柴崎友香氏のデビュー作で、非常に興味深い秀作です!
2020/05/27 12:02
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、作家、柴崎友香氏のデビュー作で、咲くやこの花賞を受賞した秀作です。同書は、十年前に京都で引っ越しパーティーに居合わせた男女が再び京都で再開するという物語です。10年というそれぞれの時間をそれぞれが生き、さまざまな体験をしながら成長してきた男女が、その中の一人である中沢が鴨川沿いにオープンさせたバルに集まって再会を果たします。そして、そこでもそれぞれに、様々な出来事が起こっていきます。一体、この再会パーティで何が起こるというのでしょうか?続きは、ぜひ、同書をお読みください。
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投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
変わったこと/変わらないこと
見ていること/見ていないこと
見えていること/見えていないこと
まだ見ていること/もう見ていないこと
今、目の前にあること/通りすぎたこと
さらに二十年後もいずれ書いて欲しい。それだけ魅力のある人たちだから
2018/09/18 19:39
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投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
柴崎友香のデビュー作「きょうのできごと」の続編で十年後を描いている。登場人物たちが十年経ってまた再会する。「きょうのできごと」を読んでいない人は先に読んでおいた方がいい。昔に読んで筋を忘れていても、だんだんと思い出せるようになっているので大丈夫です。さらに二十年後もいずれ書いて欲しい。それだけ魅力のある人たちだから。
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投稿者:ワガヤ - この投稿者のレビュー一覧を見る
一晩の再会を描いた物語。何気ない会話が、とてもいいです。微妙な、はっきりしない、空気感です。また、10年後に再会してほしい気がします。
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2020/5/5読了
デビュー作のきょうのできごとの10年後の話。
きょうのできごとを読んだ時に10年後の話があると知ってずっと読みたくて、やっと読めた。
大きな展開や驚くようなことがない分、よりリアルな日常という感じ。
色々な人の視点から物事が描かれており、登場人物の心境も繊細なまでに伝わってくる。
登場人物のなんとも言えない距離感、10年前からは想像つかない今。それでも変わってない人たち。
10年前から変わっている人を見ると変わることの切なさみたいなものを感じるが、変わろうと何かをきっかけにしようとする人の覚悟は良いなぁと思った。
個人的に好きな作品で、この作品が好きな人とは仲良くなれそうやし、なんかいい人なんだろなぁと思う笑
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映画になった「寝ても覚めても」を観て、「きょうのできごと、十年後」(河出文庫)が気になり始めて、買ったはずなのか、買ったつもりなだけなのか、どこを探してもなかったので新刊を買ってきて、まず、読んだ。すると、2000年に出て、映画も、たしか見た「きょうのできごと」(河出文庫)が気になって探すと、これは書棚にあって、もう一度読んだ。
「きょうのできごと」は、一応、柴崎のデビュー作ということだから、読み始めて18年もたつんだと思って、今、読み終わった文庫本をしげしげという感じで眺めていると表紙の写真が妻夫木聡と田中麗奈。映画のコンビ。ぼくでも名前を知っている数少ない俳優なのだけれど、田中という人はほかの場所で見てもすぐにわかるとは思えない。文庫の後ろの方を見ていると映画は2004年だとわかって、ぼくの柴崎初体験は14年前だとあらためて気づいた。年齢でいえば、50歳の時で、とても、そんな年になってから出会った作家だとは思えないのだが、事実は事実ということのようだ。
解説は保坂和志が書いていて、柴崎についてだけでなく保坂自身にもつながる、まあ、当たり前だけど、大事なことを言っているのだけれど、そこで出てくるジャー・ムッシュという映画監督をぼくは知らない。
《未来はもうかつて信じられたみたいな“特別な”ものではない。それを私たちはよく知っている。だから、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を境にしてフィクションの時間はもう未来に向かってまっすぐ進まなくなってしまった。それはフィクションの構造にも、展開にも、両方にあてはまる。未来に希望も絶望もないけれど、今はある。見たり聞いたり感じたりすることが、今この時に起こっているんだから、フィクションだけでなく、生きることそのものも、過去にも横にも想像力を広げていくことが出来るのではないか。もしそれが未来に向かったとしても、過去やいま横にあることと等価なものとしての未来だろう。》
今読んでみると、十年以上も前のことだけれども、この文章を読んだことは確実で、柴崎の小説の案内を書くときに「今この時」にこだわっていて、《今ここにいるということがなにげないことなのに、哀しい。》というふうな感じになるのは、保坂のこの文章に、理解しているかどうか、あやふやだけど、インスパイア―されている。
「きょうのできごと、十年後」と、「きょうのできごと」に話を戻すと、20代の始めだった人たちが、10年後に再会するという設定で、複数の登場人物の、一人称の語りという描き方は同じ。だから、当然なのだけれど、二つの小説の登場人物は、ほぼ重なっていて、10歳、年を取っている。
登場人物の中の「かわちくん」という青年と「けいと」という女性の絡みの描写がそれぞれの小説の中にある。
《こたつの部屋の隅っこで、けいととかわちくんが並んで座ってお酒を飲んでいた。(略)
思った通り、けいとはかわちくんに一生懸命話しかけていた。
「あんなあ、酔うてるときって、卵の中におるみたいな気がせえへん?せえへん?」
「卵ですか?」
(略)
「そう、卵の中。でも、卵っていう��も鳥の卵じゃないねんで。あんな固い殻じゃないねん。殻のない卵。」
「気にせんでもいいで、かわちくん。それはけいとの酔うたときのねたやから」
「そうなんですか」
(略)けいとはわたしのほうをちょっと睨んでから話し続けた。かわちくんに話しかけるたびに短い外はねの髪の毛が揺れて、しっぽを振る犬みたいだと思った。
「ええやろ、べつに。ほんまにそう思うんやから。卵やの、卵。柔らかい、水みたいのに包まれる感じせえへん?声とかも水の中でしゃべってるみたいにこもって聞こえるし、感覚とかも鈍くなるやん。触っても、あんまり感じへんくって。きっと卵の中におるのって、こんな感じなんやろうなあって思うねん。鳥の卵じゃなくて、おたまじゃくしの卵とか、そういうのやで」
「おたまじゃくしの卵ですか」
かわちくんは素直に聞いて、考え込んでいる様子を見せた。けいとはかわちくんの反応を、期待を込めた目をきらきらさせて待っていた。わたしは目の前にあった、袋の底に少しだけ残っていたポテトチップスを食べながら、けいとってかわいいなと思った。
「なあ、かわちくん、そんな感じせえへん?おたまじゃくしの卵の中みたいやって。おたまじゃくし。どう?」
かわちくんはまじめな顔をして、テーブルの上の氷だけになったコップの底にたまった水を少し飲んでから言った。
「おたまじゃくしの卵って、変じゃないですか?かえるの卵でしょう?」
「えっ?」
けいとは予想外の答えに戸惑って、何を聞かれたか理解するのに少し時間がかかっているみたいだった。わたしは、固まっているけいとの顔がおかしくて笑ってしまった。》(「きょうのできごと」(真紀のモノローグ)
《「もおーっ、暗いなあ!あかんあかん、せっかくの男前がもったいない」
けいとさんは、今度はぼくの肩をゆすった。今、ぼくが考えていることは、この人にはわからない。ぼくが何をしてきたのか、この人は知らない。十年ぶりに会った、他人のこの人には、ぼくは実際よりも少しましに見えているのだろう。
「別に、こんな顔、役に立てへんし・・・・・・」
「立つよ!今も、目の保養させてもらってるし。癒されてるよ」
真剣な口調が、うれしかった。
「やさしいですね、けいとさん」
「ほんま?やさしい?」
けいとさんの二つの目は、潤んで、そばにある変わった形のライトを反射していた。鳥の羽みたいな不思議な服。どっどっどっ、と音楽の一部が響いてきた。誰かの声も聞こえる気がする。
「けいとさんは、素敵な女性やと思います。あの・・・・、かわいいし」
けいとさんは、こっちに手を伸ばした。そして、ぼくの顔を触った。頭から顎に向かって、そっと撫でた。細い指で、温かい手だった。だけど、感じたのはそれだけだった。
「あー、なんでやろなあ」
けいとさんは、ぼくから離れ、赤い椅子にどさっと持たれた。
「それ十年前に言うてくれたらよかったのに。そしたらわたし、素直によろこんで、っていうかぎゃーぎゃーうるさかったと思うけど、かわちくんになんでもしてあげたのになー」
けいとさんは笑っていた。懐かしい友だちみたいな笑いかただった。
「けいとさんは、イマイチ男性の趣味が悪いのかもしれませんね。見る目がないというか」
「ええっ?」
「ほら、ぼくとか、もしつき合っても、全然おもしろくなかったと思いますよ」
「せやなあ。恋愛に関してはろくなことなかったし、確かに、そうなんかも。かわちくんも、こんなぐだぐだやしなあ」
「すいません」
「謝らんでいいって。謝りすぎ」
「それもよく言われます」
あはは、と声を上げて笑ったけいとさんは、眠そうに見えた。》「きょうのできごと、十年後」(かわちのモノローグ)
ここまで読んできた人には、「十年の歳月」ということが、人に何をもたらすのかということを、この作家が書き込んでいることに気づいていただけたのではないだろうか。
10年後の「今、ここ」が、単なる時間の経過の結果としてあるわけではなくて、そのとき、そのときの「今、ここ」が重層的に重ねられた経験として人の中に積もってゆく。すこしづつ、その露頭を垣間見せながら、「きょうの」会話が構成されていく。何が変わって、何が変わらないのか、自分でもよくわからない。しかし、口調や物腰、外の世界の見え方の中に、否応なく露出してしまう。
10年前の「きょうのできごと」にも「かわちくんのモノローグ」は書かれている。そこでは、「その日」の「かわちくんの悲惨な、きょうのできごと」と、酔っ払って口説くけいとの「おたまじゃくしの卵」にたいする「かわちくんん」の強烈なリアクションの描写に、「今、ここ」の「分厚さ」があったのだが、「十年後」のかわちくんが、やはり酔って口説くけいとに「やさしいですね、けいとさん」と答える会話のシーンには、10年前に掘ったの井戸から、新たな水を汲みだして口にしたような深い味わいがある。
とかで、「きょうのできごと」「きょうのできごと、十年後」(河出文庫)。是非、続けてお読みください
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きょうのできごとの2作目 今回も気持ちよく引き込まれてしまいました。
流石にちょっと無理があるなぁ、と感じたり、辻褄が合ってるのかな、と心配になったりするところもありましたが、それも愛嬌。
中沢君が振られた…は、読者をがっかりさせておいて、今後に続く…かな。
どなたかが書いておられましたが、私を含め、この本が好きな人、面白いと思える人の感性に乾杯!したいです。
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「きょうのできごと」から10年後のそれぞれを、中沢のカフェ5周年パーティーで集まった1日で描かれている。けいとは仕事に没頭し、正道は研究に没頭し、西山は外国人の妻と子供と農業し、坂本は株で稼いで、暇なときにタクシーで、働き、かわちくんは美形の好い人で、変わらず、真紀ちゃんは百貨店で、昇進、おまけに結婚を申し込まれ。それぞれの10年後は「あっ!」と驚いたり驚かなかったり。しかし、パーティーのその日は10年前と変わらず いろんなことが起こる。さて、さらに10年後はどうなっているのか。さらさらと読める文章はとても心地よい。
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読み始めは、ああこの何も起こらない 感じ、と思ったのだが、読み進めるうちにちょっと違う?となってくる。今回は特別感と言うか、それぞれの日常から離れて久しぶりに会う旧知の人たちとのある種探り合いのようなものがあり、その分大人になったのだなと思う反面、やはりそれぞれ自分に対しても他人に対しても思うところがあり、人と関わるってこういうことかもしれないな、という気持ちにもなる。