妾となったお玉であった。
お玉の方でも、いつしか岡田の通りかかるのを心待ちにするようになっていた。岡田への思慕が募るにしたがって、初めはただ無邪気な少女であったお玉も、次第に自我に目覚めていくが…。
偶然の運命に翻弄されたはかない恋を、岡田の友人「僕」の回想形式で綴る。
何だかもうちょっと波瀾があってもよさそうなものだが、明治の世ではこんなものなのかも。というより、それがこの作品のテーマなんだけど。
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主人公、友人、高利貸、妾、それぞれの生活や視線がそれぞれに独立し、お互いに少しずつ重なっている。
この時代感や風の流れまで、自然と肌に感じるさっぱりした佳品。
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年老いた父の暮らしを考えて、高利貸しの妾となった娘・お玉。
本当の恋を知らないまま、お玉は身のこなしだけは大人の女性となる。
そんな彼女が、時折窓から見かける美丈夫・岡田に恋をした。
純情に振る舞いつつも、内心は岡田に激しく恋い焦がれる。
岡田もまた美しいお玉を気にかけるようになった。
長らくいま一歩が踏み出せない二人だったが、遂に運命の日が訪れる。
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当時の湯島天神や本郷、上野などの描写が多く、「昔はそんなだったのかー」と今の景色を思い浮かべながら浸ることができました。
個人的にはお玉の方が岡田よりずっと想いの気持ちが強かったと思います。
岡田はどこか一線を引いて、「違う世界の人」と感じながらも憧れていたように思えました。
純粋な片想いって可愛らしいなー(*^^*)
気持ちだけが募っていく恋というのは沢山の人が経験していると思うので、読めばお玉に共感できるのではないでしょうか。
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話の構成も、お玉の心理描写もとても良く描かれている。
のだが、どうしてものめり込めなかった。
合わなかった。 で片付けたくない作品。
暫く時を置いて読んでみたい。
猪瀬直樹氏がある記事で、太宰、漱石ら比較して鴎外の作品は
貧困をニヒリズムではなく、家長的な視点での生活臭を感じさせる
と評していたが、初めて読んだ鴎外作品である本作からも、
その一端は感じられた。 鴎外は女性視点の葛藤を描くのが上手いね。
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森鴎外の作品を読む時には、いつも明治という時代背景を念頭にテーマ設定を考えてみる。
それは西欧文化に影響を受ける中での人々の心の葛藤のようなものではないか。(これは夏目漱石等の海外を知る明治の文豪に共通しているのだろう)
先日、文京区の森鴎外記念館を訪れたが、その際に鴎外がフェミニストであることを知る。娘の教育に対しても同様のことを感じた。
「雁」のテーマのひとつは、妾という旧態然の仕組みの中にあって、時代は女性の自立、自意識が芽生え始めている、その時代のミスマッチのようなものではなかったのか。
それは妾を抱える末造とその妻とのやり取りでも気付かされた。
以下引用~
女には欲しいとは思いつつも買おうとまでは思わぬ品物がある。
・・・
欲しいと云う望みと、それを買うことは所詮企て及ばぬと云う諦めとが一つになって、或る痛切で無い、微かな、甘い哀愁的情緒が生じている。
女はそれを味わうことを楽しみにしている。それとは違って、女が買おうと思う品物はその女に強烈な苦痛を感じさせる。女は落ち着いていられぬ程その品物に悩まされる。たとい幾日か待てば容易く手に入ると知っても、それを待つ余裕がない。女は暑さも寒さも世闇も雨雪をも厭わずに、衝動的に思い立って、それを買いに往くことがある。
・・・
岡田はお玉のためには、これまで只欲しい物であったが、今や忽ち変じて買いたい物になったのである。
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裏表紙では偶然性が推されてるが、偶然性というよりは物事の多面性が言いたかったことなのではないかと思った。
人の数だけ見方があるから、身近な人のことですら理解するのが難しい。理解しようとすることしか出来ない。けど、それで良いのかな、思った。
鷗外はプレイボーイだったってのがよく出てたと思う。笑