電子書籍
出島の花園
2020/07/09 11:15
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本史にその名を残すオランダ医師と、無名の庭師との交流に心温まります。鎖国の時代に翻弄されながら、それぞれの運命を辿っていく後半の展開も劇的です。
紙の本
日本の自然について考えさせられる。
2019/10/28 16:44
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
幕末、ジーボルト(このごろはシーボルトではなくこうなったようだ)が日本に滞在した間に出島に作った薬草園の庭番となった少年が主人公。幕末の情景、ジーボルトの人間関係を著者らしい視点で切り取っている。小説は普段あまり読まないのであるが、「日本植物誌」などジーボルトの日本の自然へのかかわりには興味があったので読んだ。
花や樹木に興味のある人はそれなりに面白いのではないだろうか。茶をバタビアで栽培するために送る話では「椎の実などを保存する方法」を庭番になった熊吉が教える。これはジーボルトの「日本植物誌」の説明にも出てくる。森で「カエデの実がついていなければ葉だけではわからない」木を見つける話などは、木の見分け方を覚え始めたころの「これはなに?」と一生懸命観察した気持ちを思い出させてもらったりもした。本国へ「生きたまま」送る工夫を様々にした話も、当時の日本の技術が感じられて面白かった。
西洋の「自然のとらえ方」、日本の自然の特徴。日本の中だけ見ていてはわからないことを「異人」との触れ合いの中で考えさせてくれる。
人間描写の良さは著者の特異なところなのだろう。なぜ子供もできたのに一人で日本を出ていったのか。その時、それまでお滝さんの気持ちなど人間模様も想像をかきたてられるものだった。
紙の本
新たな分野
2015/08/25 11:31
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あんこパン - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者を知ったのは、単行本の「実さえ花さえ」。この本で「花師」という職業を初めて知り、その繊細さ、細やかな仕事ぶりに大変興味を持った。以来、著者の作品は読み続け、今回の作品も、庭師のお話で、実在した人物が出てきたり、知った土地が舞台だったりしたこともあり、とても興味深く読んだ。著者の作品を読んでから、通りすがりに庭の剪定をしている植木屋さんを見かけると、つい立ち止まって、その仕事ぶりに見入ってしまうときもある。
紙の本
江戸時代の日本人のすばらしさ
2016/02/14 13:10
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
草木、花、自然を愛でるっていいなあ。昆虫もそうだけれど、自然と一体になって生きようとしていた近世の日本は素晴らしいと思う。誰かに誉められたいからとか、出世したいとか欲よりも与えられた役割に疑いをもたず全うすることができていた日本人は、シーボルトが感じていたように、わたしも立派だし抜きん出ていると思う。やはりあの時代の日本は世界一に近い民度だったんだな。明治に入り欧米文化に触れ、自然を征服しはじめてから狂ってきてしまった。その恩恵をうけて生きているわたくしなのだけれど。また原点に戻れるなら戻りたいものだ。
紙の本
朝井まかて 時代小説
2023/12/17 16:03
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投稿者:トマト - この投稿者のレビュー一覧を見る
シーボルトと言えば、大概の方が知っている有名な幕末の外国人ですが、そのシーボルトが住む出島のお屋敷で草花、植木の面倒をみる一介の植木職人(見習い)の目から見た「しぼると」です。
主人公はその植木職人の少年です。
懸命に「しぼると」の願いにこたえようと奔走し、精進する姿がいじましくも健気に写りました。やがて、あの「シーボルト事件」に巻き込まれていきますが、彼の取った行動とは。
彼は、大人になっても心は、この本の表紙のように、いまだに「しぼると」先生のお庭にたたずんでいるのではないでしょうか。
紙の本
草木を律儀に本当に愛した人は
2021/03/13 04:19
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投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
長崎出島シーボルトの薬園を管理した園丁の話。単に草木や植木を管理育成した職人の話ではなく、そこに絡む園丁熊吉、奥方、使用人おるそん、しぼると先生。これらの人々を中心に「シーボルト事件」そして最後はしぼるとの娘以祢との交流。その土地の風景を思い浮かべるまでの丁寧な書き方で物語は進む。読み終わって涙腺がゆるみながらも安心感と清涼感を感じるのはなぜだろう。草木の名前、養生、育て方、運搬方法まで。その草木を海外へ紹介するため生きたまま船で運送するための努力。その努力の基にあるのは。「与えられた仕事だけをこなし、己で知恵を絞ろうとしたことが無い。誰にもそれを要求されないから」「やぱん人は商人は品物に誇りを懸け、職人は傍に誰の目がのうても精魂込めて働く・・・・」今の時代にもあてはまる。
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全1巻。
日本地図を国外に持ち出そうとして捕まったシーボルト先生と、
その園丁のお話。
まず、お庭番=忍びというイメージが思い浮かぶけど、
今回のお庭番は言葉通りのお庭番。
シーボルト先生の収集した植物の世話をする人。
だまされた。
軽快なリズムとテンポで
からっとしたイメージの強い著者だけど、
今作は結構まじめ。
主人公もめずらしく陰性。
ただ、それほど堅苦しく、重い訳ではなく、
主人公のちょっとしたサクセスストーリーに引き込まれ、
気づけば夢中でページをめくってた。
そして、このまま幸せが続くと思われた後半、
急に物語は事件の様相を見せ始める。
引っ張られただけに、ドキドキとワクワクが高まる
...ものの。
ここがあんまり大きくならなかった。
希望の物語に多くのページを割いてきたんだから、
ここでどかんと転調してほしかった。
ただ、最後は結構さわやかで、
「真実は分からないけどやっぱり先生は素晴らしい」
みたいな結びは嫌いじゃなかった。
『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』にも見られた花の命名にまつわるエピソードも好き。
もうちょいメリハリついてたらなあ。
おしい。
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しぼると先生の園丁を務めた熊吉のはなし。
日本の草花の美しさを喜びたくなる。題名の「お庭番」から想像した物語とは少し違ったけど終盤はシーボルト事件も絡み、「先生」の本意がどこかを考えるのもおもしろかった。
職人はすごいなあ。
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時代小説ながら、古くささや別世界感を思わせない、生き生きとした物語。
しぼると先生の奥方、お滝さんの、歯に衣着せぬ物言いや感情をあらわにするところが要所要所でぴりっとしていていい。
最後のほう、先生の気持ちが分からないと言って荒れた彼女の様子は切ない。いずれ別れが来ると知ってはいても、相手の気持ちがどこを向いているかによって収まり方も違う・・・そういう、人との関わり方って昔も今も変わらない。
また、コマキが、しぼると先生の弁解も真意も聞けないまま園丁としての仕事を最後まで勤めるというのが何ともいえない。人を信じて仕事を全うするのには、ものすごく胆力がいるんだと思わされる。疑いを持って手を止めるのは簡単なことだ。
それだけに、エピローグで「信じたい人を素直に信じられる」瞬間が描かれていたことに、いっそうじんとした。
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しぼると先生のもと、園丁として働くこととなった熊吉。
汗を流し知恵を絞り、目の前のことに一生懸命取り組む姿はとても真摯で健気。にごりのない感じがした。
読みやすい時代小説。
やんちゃな感じの奥方も、可愛らしかった。
それにしても猫が喉を鳴らすときの要領の「へ」ってどんなだろ(笑)
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明治維新の少し前の江戸時代の長崎出島。
そこで庭師として働く少年がいた。
悪どい家主に虐げられながらも庭師として生きる熊吉の元に出島で医業を営むシーボルト邸で薬草園を作り、管理する仕事が下る。
初めは失敗や焦ってばかりだったが、次第に自分で考え、仕事を発展させていく。そうしてシーボルトの信頼を得た熊吉はかつて誰もなし得た事がない難題に挑むことになる。
情熱的に仕事をするのを羨ましく思い、また自分で考え仕事を進める面白さと大切さを気付かされました。
また外国人から見た日本の良さも描かれており、日本人の国民性、豊かな自然が誇らしくなりました。
がんばろと思えるよい本でした。
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シーボルト事件までは、とてもいいお話でした。外国人と日本人の心のありようの違いが分かりやすく、登場人物が、その人物のキャラクターどおり、無理なく動き回り、とても読みやすかったです。事件後は、日本人ばかりが過酷な運命を背負ってしまうので、少し辛い読書となりました。ただ、語り口が淡々としていたので、まだよかったです。また、最後の話がなかったら、しばらく立ち直れなかったかもしれません。それぐらい、物語に入り込みました。
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良い小説だと思う。
熊吉の訥々とした一途さ、職人としての矜持、不器用だけど一所懸命な生き方が素晴らしい。お滝さんの浮き沈み激しい人生と、それを鏡でうつしたような性格も愛しい。オルソンや正の進・忠次郎兄弟も良い。おおむね良い人物ばかりで長崎の風景描写も心地よく、春の爽やかな日差しの中で読むのに適している感じが大半。
ただ、シボルト先生が、どうもなぁ。
小説に出てくるキャラとしてはいい(その辺朝井まかての上手さ)、史実にも合っている。そう分かっていても、やっぱコイツキラいだ。
大きな使命とか国を担う責任とか世界の将来を広い視野で見るとか、そういう任務に励む偉人、実力と胆力を備えている賢人ってのは実はヤな奴であることが多い。大義の前には庶民なんて雑草だと思っているんだろう。しぼると先生が秋虫の声を「うるさい」と切って捨てるシーンにはそういう意味合いがあるんだろう(この辺も朝井まかての上手さ)
良い小説だと思う、でもしぼると先生とお上のやることがヤルせなくてちょっと減点
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長崎出島を舞台に、植物学者のシーボルトの
下に仕えることになった少年・熊吉の姿を描いた
歴史小説。
何もない土地からいきなり荘園を作れ、と命令
された熊吉。
熊吉は初めは何をすればいいのか分からず、
シーボルトから指示をもらおうと、右往左往
するのですが、何も言ってもらえません。
結局作業が進まないまま、五日がすぎ、
そこでシーボルトの奥方のお滝が熊吉を一喝
します。
たとえ少年であっても、実力がないと許さ
れない世界。そんな中でそこから創意工夫を
凝らし、信頼を勝ち得ていく熊吉の姿がとても
爽やかでした。
このお滝のキャラも印象的です。彼女は元々
女郎だったところをシーボルトに見初められ
ました。女郎までの人生経験のためかどんな
出来事に対しても、どこか達観としているよう
にも見えます。
しかし、シーボルトは故国のオランダや
母親への思いがあります。お滝はそうなっても
仕方ないと思いつつも、シーボルトが帰ることに
より今の幸せがなくなってしまうかもしれない
という、不安定な立場が故の不安や弱さが見られる
場面もあり、そうした弱さの描き方が良かった
と思います。
シーボルトと熊吉、お滝の間の歯車が狂う場面
の象徴としてそれぞれの自然観の違いが如実に
現れる場面があるのですが、この場面がとても
印象的でした。
四季のある日本で暮らしてきた熊吉たちと
そうでないオランダ人のシーボルト、そこから
見える世界というもの違いに越えられない壁を
感じさせられました。そういう溝の描き方が
とても上手いなあ、と読んでいて感じます。
シーボルトをめぐって後半は不穏な動きが
あります。史実に基づいたが故の展開なのだと
思うのですが、そのため終盤からシーボルトの
人物像が分からなくなってしまったのが、個人
的にちょっと残念だったかなあ。
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朝井まかてさんは、私には初めての作家さん。
「恋歌」が読みたいと思っていたが、まずこの本から手に入った。
作家が初めてまして状態である以前に、徳間文庫を買って読んだのも初めてかも。
印象に残ったのは二点。
草木の描写が美しかったこと。
特にアジサイは。
それから、「奥方」ことおたきさんが、蝶々夫人のように美化されていなかったこと。
むしろ熊吉よりも、シーボルトよりも、おたきさんの方が、現実にいそうな人としてイメージできる。
愚かさも、誇り高さも、一人の中に溶け込んだ存在として理解できた。
逆にいただけないのは、「先生」、シーボルトの長いセリフがやや不自然な感じだったこと。
「近代人」の言葉って、長崎弁や他の表現にもなじまないんだろうか。