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紙の本
村上さんの短編をメンシックさんのイラストが彩るアートブック
2023/06/27 16:44
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
本人もあとがきで触れている様に、何時になく昂揚感を感じます。ラストは様々な解釈の含みを残しつつ、不思議な物語は短いながら充実感があります。相変わらず例えの表現が冴えているし、読んでいてのめり込んでしまいます。独特のイラストも雰囲気があって良かったと思います。
紙の本
研ぎ澄まされた闇
2012/01/09 13:46
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹が1989年に書いた長めの短編「眠り」を一部改稿(本人の言葉では「バージョンアップ」して)、イラストレーション付の単行本として2010年に出版したものである。
私事だが、いつの頃からか村上春樹が読めなくなった。話題作が次々と出るので読もうとはするのだが続かない。以前は、好きというほどではないにしてもけっこう読んだのに読めない。作家の人気はますます上がって話題になることも多いわけだから気にはなる。なぜ自分が読めなくなったのかも気になる。
そんなときにこの本のことを知った。一冊の本だが、一つの短編である。短編なら読めるのではないかと思った。そして読めた。
日常の中にある漠然たる不全感、不満を何と呼ぶだろうか。空虚感、閉塞感、停滞感、退屈、物憂さ、不確かさ、不安。この小説はそうしたものを扱っているように思える。
読み終えて私に一番しっくり来るのは空虚感のような言い方だろうか。心、いや、この物語ではそれはほとんど肉体的な感覚として捉えられるのだが、存在の核心の空洞のようなもの。思えば、村上春樹をはじめとする日本の現代作家たちは、しばしば必ずしも根拠や原因のないそうした空洞を扱ってきたような気がする。そしてそれに多くの読者は共感するのではないか。
ここで描かれるのは、ある日突然、何かに憑かれたかのように(この点はけっこう重要ではないかと思う)眠れなくなる女性(=語り手)の話である。家族は何も知らず気づかず、そこに訪れた深い孤独の甘くしかし危うい誘惑。
いつものことだが、村上春樹の小説は象徴性が高く、いろんな解釈を誘う。それを曖昧として嫌う場合もあるだろうが、むしろそこに大きな魅力を感じる読者は少なくないはずだ。私は未読だが、最近刊行された加藤典洋の『村上春樹の短編を英語で読む』(講談社、「英語で」という部分はあまり気にしなくていいらしい)では、村上春樹の精神の危機が訪れた時期に書かれたこの短編(厳密にはその元になった「眠り」)を一つの軸として重視しているらしい。
なるほど精神の危機の時期といわれれば納得できるものがある。眠りについての考察から始まり、語り手の意識は人間の存在、その生や死の問題へと深まってゆく。それはいわば瞑想小説という趣もあるものの、しかしその先にあるものは思いがけず激しく恐ろしい。ふつうではありえない不眠など、設定と展開にはカフカあたりを思わせるようなシュールなものがあるわけで、最後はホラー小説のような趣きすらある。
私が理解した空洞、それを突き詰めるとここに至るのか、という思いである。村上春樹が読めなくなったと思っていた私がこれを読み切れたのは、おそらくはここまで研ぎ澄まされた闇の濃密さのためである。
なお、イラストレーション付の出版というのは、後書きによればそもそもドイツの出版社の企画刊行だったそうで、それを見て気に入った作者が日本語版を考え、それを機に改稿もしたとのこと。絵はシュールな感じで、好みによって敬遠する読者もあるだろうが、物語の内容とよくマッチしているのはたしかだろうと思う。
紙の本
覚醒した暗闇
2010/12/27 07:33
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
多分この本の読み方は、オリジナルな版とのちがいを読み解くというのが正しいのかもしれない。それで、1989年の村上春樹と2010年の村上春樹を比較し、作者の心情の変化や表現方法の多様化を書くべきなんだろう。しかし、きっと誰かが、どこかで、それはするだろうから、ここではしない。
ここで書いておきたいのは、これがドイツの出版社で出されたものだということだ。この本にはカット・メンシックという人が描いたイラストレーションが多数収められている。作者はその絵を「とても新鮮」だと感じた。きっとそういう読み方を作者である村上春樹自身が感じたのだろう。
このドイツの出版社はもともと美術書を出していたところらしいが、絵による想像の喚起は作者そのものも刺激するということだ。だとしたら、読み手である我々もまったく新しい作品に出会えるということでもある。それこそ、この作品に書かれた「覚醒した暗闇」のような気がする。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。