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紙の本
素直に泣く女と素直に戸惑う男
2005/11/13 23:44
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:tujigiri - この投稿者のレビュー一覧を見る
情緒不安定で通院歴のある笑子と、内科医で「ホモ」の睦月。
片や親の願いに沿って情緒を安定させるために、もう一方は一人息子の将来を憂う両親のために、互いの義父・義母には各々の事情を伏せたまま見合い結婚した夫婦。
「自然」なるものから外れた規格外であることの生きにくさを抱える者同士、適度な関係を保って人生を分かち合うことにしたふたりの、やさしい日々を描いた小説だ。
笑子の躁鬱の振幅を受け入れて紳士的に世話する睦月と、睦月と彼の不動の恋人・紺との関係を律儀に推奨する笑子。
知らず知らずのうちに強まっていたふたりの独特な精神的結びつきは、直感力豊かでなぜか笑子とも馬の合う紺という存在を軸にして、やがて微妙な潮汐運動を始めるようになる。
睦月から受ける無償のやさしさと、そこに含まれる微かな疎外感に識意下の不全感を呼び起こされる笑子は、同時に「普通の家庭像」というプレッシャーにじんわりと圧迫され、やがて変調をきたしていく。
そして、傷つきやすい笑子を思いやる行動が裏目にでてしまい、途方に暮れる睦月。
そんなふたりが交互にひとり語りする体で進んでいく物語は、状況の複雑さのわりにはのんびりおっとりとしていて、不思議な読みやすさを備えている。
出てくる人物たちもそれぞれに悩みを抱える善人ばかりだし、一貫して抒情的な筆致で描かれるストーリー展開は、男性作家ではちょっと考えられないぬくもりに満ちている。
ああ、これが女性作家の典型的な書き味のひとつなのだな、と思う。
私見と断っておくけれど、どろどろとした対人依存を核に据えて書く作家は女性にとても多くて、その手の小説に僕はいつも非常な読みにくさを感じるのだが、この小説には睦月の男性目線が挿入されているせいもあってか、そのあたりがうまい具合に希釈されている。
ゆるゆるとした読書感覚を得たい方にはおすすめの、男にも読める女流小説。
紙の本
江國式模範解答の一例
2005/03/23 23:57
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:RinMusic - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の主人公は<脛に傷持つ者同士>—ホモの夫・睦月、アルコール中毒の妻・笑子、睦月の愛人・紺。確かに恋愛小説としては、<シンプルな恋愛小説>と著者も認めている通りだろう。しかし、江國小説でしばしば感じられることだが、恋愛の向かうベクトルがほぼ一定である。恋愛自体がきれいで透明なものとして昇華あるいは解決する。透明だということは、全体が透けて見えることでもある。まずキーワードがキャッチフレーズ的に出てきて、その種明かしが最後に用意されている。起承転結もはっきりしており、予定調和的に物語が進行するから、江國小説は本当に判りやすい。そうした文体や構成からも、傷つきたくない江國香織の希望的観測が伝わってくる。恋愛を定式化することで、恋愛で傷つくことを恐れている(もしくは傷ついた)女性たちに、心の拠り所を提供しているようにも思われる。ちょうど子供に絵本を読み聞かせるように。しかし、現実の大人の恋愛には蚊帳はなく、江國式模範解答がいつも通用するような問題が提出される訳でもなかろう。そういう問題を出して解決していく新しいタイプの江國小説を、今度は期待してみたい。
紙の本
きらきらひかる江国香織さんの小宇宙
2001/02/15 12:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
江国香織さんの小説という小宇宙に入って出てくると、私はいつも“文芸”という言葉を思い起こす。
読んだ本の「文学作品としての価値」を考えるときには、「人間の原型をゆさぶるか」「ひとつの社会を描いているか」「文体はどうか」という3点を観測しているけれども、彼女の小説にはそれを行わない。
心地よいカプセルの中でうとうとまどろんだり、きれいな花が咲きみだれる庭で遊ばせてもらっているような感じにうっとりしている。
評論家たちの間で、「文学」と「文芸」という言葉には各々深い意味づけが成されていて、厳格な使いわけがされていることと思う。それを学んでもいないで、イメージだけで言葉を使うのもおかしなもんであるけれど、江国さんの小説は「文による芸」だなと思えるのだ。
小宇宙の中は静まりかえっている。
個性的ではあるが、生きる根性をぎらぎら燃やしているような人はいつも見当たらない。その人の感性はどうか、価値観はどうかという点がこちらに見えるようになっていて、人々の関係が描かれていく。その描かれ方や文体に“芸”がある。
このお話では、精神の安定をいささか欠いた笑子という女性の語りの章と、その夫で同性愛者の睦月の語りの章が交互に現れる。雑誌の連載だったこともあってか、一章一章が短編小説のような味わいである。
複数の視線から物語を組み立てていくという手法は、日本の小説では知らないけれど、アメリカのフォークナーの『八月の光』がそうだった。
相互の認識のズレが出てきて面白いし、読み手のイメージ空間が広がるのでわくわくする。
笑子と睦月は、世間的な体面を保つために、お互いに契約を交わしただけのような結婚したてのカップルなのだけれど、生活をともにすることで、お互いを見つめ合い、尊重し、いたわり合う。ぎこちなくも関係を築いていく。
夫婦の妨げになると思いきや、夫の睦月の恋人の紺くんが、意外にも笑子の支えになっていく展開である。
どこまでも続く睦月の優しさが、かえって逆に笑子の神経を追い詰めていく状況がそこにはある。
少しニュアンスは違うけれど、愛し合いながらも、お互いを深くわかり合えばわかり合うほど、傷つけ合うような関係って、確かにある。
江国さんはお嬢さんだから恋愛体験は少ないんじゃないかな…などと勝手なことを考えながら、でも、人を深く深く愛して、恋愛というものを深く深く自分の身に沈めたことのある人なのだろうと思っている。
紙の本
ふーん
2021/10/20 12:42
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hid - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近流行ってるもんなあ。
不定するつもりは全く無い。
かといって、積極的に肯定するつもりもない。
ただただ受け入れる。
紙の本
なんとなくあたたかい
2019/07/05 16:23
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ワガヤ - この投稿者のレビュー一覧を見る
アル中とかゲイとか、いろいろ事情があっても、人は常に気持ちがある。ただ、お互いが好きなんだなと、淡々とした日常が、なんとなくあたたかい、そんな話です。
紙の本
不思議な話
2015/10/31 11:08
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投稿者:とちうし - この投稿者のレビュー一覧を見る
テーマとしてはなかなかきわどいところをついています。
それをいやらしくなく書いているのは作者の技量でしょう。
究極の愛を~といわれてそうかと思って読んでみました。
確かに究極の愛かもですが、そういう形?と突っ込みたくなります。
それすら作者の思うつぼなんでしょう。
紙の本
日本語が美しい
2002/07/31 02:09
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投稿者:marikun - この投稿者のレビュー一覧を見る
江國香織さんって最近の作家のような感じがしていましたが、デビュ
ーは、1987年なんですね。恋愛小説というと、普段なかなか手
が伸びないジャンルなのですが、初挑戦です。
この作品はドラマ化もされたので、ストーリーはなんとなくしって
いました。ある新婚夫婦の生活を淡々と書いたものです。が、その
夫婦は普通の夫婦とはちょっと違っていた…、秘密は寝室のチェス
トの一番上の引き出しの中の二通の診断書。一通は、夫・睦月のH
IV陰性のもの、もう一通は妻・笑子の正常な精神病であるという
診断書。そうこの夫婦は、夫がホモで、妻が精神不安定なアルコー
ル中毒なのです。二人はお互いのことを大切にしながら、どうにも
ならない自分自身と向き合って暮らしているのです。夫は、笑子の
安定を取り戻すために、笑子の昔の恋人と笑子をデートさせたりし
ますが、それがきっかけで睦月の性癖が、笑子の親の知るところと
なり、自分の恋人・紺は二人の元から姿を消してしまう。
この作品は、恋愛小説のジャンルになるのでしょうが、それよりは
他人をいたわろうとして、それを上手にすることの出来ない不器用
な人々を描いた小説であるという印象を強く受けました。お話自体
は、結構色々なことがあるのですが、すごく淡々としています。な
んだかとっても不思議な小説でした。作者の言葉の使い方が、もの
すごく独特で、選び抜かれたものなんだろうなあという印象がとて
も強いです。感受性の強い文学少女向けな作品だなあという感じが
しました。