- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
紙の本
自分の存在がボトルネックだと知ったら
2009/11/01 12:23
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
異相世界への平行移動という設定はよくあるのですが
本作品では、人間の存在意義を問います。
それを高校1年の幼く繊細な精神をグラグラと揺らします。
もうひとつの世界では、流産だった姉サキが生まれ、
子どもはふたり、と両親は決めており、
サキの前に兄がいるため、
嵯峨野リョウは生まれませんでした。
そして、リョウの世界の、不仲の両親、母親の虐待、
交通事故で意識のない兄などはなく、
明るくサバサバしたサキによって、
もうひとつの世界は小さなイイコトが発生しています。
この現実をつきつけられたリョウのショックは大きく、
さらに彼は二年前に東尋坊で死んだノゾミが生きていて、
一気に別の彼女の側面を見ることになります。
自分の存在意義など考えるまでもないですし、
そんなことを考え始めれば、誰もが不安になるはずです。
その不安をこの小説は突きつけてきます。
生きにくさや不運などをすべて受け入れて
生きてきたはずのリョウは
その生き方そのものを否定されます。
実は「ボトルネック」となっていたのは
自分自身だと気づきます。
現実を変えようとしなかった消極さを
ごまかして生きていただけでした。
米澤穂信はまた、作品を発表するごとに
古典的な小説手法を踏襲するのですが
この作品ではリドルストーリーに挑戦しています。
これが成功しているかどうかはわかりませんが
ただ前向きに変化するリョウよりも、
このようなラストが似合うのかもしれません。
紙の本
異空間の世界に入り込む
2019/02/16 17:30
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
米澤穂信の初期の作品である。これを読んで米澤の発想は面白いと思った。自分が生まれていなかった世界にワープするなどは、あまりにSF的で詰まらないと思わせるものだ。しかし、そこを我慢すると後は興味深い世界が味わえる。ワープの仕方などはあまりにステレオタイプでやれやれと思う。問題はその後である。
自分が生まれなかった世界に忽然と現れる自分。そういう世界にワープしたとは思わず、帰宅したが誰もいないはずの自宅には、見知らぬ若い女性がいた。お互いにお前は誰だと驚きと自己防衛で喚きあう。この辺りから読者は引き込まれてしまう。これから何が起こるのか? 相手の若い女性は一体何者なのか? という疑問である。
タイムマシンとは異なるが、異空間と言えば異空間である。タイムマシンであれば、時間の経過とともに様子が分かってくるのだが、話が合うこともあれば、合わないこともある。全く異空間でどのように生きていけばよいのか苦悩する主人公である。
この2つの別の空間では実在する人物も同じである。同じというのは名前や年恰好が同じということで、当然主人公から見ればすでに顔見知りだと思う。ところが、相手は自分が誰だかわかっていないように思われた。ますます、理解しがたい世界に映るだろう。
この小説もミステリーというのだろうか? まことに不思議な世界を見たような気がした。続編も読みたいところであるが、やめた方がよさそうだ。
紙の本
挑戦する作家
2022/02/08 11:09
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GORI - この投稿者のレビュー一覧を見る
直木賞受賞の「黒牢城」を読んで今までの小説も読んでみたくなり手に取る。
東尋坊で気を失った主人公了は何故か金沢市内で目が覚める。
しかしその世界は了がいた世界ではなくて、了がいなかった世界。
生まれてこなかったはずの姉と共に、亡くなったはずのノゾミや兄に出会う。
自分が何事にも「受け入れるしかない」と生きてきた事によって、みんなは失われてしまったと気付く了。
了はボトルネックの意味を理解し、この世界のボトルネックは自分だと考える。
米澤穂信はミステリー作家だが、物語もしっかり面白い。
本作もSF的な異世界を舞台に、物語をしっかり描き、単純な結末に終わらせない凄みを感じる。