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コラムニストこうあるべし
2020/06/18 21:50
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投稿者:せきた - この投稿者のレビュー一覧を見る
在英日本人数あれど、英国の状況を伝えるのは、大企業社員・官僚・研究者・留学生が多く、彼らはミドルクラス以上との交わりが多いだろうから、実情が日本人に誤解されて伝わることもあるだろう。その点、著者は長く根を張って「地べた」の姿を見聞きしているだろうから、希少なレポーターである。
「英国病」は、著者の考えからすれば的外れな主張に映る。
それにしても著書は論文の訓練は経歴からするとあまり受けていないように思うが、文章が浮ついておらず分かりやすい。コラムニストとしての実力がある。
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イギリスでEU離脱に投票した人はどういう人たちなのか
2017/10/22 07:18
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投稿者:くりくり - この投稿者のレビュー一覧を見る
2016年、イギリスは国民投票で、EU離脱を決断した。トランプ政権も誕生し、世界はアメリカも、イギリスの労働者階級も「不寛容な排外主義者」と思っている。著者はイギリスで、そうした労働者の中で暮らしている。「はたして、そうなのか」なぜ離脱に投票したのか、イギリスの労働者階級はどういう人々なのか、どんな歴史をたどって現在に至るのかを著者が勉強した結果が本書である。
著者は分析する。イギリスでは労働者の反乱といわれるほどEU離脱が支持されたのに対し、トランプ大統領は、実は貧しい層には支持されていない。
イギリスの人はEU議会と英国議会を全く別物と認識していて、EUではイギリスの国益をガンガン主張してくれる右翼的な政党を好むが、国内では経験あるきちんとした政党を好む。しかし、緊縮財政の中で、生活が苦しくなった現政権への不満が、せめてこの機会(EU離脱投票)にこの不満を知らせたいという行動をとったということ、同様にEU各国に緊縮財政を強いるドイツのメルケルへの反発もあった。
そして、本書は、労働者へのインタビュー、学者の著者などを紹介し、現在の白人労働者階級が、労働者階級の中で「下層に」位置づけられ政治に無視されていると感じていることを明らかにしている。イギリスの労働者のゼネストはちょっと前までは有名だったので、こうした状況は労働組合の組織率が低くなった日本とも相通じるものがあると感じる。
最終章では、現在の労働者の状況に至った労働者と政治の変遷が歴史的に紹介される。
まあ、ブレディみかこさんの勉強の成果がこの一冊なのだ。
だから、今までの著者の書籍を読んだ人には、その書きぶりが大いに違うことを覚悟した方がいい。
けれども、最初に書いてあるように、彼女の著者に出てくる人々の状況はどういう歴史で作られてきたのかをライトに理解するうえでは好著だろう。
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これまでは「労働党支持」という点で、大まかには同じ政治的考えを持っていたわたしたち夫婦が、真逆の投票を行ったのは、EU離脱投票が初めてのことだった。
2020/08/17 20:40
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投稿者:オオハシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
勉強になった。 まさに勉強になった、という本。 現在の英国を理解するには、すごく大切な本。
「僕はイエローで…」からひかれてすっかりはまってしまったみかこさんなのですが、なるほどなるほど、パンクな生きざまと明確な主張、そして社会起業家的に社会を変えようと行動していらっしゃる方、というそんな中で、さらに勉強家?というか研究者?というか、なるほどなるほど、やはり自分の考え方のベースで共感できる点が多く大好きな著者である。
これまでの英国保育士とか、自らの労働者環境(今回は「ワイルドサイド…」で出てきたメンバーへのEU離脱投票に対するヒアリングもあった)という「地べた」の感覚から反緊縮に対する明確な主張と、それに加えて100年の労働者階級の歴史を棚下すという手法を用いて検証していく方法、本当に勉強になりました。
今回の抜粋はまえがきから。
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P5
実際、家族も、知り合いもない異国の地に一人でやってきて、仕事を見つけたり、出産したり、育児したりしながら生活していくのだから、それは困ったことや途方にくれることの連続であり、そういうときに私を助けてくれたのは、近所の人々であり、配偶者の友人たちやそのパートナーたちのサポートの輪だった。彼ら無くして現在のわたしはいないと言ってもいい。わたしが生まれ育った国の人々と比べると、なんだかんだ言っても彼らはとても寛容で、多様性慣れした国民だと切実に感じていた。
ところが、である。
(中略)
「ダーリンは離脱派」、などとふざけたことを言っている場合かどうかは別にしても、そもそもわたしの配偶者自身が離脱に入れた労働者の一人だった。これまでは「労働党支持」という点で、大まかには同じ政治的考えを持っていたわたしたち夫婦が、真逆の投票を行ったのは、EU離脱投票が初めてのことだった。
(中略)
そんなわけで、よく理解できない事柄に出会ったときに人類がせねばならないことを、いまこそわたしもしなければならない、と思った。勉強である。
英国の労働者階級はなぜEU離脱票を投じたのか、そもそも彼らはどういう人々なのか、彼らはいま本当に政治の鍵を握るクラスタになっているのか、どのような歴史を辿って現在の労働者階級が形成されているのかー。学習することはたくさんあった。この本は、その学習の記録である。
(中略)
このように、本書は、英国在住のライターが、EU離脱票で起きたことを契機として、配偶者を含めた自分を取り巻く労働者階級の人々のことを理解するために、まじめに勉強したことの覚書といえる。
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静かな波
2020/07/05 22:06
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
イギリス労働者階級の、生の声をインタビューによって聞き出しています。アメリカのトランプ旋風とは距離を置いた、現実的な社会の変え方が見えてきました。
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http://catalog.lib.kagoshima-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB24669906
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今年読んだ本で一番良かった。英国に住んでいる日本人には是非読んでいただきたい。
英国南部の公営住宅に住む保育士が書いた本。彼女の夫は労働者階級出身であり、夫婦で野党の労働党を支持している。著者は労働者階級の多くの人が国民投票でEU離脱を選んだことに驚き、その理由を探る。
著者の別の本にもあったが、日本の被支援者などは目立たないようにひっそりと暮らすが、英国の労働者は、不満な現状に黙っておらず、政治に訴えて社会を変えようとする。
英国外に住んでいる人には体感しづらいだろうが、英国はいまだに階級社会が根強く残り、ミドルクラス(日本人のイメージする中堅家庭よりもずっと裕福)と労働者階級は、趣味も学校もライフスタイルが全く違い、交友関係も当然普通は交わらない。本書にもあるように、階級間の異動は不可能ではないものの容易ではない。労働党のブレア元首相などは、生まれながらに決まってしまう階級を取り払おうと努力してきた。
本書を読むと、長年のミドルクラスと労働者階級の間の深い溝の構造と歴史的背景がよくわかる。自分自身は移民というまた違う立場であるが、底辺と見なされがちな人たちのしたたかさを心強く感じる。本書はまた、現在の政治の力関係を知るのにも有益な本である。著者は労働党支持なので、労働党寄りに書かれてはいるが。
文章も構成も素晴らしい。ワーキングクラスの人たちが考えていることが少し理解できた気がする。
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少し前の話だけれど、何故イギリスがEU離脱を選んだのか、というのを、生のイギリスの声を通して書かれていて分かりやすかった。
単なる“右傾化”ではない、と。
イギリスにおける現在の「白人労働者階級」状況。その労働者階級のおおよそ100年の歴史(大まかなイギリスの政策を通じて)。
これを読んでいて感じたのは、アメリカの大統領選挙のことと、日本で起こりつつある、あるいは目に見えない(見えにくくなっている)状況に通じるものがある、と。
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EU離脱を、選んだ人たちはどんな人たちだったのか。怠け者でモラルがない、というステレオタイプには当てはまらない人間らしい人間だった。
権利とは勝ち取らなくてはならないものだが、それは他人と協力することで成し遂げられて来たという、イギリスの歴史も面白い。
ただし、ヒルビリーエレジーでは、ホワイトトラッシュは、リアルにモラルの崩壊した低レベルな側面があると描かれていた。
国は違えど、何が違うのか。ヒルビリーエレジーを読み返したくなる。
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Brexit投票結果の背景について、ものすごくミクロな視点と、ものすごくマクロな視点の両面から考察していて参考になった。結局彼ら白人労働者階級の人たちが、どのような国を望んでいるのかは最後まで解らなかったが。単に既成政治に反対しているだけで、その先の理念が見えなかったのは、本当に理念がないのか著者が追いきれていないだけなのかが分からなかった。
ところで著者が暮らしているブライトンは日本で言う葉山のような街で、皇室静養地、美しいペブルビーチ、華やかなピアの記憶しかないが、ブルーカラーの人たちも住んでいる普通の地方都市なのね。
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良書。「はじめに」に書かれている一文にまずハートを射抜かれた。
「そんなわけで、よく理解できない事柄に出会ったときに人類がせねばならないことを、いまこそわたしもしなければならない、と思った。勉強である。」(p.7)
それまで移民を積極的とまでは言えなくても、近隣住人として受け入れていた(ように見える)労働者階級がなぜブレグジットに賛成票を投じたのか。自分の夫も含めて。そんな著者の切実な問いと答えが本書。
知的にスリリングな謎解きだし、イギリスとアメリカの違いも「欧米」と安易に一括りにするのは控えようとおもうくらいに明確だし、知らなかったイギリスの社会と文化を鮮やかに紹介してくれているし、ネオリベ的なブレア政権の「ニュー・レイバー」についてすごく立体的な描写をしている(=逆回転というのかぐるっと一周回ってというのか、「自由自発」や「労働者のスキルやる気」の問題ではなかった)。これはショックだった。私自身、今の日本の政策が目指すべき政策と考えていたことのほとんどがこのニューレイバーだったから。
もの足りなかったのは、この部分。ニューレイバー政策が良くなかったのはわかったけど、それはなぜか。イギリスはそうだったとして、アメリカや日本も同じ路線を目指したと思うのだけどそっちの評価は。もちろん、それは著者がこの本を書いた狙いからは外れるのであとは自分で調べることにする。いい刺激をありがとうございます。
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◆イギリスのプレグジットは排外主義の反映ではなく、格差社会における無策がもたらしたもの。対岸の火事と見過ごせない現実が内容・行間から立ち上る◆
2017年刊行。
著者は英国にて、保育士をしつつ文筆業・コラムニストにも勤しむ女性。
ブレグジット(EU離脱)を可決した英国の国民投票結果に世界中が驚き、またこの結果はトランプ現象と共通する排外主義の典型と捉えられた。しかし、この見方は本当に正しいのか?。
EU離脱に舵を切らせた英国の白人労働者層が抱える今と、離脱賛成票を投じた本音の部分。さらに彼らの嗜好・指向を具体化したインタビューと、白人労働者階級が辿ってきた100年の歴史を他書の要約で回顧する書である。
排外主義というより、白人下層への政治的配慮・恩恵のなさへの異議申立。ブレグジットが炙り出した時代相は、タイトルにある如く、(白人)労働者階級の反乱と言うに相応しい。
かような状況で語られるインタビューその他の分析(ⅠとⅡ部)を下支えするのが、イギリス労働者階級目線で語られる政治的・政党的な濃淡の変遷である。
労働組合が炭鉱廃山を契機に完全に衰退に向かう一方、保守党のみならず労働党すら、サッチャー政権前には労働者への公平配分に逆行する政策を展開し始めており、これに起因する労働党不振・不信が、問題の多かったサッチャー政権(不利益な政策ばかりを展開して、経済的な成果はサッパリとする)を長期にわたり延命させた。
その実を鋭く突き、トニー・ブレア政権の出鱈目振りもまた厳しい目線を向ける本書は、(意外と言っては失礼だろうが)読み応えがあった。
なにより白人労働者階級とされる人々の生活困窮=格差亢進と、その制度的変遷や背景に踏み込んているのが、新書サイズにも関わらず…、という印象を強くしている。
日本の90年代後半~現代までの諸事情を考えると他人事とは思えないし、また、現代の英国の労働党が進める有権者との「膝付き談判」の意味と意義を、日本の政治家・政党も噛みしめてもらいたい。
こういう観点からも本書読破は、未来への一里塚となりそうな印象を残す。
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イギリスのワーキングクラスの人がどんな人たちなのか何となくわかった気がする。
言いたいときは言うし、やりたい時は本気でやる。
EU離脱の国民投票がとんでもないパンドラの箱が空いてしまって今後どうなるんでしょうかね?
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英国労働者階級に身を置く著書がブリグジットの中心となった彼らの思いを掘り下げてトランプ現象と違いを語ります。「離脱派と残留派のように全く違う見解や信条を持った人の中でもオープンにそれを語り合う。「英国的」というのは、まさにそういうことだ。」との一節がとても印象的でした。
ちなみに、著者はトランプ現象を「ヒルビリー・エレジー」などで語られている貧しい労働者がトランプを支持したのではないと解説してます。
また、終章での「英国労働者階級の100年」は世界で最も早く労働者が登場した国だけあって読み応えがあります。
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英国在住、”労働者”階級の夫を持つ著者による書。誇りある英国の”労働者”に対する愛情を感じさせる。研究者による分析を紹介する箇所も、カルチャーの視点を織り交ぜながら描写し生き生きとしたものに感じさせる好著。
印象に残ったのは、”白人”労働者階級の出現は、歴代政権が階級の問題を人種の問題にすり替えた結果発生した、とする点(263ページ以下)。元々移民に接していた労働者階級は移民との共存に慣れていたが、キャメロン政権の国民投票実施決定がパンドラの箱を明けてしまった。入国在留管理庁の設立等、外国人労働者増を目指す日本の将来を考えるにあたっても読んでおくべき。
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ブレグジットの背景を学ぶには良い本だと思います。
1.この本を一言で表すと?
・イギリスのEU離脱とその背景をリポート、分析した本。
2.よかった点を3〜5つ
・少なくとも私の知る範囲では、ブレグジットに多大な夢や希望を抱いていた人はいない。(p31)
→トランプ現象とブレグジットの大きな違いだと思う。
・第?部 英国労働者階級の100年
→自分の知らない歴史だったので勉強になった。
・90年代以降,歴代政権は,階級の問題を人種の問題にすり替えて,人々の目を格差の固定と拡大の問題から逸らすことに成功してきたのだ。これは経済的不平等の問題に取り組みたくない政治家たちによるシステマティックな戦略でもあった。(p263)
→「労働者階級の反乱」というタイトルは最初意味がわからなかったが、上記の政治の欺瞞への抵抗反乱という意味だというのが理解できた。
・日本の多くの人は「欧州の危険な右傾化」と「ポピュリズムの台頭」が原因であるというところで止まってしまい、「緊縮が理由などと書くのは、右傾化した労働者階級を擁護することになり、レイシスト的だ」と苦情のメールもきた(p273)
・「他者の立場になって考えてみる、異なる意見を持つ人間に感情移入してみる」努力ができるということこそが、想像力という知性を持つ人間の特性なのだ。
そもそも、EU離脱を招いた「政治と地べたの乖離」が、その知性の欠如に端を発していたことを思えば、わたしたちはそのことを再び思い起こす時代に来ているのだと思う。(p284)
→今後社会の壁を乗り越えるには我々はどうしていけばいいか、この文に集約されていると思う。
2.参考にならなかった所(つっこみ所)
・p25の表
→米国大統領選では中間層や富裕層のトランプ支持・クリントン支持は数が拮抗しており、一概に富裕層だからトランプ支持とは言えないのではないか?
4.全体の感想・その他
・イギリスの労働者階級の人たちがどのような考えをもってEU離脱に賛成したのかということを的確に伝えていると感じた。
・第?部のインタビューは、現場の生の声がよくわかったので面白かった。
・緊縮財政の負の面がブレグジットの背後にあることから、緊縮財政に懐疑的になった。
・離脱派の人たちは排外主義や不寛容といった単純な発想から離脱に票を入れたわけではないということが分かった。