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ワシさんのレビュー一覧

投稿者:ワシ

365 件中 1 件~ 15 件を表示

英国女傑の観察眼

16人中、16人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

上下巻を合わせて合計一千ページを超す、まさに大作です。これだけの紀行文をまとめ上げた筆者と訳者の時岡氏に惜しみない讃辞を送ります。
本書では横浜から上陸し、東海道~日光街道を抜け函館に至るおよそ千キロの道程を踏破しています。道すがら目にした様々な体験を綴っているのですが、なにがしかの命を受けていたのか、女史自身の知的欲求がさせた事業なのか明瞭に語られることはありません。我々が知りうるのは、文物から風俗から人々とのやり取りまで、点描に過ぎないものの事実を書き留めることに誠実であろうしたのだろう、それだけです。

大まかに著者自身の見分による時系列を追った書き付け、著者とその妹との間で交わされた私信をとりまとめた体裁で構成されています。紀行と私信の差異も口語・文語表現をふんだんに取り入れた分かりやすい訳です。軽妙な言い回しながら遠慮なしに辛辣な皮肉を加える事も。
読了には相当時間が掛かるでしょう。もっとも私の場合じっくり腰を据えて読んだのではなく全体をざっくり斜めに読み、現地を訪ねた折りに細部を再読(主に移動中の列車で)といった妙な読み方をしていたせいで大分時間を食いました。
齟齬や認識不足、取り違えこそあるものの裏付や取材を欠かさず、他国の類例とも比較しつつ、科学的・合理的な態度を崩そうとしない姿勢には敬意を覚えるばかり。
そしてわが国の当時の為政者や指導者に冷徹な達眼を持つ士がいた事実に驚かされます。もっとも人の成す事であり八方万事うまくいくことはありません…。

時折り差し込まれる流麗な挿し絵、写真、スケッチも実に魅力的です(残念ながら電子版では解像度が低くボケていますが)。著者本人の描写や同伴した日本人の案内人、車夫が描いたと思われるものもあり興味が尽きません。
明治維新を経て百五十余年が過ぎました。維新がもたらしたものには光陰・功罪とも多々あります。我々の祭祀や宗教観にまつわる文化・風俗、北海道では蝦夷やアイヌといった時代の流れの中で壊されていくモノにも多々触れられています。
本文ではすぐ手の届く距離なのに、現在の私達は二度と触れることもできない、そんなモノも少なくありません。案内人の伊藤がアイヌへの差別を丸出しにし筆者はそれを諫めるのですが、筆者自身も東洋人・有色人種への無自覚な差別が抜けておらず時代を感じさせます。叙情的で流麗な筆致で語り(訳者の国語表現が実に秀逸)、他方では数字やいかめしい官職の羅列も論文然と扱っています。
失われゆくものに心を痛め発展の余地に心を躍らせる。どこか里心や郷愁をゆすられる、なんとも不思議な学術文庫です。

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紙の本反日種族主義 日韓危機の根源

2022/01/15 17:33

反日の克服にはまだまだ遠い

19人中、16人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

邦訳版の出版後、共著者の李宇衍氏が暴漢に襲われたそうです。幸い大事には至らなかったものの反論があるなら言論で臨むべき、暴力で臨む時点で韓国の底が知れます。

いくつか本書で物足りない点から挙げてみます。わが国では近現代史をおざなりにする傾向があり、日清・日露戦争や朝鮮併合といった時系列をお忘れの方も多いかもしれません。このあたりの概略や簡単なコラムがあってもいいように思います。
本文も独特の翻訳なまりや原文の慣用句を直訳したり、つかえてしまう箇所もあります。「親日派断罪」やその政治的背景は読者にはなじみが薄いでしょうし注釈や解説があってもいいでしょう。邦訳を急いだのは分かりますがこのあたりは不親切な構成と感じます。

さて、正確な数値の記録と統計は近代国家の礎です。韓国側からはなにかある度に「奴隷労働」「無賃」と非難がましい声があがります。当時の物価や賃金というのも日本側では膨大な記録が残されていて、史料からは激務ながらも破格の報酬だった事がうかがえますが、当時の朝鮮側の記録ではこうという話を韓国側が持ち出してきた記憶はありません。著者らの「数字は嘘をつかないが数値を誤読させ嘘をつく学者」が後を絶たないという指摘は実に的確です。
ここを突かれると「日本が記録を捏造した!!」と荒唐無稽な話に飛ぶのが韓流とでもいえるでしょうか。

他方で巻末の久保田るり子氏の解説も気になります。部分引用しますと「(前略)本書は社会現象ともいえる注目を集めベストセラーとなった。それはこの本が、(中略)日韓基本条約、請求権協定を否定する韓国文在寅政権に真っ向から挑む歴史観批判となったからだ。」文政権に挑む、さすがですね。

通読すると編著者・共著者とも反日性向に変わりはないようです。もちろん「文政権の反日は雑だからそれよりも緻密な反日を」といった低レベルなものではありませんが、まだまだアンチ文政権の側面を強く感じます。
現時点で反日は前提で、硬派か軟派かの違いだけのようです。誠実な史学者でも反日を抜きに物事を語れない、これは恐ろしい話です。
終章で編著者は「百九年前、一度国を失った」と記しています。それ以前が国と呼べる体だったかは疑問で、夢見がちな印象が拭えません。李承晩を賞賛もしますが、彼の「上海臨時政府」からウソと反日の歴史が始まるのですから。

反日の克服はまだまだ遠く、右派左派というイデオロギー戦の色が抜けていませんが、本書は反日克服の足がかりとなる偉大な一歩かも知れないと期待しています。

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電子書籍朝鮮紀行

2022/09/19 12:10

何年ぶりの再読か

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

初めてお目にかかったのは高校の図書館だったような。

当時は「風変わりな人もいたんだなぁ」といった程度、読みかけで投げ出しましたが、電子版が刊行されているのを知り再読してみました。“婦人“や“旅行記“といったワードが並んでいますが、著者は地位も知識もあり胆力と行動力を兼ね備えた女傑です。なぜ高位の人々が大小の助力を重ねて、彼女を動乱さなかのキナ臭い日清・朝鮮半島へ(まるで狙い澄ましたかのように)送り込んだのか。本文をご覧頂ければある程度は推察できるでしょう。

時に叙情的に見たままの情景をつづりますが、その態度はあくまで科学的。気温、距離、貨幣価値といった数値は漏らさずそのまま記す一方、人物や造形といった数値化が難しいものは、好悪の印象をためらわずに書いています。動植物から建築にまで造詣が深く、その知識は圧巻そのものです。現代まで残ったのも、こうした科学的な接し方があったからこそでしょう。残念ながら食べ物と料理に関しては、元祖メシマズ国の本領を存分に発揮しておりアテになりません(ほぼカレーだけで済ませている)。

触れずにいられないのは、朝鮮王朝と国府そして官吏のすさまじい腐敗と停滞です。行政も経済も完全にマヒしているが、大衆にもなにかを起こす気力も胆力もない。ことを興すのはいつも日本人か清国人。脱力してしまうのは、この紀行が書かれたのはほんの百年ほどの昔、曾祖父母と同じくらいという事実があるからでしょうか。

著者は当時の朝鮮王・高宗(その後には大韓帝国皇帝に)とも数度の面会の機会を得ています。面会した印象に限れば一見気弱で温厚そうな人物ですが、実際の政治は優柔不断で逃げ腰。公私の分別が付かず無益な処刑を乱発したりと為政者の器とはとても言えません。印象だけに全てを語らせないこうした点も非常に説得力があります。国王自身もそうですが、臣下から国民まで誰もが不幸としか書きようがないのですが…。

巻末で筆者はある結論に達しますが、それは現代にも通ずる、いや現代の勢力図そのものを予言しているような気もします。英国の知識人が南京虫と戦い身体を張って書いた力作。殺伐とした時代の中ですが時に笑えて心温まる描写もあり、肩ひじを張らずに読んでみるのも良さそうです。

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電子書籍テコンダー朴

2023/09/18 20:58

日本は謝罪しる!!!!

10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

大韓民国が世界に誇り、世界の誰もが注目する華麗な格闘技『テコンドー』を主軸に置いた壮大なスケールの物語である!その創造性は人類が瞠目してなお足りない!

本書は紀元前から脈々と続く大韓民国の輝かしい歴史の端緒を切り取ったに過ぎない!あらゆる文化・芸能・工芸の祖であり、起源でもある大韓民国!一時こそ日帝の圧政で無残に破壊され収奪されたが日帝の併合から解放され再び世界一の国にかえり咲いた大韓民国!

本書をお手に取れば、ノーベル財団がダイナマイト起源である大韓民国をどれほど畏れ多く感じているか、その断片がご理解頂けるに違いない!二十一世紀になっても日本帝国主義の野望は未だ衰えを知らず、日本を統べる覇皇は世界征服の機会を虎視眈々と狙っている!

韓国起源の文物ですらあたかも日本が発祥であるかのように僭称する卑劣な日本を許すな!朴星日(ぼくせいじつ・パクスンイル)!!
あらゆる格闘技の祖であり源流であるテコンドーを極めた朴は並みいる敵を片っ端から打ち倒す!テコンドーの秘奥義を手にした彼にもはや敵はない!!
新英傑!ニューヒーロー!強きを助け弱きをくじく世界最高民族「大韓民族」!その本懐の血がうずく!戦え!戦うのだ朴!全てを奪い踏みにじった日帝とチョッパリに今こそ正義の鉄槌を下すべし!!!日本は謝罪しる!!

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電子書籍呪(しゅ)の血脈

2022/05/08 09:07

すべての意味を解いた時につながるモノ

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

早くに父を亡くし、母と妹の暮らす小さな家庭を支える高藤正哉。生来の口べた、自覚するほどのぶっきらぼうさで、仕事にも社会にもなじめない正哉。帰るべき家庭はとうに行き詰まっていた。
このところ正哉は凄惨な事故死の現場を目撃してばかりだ。繁華街ではギャングまがいの少年達が「缶蹴り」と称して周囲を無差別に巻き込むゲームに興じる。事故の連鎖、増える一方の悪漢、どうにも物騒きわまりない。
一方、大学で民俗学を学ぶ宮地紀之。大学や学会の”政治”に身を置けない彼は、自説を確立し名を挙げるべく諏訪信仰のフィールドワークに熱を上げていた。しかし鎌木村で犯した禁忌が住民に「祭り」の催行を余儀なくしてしまう。村で出会った少女がささやく「なにがあっても知らないから」
まだインターネットが世間に普及し始めた時勢、だが冒頭から往時のランドマークが登場し、力点も別のところにある。その甲斐もあり十数年が過ぎた現在でも違和感なく読める。執筆当時はコンピュータやネットがまだマニアやオタクのおもちゃと見なされていた時代、その頃に心霊や怪異とネットとの相性が抜群である事を見抜いていた作家は少ない。ネットの向こうにも人がいる。そして知能こそ人には及ばないが同じ工程をひたすら繰り返すまるで式のようなスクリプト群もある。物理的に接点を持つことが難しい異常な人々も多い。慧眼である。
そのネット上に忽然と姿を現した『天音』(あまね)。頭角を現しつつあるベンチャー企業のサービスに乗っているのは、占い師か新興宗教か。『天音』の正体を探るうち、高藤が鎌木村の神官家系と偶然に知り高藤家を訪ねた宮地。PCを通じて梓へ唐突に降ってわいた『お言葉』。梓はお言葉と断片的な事実だけを持ち、なにかを悟ったように行方をくらませてしまう。正哉と宮地は梓を捜索しつつ、「祭り」を完遂させるため急きょ長野へ向かう。めったに感情を出さず、黙りこくってなにを考えているか分からない、時折車内で紫煙をくゆらすだけの主人公の正哉。考えがないわけではない、がさつだが暴力を振るう事もない。殺伐とした居心地の悪さは読んでいても息が詰まる。この演出は文章でしかなしえないものだ。
本書の鍵になる「裏の祭り」「表の祭り」と奇怪さを前面に出しつつ、名前や音に隠された意図を読者から巧妙に隠している点がフィクションながら非常に興味深い。(むしろ個々のピースは実際にあった挿話なのかも知れない)
土着信仰や神事がもつ真の意味、ある意味でダ洒落や掛詞や縁語の類だが、多くの忌み事や荒ぶる神の正体が隠されている。どうして我々がそれら忌み詞を今でも避けるのか。なぜ同じモノや物に複数の名前を冠するのか、その理由と具体的な手法を作中で見事にまとめており作者の本領発揮である。
畳みかけるような展開で、立ち止まることも逡巡することも許されず、次々に決断を迫られる正哉、どうにか追いすがろうとする宮地。綿密な知識で構成され、断片同士をわずかにずらす事で読者に違和感を与え新たな謎へ引き込んでいく。
徐々に明らかになるベンチャー企業の真の意図は。正哉が持つモノ、早世した父を惑わした正体、祭りの本懐、それらが終盤の惨事で「一本の柱」としてつながってしまう…。

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大まかな原理と仕組みを学べる図鑑

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

少し前ですと専門書の手前、絵解きや漫画も交え一般向けよりもう少し踏み込んだ書籍がありましたが、この出版不況に理数離れで中々お目にかかれません。

こういったギミック満載の製本で、身をもって「世の中はカラクリで成り立っている」と体現してくれる図説は実にありがたいですね。
(工学畑のせいか、どうしても専門的で解りづらい説明になってしまうのです…)

本書をめくって頂くと、家電も昇降機も輸送機も冷暖房も、回転エネルギー=モーターと原動機が動力源である事が分かります。
(ぜひお子さんにも教えてあげて下さい)

対して、人や動物の筋肉は収縮と弛緩の繰り返しで力を出します。根本的に動きが違うのですね。
さて、小学校低学年の甥と姪がたどり着いたのは「モーターはどうして回るの?」「どうしてモーターを回すと電気が起きるの?」、電気と磁気の部分でした。

ここからは実践あるのみ。
鉄板を切り出して並べ、それに手でコイルを巻き付けて回転子を作り「モーターらしき物」をこさえさせてみました。
どうにか、磁気の吸着と反発の繰り返しでモーターは回っているらしい、事はなんとなく分かった様子です。

その後は模型用のモーターを分解してみたり、それで簡単なオモチャを組んでみたり。
夏休みとはいえ一週間もたたずにエレベーターや自動販売機の機構を得意気に披露する姿はほほえましく、子供の知識欲と吸収の早さには驚かされます。
次は製本のややこしさも教えてやろうかしら・・・。

もはや在籍していた記憶も茫洋としていますが、母校の先生が監修を努めておられ懐かしくも感じました。

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電子書籍ドラえもん 0巻

2020/01/05 20:24

かえってきた新しい『ドラえもん』

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「みらいってなあに。」「みらいってむかしのはんたい。」正確なのに、こんな簡単で分かりやすい言い回しってあるんだなぁ。やはり言語感覚も素晴らしい。

実際に読んだのは連載から十年以上すぎてから。
けれど、ここまで年齢別に丁寧に描き分けられていれば「未来」に夢中にさせられたのも納得だと、感心してばかり。
週刊連載でも焼き直しではなく学年別に構成から変えている。
科学の面白さも、便利さの落とし穴も教わってその道に進んだけれど、のび太そのままの大人になってしまったなぁと反省。

コミックス一巻では「1988年 しゅうしょくできなくて自分で会社をはじめ」が、修正前の「小学四年生」では「1988年 父の会社をつぐ」と書かれている。
やさしいパパにママ、野比家は裕福なお宅だったのね。

だから借金が膨大になったり、乞食や押売に身をやつす姿が際立つのかな。その後はスネ夫に移されたようだけれど。
無理を言えばドラミが出した「自動コジ機」、F先生自身が加筆修正しているけれども元のナンセンスなギャグも見てみたかった。

『ドラえもん誕生』も初出は生まれる前だったのか。描いて描いて十数年、その努力がヒラメキに結実する一瞬は素晴らしい。

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電子書籍ギケイキ

2022/03/20 15:12

『義経記』⇔『ギケイキ』

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『義経記』といえば同じ時代を描いた軍記物の『平家物語』『保元物語』より相当マイナーで、国語や古典の教科書で名前が出てくることもないが、とはいえ後世の物語構成と、義経さんのイメージを確立したという意味で、その影響は凄まじく、武家といえばゴリゴリマッチョの源為朝さんだったのだが「細身で身軽でシャレオツな判官殿もアリなんじゃ?」と名も知れない講談師が発案した義経さんは、史実では暴れん坊だった為朝さんを『椿説弓張月』(ちんせつゆみはりつき)では心優しく爽やかなイケメンで向かうところ敵知らず(なろう系主人公が鼻くそではないか)に描き直させてしまう程度には影響が強い。
ということで我々が思い描く、水干着こなして篠笛を吹いて前髪が中性的で、ヒラヒラと女のように躍るのに、無双の強さを誇る…というイメージは完全に『義経記』による、マジで。

講談でつむがれた小説という点も重要で、時代と共に中身も変遷しているが「義経様お慕い申し上げております…」ホって下さいヤって下さい的な大衆の「義経様LOVE」の結実でもある。文字に書き留められはしたが、江戸っ子はせっかちなので、当時の背景だとかは「んなんも知らいでか!!」と、これを知らない者はガタロのごとく扱われかねないようなバッサリとした省略で原作はなかなか取っつきにくい。
本作『ギケイキ』では町田節のインパクトに目を奪われがちだが、翻訳と考えると恐ろしく原典に忠実である。トーシロお断り!と略された箇所も巧みな埋め合わせとさりげない地の文で解説を入れていて実に恐れ入る。

騎馬戦が主流の時代。武将の装いは「大鎧」である。国宝として現存する物も多くえらい格好いい。佩刀して弓を構えて騎乗すればどんなブ男も見惚れる(きっと、多分)。加えて『義経記』の義経さんは恐ろしく強い。大木も一太刀で軽々と斬り倒し貴船がハゲ山になったとか、大岩も太刀でスライスしたとかなんとか。原作がすでに虚実ない交ぜだが、三代目石川五右衛門も真っ青である。
あまたある伝承や史料や当時の風俗や時代背景も密に調べており、フィクションと史実の間をうまくつないでいる。大鎧や馬具の絢爛豪華さも、細工の仕上げや工芸の価値を、現在の貨幣価値に直しているのもニクい。中身のない成金DQNやチューバーが「うん百万円も使ったったw」と単価を語らずにドヤ語りが出来ないのに似ている。

面倒なやつはカジュアルに斬殺する命の軽さ、神仏の加護の重さ、国や郡に相当する荘園、当時の人もふわっとしか捉えていなかったモノも我々には理解しにくい部分があるが割りとすんなり入って来るのではなかろうか。
とにかくこの音韻は凄まじい。もともと日本語には文字がなく口伝口承で伝えられた往事の雰囲気を味わえる(ような気にさせられる)。一気呵成に読んでしまうのがおすすめ。巻末の大塚ひかりの解説も読みどころだろう。
本書がお気に召したら、坂井孝一や細川重男の著作もおすすである。

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電子書籍おしろい蝶々

2020/03/04 00:13

美しくほの暗い恋の物語

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

平家の衰亡からまだ東京市だったほんの少し昔まで、いくつもの時代をまたぎ人並み外れた恋の有り様を描く短篇集。

ただただ美しい左手に見惚れた老人、自身を蛇の化身と語る少年に魅了されてしまった青年、
負け戦を経てもなお主君を守り悪鬼となり果て熊野をさまよう従者、生来より光を知らず都を放逐され琵琶を携え幽鬼と語らう先帝、
画才に惚れ嫉妬に狂いついには憧れだった彼自身を手に掛けてしまう青年、菩薩のあまりの声の美しさに酔い廃仏毀釈に抗う僧。
時にその恋慕の先は人ならずこの世ならず、もとより対等ではなく決して成就する事もない。

それぞれの挿話はわずかな枚数でも、古典和歌漢籍に通じる作者だけに実に密度が濃い。
現代文ながらも往事を感じさせる洗練された文体。美しくもの悲しく響くその余韻は耳を去らない。
死に追われ命のやり取りを重ねる陰惨な奇譚でも、どうしてか気味の悪さや恐ろしさは希薄だ。

悲しい物語に差し落とされた一縷の希望、それは闇からくるもの達の温かさと優しさ。
人の世をうまく生きられなかった人々を抱擁しともに悲しみ慈しんでくれる。

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電子書籍イサック(1)

2022/05/07 19:48

さすがベテラン作家

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

プロの漫画家ってすげぇなぁと感心させられた。前作も十年超の連載をやっていたし、さすがベテランの作画としか書けない。

当世具足、刀の下緒(さげお)の始末も細かく描いている。メイル(鎖帷子)、プレートアーマー、ヘルメット、短弓まで実に細かい。引きの画では大群の兵站から、荷役の動力「牛」までコマ割りに収める構成で、時代劇や映画でもなかなか難しい絵作りだと感じる。
スピノラ、斥候を追う敵軍の狙撃。狙撃された騎兵の落馬のさせ方は恐ろしいほど密で何度も見返してしまった。迫力、疾走感、面白さ、どれをとっても素晴らしいの一言。

お話そのものはフィクションであるし、断片的な史実を下敷きにしているに過ぎない。原作・作画とも中世の当時について密に下調べをし、幾つもの史実と物証を基に大がかりな虚構を作り上げている。それだけにこの画面には凄まじい説得力がある。これこそ職人芸の極み。

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紙の本白銀の墟玄の月 1

2020/06/15 13:50

台風直撃前日の入手劇

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

発売当日に入手できたのだが、その直後は大災害に。
台風被害に遭われた方へのお見舞いと一日も早い復興を祈念申し上げます。


さて、慶を離れた泰麒と李斎の一行は、戴を立て直すために東奔西走。
アクションあり、バトルあり、グルメあり、大自然あり、辛くて苦しい旅と日常をつづった…(ここまでウソあらすじ。

しかし隔年十八年っすよ。「余命半年の母が”続きを読まずに死ねない”と言っている」なんて、ウソ手紙を年に何通も送っていた甲斐もあるというものだ。
書いてて自分でも頭おかしいな…。

『魔性の子』の菊地秀行の解説を「なんか違う…」と思いつつ、『風の海 迷宮の岸』そして『黄昏の岸 暁の天』を読み進めた時の衝撃ったらそりゃもうね、アンタ。
ここまで広げた風呂敷をどう畳むのよ!と期待せざるを得ないのだ。だが、作者は明らかにこのシリーズを好いていない(泣。
例えるならドイルがホームズを毛嫌いして滝壺に落として殺してしまったようなものだ。実に分かりづらいな。

前半、泰麒含む人物全員が恐縮して畏まって一向にお話が進まないのもおなじみ。
なんだかんだで泰麒は出奔するように単独行動を始めるけれど、この賭けは何かの計略なのか!?それとも麒麟の性ゆえなのか!?
その賭けは吉と出るか凶と出るか。『魔性の子』で示された謎と伏線は回収されるのか!?
続刊をお楽しみに!!

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電子書籍殴り合う貴族たち

2021/09/05 17:22

危険な内裏

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

平安貴族といえば雅やかなイメージが強い。物語、日記、詩歌に出てくる純粋化されたうわべだけを見ているからだろう。むかし、花山天皇の作に触れた時、たまたま絶頂を極めていたミュージシャンの醜聞があったので、やはり歌手や歌人は破天荒なものという考えを強くした。生き様がパンクな花山天皇が周囲を振り回すのは分かる。ただ、花山天皇は当時の権力と権威そのものだから困った人は多いだろう。真正面から「ヤッチマイナ!」と殺しに来る伊周といい、この時代は藤子・F・不二雄の『気楽に殺ろうよ』もびっくりするほど命が軽い。

さて『今昔物語』にも橘則光(たちばなのりみつ、清少納言の最初の旦那)が強盗を斬って殺した挿話が載っている。「人斬りの露呈はヤバい」と怯えるのだが見知らぬ男が「俺の手柄だ」と吹聴したのでばれる事はなかった。則光の心配事は、貴族の体面に関わるという部分で、斬殺にはこれといった感慨を持っていない。中流貴族でも刀を振るうのが当たり前で人斬りにためらいがないからこそだろう。

時の貴族は立法・行政・司法を兼ねた存在だから政争は当たり前、自力救済の世の中で政敵の失脚に実力や暴力がつきまとうのもおかしくはない。ただ自らの手を汚さず舎人や従者にやらせた例も多く、貴族らしいずる賢さと卑怯さも見える。その貴族社会から優れた詩歌管弦が生まれ、殺しも殺されもしない光源氏が誕生したというのは辛辣だが、雅やかなだけでもなく暴力だけが世の中を支配している訳でもなく、単純化して捉えないように気を付けたいものだ。

それにしても、太刀なんて物騒なモノを携行するのが当たり前の時代に生まれなかったのは幸いとしか言えない。刀狩り令に生類憐みの令には感謝感謝。

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古典とは…

6人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

…セックスだそうである。エロいのは男の罪…それを許さないのは女の罪…なのだが、それ自体は人類の宝である。
もちろんそれだけじゃないのだが、なにぶん娯楽の少ない時代の話だしそういう面が強いのも事実である。

わが国で初めて「霊」の字を使った『日本霊異記』
ここのエピソードは知らずとも『今昔物語』『宇治拾遺物語』『発心集』が説話集というのはなんとなく認識されていると思う。

仏法説話のように見えて現世利益にこだわったり、勧善懲悪のようでいて聖人がアレだったり、若くきれいなお姉さんのアソコに蛇がささってセッ(略。
エロ、ギャグ、オチ無し、訓話、ヤマ無し、悲喜劇、恋愛、ありとあらゆる物語の要素・本質が詰まっている。
ここを全くかすめずにお話を書くのは不可能ではないの?と思うほど。
作者も歌人も不明の名作は数知れず、日本文学は意外に深くておっかない。

町田康訳にはゲラゲラ笑わせてもらったが、町田は“現代語訳”だからとデタラメや好き勝手を書いてるわけじゃない。
音韻や雰囲気や空気感にリズム感、現代の我々と当時のノリの差を埋める事に徹底してこだわっており忠実そのものの「訳」だ。
ぜひ原文にも当たっていただきたい、元のお話が最高に面白いから。

宇治拾遺の「孔子倒れ」は傑作。
儒学に傾倒した支那王朝、朝鮮王朝は著しく柔軟さも活気も失ってしまい、国家そのものが停滞した。
わが国では、儒学から朱子学までの盛衰をみると、一時的なミニブームになりこそするも根を下ろすことはなかった。

実に笑けるのは、ヒマさえあれば儒者は倭国を見下していたが、しかしその倭人(我々のご先祖様)は儒者の本質を結構簡単に見抜いていたというところだ。

隙が出来たのでセックス!とねじ込んでみる。

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電子書籍かくしごと(12)

2020/08/01 01:59

本当に終わってしまった…

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

なぜ大滝詠一なのか、なぜ青に重きを置いてそれをモチーフとしたのか。それらの断片をきれいにお話の核としてまとめてくれた。
めくるめくダジャレ、掛詞、縁語、類語、誤読、同音、それに派生するボケ、音韻の世界で多重構造の世界を作り、最後は松本隆の本歌取りで締める妙技。
このあたり『君は天然色』の制作当時の挿話に触れてみても面白いかも知れない(そんな有名な話とツッコまれそうだけれど、)。

永井博・わたせせいぞう・鈴木英人(えいじん)のように見えて、南国の雰囲気や陽気さを感じさせない、意図的に廃したようにも見えるカラーページ。
この後の嵐や波乱を告げているようで実に落ち着かない、そして白黒の本編はオチつかない。
(オタク層がメインの消費者となったいま市場がその価値を理解できるか…)

後天の疾患で色覚を、光をも失いつつあった姫の母。
視神経の機能不全が始まる大変な難病であり原理も機序も不明、予後も非常に悪い。

これを書いている私も異常3色覚で明度が鈍く視力も悪い。赤緑の区別は付きにくくその代わりに青系が一色多いヘンな色覚である。
(なおネットにあふれる「補正できる」「治療できる」「こう見えている」は全てウソです)
線描しか出来なかった私でもPC上ならCMYK/RGBに色を分解して適切に着色できるようになった。技術と文明の賜だ。

作中作『きんたましまし』はもちろん『風のタイツ』がどうゴルフマンガなのか、どう完結したのか非常に興味がある。
できればどこかでお目に掛かりたいものである。

連載は終了し晴れて「むしょく」(1巻・5号「あとがき」)の身になった久米田康治。
目下の新型コロナウイルス禍で仕事がないのは私も同じ(だいぶ怠けたので「久米田康治ワールド wikiサイト」でも更新しまくってやろうかw)。

妻を支え続けた可久士、その当人も事故の昏睡から目が覚め多くの人に支えられ復帰を果たしている。
過去作にも難病や寛解しない疾患は幾度も登場しており、人の支えと言葉も含めた縁は共通するテーマなのかもしれない。

「グレースケールでも色なんかいくらでも出せる」あらゆるジャンルの作家に影響を与えた熊倉祐一がかつてそんな事を述べていた。

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電子書籍エスパー魔美 1

2020/04/08 22:27

ティーン向け藤子・F・不二雄

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運動神経はいまいち、優しくて博学、分析的でいつも冷静な高畑。
画家で公立学校の美術教師でもある父、大手新聞社の外信部に勤める母、祖父は明治期に仏へ留学、その時に知り合った女性と結婚し、マミ公の赤毛もその隔世遺伝であるらしい。
一巻以降はあまり見かけない設定ではある。あんまり使いどころないものね。

高めの年齢を意識しているのか、科学・芸術・経済の専門用語も学術用語も遠慮なく突っ込んでくる。
読者を子供扱いせず、それでいてさりげなく興味を誘うのはさすが。

「くたばれ評論家」は珠玉・至言だらけだ。
「芸術は結果だけが問題なのだ。」「たとえ、飲んだくれて鼻唄まじりにかいた絵でも、傑作は傑作。」
「剣鋭介に批評の権利があれば、ぼくにだっておこる権利がある!!」「あいつはけなした!ぼくはおこった!それでこの一件はおしまい!!」
このやり取りは真理の”半分”をきれいに切り取っている。

作者はあくまで職業作家であり芸術家ではない。
日本ばかりか世界でもここまで極めた人は少ない。そんな作者の想いが透けて見える良作。

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