紙の本
大陸に住む、という国民性と、かつての宗主国との複雑な関係
2016/04/16 16:49
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京創元社が大プッシュしてたので、読んでみた。
タイトルからもバーネットの『ひみつの花園』を連想させるではないですか(実際は『秘密の花園』なのでしょうが、最初に読んだのはそういうタイトルだったのです)。 ゴシックロマンかなぁ、と思って。
1913年、ロンドンからの船がオーストラリアの港に到着した。 乗客が去った後、一人の少女が取り残された。 自分のことを何も覚えていない少女は港湾職員夫妻に引き取られ、ネルと名付けられて過去のことはすべて忘れて育てられるが、21歳の誕生日に父親から真実を告げられる。 そのとき持っていたトランクの中には身の回りの品と一冊のおとぎ話の本。
2005年、ネルの孫のカサンドラは祖母を看取り、自分にイギリス・コーンウォールのコテージが遺産として譲られることを知る。 何故祖母はイギリスの不動産など持っていたのか。 カサンドラはネルの過去を追い、ネル自身が探し求めた自分の過去を追体験する・・・というような話。 これに、おとぎ話の作者イライザ・メイクピースの生きた時間1900年前後の時代が絡み、100年以上にわたる物語がタペストリー状に展開していくのです。
ミステリを期待すると、正直ちょっと肩すかし。
でも『ひみつの花園』や『嵐が丘』、『オリバー・ツイスト』などなどの作品群の雰囲気が漂い、程よいゴシックロマンが楽しめます。
しかし作者ケイト・モートンはオーストラリア人だそうで、以前に別の人の作品ではあるがオーストラリア人作者による『古書の来歴』を読んだときにも感じたのだけれど、結構大雑把というか、「えっ、それちょっと無茶だろ!」な描写がみられる・・・オーストラリア大陸に育つが故のおおらかな国民性ですか?(そのあたり、訳者あとがきにも書かれていて大爆笑であった)
が、なにより特筆すべきは翻訳がいいこと! あたかも日本人作家が書いたかのような自然な文体が素晴らしい。 装丁もシックだし、中身も語り手によって活字を変えたりするといった工夫が素敵。 内容が一部あれなので子供には薦めにくいが、でも小学校高学年ならば十分読めるし、もしかしたら自分の趣味嗜好を変える作品になるかもしれない。 三つ子の魂百まで、です。(2011年10月読了)
紙の本
家族を中心にまとまろうとする力、家族から遠くへと離れようとする力。その緊張関係がもたらすいくつものドラマ。これはある血族の悲劇、ビクトリア朝末期の世紀末から現代に至る血の相克である。
2011/04/29 18:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
1913年、ロンドンからオーストラリアに着いた船にたったひとり残された少女ネルに何があったのか。
魔法の組み紐が遡る謎の原点には名門貴族・マウントラチェット家の家族関係があった。
ビクトリア朝世紀末と現代にまたがる家族関係の普遍性とは?
私は『家政婦は見た』という二時間テレビドラマをよく見た。俗受けするドラマの典型で市原悦子の個性が大金持ち家族の内部事情を覗き見するところに面白さがあった。この作品の謎解きも、つまるところ家庭内事情の暴露にすぎないのだが………。『家政婦は見た』の金銭欲、相続争いとはまるで次元が異なる。
マウントラチェット家の家庭内事情とはなんであったか。
それはイギリス繁栄の絶頂期であったビクトリア朝末期、いわゆる「世紀末という時代」そのものであったことに気づかされる。
まだ身分制度の下で、王侯貴族が領民を貧しいままに支配する社会構造があった。一方で産業革命の成果を得た新興勢力が台頭し、労働者という新しい貧困層が量産されていた。光と影は交錯しながらも、堅固だったはずの貴族たちの楼閣は崩壊していく。
ところが貴族たちは以前にも増してその身分にふさわしい格式にこだわる。虚栄であり、偽善であり、はきちがえたプライドだ。欺瞞。世間をはばかる事件が起これば隠蔽する、身内を幽閉することもあったという。また性的関心については、実際にはどうしようもないスケベなのに、表ではまったく存在しないように振舞った。特に女性や子どもは性的なことに無知で無邪気が美徳とされた。カマトトの奨励である。これを「ビクトリア朝、偽善の道徳」とよんだ。
マウントラチェット家の主・「ライナス」(1860年生まれ)は隠微な倒錯の世界にさまようだけの男だが、幼児期に肉体的、精神的ダメッジをうけている。取り繕わねばならない男の卑しさでもあり哀しさでもある。ライナスの妻、身分の低い家柄から嫁に来た女主人・「アデリーン」はその劣等感の裏返しに、高慢だけのプライドで「お家の大事は許しません」とことごとくを差配する。「ビクトリア朝、偽善の道徳」を徹底する人格として登場する。もちろん彼女はそれが最高の道徳だとして疑わない。
19世紀から20世紀への狭間で彼等は19世紀の枠組みにとどまろうとしてあがいていた。
いっぽう、この時代は中産階級の勃興期にあり、既成の枠を破壊し、自由を求め、偽善は偽善だと指摘する合理主義の風潮が強まりつつあった。だからライナスの妹・「ジョ-ジアナ」(1870年生まれ)とその娘・「イライザ」(1888年生まれ)はマウントラチェット家の家柄とは反対の極へ向かおうとするである。彼女たちがゴロツキの一家と住んでいた貧民窟、その猥雑と喧騒には裏表のない本音の生活が見える。
ただ、彼女たちのように個を貫く生き方を評価するのは現代であって、20世紀初頭はまだ早すぎたのだ。
「ライナス」と「アデリーン」夫婦の一人娘「ローズ」(1889年生まれ)はマウントラチェット家のお姫様だ。既成の枠組みも新しい枠組みも無関係、自己なんて持たない、かわいらしいさがとりえの文字通り、深窓の令嬢だ。なに不自由なく夢のような生活を送っていた。だが、あるとき突然、過酷な現実に直面、眠っていた本能がさらけ、意表をつく醜怪な変貌をとげるのである。
この家族の一人一人の内面が、その内面の変化が実に詳細に紡がれる。愛憎の葛藤は単なる世代間の離反だけではない。惜しみなく奪う愛であるかもしれない。嫉妬という愛の反作用かもしれない。憎しみといっても変形した愛なのかもしれない。深く見つめれば、混沌とはしているものの、家族愛あるいは母性という本源的、普遍的な求心力がそこに見え隠れするのである。離反と求心の関係が妖しく描かれる。だからこそ、それぞれの悲劇は増幅される。
エロティックでグロテスクでサディスティックな「世紀末」であるから、いくらでも露骨なハードコアで描写できるのだが、そうはしなかったところがいい。なにせ、お伽噺だ。いかにも世紀末の偽善風にお上品なベールで包んで語るものだから、あれこれと想像をたくましくさせられ、むしろ余計に扇情的である。
そして1909年生まれの少女・「ネル」になにがあったか?という謎の原点が明らかにされる。
ところで、「ネル」という房のよじれを直して見たときに、著者が説明していない謎が二つ、読者の前に残されている………と私には思われた。
21歳のネルに義理の父が出生の真実を語ったとき、なぜ、彼女はこの家庭と一線を画することにしたのか?
67歳、長い努力が報われ、自分の過去が明らかになる直前に、なぜ彼女は真相究明をやめてしまったのか?
家族。血のつながった家族もあれば血のつながらない家族もまた家族であろう。養子縁組から連れ子、現代はさらに生殖医療の発達、代理ママの実際、まして先行きクローンなんてことになればますます複雑な家族の型がうまれる。しかし、どんな家族であっても、構成メンバーのそれぞれに対しどこか求心力が働くものだ。同時に構成メンバーは自分の人生を作り上げるためにその枠組みから離脱する遠心力を持っている。いつの時代でも、割り切ることが難しい、その綱の引き合いこそ家族とそのメンバーと家族問題なのだろう。
そう考えると「ネロ」の21歳では遠心力のほうが、67歳では求心力のほうが強く働いたと私には思われるのだ。
そしてその変化がネルの成長の軌跡だったのではないだろうか。
哀しい人生ばかりの物語だった。
最後になって、祖母「ネル」の過去を追った「カサンドラ」だが、さて何歳
だったかと冒頭へと戻ってみれば。若いエネルギーを感じていたのだが、実は人生も半ば、それなりの苦労を経験した39歳(1966年生まれ)だった。
いま、彼女はこのプロセスを経てネルへの求心力を肌で感じ始めている。
そして自己再生の飛躍と新しい家族関係構築を両立させるキラキラした明日を期待させて、物語の幕を閉じようとしている。
めでたし、めでたし。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
置き去りにされた少女の身元は?という謎を中心にオーストラリア、イギリスと舞台が様々に変わりまた年代も行ったり来たりするので誰が誰だか混乱しますが、次第に引き込まれて行きました。封印されてきた花園の描写、挿入される童話の雰囲気がとても幻想的です。
投稿元:
レビューを見る
ゴシックロマンミステリ?上・下巻をまとめて書きます。
内容紹介を、表紙裏から抜粋して転載します。
『1913年オーストラリアの港に着いたロンドンからの船。すべての乗客が去った後、小さなトランクと共にたった一人取り残されていた少女。トランクの中にはお伽噺の本が一冊。
名前すら語らぬ身元不明のこの少女をオーストラリア人夫婦が引き取り、ネルと名付けて育て上げる。そして21歳の誕生日に、彼女にその事実を告げた。ネルはその日から過去の虜となった・・・。
2005年、オーストラリアのブリスベンで祖母ネルと暮らしていたカサンドラは、亡くなった祖母からイギリス、コーンウォールの崖の上にあるコテージを相続した。一緒に暮らしていながら、コテージのことなど聞いたこともなかった。1975年になぜネルはそのコテージを買ったのか。
ネルの書き残したノートと古いお伽噺集を手に、カサンドラはイギリスに渡った。
コテージは今はホテルになっている豪壮なブラックハースト荘の敷地の外れ、茨の迷路の先にあった。
カサンドラは、コテージの手入れを進めるうちに、蔓植物に埋もれるようにして閉ざされ、ひっそりと忘れられていた庭園を見出す。
封印され忘れられた花園がカサンドラに告げる驚くべき真実とは?ネルとはいったい誰だったのか?ブラックハースト荘の秘密とは?』
1900年始め頃、1975年、2005年、それぞれ別の3人の女性の物語がモザイクのように語られていきます。
2005年はカサンドラ。1975年はネル。そして最も古い時代はイライザ。
最大の疑問は、なぜ小さなネルがたった一人でオーストラリアの港に取り残されたのかということです。ネルは自身のことを知ろうとイギリスに渡り、何を知ったのか?コテージを買ったのはなぜ?亡くなるまで、そのままにしたのはなぜ?
カサンドラにとって分からないことだらけなので、読んでいる私もそこが知りたくてたまりませんでした。
作者はオーストラリア人ですがイギリス文学を研究した方なので、20世紀初頭パートではその知識がぎっしり盛り込まれているのだろうなと思います。「オリヴァー・ツイスト」を下敷きにしたような章もあります。それにコテージに付いていた庭園、これはまさに「秘密の花園」です。作中に、これは「秘密の花園」ですよ!と読者に告げているような仕掛けもあり、すごく嬉しくなりました。
本の最初に1913年当時のブラックハースト荘や庭園の見取り図が付いています。それなのにたくさんの人がいるため混乱しないようによく付いている「登場人物表」がありませんでした。付いていたら分かりやすいのにと最初のうち思ったのですが、これはあえて付けなかったのだということが、あとがきを読んで分かりました。そうですね、この小説の構成だと人物一覧表があると興ざめな部分が出てきてしまうだろうと、読み終わってみれば私もそう思います。
ネルもカサンドラも、秘密の一部しか分からなかっただろうと思います。でも、読者の私はほとんど全部の謎を明かしてもらいました!
作中作としてお伽噺集から3作品が入っています。私はファンタジーは好きなのですがお伽��は苦手。ファンタジーとお伽噺はかなりはっきりした違いがあると思っています。そしてこの作中作は、うわ~、まさにお伽噺だわ!苦手なお伽噺ですがその構成の上手さに感動。真相が分かってから改めて読むと、3作品の内「黄金の卵」からは心が締め付けられるような辛さが伝わってきました。
上下巻のけっこう分厚い本なのですが、面白くて先が知りたくて3日で読みきりました。読んですぐにもう一度確かめたいことがいくつもあり、今度は順番を無視してぱらぱらと読み直し・・・。ラストではもう一度じわっと涙が浮かんできました。読後感がとても良かったです。
以前読んだ「リヴァトン館」がとても面白かったのでこれにも期待してましたが、期待通りで大満足!
昨年新作が出たそうなので、それも早くどこかで翻訳出版してくれないかなあ。
投稿元:
レビューを見る
下巻は、まさにイギリスのお屋敷・花園の謎が解かれて行くパート。
帯にもある通り、「秘密の花園」「嵐が丘」に胸踊らせた記憶のある人は、絶対に好きな作品。
ジャケ買いだったけど、見事に大当たりだった!
投稿元:
レビューを見る
新天地を求めてやってきた人たちの移民船、ひとり取り残された身なりのいい女の子。
導入としてはものすごくそそられる感じで始まったかと思うと、すぐにその子は年頃になり、実の父と信じていた人から真実を告げられ、そうかと思えばネルの臨終の場面に時間が飛び、スピーディーな展開にぐいぐい引き込まれます。
時代としてはイライザのパートが一番古く、一番ドラマチックかも。
駆け落ちしてすぐ夫を亡くし、貧しい暮らしの末死んでしまう母親とか、誰よりも大切だった双子の弟が自分の目の前で死んでしまうとか、最初から境遇がすごい。
そして紆余曲折の末、途中から世話になるお屋敷のくだりはゴシック小説のようです。
そこにいけすかない伯母さまと不気味な伯父さまと身体の弱い従姉妹が住んでるとくれば尚一層。
伯母さまはいけ好かない人物で、決して好きにはなれませんが、花園での娘を想いながらのこの人のモノローグだけは本当にグっときました。この人の側から描写したらまた違う物語ができそうな。
イライザは従姉妹のローズを心底愛したのに、ローズときたら・・・登場人物の中で一番底が浅い人物かも。まあ、世間知らずだからしょうがないっちゃしょうがないんですが。
正気じゃとても頼めないようなことを頼むローズと、それを承知するイライザとの間に理解が生じていなかったのがなんともせつない。
で、ある時このお屋敷に造られたのがタイトルの「忘れられた花園」なんですが、読み終えてみるとまさにタイトルとするのにふさわしい場所であるとわかります。
全体を通しての謎は、「誰が何のためにネルを船に乗せたのか」と「ネルの本当の親は誰か」です。
ネルとカサンドラはそれぞれの時系列で謎解きをしながら進んでいくのでなかなか核心に迫れませんが、読者はそれぞれの物語を通してその謎が読み取れてしまいます。多分こうなるんだろうな、とわかっていても、その部分を読むとやはりせつない。
なんというか、どの親もみんな子供の幸せをいつでも願っているんだなあとしみじみ感じさせるような良作でした。上下巻ですがグイグイ読めます。
おすすめ。
投稿元:
レビューを見る
塀で囲まれた小さな庭園を取り巻くいくつもの時代に生きるたくさんの人々の人生を読み解くミステリー。堪能しました。
投稿元:
レビューを見る
1913年、オーストラリアの港に置いていかれた幼い女の子。
小さな白いトランクに、わずかな身の回りの品とお伽噺の本が入っていた。
ネルと名付けられて引き取られたが‥
2005年、ブリスベンで祖母のネルと暮らしていた孫のカサンドラは、祖母を看取った後に遺産として、コーンウォールのコテージを受け継いだと知る。
カサンドラは、ネルの書き残したノートとお伽噺の本を持って、イギリスに渡る。
崖の上にある小さなコテージ。
ネルは1975年に、古い邸宅の一角にあったそのコテージを買い取っていた。
今はホテルになっているマウントラチェット家の豪壮な屋敷ブラックハースト荘。
ネルは自分がその家の出身だと突き止めたらしいが、家族はなくなっていて、詳しいことまではわからなかったらしい。
マウントラチェット家では、ネルと同じ年の女の子アイヴォリーが、猩紅熱で亡くなったとされていた。
誰が何のために連れ出し、そしてなぜ、隠されたのか‥?
カサンドラはコテージの手入れを始め、封印された秘密の花園を発見する。
片づけを手伝ってくれた地元の青年クリスチャンは、子供の頃に花園に入り込んでネルと出会ったことがあったという。
マウントラチェット家の内気な当主ライナス、下層階級から成り上がったその妻アデリーン。
ライナスの妹ジョージアナは兄に溺愛されていたが、駆け落ちして結婚、ロンドンで暮らしていた。
ジョージアナの娘イライザ・メイクピースは貧民街で育つが後に屋敷にひきとられる。身体の弱い従姉妹のローズと仲良く暮らすが‥?!
著者は1976年生まれ。ブリスベン在住。
作者の祖母が養女と知ってショックを受けたと聞いたことがモデルになっているとか。
投稿元:
レビューを見る
物語を読み始めたときは、時代が過去と現代と飛ぶことに違和感を感じたのだけど、イライザの物語が始まると妙に懐かしい気分になり夢中になる。「オリバーツイスト」や「小公子」や「秘密の花園」「嵐が丘」そういった昔読んだ名作を思い出す。カサンドラの物語はちょっと安っぽいラブロマンスの感じがしたが、イライザの物語だけではここまでのわくわく感はないだろう。どうなるのどうなるのと思っていたら思っていた通りの結末になるのだけど、それでも満足。途中に挿入される御伽噺がとても効果的。最後の訳者のあとがきのなかの矛盾点もそうそうと最後の最後まで読んでしまう本。楽しかった。
投稿元:
レビューを見る
物語はネルの出自をめぐって二転三転するものの、行き着いたところは最初の想像通りだった。
しかしそれ自体は重要ではあるけれど物語の骨格にすぎず、その周りで展開される人間関係が話に厚みを加えている。
3人の女性がそれぞれ追い求めたもの。手に入れたくてあがいたもの。絡まりあう3つの物語が最後に一応の決着を見せるとき、3人3様の幸せの形が訪れるが…。
という訳で、最後に救いのような描写があるけれど、当事者はすでに無く。
読んでいてなんか辛かったなあ。
文中にある「人生は自分が手に入れたもので築き上げるものよ、手に入れ損なったもので測っちゃ駄目」の言葉が妙に胸に響いた。うん。そうだよね。
投稿元:
レビューを見る
昔読んだ秘密の花園や小公女やらを思い出し、懐かしい感じがした。話が二転三転するは、時代は飛ぶはで、ごちゃごちゃしそうなところを、上手く纏めまてみました的な読後感がちょっと鼻につくかなあ。
投稿元:
レビューを見る
「忘れられた花園(上)」に続く下巻で、いよいよ解決編へ。
イライザ・メイクピースがイギリス・コーンウォールのブラックハースト荘で暮らし始めて以降を描く。
次第に物語の骨格が表れ出てきて、これはネル自身とさらに彼女の死を看取った孫娘であるカサンドラに託された、ネルのルーツ探しの旅物語であることに気づく。
時代を越えて行き来する物語は、数多くの謎解きの手がかりを散りばめながら展開されていく。作中のパーティ・シーンに、「秘密の花園」の作者・バーネット自身を登場させるところなど、著者の遊び心も光る。
後半はミステリ好きを夢中にさせる謎解きの連続。あまりに都合のいい人物や証拠品の登場もあるけれど総じて無難。そして最後は、意外な真相へと結びつくのだが、それは最後まで読み通すことが出来た読み手だけに与えられた特権でもある、、、
投稿元:
レビューを見る
タイトルから思い出す『秘密の花園』を読んだ時のようにワクワクして読んだミステリアスな上巻から、登場人物たちが年頃になったこともあってかだんだんロマンス傾向がつよくなっていく下巻。前半のワクワク感が半減した感じ。オーストラリアの鮮やかな描写や、ネルとカサンドラの関係の描き方がとてもいいのだが、舞台がイギリスへ移ってからがいまひとつ、なのだった。ドラマティックで読ませるが、19世紀英文学をあれこれ切り取ってきて貼り付けたような感じがひっかかる。変態的で何かやらかしてくれそうな叔父さんが存在感ゼロのまま終わって意外だった。
投稿元:
レビューを見る
ページの向こうにさまざまな物語が透けて見える。「秘密の花園」はもちろんのこと、「レベッカ」を思わせるところやら「ジェーン・エア」を思いだすところやら。バーネット女史をちらっと登場させたりして、作者自身が楽しんで書いたのだろうなあ。もちろん読んでいてとても楽しかった。
子どもの頃読んだ「秘密の花園」、挿絵まではっきりと覚えている。あのワクワク感を思いだした。海沿いに立つ豪壮な邸宅、荒れた庭園、出生の秘密を持つ少女、冷酷な女主人…、こういう道具立てが、私にとっては「物語」の原型のような気がする。
三世代にわたるヒロインを、時間を行き来しながら語るスタイルだが、十分配慮されていて読みやすい。謎を追いかけてハラハラしながらも、安心感を持って読めるところがよかった。
投稿元:
レビューを見る
世代の異なる三人の女性の物語。時代と、主人公の視点が目まぐるしく入れ替わる。一気読みというわけではないが、じわじわと浸透してくる作品ではある。
ミステリではないが、雰囲気がミステリっぽい。というより幻想的か。少女と花園とお伽噺──特に、作中作のお伽噺が非常に印象的で、不思議な余韻が長く残る。このお伽噺とストーリーの関連性に吸引力があった。
こういう小公女的な雰囲気の作品は、男性読者にはどう映っているのだろう。お約束の妬みや嫉妬、思い込み追い詰められていく心境の変化などに、女性作家らしいエスプリが散りばめられている。
“原因と結果”の原因部分を描く作品なので、結果のぞんざいな扱い方にはちょっと抵抗があった。たまにはこんなストーリーもいいかな。