紙の本
緻密な構成に裏打ちされた謎が謎を呼ぶ展開に脱帽です。
2019/03/23 22:51
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投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
緻密な構成に裏打ちされた謎が謎を呼ぶ展開に脱帽です。人格自体を特定することが困難な満州残留孤児(引き揚げ者も含む)を対象とし、更に謎を解明すべき主人公を視覚障害者とすることで、謎を更に根深いものとして描くことに成功している。周囲で起きている事象を的確に認識・判断することの困難さから、主人公がどんどん疑心暗鬼に陥っていく心理描写も凄い。そして全編を通じて貫かれる国を超え、家族愛すら超越した人間愛に感動でした。中国側からみたら何を日本を美化してるんだと言われそうですがね。こんな人達がもう少し沢山いれば戦争なんて亡くなるだろうになあ。いや、そんなことより単なる推理小説としても実に素晴らしい出来でした。流石、第60回(2014年)江戸川乱歩賞受賞です。
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投稿者:美佳子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
全盲であるが故の疑心暗鬼と、彼を思いやるが故の周囲の人たちがつく嘘が余計に疑惑を深めていく様が克明に描写されており、加えてお酒で精神安定剤を服用することによる記憶障害が彼自身に対する不安も強めていき、読み進むのが苦しくなるくらいでした。
中国残留孤児の苦悩も、兄・竜彦や兄の正体を探るために会って話をした他の中国残留孤児やその支援者たちを通じて切々と訴えられ、作品全体にやるせなさが漂っています。
最後のどんでん返しと、分断していた家族が再び一緒になる展望が見えることで一種のカタルシスが得られるので、読後感は悪くないです。
電子書籍
真実から逃げないこと
2018/02/11 10:31
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
これぞミステリー。主人公は全盲の男性。闇の中で疑惑と戦う。誰を信じ、誰を疑うのか。晴眼者では考えられない恐怖が次々と彼を襲う。読んでいて息が止まるほど怖かった。まるで私も眼が見えなくなってしまったかのように。知らない世界。考えても見なかった暗闇。彼は挫けなかった。傷つこうとも死の淵が真横にあろうとも進み続けた。彼の望みは意外な形で終わりを迎える。「真実」は時に残酷である。けれど乗り越えれば人間は大きく成長できる。彼も彼を取り巻く人間もみなふんばり、頑張った。だからこそ遺恨無く結末を迎えられたのだと思う。
紙の本
やっぱり乱歩賞
2016/10/05 08:59
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投稿者:hdk - この投稿者のレビュー一覧を見る
安定した読み応えでした。全盲の方の閉そく感やジレンマがビシビシ伝わるにも関わらず、テンポよく読めます。
残留孤児のニュースを肌で感じられていた方はもちろん、そうでない方も丁寧に描かれているので抵抗少なく読めます。
紙の本
慎重に読みたい小説
2020/02/11 15:48
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投稿者:uruuduki - この投稿者のレビュー一覧を見る
丁寧に細かい伏線が張られた小説だなあと、読後もう一度読んだ。
視力を失った人はかなり気配に敏感で、においや音などにも感覚が鋭い。そういったことを考えるとしたら、たばこの匂いや家の中の人の動きなど、伏線の綻びにつながりかねないと思う。ところがそこは、「後天的な」それも年齢がいってからとの設定が、回避に働いている。
文も、読み易くていながら、親子や孫などとの関係性に違和感を感じさせない。そういった点も、結末に納得できる要因だったと思う。
これは受賞作だが、ここで受賞するまで、たびたび候補に挙がってきていたという。それだけ力が有るということだろうが、他の本も読みたいものだ。
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一石二鳥の本。謎解きを楽しめながら、中国残留孤児についての知識が身につくという意味で。
読み手も、主人公と同じく視覚のない世界を、少しだけ体験できる。読みながら、時おり目を閉じて、読んだ部分を想像すると、より楽しめると思う。
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腎臓移植、検査すら頑なに断る兄は本当の兄なのか。芽生えたら頭にこびりついて消えない疑念を明らかにしていく物語。
中国残留孤児のことも学べる一冊。
タイトルから誰かの嘘が鍵なんだろうと思いながら読み進めたが、まさかの結末だった。読後感は心地よい。
後半にかけて物語の色が一気に変わっていく。
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201608/乱歩賞、はずれないな~。読み応えあって面白かった!タイトルの「闇に香る嘘」というのも、読み終わって「成程まさに!」ってなった、素晴らしい。北海道出身の自分には、方言ネタで違和感覚えたとこがいい伏線だったのでニヤリ。
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村上和久は孫への臓器移植を望むも、検査の結果、自分の臓器は孫に適さないと診断される。
そこで和久は兄の竜彦を頼るが、兄は移植どころか検査すらも拒否する。その頑なな姿勢に、和久はとある疑念を持つ。戦時下に中国で生き別れた兄は、27年前に帰国した。しかしそのとき和久は失明しており、兄の姿を視認できていなかった。
「兄は本当に兄なのか?」そして時期を同じくして、和久のもとには点字で書かれた不審な手紙が届くように。和久はかっての兄の姿を知る人たちのもとを、訪ね歩くことにするが……
最近の江戸川乱歩賞受賞作の中では、かなり評価が高い作品だったので、楽しみにしていたのですが、実際に読んでみて、その評価の高さに納得しました。
”中国残留孤児”や”第二次世界大戦”という重く難しいテーマに対し、臆することなく真っ向勝負で描きます。このテーマを選んだということだけで、新人離れした何かを感じさせます。
そしてそうした知識がまったくない自分にも、当時の人々の辛さ、過酷さが伝える筆力もかなりのもの。それを単なる知識として披露するだけでなく、しっかりストーリーに落とし込む構成力やプロットもすごい!
さらに語り手に盲目の老人を選ぶあたりも、新人離れしているなあ、と感じます。
盲目がゆえに相手の表情や周りの状況が見えないというハンデ。それゆえに、だれが本当のことを言ってるのかわからないどころか、例えば目の前に犯人がいたとしても気づかない、という危機すらもあります。誰が信用できるかわからず、疑心暗鬼にとらわれ、追い込まれていく主人公の感情も描かれ、物語はより緊迫感を増します。
さらに、主人公が盲目のため、娘から日常生活でいろいろ助けてもらったりもしていたのですが、徐々にそれが当たり前のように感じてしまい、娘に強く当たるようになったり、と障害者ならではの心理描写も描かれます。
そしてなおかつミステリの伏線回収も”見事!”の一言に尽きます。
自分が思うミステリのいいところの一つに”伏線さえしっかりしていれば、現実ではなかなか起こり得ない大団円を描けること”があるのですが、この小説の大団円は本当にきれいに決まっています!
中盤にかけては、少し間延びしている感じもあったりはしたのですが、残留孤児や身体障碍者の日常という難しそうなテーマをしっかりと描き切り、ミステリとしての完成度も高く、デビュー作とは思えない、作品だったと思います!
第60回江戸川乱歩賞
2015年版このミステリーがすごい!3位
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盲目故の恐怖、猜疑心が上手かった。
しかし、真相については少し弱かった気がする。
ただ、話のまとめ方は良かった。希望が持てる感じ。
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主人公が盲目であることを活かした展開ではあるが、きちんとヒントを散りばめ、ミステリーとしてずるくない設定でよかった。
また、主人公が疑心暗鬼になっていくさまは、勢いとリアリティーがあった。
途中はいらいらさせられるシーンも少なくないが、結果的にそれらは全ていい話だったんだと思うと、とても感慨深い。
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主人公は全盲のお爺さん!
孫は腎臓病で移植手術を必要としている。
しかし、自分の腎臓は移植手術に不適と診断。
兄に頼ろうとするが、兄は検査を拒否!
そこで主人公『村上和久』は疑問に思う?
『自分の兄は本当に兄なのか?』
和久の兄は満州で残留孤児となるが和久の失明後に帰国が叶う?
和久はその兄を他の残留孤児の成りすましと疑い始めるが、全盲の老人が偽の兄の証拠を探す物語!
主人公は全盲で行動に制限があり、あらゆる事をネガティヴに捉え、更に記憶障害を思わせる症状もチラホラと!
こんな物語、何を信じて良いのか?何を拠り所にして良いのか?確固たるものが無く非常に不安定な気持ちで読み進みました。
でも最後まで読んで良かったです。
作者の他の作品も読みたいと思った。
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孫への腎臓移植を望むも不適合と診断された村上和久は、兄の竜彦を頼るが、移植どころか検査さえ拒絶される。兄は中国残留孤児の帰国者であり、和久は盲目であった。この男は本当の兄なのか。第60回江戸川乱歩賞受賞作。
設定、展開、そして真相のすべてに文句なし。主人公を含め登場する老人に、老人らしい老獪さがないのが少々不満。それでも、目が見えない主人公がパニック状態や疑心暗鬼に陥るシーンは、読み手側も不安な心になった。今後の作品も楽しみな作家の誕生である。
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ろう者が主人公の作品を読んだ後、続いて全盲者が主人公のミステリー。
戦争時の後遺症で目の見えない主人公が、自分の兄が偽者ではないかとの疑いを払しょくできず、真実を求めて彷徨する。そこには、戦争犠牲孤児(山崎豊子女史は、中国残留孤児との言葉を使わない)の問題が重くのしかかる。
誰が本当のことを言っており、誰が嘘をついているのか。
誰が本人で、偽者は誰なのか。
主人公とともに、読者も混迷の渦に巻き込まれる。いわば、小説を読むというのは、文字だけで映像がなく、盲者の行為に類するものだから。
盲目ゆえの苦悩と障害、さらに戦争の傷跡の過酷さ、そして家族の絆、それらを見事に融合させた傑作。
良質のミステリーは、芳醇なワインに似ている。読後しばらく、その心地よい余韻に浸ることができた。
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出てくる人出てくる人皆疑わしくて、いい意味で参った。高齢になっても体が不自由になっても、息子を気遣う母の姿が終始印象的。ラストにその愛情が大波となって押し寄せてきて更に参る。自分一人の物だった私の脚は息子をこれからずっと支える脚になったんだな…思わず感慨にふけってしまう。
ラストの鮮やかな反転と伏線の回収もお見事。
主人公の思い込みの強さや移植に適さなかった実父への娘の態度にドン引きしたりはあったけど、読み出したら止まらない。いつの間にか手探りの闇の中に引き込まれてゾクゾクしていた。
「闇の中で座り込まず、光を探していこう」…とてもいい言葉だ。