海や空といった、これまでデータ収集の難しかったところで生きる生物の姿をデータロガーで解き明かす格好の生物学の入門書。翼竜に触れたページは少ないけれど、翼竜にだけ興味が有る方も読んで損はありません。
2011/12/05 22:44
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投稿者:Skywriter - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待』で、データロガーという武器を引っさげ、地上からの限られた観察ではすべてを把握することなどできない動物の生態を明らかにした著者が、更に新しい実験結果でパワーアップして帰ってきた。
前著では、ペンギンとクジラという、種もサイズも食べものも異なる生物が、同じほぼ同じスピードで泳ぐという、意外な事実を紹介していた。ところが、本書では、この結論の否定から始まる。総論として、秒速1~2メートルで泳ぐというものは変わらないが、それでも種の中で比べてみると、サイズの大きい種の方が小さい種より速く泳ぐ、というのだ。
本書で提示されているグラフを見ると、確かにペンギン類の中ではサイズが大きくなるほど遊泳速度は速くなるようだ。何故そのような違いが現れるのか。その背後には、物理的な根拠がある。その根拠を素人にも分かりやすく(入門書ゆえ、数式を用いずに)説明してくれているので、説明に筋が通っていることが分かる。
得られた結果そのものも面白いのだが、その理由もきちんと説明するところは前著に共通する良い点だ。パワーアップしているのは、扱う動物が水棲動物だけではなく、鳥類にも拡大されているところ。
ウミガメやマンボウでデータロガー回収の見込みが経てば、次は鳥。そんなわけで、国内外の鳥類調査に乗り出す。その好奇心の広さは驚くばかりだ。悪く言えば節操がないのだろうが、こういう横断的な研究は、きっと動物学の世界に新風を吹かすに違いない。
その好奇心の行き着く先は、既に絶滅した翼竜。タイトルには翼竜が冠されているが、実際に翼竜を論じているのは最終章のみ。だが、翼竜の項に辿り着くまでに、様々な知見が積み重ねられているので、著者が翼竜がどのような生物だったと考えているかがわかりやすくなっている。その結論は、翼竜は仮に古生物学者が提示しているサイズと重さが正しいならば、空を飛べるわけがない、ということだ。一方で、翼竜が空を飛べなかったわけがない(飛べなければ翼は無用の長物となり生存競争に不利になってしまう)。では、翼竜はどうしていたか?その答えは是非本書を見て欲しい。
新たな面白い知見に加え、データを取るための苦労を織り込んでいるのも嬉しい。押しかけてきた女子学生に無理難題を吹っかけるつもりが見事な成果になって返ってきたり、鳥のデータを集める時には手を散々につつかれて生キズが耐えなかったり、講演でアメリカに行ったら用意されていたホテルがインド人と同室で、自分は熟睡したけどインド人は眠れなかったみたい、といった、研究にまつわる思い出話が楽しい。生物の素晴らしさと不思議さ、そして研究の楽しさが生き生きと書かれた、格好の入門書だと思う。
興味を持たれた方には、前著の『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待』も併せてお勧めしたい。
副題のほうがメインテーマ
2023/03/18 11:46
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
データロガーという新兵器を駆使して様々な動物の行動を観察記録し様々な視点で分析し法則性を見出している。大小様々な動物の活動に一定の規則があるというのは大変に面白い。一方、主題の翼竜はなかなか登場せず、登場しても出番は多くない。副題のほうがメインテーマな本である。
動物に記録装置を取り付けての研究はドキドキのアドベンチャーの面白さ。でも翼竜がなかなか出てこない!
2011/02/03 16:51
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「スケールと行動の動物学」という副題が示すように、動物の大きさ(スケール)と動きの関係研究の話です。動物、主に鳥類の飛翔行動の研究を扱っています。その流れの中で著者がぶつかった疑問が「巨大翼竜はとべたのか」です。
カメ、ペンギン、マンボウ、ウ・・・、データの考察・説明も丁寧で、特徴であるバイオロガー(動物に取り付けて行動を記録する装置)を使った研究がよく伝わってきます。この方法で初めてわかったことなどもたくさん載っています。種ごとに違った苦労があり、離島サバイバルか冒険航海記のようなドキドキはらはらの面白さもあって著者や一緒に研究した大学院生の方たちの熱を感じます。研究内容の説明もデータつきなので数値計算やグラフなどが出てはきますが、わからなくても面白く読めます。
でも、タイトルに引きずられて読み始めたせいでしょう、巨大翼竜にいつつながるの?との疑問がずっとつきまとい、面白いのになにかイライラして読んでいました。最後の40ページぐらい、というところでやっと翼竜の話になります。「翼竜はまだか」と思って読んでいると面白さが減ってしまうようなのでタイトルにもう一工夫あればよかったかも。ということで評価は星一つ減、です。
ともあれ最終章では、表題までに至る経緯と展開が語られます。著者が現生動物研究から得られた数値からだと、巨大翼竜は「推定されている」体重や翼長では「飛び続けられない」と考えざるを得なくなる。(「飛べたのか」というタイトルの表現となにか微妙に違うかも、と思うのですが・・・。)
著者が巨大翼竜についてのこの疑問を2009年に国際論文にすると、古生物の研究者からの反応だけでなく、メディアを通して知ったらしい一般の人からの反論がすごかったそうです。
現生の生き物でのデータを古代にすぐ当てはめることができるのか。古代の生物で「推定されている」大きさや重さなどの数値スケールの推定方法はまだ検討の余地があるのではないか。著者は「学術的議論は歓迎」と書いています。このような本にしたのは、メディアで聞いて反論する一般の意見に困惑したからもあるではないでしょうか。
ブログやツイッターが普通になり「だれもが書く時代」なのだそうですが、やはりそこは「よく自分で検討して」とお願いしたいものだと思いました。読者も、自分できちんと評価したいと思う事柄については、もう一段進んで実際の研究者の著書、原著にも手を伸ばして確認する努力も必要でしょう。メディアも「面白そうなところ」だけが伝わらないように、細心の注意をお願いしたいものです。書評もしっかり読んでから書かなくては、と改めて気を引き締めました。
余談ですが、ひとつとても気になっていることがあります。オオミズナギドリの観測(第五章)で「一回目荒れたのは未婚の女性を無断で入れたためかと思い、島の弁天様に若い男子学生を生贄に捧げたらその後は順調だった」とあります。その学生さんはどうなったのでしょう。生贄になってずっと島暮らしだったりしているのでしょうか・・・?
バイオロギングサイエンス
2019/01/21 22:15
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投稿者:6EQUJ5 - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルから、恐竜に関する本か!と期待して手に取りましたが、翼竜の話題が登場するのは最終章。小型の記録計「データロガー」を動物に取り付けてデータを集める「バイオロギングサイエンス」、原生生物の分析が中心の一冊でした。
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野生生物に加速度や圧力のセンサーを取り付け、その生態を解き明かす学問をバイオロギングと呼ぶ。本書の著者、佐藤克文は、ウミガメ、ペンギン、ヨーロッパヒメウ、カワウ、アホウドリ等、種々の海洋生物にデータロガーを取り付け、その遊泳速度や飛行速度と体長、体重の関係を専門としている。フィールドワークをもとに定量的なスケーリング則を導くことを得意とする研究者のようだ。
一般に、動物はコストを最小にするような移動方法を選択するとされるが、その経済的な移動方法(たとえば、海鳥の離水時の羽ばたきの周波数と飛行中の羽ばたきの周波数)は体の大きさに縛られる。そして、データロガーを用いることによって、そのような関係を定量的なスケーリング則としてまとめることができる。本書では、主に水中生物の遊泳に関するスケーリング則と、海鳥の飛翔能力に関するスケーリング則を取り扱う。最終章では、翼竜の飛翔能力に関する言及もあるが、主役はあくまでも原生生物である。一部、初等的な数学を使用した解説もあるが、大半はデータ取得のためのフィールドワークの話なので、数式にアレルギーのある人でも無理なく読めるだろう。理系の人には、フィールドワークが定量的な法則にまとまっていく過程が新鮮に映るかもしれない。
何より、研究者としてのパワフルな姿勢がそこかしこに垣間見られるのが、非常に良い。文章にも乱れがなく、最前線の研究者のエッセイとしても良質だと思います(一つだけ変な誤植がありますが・・・)。とにかく、久々に新書を読む醍醐味を味わうことができました。
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センサーとペンギンとオオミズナギドリとかとか、と、最後に翼竜。ロガーでのフィールド調査が面白い。加速度データによる動物の行動の解析が勉強になる。
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動物は日本人よりもエコノミックだ。
いかに少ないコストで高いパフォーマンスを得るか、
それは楽に生き延びるための必須能力なのだから。
知ってるようで知らない、
海を泳ぐ動物と空を飛ぶ動物の様々なアロメトリー。
そこから最後の翼竜の話題への流れは、
物語を読んでいるような気分でとてもワクワクした。
(ほんと最後にちょっとだけだったのが残念)
ちなみに、
数字の部分をほぼ飛ばして読んでいたので、
そこんとこ理解できればもっと面白いと思う。
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中部経済新聞2011.03.01。
「データロガー」という装置をつけて研究した動物たちの行動と体の大きさの関係を考察したものだそうです。
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(推薦者コメント)
一般に、プテラノドンなどの翼竜は飛べたと考えられている。しかし、最新生物学の動向では、これが否定される研究結果が見つかってきた。その現状に迫る。
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今日の帰りの長~い乗車中(台風15号)に読んだけど,やきもきしてて細かいとこはちゃんと追えなかった…。「バイオロギングサイエンス」の成果で古生物の常識を覆す!みたいな。
生物の生態を研究するのに,各種センサを搭載したデータロガーを個体に取り付けていろんなデータをとることが行なわれるらしい。最初は観察の難しい水生動物を調べる目的で,それが空飛ぶ動物にも有効になってきた。最新のは加速度センサもついてる。
しかし前フリが長く,なかなか翼竜の話にならないのはじれったい。まえがきでも断ってはいるが。二乗三乗の法則やそれが水生動物には成り立たないこと,ウミガメ,マンボウ,ヨーロッパヒメウ,オオミズナギドリなどで200ページを費やした後,いよいよ翼竜の話に。
空を飛ぶ動物は,大きくなればなるほど飛ぶのが難しくなる。重力と筋力の関係で。だから翼長10メートルもあるようなケツァルコアトルスみたいのは普通に考えて自力で飛ぶことはできないと結論する。一般に推定体重70キロとされているが,これは著者にとってあり得ない数値だからだ。
自力で飛べないなら,強風を受けて上昇すればいいかと思うとそうでもない。自由に離着陸できないようでは生き残れないと著者は言う。それならどうやって飛んだか?二つの可能性を挙げている。揚力と重力。
飛行するには揚力と重力が釣り合っていなければならない。揚力は空気の密度に比例するので,翼竜のいた時代の大気の密度が今より大きかったら重力にうちかつ十分な揚力が発生できたのではないか,という。もう一つは重力が昔は今より小さかったのでないか,というが,さすがにこちらは自分でもトンデモない説だと言っている。でも,大気密度にしたって,揚力だけでなく空気抵抗にも比例するんだから,抵抗が増えたぶん余分な推力が必要になるので,違うんじゃなかろうか。余計な筋力がいるよな…。
化石から翼長を推定するときに,現生のトリとか参考にしてるのが間違いのもとという話の方がしっくりくる。10メートルもなくて,もっと小さいと考えれば,推定体重が軽いのも案外納得いくのではないだろうか。
著者の研究遍歴が面白い。長らくウミガメ研究をしてきたそうだが,水産学科だったため,食べられないウミガメを研究するのに技巧的な説明が必要だったとか。「ウミガメが網にかかって死ぬような水産業ではダメ,持続可能な漁業を模索する為ウミガメ研究が必要」なんだって。
そのあと極地研に移るが,ウミガメはむしろ小笠原とか熱帯の海にいる。そこで「新装置をいきなり南極にもっていくのはマズイ。装置のテストにウミガメはもってこい。」という言い訳がいったとか。東大海洋研に移った今は,そういう心配がなくなったそうだ。
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タイトルにはかなり問題あり。
内容も別段紀行文、エッセイが読みたいのではなく、それならもっと文章をうまくして欲しい。学術的な話が合間に挟まれるが、データの羅列の感があり、何が新しい発見なのかが読み取りづらい。
翼竜の件は、大槻教授の超能力批判のような構図に見えるのだが、何で批判されているのか作者は良くわかっていないようだ。「できるわけがない」だけでは人を納得させることはできない。フォローの仮説もあるが、全体のトーンが否定だと印象がかなり悪い。
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種や生活環境の違いを越えて生き物たちの「サイズ」と「はばたき」に注目して比較研究された内容で、タイトルの巨大翼竜もこの関連で出てくる
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巨大翼竜は飛べたのか。
飛び続けられなかったというのが結論。
それを色んな動物のデータを元に導く。
僕の好きな学者偏愛物。大学の教授らしい研究ジャンルへの愛に満ちている。愛は暴走もするのだが、それも傍からみれば微笑ましい。
本著も学者の研究論文よろしく様々なデータが羅列されている。僕のような文系人間は、気持ちよく飛ばせばよい。データなど、結論を導くための接続詞に過ぎない。
最終章だけ読んでもわかるし、データを取るためのルポの部分だけ読んでも充分楽しい。
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動物の体のつくりと行動の相関関係が緻密なデータで明らかにされていって、緻密なデータの部分はさっぱり??でしたが、おもしろかった。
ウミガメからペンギン、アホウドリときて翼竜にまで広がっていく好奇心が、楽しそうでよい♪
この先生、研究所が大槌町にあってご自宅が釜石だそうで・・・。あとがきに「2010年12月、この時期にしては妙に暖かい岩手県三陸沿岸にて」って書いてあるのが怖い…(津波で研究所にあったデータ等は流されちゃったけど、学生さん方もご無事だそうです)
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著者の佐藤先生は、京都大学大学院農学研究科水産学でウミガメの研究の成果で博士号を取ったそうです。
水産学という学問は、食用にされる海や川の生き物をターゲットにするわけですから、ウミガメというのは異色だったそうです。
けれど、データロガーという小型記録装置を取り付けて、その生き物の速度や加速度などの行動データを解析するバイオロギングサイエンス(動物が記録する科学)がやりたくてウミガメを選んだようです。
その後、東京大学海洋研に所属し、様々な生き物の行動を計測し、その結果を分析したところ、タイトルにあるように巨大翼竜は(少なくとも継続して長時間は)飛べなかったという結論が論理的に導かれたというわけです。
★★★
ちょっと面白かったのが、逆上がりの話。
例えば、子供の頃に得意だった鉄棒が、大人になると苦手になったりする。子供の頃にはいとも簡単に逆上がりができたのに、小学生にお手本を示そうと思って久しぶりに鉄棒をしたら、逆上がりができなくなっている自分に気がついて愕然とした、そんな経験はないだろうか。これは、胴回りに醜く付着した脂肪層のせいだけではない。
─略─
もしも、子供のときから全く体系が変わらぬまま、身長が2倍になったとしよう。筋力は筋断面積に比例するので、腕の筋肉は子供の頃に比べて、4倍の力を生み出すことができる。しかし、悲しいことに体重は8倍になってしまっている。結果的に、鉄棒する大人の体重を支えるだけの腕の筋力は圧倒的に不足することになる。
なるほどね。ついこの間、アイススケートで異様に足首に力が掛かって「こんなはずでは」と感じたのも足の筋肉の成長が2乗倍なのに比べて体重の増加が3乗倍だったからなのかな。
★★★
さて、ジャンルは違えど、ソフトウェアでもデータロガーの考え方はありますね。
メトリクスというやつです。
昨年のSQiP研究会で、IBMの細川さんや、ソニーの永田さんが率いるレビュー分科会では、『間接的メトリクスを用いて欠陥予測を行うレビュー方法の提案』というタイトルで、プロジェクトのコンテキストに目を向けた間接的データからどこをレビューすると効率的かというユニークな研究をしていました。
とても、面白い研究で、きちんと相関が検証されるデータがそろえば、この本のように『巨大プロジェクトはリリースできたのか』といったタイトルでまとめられるんじゃないかなぁと思いました。
# 今回の、東日本大震災で、佐藤先生の研究室も被災されたとのことです。「津波によって、全ての紙資料とHDやCDに保存したデータが無くなった」という一文を読んで涙がでそうになりました。かける言葉もありません。