紙の本
報道の言葉の威力と危うさと
2017/03/19 01:08
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くりくり - この投稿者のレビュー一覧を見る
「言葉の重要性を忘れさせてしまうテレビで、今、言葉はむしろどんどん重要になってきている」
「一番伝えたいことは何ですか。『ガールズプア』という言葉で括られてよいのだろうか。番組タイトルは『明日が見えない~深刻化する若年女性の貧困』に変わった」
「『ねじれ国会』という言葉がメディアで頻繁に使われていた。『ねじれ』状態を解消することが正常であるとの見方を流通させることにつながったとは言えないのだろうか」
「本来同調圧力に抗すべきメディア、報道機関までが、その同調圧力に加担するようになってはいないだろうか」
以上はキャスターとして、「言葉が勝負の職業」としての国谷さんの問いかけであり、日々、真摯に「クローズアップ現代」に取り組んできたからこそ本書に記された言葉だ。
残念ながらクローズアップ現代は終わってしまったのだ。今10時台で放映されているクローズアップ現代は、かつてのものではない。またどこかでこんな報道番組に出会いたい。
紙の本
『キャスターという仕事』
2017/03/11 20:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:百書繚乱 - この投稿者のレビュー一覧を見る
NHK〈クローズアップ現代〉で23年、3784本を放送したキャスターが
番組とともにすごした時間をふりかえる
「この本は、言葉の力を信じて、
キャスターという仕事とは何かを模索してきた旅の記録です」
──著者から読者へのメッセージ(カバー)
番組改編、キャスター降板から10か月
いま伝え、残しておきたいことを抑制された筆致で書き記す
岩波新書らしい読み応えのある内容
紙の本
自信と危機感と
2018/03/04 16:37
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ペンギン - この投稿者のレビュー一覧を見る
「クローズアップ現代」のキャスターとしてテレビカメラに長く向き合って来た著者が、自身の半生と番組を振り返って、テレビ報道の持つ力の危うさを訴える本です。「クローズアップ現代の国谷キャスター」だからこそ書ける内容がたくさん盛り込まれています。大物政治家へのインタビューの緊張感、テレビに映らない製作サイドのやりとりには臨場感があり、読み物としてもとても面白いです。
本の最初と最後にテレビ報道のありかたに警鐘を鳴らした「ハルバースタムの警告」に言及しています。著者が最近のテレビ報道に強い危機感を抱いていること特に感じました。視聴者を思考停止に陥らせる報道のありかたを批判する背景には、著者自身が「クローズアップ現代」の存在意義に大きな自信を持ち、そのキャスターを長く務めたことに強い自負を持っていることの表れなのでしょう。キャスターとして誇りある仕事を追及し続けた著者の姿勢を尊敬します。
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報道とキャスターという仕事
2017/08/06 12:01
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あちゃこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日々 国内や世界中で起きている様々な社会問題、紛争などについて
深く掘り下げ 向き合ってきた著者が 、キャスターとして悩み 真摯に向き合った23年間を振り返る。
報道の危うさ、言葉の持つ力と危うさ、相手の話を聞く力、多角的に検証すること、視聴者の受け取り方 等 この仕事の難しさを感じさせる。
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著者はNHKで「クローズアップ現代」のキャスターとして
23年間勤めた。
その現場での経験した生の声と、スタッフ達との番組製作に奮闘する
姿がカッコイイ。
アナウンサーとニュースキャスターの違いって分かりにくい。
簡単に言うと、アナウンサーは原稿どおりに正確に読み伝えること。
一方、ニュースキャスターは話し言葉で送り手と受け手のパイプ役に
なり、その個性が発揮できる。
その反面、客観性の高いニュースを私見という目線が入ることで厄介なことも
起きる。
その厄介な事が色んな人に誤解を招いてクレームに繋がるらしい。
その際たるものが、「出家詐欺」ねつ造放送騒動だ。
寺院で「得度」という儀式を受けると戸籍の名義が変えられるのを悪用した
「出家詐欺」が広がっているという報道で、「やらせ」とか「過剰演出」があったと
クレームが付き、クローズアップ現代の汚点になってしまった。
現場での人材育成に最適なものがこの番組にはある。
それは、試写が二回あることだ。
若い担当者が作成したレポートを他のスタッフと議論してダメ出しをされて、
自分の視点との違いを知り、さらに深く突っ込んだ議論になる。
前日に一回目、そして当日の昼に二回目の試写を行い、生放送本番に向かう。
クローズアップ現代は試写が一番面白いと言う関係者もいる位に熱を帯びる。
その試写2回を得て本番という流れを23年間続けてきた
著者は改めて感じるという。
クローズアップ現代の役割は、物事を「わかりやすく」して伝えるだけでなく、
一見「わかりやすい」ことの裏側にある難しさ、課題の大きさを明らかにして
視聴者に提示することだと。
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そんなにずっと見ていたわけではないが、私はNHKの「クローズアップ現代」という番組が大好きだった。
時事ネタもあれば、必ずしもそうでないものもある。
基本的には固い内容が多かったようにも思うが、時々スポーツや柔らかいテーマの時もあった。
この番組は23年続いていて、その期間はほぼ私が働き始めてからの期間と重なるのでいろいろな見方もしていた。
一時期は「クローズアップ現代」を文字起こしするという人がおられてそのメールマガジンを購読していたこともある。
この本は、その「クローズアップ現代」のキャスターを務めてこられた国谷裕子さんのキャスターとしての自叙伝のような形になっている。
キャスターとしての自覚を持つに至るまで、そしてキャスターの自負を持って取り組んできた時代、そして番組から降板するに至った時までの記録でもある。
一番印象に残っているのは、「クローズアップ現代」の番組の作り方である。
いろいろな部署が取材等で持ち寄ったものを素材に関係者が全員集まって試写が行われる。
見ているとこれがこの番組の肝だったようだ。
その試写は前日に行われるものと当日に行われるもの。
これが戦いの場であり、いいものを作り上げようとする生産の場でもある。
これがあったから、30分に満たない時間で濃厚な内容を楽しむことができたのだ。
本当に感謝したい。
また、インタビューにおいてフェアであることを信条としてきたとある。
ここのところ日本には明らかな「同調圧力」なるものが存在している。
その中でもNHKとして聞かなければならないこと、触れなければならないことに触れた米国大使とのインタビューは圧巻である。
報道する側としておかしなことは権力側に対して聞かなければならない。
何と言われようと。
最後にSDGsの話が少し出てくる。
今自分の周りではようやく用語として登場するようになってきたSDGs。
その「誰一人取り残さない」という考え方をこの番組は2015年に取り上げている。
何という早さだろうか、いやこちらが遅いだけなのだろうか。
現在も「クローズアップ現代+」という番組は続いているが、NHKのアナウンサーが担当しているのと国谷さんが担当しているのではやはり掘り下げ方に違いがあるように思う。
とはいえ、その番組の精神は受け継がれているはずでもう一度見てみようかという気にさせてくれた、そのくらい影響力のある一冊である。
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NHK「クローズアップ現代」のキャスターだった国谷さんが、その23年間を振り返りまとめた本。発刊されて、すぐに購入しました。
僕自身はほとんど番組を見たことがなく、昨年の番組終了に関わる様々な状況を見聞きすること中で、恥ずかしながら番組の存在や国谷さんのことを知りました。
ある事象を伝えるときにテレビという媒体の特性と危うさを理解しながら、視聴者自身に伝え・考える機会を提供していくこと。疑問をそのままにせず、聞くべきことは聞き追求していくこと。わかりやすさだけを求めるのではなく、深く物事を捉えられるようにしていくこと(見えないことを伝えること)等、23年間の歩みの中で積み上げられてきたたくさんのメッセージが本には書かれています。言葉の力を信じそのことを高める努力を続けながら時代を見続けきた番組と国谷さんは、とても大切な仕事をして来られたのだなと思いました。
不寛容な時代、危機的と言える世界と日本の中でどう生きるかが問われています。長期的に多角的に物事を捉えることに、粘り強く取り組んでいくことが大事だと感じています。この本には、読み手に具体的に考えることを促す力があると思います(番組が目指してきたことですね)
ぜひたくさんの人に読んでほしい一冊です。
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良書。
23年間クローズアップ現代を担当されただけあって、素晴らしい内容。
誰が相手でも動じず、客観的に的確に判断し、女性らしさもあり、素晴らしいキャスターの印象。
だが、帰国子女のコンプレックス、経験不足から苦労されたことを知った。
めぐり合わせ、チャンス、本人の努力・やる気が大事なのかと思った。
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思ったほどたいした内容じゃなかった。
国谷さんの半生には興味ないし、クロ現の捏造取材についての言い訳もどうでもいい。
番組制作の裏話も興味をそそらない。
第10章の「変わりゆく時代のなかで」をもっと読みたかった。
23年の間に世界が大きく変わりNHKも変わった。
国谷さんじゃなく、第三者がクロ現の23年間を客観的に分析して時代を読む、という企画の方が面白かったんじゃないだろうか。
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日本で唯一アンカーと呼べる存在だと思います。番組がなくなった時には、またひとつNHKの良心が消失し、大衆に阿る度合が増し、受信料を払いたくなくなった、と思った記憶があります。
著者の真摯な姿勢が著作にもあらわれてます。特に失った信頼の9章は良かった。
また本筋ではないですが、最終回の柳田邦男氏の「危機的な日本の中で生きる若者たちに八か条」(原文)は感動しました。コピーを子供たちに渡そうと思いました。
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国谷裕子さんの『キャスターという仕事』
23年間にわたりNHK『クローズアップ現代』のキャスターとして活躍された国谷さん。月~木の19:30から放送されていたので、なかなか見ることはできませんでしたが、VTRリポートとインタビューでその時々の問題に深く切り込んでいく興味深い番組だなと思っていました。
この本では国谷さんが長年キャスターとしてやってきて常に感じてきたテレビの報道番組が抱える難しさと危うさについてや、それをどう乗り越えようとしてきたのかについて丁寧に書かれていました。
"シンプルでわかりやすい表現を使用することで視聴者の情報に寄り添い、視聴者の「感情の共同体」に同化してしまうことの危険性。メディア、とくにテレビはこの危険に陥りやすい。だからこそ、たとえ反発はあっても、きちんと問いを出すこと、問いを出し続けることが大事だ。単純化、一元化してしまうことのないよう、多様性の視点、異質性の視点を踏まえた問いかけが重要なのだ。"
インターネットの登場以降、様々な事柄に対して分かりやすさを求める風潮がどんどん強くなってきました。分かりやすさを追求するということは、極端な話、白か黒かになり、その間にある豊かな視点が排除されてしまうということ。その結果が、ギャグのようなトランプ大統領の誕生だと思います。
単純明快なものは理解しやすいし楽ですが、そればかりだと排他的な思考に陥ってしまいます。平和な社会を望むなら、一人ひとりが分かりやすさ信仰から脱却して多様な視点を身につけていかないといけませんね。
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国谷裕子『キャスターという仕事』(岩波新書、2017年1月)読了。
帯広出張のお供だった。
色々な意味でおすすめの本。
たとえば人にものごとを伝えるための心構えを理解するために。たとえば意見の違いを見分ける意識を持つとはどういうことなのかを理解するために。たとえば分かりやすい文章の書き方を理解するために。たとえば、人から批判されるとはどういうことなのかを理解するために。
ふだん、本を読んでいない(活字は苦手)という方でも難なく読めると思われる。それほど平易でうまい文章だ。
内容は1993年4月の放送開始以来、これまで3,784本放送された『クローズアップ現代』について、その前史、そして特徴的な回の紹介をしながらキャスターとしての役割や位置付け、心構えなどを綴っている。
『クローズアップ現代』は今年も国谷キャスターで継続予定だったものが、NHK上層部の判断で時間枠の変更と衣替えを理由に降板させられる。このあたりの事情も記載されていて興味深いが、その裏側には政治的な動きがあったとも噂されている(本書ではこの噂には触れていない)。
一方で痛恨の出来事として悔しさが行間からにじみ出てくるのが、「出家詐欺」を扱った第9章「失った信頼」。番組に登場した人物が週刊誌で内容を告発し(ほとんどが虚偽や事実関係の誤り)、その後、BPOでの審査で「過剰な演出」「視聴者に誤解を与える編集」とされた。
3,784本のうちの1本だし、しかもBPOではVTR部分以外は「報道番組として高く評価すべきもの」と結論付けられているので、『クローズアップ現代』それ自体の評価、あるいはキャスターとしての国谷氏の評価を貶めるものではない。
しかし、国谷氏はたった1本でも視聴者の信頼を失えば、失地を回復できないとの強い意識を持ってキャスターを務めてきた。なので「出家詐欺」問題には、かなり強い衝撃を受けたようだ。
本書の内容から見ればやや傍流に属するエピソードをひとつ。
米国にいた国谷氏に、NHKは『ニューストゥデー』(1988年4月放送開始)のキャスターを依頼する。同じ頃、ジャーナリズムを学ぶ大学院への入学が決まっていて帰国するか進学しようかと悩んだ末、大学に相談に行ったそうだ。そこで入試担当の学部長は「学校は待てます。しかし仕事がめぐってくるチャンスはそう多くありませんよ」とアドバイスしたという。"School can wait"は国谷氏の迷いを吹き飛ばしたという。[pp.34-35]
たしかにいい言葉だと思う、School can wait.
『クローズアップ現代』は、VTRよりも国谷氏が鋭く切り込んでいくインタビュー場面が好きだった。本書を読んで鋭く切り込むためにどれほどの準備をしていたのかを知り、『これは論文を書く作業と変わらないな』と驚いた。
知的な見目姿に密かに憧れもしたが、『クローズアップ現代』が終了して出演した『徹子の部屋』で、キャスター時代とは違う柔和さを感じ、ますます惹き付けられた。
まあとにかく、いろいろ感じて考えさせられた良書だった。こういう広がりのある新書を教材で使いたいなあ。領域が違いすぎて小生の授業では扱えませんが。
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世のありとあらゆるテーマに鋭く切り込んだ、クローズアップ現代の歴史をキャスターが振り返る。自らの失敗や未熟を率直に語る。あの出家詐欺事件についても。放送同様、力強く響く言葉に、あらためて現代を代表するジャーナリストであったことを実感。
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文中にもあるように、正直自分の中では関心が薄いテーマもあったと思うが、
よい番組を視聴者に届けるためにはテーマが何であれ 真摯に向き合う。
ただ、台本を読むだけのニュースとは一線を画す。
例え30分の番組だったとしてもそれをここまで続けてこれたのは
国谷キャスターと周りのスタッフとの 真摯さとの向き合い なくしてはないだろう。
最後に、、、クローズアップ現代を作り続けたきた関係者の皆さん。お疲れ様でした。
番組をありがとう。
【ココメモポイント】
・「わかりにくいことを、わかりやすくするのではなく、
わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える」-是枝裕和
P.15
・お互いがぶつかり合い、最後の最後まで番組を良くしていきたいと思わなければ良質で深い番組は生まれない
P.84
・前説の中でポイントになるところは、きちんと私の正面の顔に映像を戻してほしいと注文した
P.100
・柳田邦男 危機的な日本の中で生きる若者たちに八か条
1 自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える時間を持つ。
感情に流されずに論理的に考える力をつける
2 政治問題、社会問題に関する情報(報道)の根底に
ある問題を読み解く力をつける
3 他者の心情や考え理解するように努める
4 多様な考えがあることを知る
5 適切な表現を身につける。自分の考えを他者に
正確に理解してもらう努力
6 小さなことでも自分から行動を起こし、いろいろな
人と会うことが自分の内面を耕し、人生を豊かに
する最善の道であることを心得、実践する。特に
ボランティア活動など、他者のためになることを
実践する。社会の隠された底辺の現実が見えて
くる
7 現場、現物、現人間(経験者、かんけいしゃ)こそ
自分の思考力を活性化する最高の教科書だることを
胸に刻み、自分の足でそれらにアクセスすることを
心掛ける
8 失敗や壁にぶつかって失望しても絶望することもなく、
自分の考えを大切にして地道に行動を続ける
P.233
・インターネットで情報を得る人々が増えているが、感情的に共感しやすいものだけに接する傾向が見られ、
結果として異なる意見を幅広く知る機会が失われている。
そして、異質なものに触れる機会が減ることで、全体を俯瞰したり物事の後ろに隠されている事実に
気づきにくく、また社会の分断が進みやすくなってもいる
P.242
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メディア。テレビ。
社会人として働きだした頃から23年務めた『クローズアップ現代』での出来事について書かれた本。あの時の放送のことを思い浮かべながら読めて、なるほどだった。