紙の本
アシモフの実生、或いは美しい欠片
2017/10/16 17:20
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タンポポ旦那 - この投稿者のレビュー一覧を見る
単行本の発刊時、興味を魅かれたが、追いかけている作家の作品が相次ぎ、それなり忘れていた作品。文庫化で飛びついてしまった。
カバーイラストや腰巻からは、菊地秀行「からくり師 蘭剣」とか、士郎正宗「攻殻機動隊」のイメージを抱いたが、著者の築いた独自の世界に魅了された。江戸後期から末期のパラレルワールド、と言ってしまえば、それなりの作品が数多く思い浮かぶけれど、風俗から建物、階級・職制などの社会機構まで、背景設定が細やかで興味深い。その上に、オートマタを軸として権力闘争や「幕府」と「朝廷」の確執が絡む展開は、どの篇をとっても、各タイトルと共に最後まで飽くことなく読ませる力がある。
ロボット物としての面から言えば、アシモフほどの思想や訴求力は感じられないが、それでも「鋼鉄都市シリーズ」に近い香りは確かに受け取った。アシモフの“実生”或いは“美しい欠片”とは過剰な言い方か…。ともかく魅力的な作品であり、続編が執筆されているとの事で、単行本になる日が待ち遠しいシリーズだ。
電子書籍
AIの原型
2020/05/25 10:30
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
SFのテーマとして有名な「アンドロイド AIが高度に発達すると、人間そして自意識との区別があいまいになる」を扱っている。
しかも舞台を未来ではなく日本の江戸時代に類似した世界にしているのが実にいい。
文体もその妖しい雰囲気をよく伝えている。
紙の本
『お前には心があるか』
2018/08/23 20:46
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投稿者:6EQUJ5 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「機巧(からくり)のイヴ」、続編が出たようなので、久しぶりに再読。
時代小説とSFと怪奇小説をミックスしたような、稀有な作風の傑作です。
短編集で、収録作品は次のとおり。
-機巧のイヴ
-箱の中のヘラクレス
-神代のテセウス
-制外のジェペット
-終天のプシュケー
頻繁に登場する遊郭「十三層」は、かつて東京にそびえていたという凌雲閣(浅草十二階)を連想させる幻想的な場所。隠密も活躍したり、オーパーツの要素もあったり、何でもありという感じの小説です。
例えば、「機巧(からくり)」と「天帝」のどちらをキーワードとするかで、レビューも大幅に変わると思います。
ぜひオススメしたい、幻想的な一冊です。
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文庫化。
普段、時代小説は殆ど読まないのだが、本書は面白かった。作中に漂う色気のようなものが好きだ。続編もあるらしいので楽しみ。
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書評がとても良かったので購入。
最初のお話で、あれ?想像と違うと思ったかのだけど、読み進めるとなるほど、こー繋がっていくかと驚き。
時代小説にSF要素。
タイムスリップなどはありがちなのだろうけど、この発想は私には斬新だった。
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将軍が治める「天府」の城下、幕府精錬方手伝を務める釘宮久蔵の元に、一人の侍が訪れる。馴染みの遊女にそっくりの「機巧人形(オートマタ)」を作って欲しいと依頼する侍の前に現れたのは、生身の女性と区別が付かない美しい機巧人形の伊武(いゔ)。久蔵はこの伊武をベースに遊女の機巧人形を作ってみせると言い放ち、その後侍の元に遊女そのものの女が訪れる・・・
いやーーー、これはやられました。めちゃくちゃ面白いです!何と艶やかな世界観!
文化文政時代の江戸に酷似した「天府」を舞台に、機巧技術を巡る権謀術数が繰り広げられる短編5本による連作です。連作集のタイトルにもなっている冒頭の作品「機巧のイヴ」が、その後の大きな流れとはあまり関わらない単独の「掴み」の作品であるにも関わらず、完成度が恐ろしく高い!ミステリとしても十分なクオリティを有する傑作です。
その後、実質的にこの社会を支配する「天府」と、女系継承により伝統的な権威を保持する「天帝家」との確執を背景にする陰謀がストーリーの通底音として立ち現れ、釘宮久蔵と伊武、その他のキャラクターも否応なく時代の流れに巻き込まれていきます。この過程の絶妙な「伝奇時代もの」感と「SF」感のバランスの取り方が、素晴らしいですね。
正直なところ、SFとしてのツメは甘いと思います。オートマタもの・人工知能ものSFとして見ると突っ込みどころは満載ですし、そういう観点から評価できない、という意見も散見されます。
それでも鴨がこの作品を評価したいのは、このユニークさ極まる世界観の構築ぶり。現実に存在した江戸時代後期の社会をベースに、「いやそれあり得ないでしょ」と言われる一歩手前ギリギリのレベルで独創的なアイディアを加味し、日本の伝統文化に慣れ親しんだ人にもそれなりに楽しめる良質なフィクションを立ち上げたこの技は、たぶんSF一辺倒の人材には出来ないんでしょうねー。SF大好きで、同時に歌舞伎や文楽や古典落語も大好きな鴨にとって、羨望すら覚えるセンスの良さです。
これ、ぜひ新作歌舞伎にしてください!
伊武は中村七之助丈、天帝は尾上菊之助丈、甚内は中村勘九郎丈がいいなー。釘宮久蔵が悩みどころだな、大物役者が良いよね・・・松吉は尾上松緑丈かな・・・春日は若手の真女形が良いかな・・・
なんて楽しみ方も出来る、知られざる傑作ですよ!
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とても面白かったです。
時代物とSFがぴったりと合わさっている連作短編集で、最初のお話からこの世界に惹き付けられました。
自動人形として機巧が存在している、江戸時代を思わせる世界。
独特の要素はたくさん盛り込まれているのですが決してごちゃごちゃしてなくて、魂は、心はどこにあるのか、どこからやってくるのか…このことを色濃く考えさせられます。
オートマタの伊武を始め、登場するキャラクターたちが皆さんとても魅力的でした。
オートマタと言ったら「からくりサーカス」の人形たちを思ってしまいますが、こちらの自動人形も素敵。
物語の世界は思いもかけない場所へ進んでいって、終盤は切なかった…初めましての作家さんでしたが、続編も読みたいです。
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何を読もうかとランキングを物色し、ちょっと惹かれたこの本にしてみた。
国を支配する幕府があり、上方には帝がおわす、江戸時代の日本を多少ゴシック調にした世界が舞台。
5つのお話からなるが、最初のお話が元々独立した短編ということらしく、これがなかなか洒落てる。
後はここから世界を広げたという感じの話だが、2つ目の話は、暴走する右腕が“機巧に魂が宿るか”というテーマを象徴して、これも印象深い。
後の3つの話は一つに括って、これまでの話を枕に天帝家を揺るがす秘密にじわじわと迫り、それなりに楽しめたのだが、計算尽くで何だか普通にまとまり過ぎている気も。
続く話もあるようなので、そこは楽しみに待つようにしよう。
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SF伝奇連作短編集です。表題作を読んだことがあって、おもしろかったので、連作でたっぷり読めて嬉しいです。しかも、百年後の話がyom yomで連載中とは、本が出るのが楽しみです。
アンドロイドと時代劇。これをリアルに描く乾さんはやっぱりすごい。
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なんとなく購入。
時代小説でSFとは言うけど…これ、ファンタジー設定じゃない?とか思いました。江戸時代のどこ、とか定義してるわけじゃないし、遊郭の設定とか、皇族の設定も史実とは違うしなぁ。
スチームパンクみたいなものだと昔「ロボットカーニバル」って言うOVAで江戸絡繰りロボみたいなのがあったなぁと思いだしました。あっちのが時代物っぽい。
面白くない訳ではないんだけど…色々寸足らずというか… 花魁の話も恋した浪人は死んだ、ぐらいに説明してもいいのに…とか思ったり。なんとなくあのオジサンは自分もカラクリに移行しているのかと思ったら違いましたね。
結局イヴの動力源はなんだったんだろう…なんて思いながら読み終えました。
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時代物×SFが新感覚で面白かった。話の終わり方はあともう少しなんとかならなかったのかなぁ…と思ってしまった。
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時代物としてフツーに読めてしまったので、途中までオーバー過ぎるオーバーテクノロジーの登場に何じゃこりゃ感が沸々したが、異世界ものと気づいて、俄然読む速度が上がった。面白いじゃないの~。
乾緑郎 を気になる作家リストに入れました。
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初めて読む作家さん。5つの連作短編集。
江戸時代風の日本(日本と書いてあったっけ?)に、人間と見分けがつかないほど精巧にできた「伊武」という名前の機巧人形がいた。
その「伊武」を中心に、機巧職人の久蔵、公儀隠密の甚内らが絡んでストーリーが綴られるのだが、その架空の江戸の世界観に最初からぐっと引き込まれてしまった。機巧人形はそう言われても信じられないほど精巧で(そこは、SF)、読み手にも「伊武」は一人の美しい女性としか…。
「伊武」は涙も流すし、恋もする…。まるで心があるように。
なんという話だろう。余韻まで素晴らしい。
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面白かったです。
ロボットと時代小説という異色の組み合わせが売りです。その背景だから面白さが増したのかはわかりませんが、江戸時代風の風景の中に本物と変わらない機械人形がいるって想像するのが楽しかったです。オーバーテクノロジーが嘘っぽくないし、話の流れも面白かったし、何より伊武がかわいい。続編が出てるらいいです。早く文庫本にならないかな。
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SF的なサイバネに時代小説のような世界観と、両方とも面白いけど掛け合わせるには合わなそうな物を見事に融合させてしまった傑作連作集。機巧と人間の隔たりとはなにか。人間を人間たらしめてるものとはと考えさせる大きな物語も見事。