紙の本
むかしむかし「若いという字は苦しい字に似てるは」という歌があった。ぼくってなぁに?パラレルワールドに彷徨う悩める若者の自己発見のプロセスである。いかなる境遇にあってもその運命に勇気をもって立ち向かえとする著者の哲学的教訓は大切だと思うのだが………。
2010/04/25 17:21
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
学生時代から馴染んできた東京の繁華街に渋谷、新宿、池袋があるのだが、新宿や池袋はそのころの名残がまだあるのだろう、街をうずめる群れの中には私と同じ体臭を漂わせる人たちも少なくない。
ところが渋谷はどうだ、あれは異界である。居心地が悪いのだ。若者の街の風俗にケチをつけるつもりはなく、むしろ物分りのよいオジサンのつもりなのだが、
「あなたなんかがいる場所ではないよ」
と街全体から無言の警告を発信されているようで、いたたまれなくなるところだ。
東上線に地下鉄の副都心線が乗り入れて渋谷まで直行となったものだから、懐かしさも手伝い十数年ぶりに行ってみた最近の印象がこうだった。
この作品は2006年にハードカバーの初版があって、最近文庫本が発売されたあたりから再評価され始めたということらしい。
「亡くなった恋人を追悼するために東尋坊を訪れていたぼくは、なにかに誘われるように断崖から墜落した………はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る青春ミステリーの金字塔」
昔から使い古されたパラレルワールドをあつかっているとなれば新機軸を楽しめるかもしれない。最近の若者にある「若さ」の影とはどんなものなのかなと青臭い懐かしさも手伝って手にしてみた。
父と母がそれぞれ愛人をつくり家庭を留守にして遊びほうけている。顔を合わせば暴力沙汰の喧嘩だ。ぼくの不幸はここから始まったんだ。
醜い大人を見ていると大人に成るのが生理的に怖くなる。だから恋人の手も握れないでいる。そんな思春期の影って今の若者にあるのかしらと、昔の少女小説にはそんなテーマもあったかもしれないが、くすぐったくて読んでいられないのはオジサンだからなのだろう。
ところが同じような境遇にありながらぼくがいないで姉がいるこの世界では姉は楽天的に生きているではないか。しかも、二人で二つの世界の差異を検証してみたところでは、ぼくの周りの人たちには不幸ばかりが訪れたのに対して、こちらの世界では姉の周りの同じ人たちには幸福がもたらされているではないか。
ぼくってなんだったんだろう?
やがてぼくは生きていくうえで大切なことに気がつくのである。
自分自身を確立し前向きに世の中にぶつかっていこう。
そうすれば幸せをつかめる、と著者は読者を勇気づけている。
それをお説教口調ではなくスウィートにソフトに語りかけているのが今風といえばそうなのだが、昔から「良書」といわれるものはお説教のようなものだった。
「あなたなんかが読む小説ではないよ」
といわれたような気がした。
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ぐはあなんだ自意識過剰人間をばっさばっさとたたっ斬る痛い小説は。中二病一刀両断という感じ。軽く読めるのに内容は壮絶な重さ。ああ痛い。小市民シリーズも自意識過剰な中二病少年少女を晒す小説だけど、これはまた完膚無きまでに叩きのめすなあ。
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なんか読み終わった直後に
「おわぁぁぁ・・・・」ってなりました。
なんといったらいいのか分からない感じで。
全否定されたら、嫌どころじゃないよなって感じです・・・。
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この世界にもし自分がいなかったら。
誰だって一度は考えたことがある問いだ。
この物語の主人公は、それを否応なしに体験させられることになる。
東尋坊にて恋人の死を悼んでいたはずが、目が覚めたら金沢にいる。
しかもそこには生まれなかったはずの「姉」がいて、その世界には「自分」はいない。
陽気でおせっかいで、無感情な自分とは正反対な姉。
両親の関係、恋人、友人・・。すべてが元いた世界とは違うパラレルワールド。
すごく面白いテーマだと思います。
パラレルというぶっ飛んだ設定を持ってきた割には文章が淡々としていて、読みやすくかつ軽くなりすぎなかったのがよかったかなと。
自分よりも多くの人を救った姉の世界で、疎外感を覚える主人公。何もしないという罪悪。想像力の欠如。
なかなか現代的なところを衝いてきますね。
ラストシーンを読者に予想させる余韻があるところもステキです。
ただこの甘さのない文体と雰囲気からして、どう考えてもバッドエンドだろうとは思うのですが。
お話自体も面白いのですが、書き方が面白いなと思うところがいくつかあって、たとえばノゾミについて知っていることを姉弟が一つずつ言い合う、なんていうのは、ごく自然に二人の間では前提情報として共有されている彼女についての情報を読者に提供しながらもそれがわざとらしくない、というような巧さがあるなと感じました。
キャラクターとしてのキャラクターというか、ちょっとリアリティに欠けるけれどもまあ実在不可能ではない、というような登場人物がちょっとだけ鼻につきます。ラノベすれすれです。許容範囲です。
文体が好きなので他にも読んでみたいですね。
久々に面白い本を読んだなという印象です。
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真っ白な砂糖菓子のようだけど、こりっと噛んだら骨でした。
口の中にざらざらしたものが残るリドルストーリー。
「自分がいる世界」と「自分がいない世界」はどちらも可能世界。
それゆえに「自分」の存在をどこまでも考えさせられる。
最終頁、ラスト一行。これもまたボトルネック。
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古典部とか、小市民とは一味違う。すごいビターな引き。
カカオが濃すぎるチョコレート、みたいな雰囲気で
青少年の「存在」を問いかける。
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面白い作品、だとは思う。読んでいくうちに惹き込まれてしまったし、自分をボトルネックに例える主人公に共感して切なくなった。でも…それゆえに読んでいてイヤな気持ちにもなったし、後味も悪かった。自分とは正反対キャラの自分がいるもう1つの世界なんて、自分がいないからこそ上手く回っている世界であればあるほど、やっぱり見たくなんてないですね。それを思い知らされた一冊でした。
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めっちゃ暗い小説…悪くはないんだけどなぁ。オチに救いが全くないように感じました。
ウツっぽい時に読んだら本当に崖からおちたくなるような小説…。
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「自分の存在は周囲にとってどういった影響を及ぼしているのか」。
「そもそも自分が存在することに意味があるのか」――。
思春期ならば誰もが抱きがちなそういった疑問をテーマに、鋭く心を抉る青春小説。
ここまで容赦なく叩きのめすとは思わず、最後まで読み終えて正直驚いた。
でも変におためごかしな内容よりこの方がいっそ清々しくて好みだ。
未来には色んな可能性があり、人は状況を受け入れるだけでなく変えることもできることも示唆されている。
だからラストには一片の希望があり、冷静に考えれば決して絶望に彩られただけの話ではない。
私だったら、次の一歩を一体どちら側に踏み出すだろうか。
主人公と同じ年頃に読んだらかなり凹んだだろうが、逆にその頃に読んでおきたかったとも思う。
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穂信色。
しかしなんつー終わり方すんだ。
すごいな。賛否両論やろうな。
なんでもかんでも最後に救いがあると思ったら大間違いだよね。
アリやと思います。
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転落事故をきっかけに、「生まれなかったはずの姉が生まれていて、自分は生まれていない世界」に飛ばされてしまう話。ミステリー色はかなり薄いけど、終盤に向けてグイグイ読者を引っ張っていく文章は見事です。
全体を通してかなり残酷なストーリーです(精神的にね)。ちょっと重たく感じる人もいるかもです。
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世界にいらないものは排除される。
どんどん読み進められたが、結末はとても
考えさせられるというか、後味悪いというか
独特な話。解釈は人によってかなり分かれそう。
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ただ、この中二病を昇華したようなプロットは好き嫌いが分かれるかなぁ
SF&ミステリ&青春小説と言った複合ジャンルに耐えれる人向け
先週たまたま東尋坊に行ったこともあり、個人的には運命的な一冊
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米沢さんってこういうのも書くんだあと思いました。あたしはけっこう好きですね。読み終わった後「うわああ」って思わず声に出た。
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自分の存在って何なんだと容赦なく突きつける。
ラスト1行で全く違う印象にすることもできたんだろうけど…。