紙の本
「まえがき」だけや「あとがき」だけもある、一味違ったセレクション。作品を読む一冊というよりは作者の世界への誘い水。
2012/02/07 18:08
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
前略、「小松左京セレクション」編者 東浩紀様;
「小松左京セレクション 1 日本」を読みました。小松左京さんは作品数も膨大、長編の名作も多い。選集も既に多く、2011年に亡くなられて追悼集も出たりしましたが、本書のまとめ方は一味違ってなかなかよかったです。
学生時代から好きでよく読み、小松さんの知識の広さ、深さに小説以上の内容を感じてきました。その小松左京さんの戦後日本観、歴史観、SF観を浮き上がらせる文章をまとめるという編集。目次を見てもまえがきだけ(「日本アパッチ族」)、あとがきだけ(「日本タイムトラベル」)、エピローグの一部(「果てしなき流れの果てに」)というのもあって、「代表作を読める」と思って開くと「予想外」と驚くのではないでしょうか。でも、「小松左京は何を書きたかったのか」という視点でまとめてある、と考えるととてもよく選んである気がします。
本書、シリーズ第1巻のテーマは日本。1931生まれの小松左京さんの、敗戦や経済成長への視線を特徴付ける文章ですね。各作品それぞれに一ページ、編者である東浩紀さん自身の解説がついているのを読むと、本書は小松左京の作品を使った東さんご自身の視点の表現だともいえると思いました。
「戦争はなかった」1968は、「あの戦争はなんだったのか」という、あの時代を生きた人なら誰もが考えたことの「SF的」表現でしょうか。
短編「物体Oオー」1964は、首都が突然消えるという設定。大災害で情報や流通が混乱した時どうするかという設定は、3.11大震災の経験にも通じるものがありますね。中に出てくる「今の民主主義の責任体制は責任のかからない権力という甘い幻想を抱かせているみたいだ・・」との文章は苦くも感じるものでした。
「果てしなき流れの果てに」1966は、エピローグだけ読んでなにがわかるのか、と戸惑いましたが、小松左京さんがくり返し描写する日本の風景・社会の「通奏低音」がはっきり聞こえています。
やっぱり小松さんは「SFを日本に定着させた立役者の一人」というだけでなく、深い知識人であり、思索者であったんだ、と改めて感じ、もう一度読み直したい気持ちになりました。どれも読んだことのある作品でしたが、こちらも年齢を重ねて読めば、また違うものが読み取れるかもしれません。読んだこともない方も、本書で膨大な小松左京さんの著作の世界に入り、じっくり読んでみよう、と思う人がでてくれればよいと思います。本書は小松作品への誘い水、おいしい誘い水のようです。
続くシリーズ2、3でも、良い作品をお選びください。楽しみにしています。
紙の本
我が国の現代SFを代表する作家、小松左京氏の傑作を集めた作品集です!
2020/06/01 11:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、我が国を代表する現代SF作家であった小松左京氏の傑作を収録した作品集です。同書には、「戦争」、「経済成長とその影」、「SF的・日本的」という3つのテーマが組まれ、それぞれに、「地には平和を」、「戦争はなかった」(以上は戦争)、さらに「御先祖様万歳」、「日本アパッチ族」、「物体O(オー)」、「果しなき流れの果に」、「ゴエモンのニッポン日記」、「日本タイムトラベル」(以上は経済成長とその影)、そして「時の顔」、「東海の島」、「お糸」(以上はSF的・日本的)といった作品が収録されています。最後に同氏の代表作『日本沈没』に関した文章で締めくくられている興味深い一冊です!
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「物体O」がこころに染みたなあ。ほぼ全部再読なんだけれど、今年、小松左京の作品は新しい意味を持ったね。
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小松左京さんは、日本を日本人を愛した方だったんだなあという事実を痛感した作品集でした。
抜き出されている文章は、作品のわずかですが、氏が伝えたかったエッセンスが十二分に含まれています。
東さんの編集のされ方が素晴らしく、どんどん感傷的になってしまったのは、きっと私だけではないと思います。
日本とは何なのか、たまには、あなたも考えてみて。
小松左京さんが黄泉の国から、訴えているような気がします。
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『日本沈没』の作者小松左京さんの作品集日本版。
SFを日本に定着させた立役者のひとり。「SFならばあらゆる表現が可能になる」という信念のもと多くのSF作品を世に出した。
思想家としても知られており、知識、教養に文学というかたちを与えてSFという表現形式を見い出したひとりの思索者であった。
今よんでも古くさくなく、ハラハラするし、世の中に対する皮肉が遠回しに描かれていてにやりとする。
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「日本沈没」は未読なので、エピローグは保留。
「戦争」の歴史改変ものは空恐ろしさを感じさせる。一見現実にはあり得ないことを書いているように見えるが、ほんとうにそうか。戦後70年近く経っても、同様の問いかけは有効なのではないか。
「御先祖様万歳」「時の顔」に使われているあっと驚きの仕掛けは、ハインラインの某短編がルーツだろうか。その仕掛けも去ることながら、時代小説としても読めるくらい、江戸時代の生活の生き生きとした描写が素晴らしい。しかも、昔は良かった式の単純な話ではないのだ。
小松さんのどの作品にも言えることだが、矛盾している、あるいは相反するような心情が、なぜか分裂することなく絶妙なバランスで盛り込まれていて、礼賛でも断固拒否でもない、複雑さがあるところが好きだ。それは、彼が作家として、冷静な視線と幅広い視野とを持っていたということなのだと思う。
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数ある小松左京作品の中で「日本」をテーマに置いた傑作、名作を再録または抜粋した作品集。編集の東浩紀は自他共に認める小松左京の大ファン。長らく絶版だった『地には平和を』『ご先祖様万歳!』『お糸』の再録は非常に嬉しい♪
『果てしなき流れの果てに』『日本沈没』などの長編はクライマックスのみを再録するカタチが、お堅いファンに取っては賛否があろう。しかし、小松の死去に伴い、限られてしまった作品の中から、これから小松左京の何を読もうかとする足がかりとなる一冊とするならばそれぞれの作品に対する解説も丁寧であり、非常に良心的な構成であると思う。
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「地には平和を」って名前は聞いたことがあったけど、読んだことが無かったので。購入。
ほぼ同じテーマの「お糸」の方が好みだな。お糸ちゃんかわいい!
後は、「御先祖様万歳」と「時の顔」(ああ、これもかぶるか
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この書籍では、数ある「小松左京」氏のSF小説の内
「地には平和を」「戦争なかった」や経済成長とその影では色んな小説の「抄」など収録しています。
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目当てだった『戦争はなかった』だけ読んだ。
昔、世にも奇妙な物語でショートドラマ版を観た記憶があったので、読んでみたが、原作の方もショートショート的にあっさりしていた。
たしかに過去の特定の記憶のありなしは現在の生活に直接的な影響は無いかもしれないが、対象を理解するにはその対象の生成過程を知ることが必要ということを考えると、日本という国の生成過程に戦争があったか無かったかは、日本という国の理解に大きな影響があるし、それはすなわち、この国のあるべき姿や未来を考える上でも重要となると思う。その意味では、生活に直接的な影響は無くても、政治的な判断(一般国民では選挙)はその記憶のありなしで変わってくるであろう。もう少し生活に近いところでも、技術や経済の未来考える上でも重要になる、すなわち、選択する職業や会社を考える上で重要になるということなので、大きな意味では生活にも影響してくる。
——
『地には平和を』を読んだ。
歴史を創り出した博士自身が、歴史の中の影響で頭がおかしくなるのが、面白かった。
『仁』みたいな感じか
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現在(2019‐2020年)ちょっとしたSFブームが到来しており、日本を代表するSF作家を読んでみようと思い手に取った。セレクション第1弾のテーマは『日本』。
1 戦争:地には平和を、戦争はなかった
2 経済成長とその影:御先祖様万歳、日本アパッチ族 まえがき、物体O(オー)、果しなき流れの果に エピローグ(その2)、ゴエモンのニッポン日記 、日本タイムトラベル あとがき
3 SF的、日本的:時の顔、東海の島、お糸
4 『日本沈没』より:日本沈没 エピローグ 竜の死
ずいぶんと前の作品なのに、なんて新しいんだろう。びっくりでした。結末だけ知ってしまったけど、日本沈没読んでみようかな。SFの巨匠すごいわ…
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東浩紀さんの編集、小松左京さんの傑作小説集である。日本というテーマで選出しているセレクション1となっている。
『御先祖様万歳』
『東海の島』
が私のお気に入りだ。これからも、小松左京さんの作品を読んでいくつもり。