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紙の本
本がくれるひと色
2010/07/02 11:12
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説家角田光代の書評集である。本人は「感想文集」という。なぜなら、「評論家ではない私には評なんかできない。読んだ本の感想や好きな作家への愛情を、ただ書き綴っただけ」だからという。
そうはいっても、これはれっきとした書評集だろう。
愛情そのものが批評なのだ。批評をくぐりぬけた地点に愛情がある。盲目の愛というのがあるが、実際にはそれだって自分という生き様を濾過した結果であるのだから。
冒頭の「交際履歴」という短文がいい。
もちろん、ここでいう「交際」とは本とのそれである。角田の本との交際をつづったものだ。
小学二年の入院中におばが持ってきてくれたサン=テグジュペリの『星の王子さま』を退屈な本だと放っていた著者はそれから何年も経った高校二年になってようやくその素晴らしさに気づく。以来、彼女はどんな本を読んでも「つまらない」と決めつけないことにする。
「つまらない本は中身がつまらないのではなくて、相性が悪いか、こちらの狭小な好みに外れるか、どちらかなのだ」。
だから、この本でまとめられた本たちは、みんな角田との相性がいい、角田にとっては「おもしろい」ものばかりといえる。
そんな本好きの角田だが、たくさんの本を前にして「途方もない気持ち」になる。誰だって同じだ。この世界にある本を数限りなくある。
角田がこの本で紹介しているたくさんの本のほとんどを私は読んでいない。読んではいないが、角田と同じように「本がある世界の幸福を噛みしめ」ているのも事実だ。
そして、「もしこの本が世界に存在しなかったら、いったいどうしていただろう」と考える角田と同様、「その本に出合えなかったら、確実に、私の見る世界には一色足りないまんま」だとしたら、その一色を教えてくれるこの本はとても刺激的な「書評集」だといえる。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
紙の本
まずカバーがいいです。これで女性客は手を伸ばす。読書案内とあるので、角田ファンだけでなく本好きもゲット。おまけにミステリだって取り上げられている。いやはや・・・
2011/05/25 19:44
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
好きなカバーです。まず、何といっても色合いが好き、ともかく温かい。遠目に見たとき、その色合いとモチーフから「あ、ミヤケマイさんの絵だ!」なんて思ったのですが、全く外れでした。でも、画面構成や猫の置き方や、その描き方はなんともミヤケ風。ま、色合いは時代なのかもしれません、クールよりは暖かいほうが好まれる。そんな装画は、野田あい(もしかして、初見かも、この人)、装丁は坂川栄治+田中久子(坂川事務所)。
出版社のHPには、
*
人気直木賞作家による、最高の読書案内!
小説はもとより、エッセイの名手でもある角田光代さん。
本書は、幼い頃から活字を追いかけ、膨大な、そして幸福な時間を過ごしてきた彼女の「読書にまつわるエッセイ」と、さまざまなジャンルにわたる「物語」への愛に満ちた書評からなっています。
物語を見渡す、作家ならではの観察眼。そして読書家としての、物語に向ける誠実な愛情。物語に深く沈みこむことの幸せとまだ見ぬ書物との出会いの高揚感を、教えてくれます。
角田さんは「あとがき」に、こう書いています。
「こんなにも世界にはたくさんの本がある。私はこれらの活字を追いながら、じつに膨大な、幸福な時間を過してきた。その幸福な時間が、この一冊には詰まっている。
けれど世界にはもっともっと本がある。本を読むことで、笑ったり泣いたり怒ったりざわざわしたりどきどきしたりうっとりしたり、これだけゆたかに感情を揺さぶられてきたけれど、また別の方法でふれてくる本が(略)まだまだ多くあるのだろう。そう思うと、本当に途方もない気持ちになる。」そして、「紹介した本のなかの一冊でも、おもしろそうと思って手にとっていただけたら、こんなにうれしいことはありません。これからもともに、本のある世界で愉快に暮らしていきましょう」と。
*
とあります。私は小説とエッセイがあれば、まず小説に手を出す人間なので、エッセイの場合は作家とテーマを選びます。小難しいことばかり言っている、エラソーな、難解を売り物にしている、文章の下手な作家は基本的にスルー。哲学ものもダメ。人間の顔が見えるようなものは、それだけで合格。歴史エッセイも嫌いではありません。じゃあ、この本は、といえば、まず著者がいいです。しかも読書もの。ま、重い小説を得意とする角田ですから難しい本が出てくる可能性はある。でも、文章に癖が無いから、スラスラ読んで新しい世界を知ることだってありうる。
というわけでスンナリ読書。目次は最後に示しますが、巻末に著者別書評索引がついているのが親切です。この索引、分類の仕方にはタイトル別もあれば、今回のように著者別、キーワードなどいろいろありますが、読書案内には付いてくるのが当たり前、と思っていたんですが、これがどっこい、そうは問屋がおろしません。桜庭一樹『本に埋もれて暮らしたい 桜庭一樹読書日記』なんて、ついていないんです。え? ウソ! なんて思います。
索引があると、角田がどの作家に興味を持っているかが良く分かります。複数の作品が取り上げられた作家では、ジョン・アーヴィング、伊坂幸太郎、伊藤比呂美、内澤旬子、江國香織、大島真寿美、開高健、川上弘美、桐野夏生、栗田有起、中島京子、夏石鈴子、橋口譲二、東野圭吾、星野博美、森絵都、吉田修一、ジュンパ・ラヒリが二冊、井上荒野、三浦しをんが三冊、佐野洋子、長島有、藤野千夜が四冊となっています。常識的には数が多いほうがお気に入り。ま、本文を読みながらメモをとれば、こんなことは出版社の手を借りなくても出来る、という方もいらっしゃるでしょうが、私のように横着な人間には無理。他人に期待するのは間違っているのでしょうが、やはりこの本のように索引は必要でしょ、読者サービスというより本の性格上・・・
なかでも、意外なのは、ミステリの存在で、伊坂幸太郎、桐野夏生、篠田節子、東野圭吾、横山秀夫の作品が取り上げられ、伊坂、桐野、東野は二冊組に入っているのです。そういえば角田の『森に眠る魚』は、双葉社の「小説推理」に連載されたし、『八日目の蝉』なんてサスペンスとして読めます。新しい『ツリーハウス』だって、家族の謎に迫るわけですから広義のミステリといえなくもない。ま、現代の小説にはこの要素が不可欠であることは事実なんですが・・・
で、です。この本で取りあげられ、私も読んだものを上げれば、ジョン・アーヴィング『未亡人の一年』伊坂幸太郎『魔王』『あるキング』川上弘美『光ってみえるもの、あれは』桐野夏生『グロテスク』『メタボラ』桜庭一樹『ファミリーポートレイト』篠田節子『薄暮』高田侑『フェイバリット』藤野千夜『中等部超能力戦争』リチャード・ブローディガン『不運な女』三浦しをん『私が語りはじめた彼は』『きみはポラリス』『悶絶スパイラル』森絵都『いつかパラソルの下で』『ラン』横山秀夫『臨場』ラッタウト・ラプチャルーンサップ『観光』ジュンパ・ラヒリ『その名にちなんで』イーユン・リー『千年の祈り』ロレンツォ・リカルツィ『きみがくれたぼくの星空』となります。
やはり、クレストブックをよく読んでいれば、角田や桜庭とどこかで出会っても話題に困らないかも、なんて思ったりして。それと「1 本のある世界でよかった」に出てくる本は、なぜか著者別書評索引に出てこないので、そこから武田百合子『富士日記』(積読)、向田邦子(もうじき、全作品を読み終わるので)、サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』を追加しておきましょう。
そういえば、角田の『愛がなんだ』を読んだ時に、主人公のダメ女ぶりに『ライ麦畑』を連想したことを思い出しました。最後は目次のコピー。
1 本のある世界でよかった
交際履歴
美の信仰者 川端康成
強い小説 太宰治『斜陽』ほか
2 読書の部屋1 2003~2006
日常に溶けこんだ万華鏡世界 長嶋有『タンノイのエジンバラ』
増殖した「我」がゆがむとき 桐野夏生『グロテスク』
においのゆたかな、うつくしい小説 川上弘美『光ってみえるもの、あれは』ほか
3 読書の部屋2 2007~2009
強くて開いている小説と明晰を超えた言葉 大島真寿美『青いリボン』大竹伸朗『ネオンと絵の具箱』
生きることはかくも理不尽である 鴨志田穣『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』ほか
あとがき
*
著者別書評索引
紙の本
「これからもともに、本のある世界で愉快に暮らしていきましょう。」と光代さん!
2010/08/09 13:20
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 なおこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本を読むのがたいそう好き、
そうして、書評集を読むのもすこぶる好き、
それも、ひいきにしている作家が手がけた一冊なら、なおさら…。(^-^)
2010年にデビュー20年を迎えた角田光代さんの書評集!待ってました!という気持ちです。
「読んだ本の感想や好きな作家への愛情を、ただ書き綴っただけ。だから、収録してある本は、ほとんどすべて、読みたくて読んだものであり、読んでみておもしろかった本ばかりだ」と、あとがきにありました。
いつものごとく付箋を片手に読みだしたら、「あっ、この本読みたい!あっ、これは読んだ本だけどまた読みたい!」…と、気になる本ばかり!次から次へと付箋を貼っていき、付箋一冊があっという間になくなるほどの勢いでした。なにしろ、目次に並ぶ、書評タイトルを読んだだけでも、ぞわぞわしてくるのです。
☆においのゆたかな、うつくしい小説→『光ってみえるもの、あれは』
☆余白からにじみ出る気持ち→『手紙の力』
☆永遠よりももっと頑丈なもの→『ベジタブルハイツ物語』
そうして私はぞわぞわしながら、角田光代さんの言い回し、紡ぎ出す言葉が好きなのだなとつくづく思うのです。数々の本が紹介される中、特に佐野洋子さんが書かれた本への熱狂ぶりには、同じく佐野洋子さん中毒者の一人として、「そう、そう、そう!」と大共感の大嵐でした。(^-^)
そうそう、平松洋子さん『おんなひとりごはん』の書評では、ふらりと立ち寄った書店で著者サイン入りを見つけ、なんだか得した気分で買ったというくだりがあり、「ええ、平松洋子さんのサイン入りの本が書店に並んでるの~!!!やはり都会の書店はすごいなぁ~」とちょっぴりうらやましい思いがしました。
「これからもともに、本のある世界で愉快に暮らしていきましょう」あとがきの最後はこう締めくくってありました。この一冊は、まさに角田光代さんから手渡しされる本のプレゼント、ですね。
実はこの本の書評をじっくり書こうと、半月ほど前から決めていました。私がオンライン書店ビーケーワンに書評を投稿しはじめて約5年。この本がぴったり500冊目となりました。その500冊目にふさわしい、なにかこう、記念になる本はないかと探していたのです。心をぐらりと動かされる書評、私もぜひ読んでみたいと思う書評…がこの一冊にはぎっしり詰まっていました。
「こんなにも世界にはたくさんの本がある。
私はこれらの活字を追いながら、じつに膨大な、幸福な時間を過ごしてきた。その幸福な時間が、この一冊には詰まっている。」と光代さんは言います。本当にそうだなぁ~と思うことしきり。また明日から初心に戻り、一冊一冊を大切に読み、自分がおもしろいと思った本の書評を投稿をしていきたいなぁ~と改めて思ったのでした。(^-^)