万博をつくった理念をたどること、それは近代文明の観念史そのもの!名手鹿島の本領がいかんなく発揮された魅惑の文化史研究
2023/09/22 16:56
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ロンドン万博に触発されて「万国」「万有」の博覧会で労働者を教育し、社会の富を増やそうとしたサン=シモンの弟子たち。万博によって、人々は歴史上初めて、商品は見ることができ、見て楽しいものだと知った。ショッピングの先祖がここに誕生したのだ。サン・シモン主義の概説と再評価、近代資本主義とテクノロジー、大衆消費主義への接続という主題を圧倒的な史料と知識で叙述。ナポレオン3世も重要な役どころ。本書で面白いのは、あとがき、小学舘文庫版あとがき及び学術文庫版あとがきで、著者自ら解題を行っているところ。大阪万博に反発し、それから万博のイメージを形成した筆者が、パリ万博に興味を持ちながらその違いがなにか考えていたときに、ベンヤミンに触れ事物の物神性の指摘に圧倒されるも、収集していた史料からサン・シモン主義者が、自らのユートピア思想を実現させるために万博を企画したのではとの仮定にたどり着くところ。研究者の手の内、分析の枠組みと知識の組み合わせの舞台裏が赤裸々に開示されている。ここだけでも購読する価値があるように思われる。
それって、見世物?
2022/10/04 11:17
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
1867年のパリ万博では日本も出店している、そのことは過去何回かの大河ドラマで放送されているので記憶しているが浅草の商人が茶屋をしつらえた。3人の柳橋の芸者に煙管をふかさせた、これが好評をはくしたというが、それじゃ見世物ではないかと今の感覚では思ってしまう
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この本がどういう本かは、下記の、本書からの引用で示す。
■私の全著作の中で最もアカデミズム寄りの一冊である。なぜなら、万博関係の一次資料に世界でも最初にとはいわないが、かなり早い段階でアクセスし、パリ万博というものがサン=シモン主義から直接的に生み出されたものであることを実証した本だからである。(文庫版P391)
■1855年と1867年のパリ万博については、次のように断言してもよいと思う。すなわち、パリ万国博覧会とは、「人間による人間の搾取から、機械による自然の活用へ」というサン=シモン主義的思想を受け継いだミシェル・シュヴァリアとその盟友のフレデリック・ル・プレーが、ナポレオン三世というパトロンを見出して、自らの頭の中にあったユートピアを地上に実現してしまったものであると。(文庫版P359)
すなわち、「パリ万博とは何だったのか」という主題に対しての筆者の答えを書いたものであるが、その答えを導くために、並大抵ではないであろう量の資料にあたり、きちんとした調査をして書いてあるのが本書である。調査の質と量と結論の導き方が「アカデミア寄り」と筆者は書いている。
また、筆者は本書を「万博についてのモノグラフィー」とも表現している。
モノグラフィーは、モノグラフとも言われるとされている。
■モノグラフ、モノグラフィーとは、ある一つの主題に関する研究を記した本や論文のことである
■学術論文のこと。とりわけフルペーパー、すなわち特定の主題に関する研究成果を、論文として完全に独立した形式にまとめた長めの学術論文のことを指す
■一つの問題だけを対象に書かれた研究論文
私は、本書のような本が好きである。
でも、なぜ好きなのかが自分でもよく分からなかったし、本書の「ような」本とは、「どのような」本なのかをうまく説明することは出来なかった。しかし、この「モノグラフィー」という言葉を知り、私が好きだったのは、モノグラフィー、すなわち、ある一つのテーマに対して、かなり深くきちんと調べて書かれたものだったということを、あらためて知ることが出来た。ただ、それは別に論文である必要はなくて、ちゃんとした調査や、あるいは、自分自身の深い体験に基づいたノンフィクション的な読み物、と広く捉えたい。
小熊英二の「1968」や、渡辺京二の「逝きし世の面影」等は、モノグラフィーそのものだ。関川夏央の初期の韓国・北朝鮮に関する本は、きちんと色々な調査を行い、それに加えて、自分の深い体験を含めて書かれたものである。渡辺一史の「こんな夜更けにバナナかよ」や鈴木忠平の「嫌われた監督」あるいは、沢木耕太郎の一連のノンフィクションも、調査や深い体験に基づいている。
うまく言えないけれども、本書は、上記にあげた本と同類の本であると直感的に思っていたが、それが「モノグラフィー」という言葉でくくれることが出来ることを知れたのは自分にとっては、非常に良かった。調査や体験が書かれていることに、深みを与えてくれていて、読み応えがあるところが好きなのだと思う。