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先月(2017年2月)

オクーさんのレビュー一覧

投稿者:オクー

189 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本てにをは辞典

2011/04/18 16:21

「てにをは辞典」、これがあれば表現の幅がグッと広がる!

15人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 まずは「てにをは辞典」ってなんだ?ってことになると思うのだが、
簡単に言うと「ことばのつながりがわかる辞典」だ。例えば「認識」と
いう言葉を引いてみる。するとその後には「▲が 甘すぎる。一致する。
薄い。… ▲を 新たにする。改める。一致させる。疑う。… ▼甘い。
新たな。確実な。基本的な。…」事例はもっと多いが、こんな感じで使
い方例が掲載されている。(もちろん縦書きです)▲という記号は「認
識」が上につく例で▼の方は「認識」が下につく例だ。言葉の意味など
は全く記されていない。この使用例は編者である小内一氏が20年かけ小
説や評論、雑誌や新聞などから集めたものだ。採取した文の作者名のな
かには阿久悠や中島みゆきなどの名前もある。いやぁ、これは労作です
よ。本当に便利だし、見てるだけでも楽しくなって来る。

 使い方はいろいろだが、次の2つが重要。まずは「その表現が正しい
かどうか確かめられる」。文章を書いてて、なんか違うな?と思うこと
が時々ある。そんな時、僕はGoogleにその表現を入れてみて、ヒットが
多ければ安心するのだが、その場合、みんなが間違ってる、ということ
もありえる。その点、この辞書を使えば安心だ。2つめは「表現の幅が
大きく広がる」ということ。たとえば一つの文で同じ言葉を使った表現
を繰り返す場合がある。まったく同じというのはみっともないし、やり
たくないのだが、どうしても適切な言葉が思い浮かばない時もある。そ
んな時にこそこの辞書の底力が発揮されるだ。お〜そうか、そうか、こ
ういう言い方があったのか!と驚くこともしばしばだ。書く仕事をして
いる皆さんはもちろんだが、最近はブログやツイッターなど素人でも表
現の場が広がっている。執筆時の一助になることは間違いない。一度使
うと手放せなくなる辞典だ。

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7年前の打ち上げから追い続けた、山根一眞「はやぶさの大冒険」。

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 山根一眞さんのこの本は、はやぶさのあの感動的な帰還からそれほど
間を置かずに発売された。それもそのはず、山根さんは7年前の打ち上
げの時から取材をスタートさせ、ずっとフォローしていたのだ。ほとん
どの日本人が興味を持っていなかった打ち上げにもちゃんと立ち会って
いる。はやぶさ人気で関連の本も出ているが後追いじゃない取材はさす
が山根さん、これははやぶさを7年間真摯に追い続けた詳細な記録だ。

 はやぶさについては僕自身、帰還が近づいてからいろいろ知ったくち
で、まったくのにわかファンである。知らないことも多い。実はこの本
でも最初から激しく驚かされる。長さ535mしかないイトカワの公転速
度は秒速30キロ、ハンマー投げのハンマーを投げ出す直前の速度が秒速
30mなので、その1000倍の速さで動いてるイトカワにはやぶさを着地
させなくてはならない。そのためにはやぶさは、2年間かけてイトカワ
と同じ速度になるよう(そうすれば止まっているのと同じだから)加速
し続け(!!!)飛んでいたのだ。う〜む、そうだったのか。「はやぶ
さがイトカワをピタリとらえるのは、東京から2万キロ離れたブラジル
のサンパウロの空を飛んでいる体長5ミリの虫に、弾丸を命中させるよ
うなもの」というのだから本当にスゴい。

 こんな話で度肝を抜かれ、さらに、何度ものトラブル、行方不明の日
々など知ってることや知らないことをいろいろと読んでいるうちに、あ
〜はやぶさ、きみは本当に良く戻って来たなぁ、と改めて感嘆してしま
った。山根さんは、トラブルなどその折々にスタッフにインタビューを
しているので、その時の状況や問題点がわかりやすく、いつの間にかは
やぶさと一緒に大冒険をしてる気分になってしまう。そして、最後の地
球帰還、作者自身、豪州まで足を運んで書いているのでこれは本当に感
動的。またまた涙が出そうになった。それにしても、大冒険を支えた日
本の技術者たちの技術力、応用力、危機管理能力、大胆な決断は本当に
素晴らしい。これを読めばそのことがはっきりとわかる。最後にひと言
付け加えれば、もし、カプセル内の微粒子がイトカワのものでなくても、
イオンエンジンの長期に渡る運用などこのプロジェクトは世界中から大
きな大きな称賛を受けている。本当に世界に誇る大冒険だったのだ。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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ゲイカップルの関係と料理の絶妙なさじ加減。

11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 作者はよしながふみ、「大奥」は言うまでもなく大傑作だが、10月に
第4巻が出たばかりのこの「きのう何食べた?」もまたまたおもしろい。
よしながふみからは当分の間、目が離せそうもない。

 この話、まず設定がいい。主人公の筧史郎は「芸能人でもない43歳の
男であの若さとあの美貌ははっきり言って気持ちが悪い」といわれてい
る弁護士だ。彼はゲイで、矢吹賢二という美容師と一緒に暮らしている。
史郎という男は、仕事や人間関係でいろいろあっても頭の中でレシピを
練り、料理作りに専念すればいつの間にかリセットできちゃうというか
なりの料理好き。そんな彼の周りにはスーパーで食材を半分わけする主
婦の友だち佳代子さんがいたり、我が子がゲイとわかりヘンにそれを意
識しちゃって「カミングアウトしたんでしょうね!?」などと言い出す母
親がいる。彼女たちの造形もまたおもしろい。

 そして何より楽しいのが史郎が作る料理の数々だ。料理の段取りが事
細かに描写されていてうれしいし、どれもやたらとおいしそう。料理好
きじゃなくても、ついつい作りたくなってしまうこと請け合いだ。ちな
みに、彼らの1カ月の食費は2万5千円とちょっぴりチープ。さて、こ
の話、これからどう展開するのか。ゲイカップルの関係とたまらなくう
まそうな料理、よしながふみの絶妙なさじ加減をじっくりと楽しみたい。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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市民の側から戦争を描いたこうの史代の大傑作「この世界の片隅に」。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 これはまぎれもない傑作!「夕凪の町 桜の国」と並ぶこうの史代の
代表作だろう。彼女の作品を比類なきものにしているのは、キャラクタ
ー設定の見事さと常にユーモアを忘れない表現にある。この2つがあれ
ばこそ、戦争、そして、原爆の悲劇を描きながらも暗いだけの物語にな
ってはいない。それが読む者にとって大きな救いなのだ。

 「この世界の片隅に」の主人公は北條すず。何を考えているのかよく
わからない、ちょっとドジなところもある少女だ。のんびりとした性格
のこの18歳の女性が広島から呉へと嫁ぐ。時は昭和18年から19年へ、
もちろん戦時下の暮らしだ。しかし、後半になるまで戦況自体が描かれ
ることはない。ここで描かれるのは、すずと北條家、そして実家の人々
の「銃後の暮らし」である。すずと夫である周作との初々しい愛、ちょ
っといじわるな義姉との心のつながり、娼婦であるリンとの友情などな
ど、人と人が生きている確かな暮らしがそこにはある。こうの史代の表
現は、いつも通り多彩だ。ある回では「愛國いろはかるた」なるものを
再現したり、「とんとんとんからりと隣組」の歌に合わせたほとんどセ
リフなしの回があったり、当時の献立をくわしく描いたり。何度もくり
返し見たくなるページが多い。

 物語は敗戦に向かい突き進んでいく。呉という町は、帝国海軍の拠点、
広島の軍都だ。空襲は日に日に激しくなり、そんな中ですず自身にも悲
劇が起こる。そして、広島の町にはついに…。この後半にいたってもこ
うの史代の表現にはブレがない。原爆の描写も過剰にはならないし、ユ
ーモアも忘れない。「人間」を見る作者の目はあくまで優しい。敗戦後
を描いたエピローグ的な5話が素晴らしい。すずをはじめとする人々の
健気さ、強さが心を打つ。そして…、カラーで描かれた呉の町の美しい
こと!市民の側から戦争を描いてこれは本当に見事な物語である。

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紙の本神様

2011/02/17 18:50

魂が浮き上がるような不思議な読後感、川上弘美「神様」。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 かなり前、たぶんこの本が単行本で出た頃、評論家の小谷野敦が「理
性がまひする面白さ」とこの小説のことを誉めていた。ふ〜〜〜〜ん、
と思ったが、なぜか読めないままでいたのだが、文庫化された時に読ん
でみたら、ぶっ飛んだ。実はこの小説が僕にとっての初川上だった。

 9つの短編。物語はくまにさそわれて散歩に出たり、梨畑で見つけた
変な生き物を部屋で飼ったり、死んだ叔父さんが遊びに来たり、河童に
恋の相談を受けたり、壺をこすると若い女が出てきたり、えび男くんと
焚き火を見たり、カナエさんが愛した物の怪?の話を聞いたり、エノモ
トさんが拾ってきた人魚に取り憑かれたり、またまたくまにさそわれて
散歩に出たり、そんなこんなの話だ。といっても綺譚集とか、そういう
類いの話ではない。くまも河童も壺の女も、ただただある感情、せつな
いとか寂しいとか愛しいとか、そういうことを表現するための大切な道
具だてなのだ。人間と散歩に行くよりくまと行った方がそこに醸し出さ
れる気分が違うからそうするわけだ。だから、これを読むと、なんだか
魂がふわ〜っと浮き上がっていくような不思議な読後感があるのだ。

 文体もよく、これ誰かの何かを読んだ時に感じたのと同じだ、としば
らく考えて浮かんだのが高野文子の漫画だった。高野さんもすごい人だ
が、川上弘美も何だかすごい。初川上で思い知らされた私なのでした。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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「あんじゅう」、宮部みゆきの小説で最後に描かれるのは人間だ。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「おそろし」に続くシリーズ2作目。まずは3つの「うまい」。タイ
トルがうまい。「あんじゅう」は「暗獣」である。中の話のタイトルは
漢字にしてある。それをひらがなにしたことでグッとやわらか味が出た。
イラストがうまい。新聞小説で毎回入っていた挿絵をうまくレイアウト
している。南伸坊のイラストは作品世界を見事に表現していて素晴らし
い。そして、最後、「序」がうまい。初めて読む新聞の読者に主人公お
ちかが百物語を聞くようになった顛末を説明しているのだが、その手際
のよいこと!見事と言うほかない。

 さて、4つの物語でできたこの小説、「おそろし」に比べると軽めな
話が多い。どれも好きなのだがやはり「暗獣」にはやられてしまった。
誰もが怖がって近づかない幽霊屋敷に一人ぼっちで住むもののけ。そん
な屋敷にわけあって住むことになった老夫婦、ある日、彼らは出会う。
妻初音の小娘のような、好奇心旺盛で恐れを知らぬ性格もあって、しだ
いに交流を深めていく2人と1匹。そのもののけは「くろすけ」と呼ば
れるようになり、夫婦は彼?をとても大切に思うようになる。そして…。
くろすけの存在のあわれさ、せつなさが心を打つ。最後は本当に号泣も
の。これはもう思い切り泣くしかない。僕もちょっぴり涙し、心の中で
ワンワン泣いた。

 あとの3編も心に残る話ばかり。前作「小暮写眞館」もそうだが、宮
部みゆきの小説は幽霊やもののけが出て来ても、怪異な現象が起こって
も、真ん中にはいつも「人間」がいる。だからこそ、その物語が読む者
にしっかりと届くのだ。今回から三人組のいたずら小僧や巨漢の偽坊主、
おちかも気になる凄腕の若侍など、助っ人たちも登場してシリーズのこ
れからも期待できそう。あ、最初の「うまい」にもうひとつ。宮部みゆ
きは終い方もうまい。ハッピーエンドにしても何にしても、物語の終わ
りが心にジンとしみるのだ。というわけで「あんじゅう」、何はともあ
れ、泣きましょう。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本桐島、部活やめるってよ

2010/09/21 16:29

常に微妙な関係を抱えた17歳の物語「桐島、部活やめるってよ」。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本を読む前にひとつだけ知っていたことがある。桐島くんは人の会話
の中にしか出てこない、はは〜ん、ってことはつまり、一人の人間の不
在を通して周りの人々や集団を描く、というスタイルだろうか?それは
別段新しい試みではないが、青春小説でやるのはおもしろいな、と僕は
思った。ところが作者の朝井リョウは桐島くんは出さないが、その不在
を積極的に利用しようとはしない。そこがいい。ヘンに頭でっかちにな
らず、身近でリアルな青春小説に仕上がっている。

 進学校に通う高2生5人が各章ごと一人称で語る物語だが、映画部の
前田涼也の章が図抜けていい。「高校って、生徒がランク付けされる」
とつぶやく涼也。「目立つ人と目立たない人。運動部と文化部。上か下
か」「目立つ人は同じ制服でもかっこよく着られるし、髪の毛だって凝
っていいし、染めていいし、大きな声で話していいし笑っていいし行事
でも騒いでいい。目立たない人は、全部だめだ。」、そして涼也は「自
分で勝手に立場をわきまえている」。いじめとは違うこういう微妙な関
係がストレートな独白で表現されていく。涼也だけではない。ここに登
場する17歳は、恋でも友や親との関係でも、常にデリケートなものを抱
えている。彼らの心の痛みや迷い、戸惑いがしっかりと伝わってくる。

 この小説、若々しい文体もいいし、方言も会話もいきいきしていて本
当にリアルだ。タイトルの見事さも含めて、まさに鮮烈のデビュー作。
やはり高校生に一番に読んで欲しいが人との関係に疲れている大人の人
々にもおすすめだ。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本レンブラントの帽子

2010/11/22 15:20

人間の おかしさや哀しさ、複雑さを浮き彫りにする傑作短編集。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 1960年代から70年代なかばにかけて日本でも翻訳本が多く出されて
いたバーナード・マラマッド、彼の代表的短編集の中から3編を選び、
吉祥寺の小さな出版社夏葉社によって復刊されたのがこの「レンブラン
トの帽子」だ。わが地元である吉祥寺に出版社があるというだけで何と
なくうれしいのに、処女出版であるこの本、さらに続けて出された「昔
日の客」が本好きを大いに喜ばせているという。これはもうパチパチパ
チと大拍手を送りたくなってしまう。「夏葉社」かぁ、名前もいいなぁ。

 さて「レンブラントの帽子」だが、表題作はニューヨークの美術学校
に勤める美術史家と同僚である初老の彫刻家の話、「引出しの中の人間」
はソ連に観光で訪れた傷心のライターと不遇なロシア人作家の話、「わ
が子に、殺される」はひきこもりのような息子とその父親の話だ。どの
話も登場人物たちは対立、あるいはベクトルの違いがあり、良好な関係
を作れていない。2人は関係をうまく修復できるのか?物語の結末に向
かってのその「プロセス」こそがこの作家の真骨頂と言えそうだ。

 特に表題作には心を揺さぶられた。白い帽子をかぶっている彫刻家を
めざとく見つけた美術史家が「それ、とてもいい帽子ですね」「レンブ
ラントの帽子そっくりなんですよ」と声をかける。その会話の後から、
なぜか彫刻家は彼を避けるようになり、何だかわからないまま彼の方で
も彫刻家を嫌うようになってしまう。半年近くもそんな状況が続いた後、
美術史家はふと思う。「なにがいったい、奴さんのかんにさわったとい
うのだろう?」と。そこで彼が思い至ったこと、その後にとる行動、そ
して、忘れがたい結末へ、この流れがなんとも素晴らしい。ラストは本
当にグッと来る。
 
 バーナード・マラマッドは、人と人との間の理解や誤解、寛容や不寛
容、疑いや共感、そういう様々なものを描きながら、人間というものの
おかしさや哀しさ、複雑さを見事に浮き彫りにする。まさに心に残る一
冊!マラマッドという作家の存在を私たちに教えてくれただけでもこの
短編集の価値はとてもとても大きい。訳者にあの小島信夫がいること、
装丁が和田誠であることも付け加えておきたい。

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紙の本獣の奏者 外伝 刹那

2010/10/04 14:49

物語を紡ぐということ、上橋菜穂子「獣の奏者 外伝 刹那」。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 あの名作「獣の奏者」の外伝である。主人公エリンの少女時代を描い
た1・2巻、母となってからの3・4巻、外伝のメインとなる2つの物
語「刹那」と「秘め事」はその間に位置している。前者はエリンと夫イ
アルの恋の物語、そこに2人の子ジェシの出産の場面を重ね合わせてい
る。後者はエリンの師エサルの若き日の恋の物語だ。物語を紡ぐという
ことはこういうことなのだな、と改めて思った。きちんとした形にはな
っていなくても、作者の心の中には、エリン、イアル、エサルの人生が
ちゃんとある。外伝という形で日の目を見ることは、まさに心の中にあ
る物語を整った形で紡いでいくことなのだろう。その幸せは当然作者に
もあり、我々読者にもある。

 エリンとエサル、この2人の女性は、共に自らの運命にあらがいなが
ら生きている。思い通りにはならない人生の中で、永遠の幸福を捨て、
刹那でも喜びがあればと思っている。エリンがイアルという男とつき合
うこと、さらにはその子を宿すことには、本当に厳しい決断が必要だっ
たはずだ。エサルが貴族という身ですべてを投げうち、獣ノ医術師にな
ることは、家族をはじめ周囲の人々の運命を大きく変えてしまう危険が
あった。この物語が心にズシリと響くのは作者に人間の「生」について
の深い考察があるからに違いない。エリンもエサルも心は鋼のように強
い。しかし、その人生の中で多くのものを捨て去って来た。捨てなけれ
ば手に入らない大切なものがあったのだ。緊張感のある2編の後に「初
めての…」という掌編、そのやわらかく暖かい描写が心地よい。上橋菜
穂子の文章は静謐で美しい。そのことを改めて思った外伝でもあった。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本始祖鳥記

2010/04/27 12:15

綿密な考証と大胆な創作で描く、鳥人幸吉の物語。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「始祖鳥記」、これは江戸・天明の頃、空を飛ぼうと夢想し、それを
実現しようとした男の話だ。所は備前岡山。男の名前は幸吉。物語はこ
の幸吉が捕らえられるところから始まる。以前から城下で話題だった怪
鳥鵺(ぬえ)の正体はこの男だという。巨大な翼を持つその鳥は「イツ
マデ、イツマデ」と鳴いて藩の失政をあざ笑い、空を飛んでいたのだ。
3部構成の第1部はそこから時代をさかのぼり、凧揚げが好きで手先も
器用だった幼い頃の幸吉のこと、一度空を飛ぼうとした時のことなどを
こまやかに描いてゆく。

 見事なのはここからで、第2部はまったく別の男たちの話になる。地
廻りの塩問屋、巴屋伊兵衛。弁財船の船主、福部屋源太郎。2人は結託
し、粗悪な塩の専売を許す幕府に一泡吹かせようと新たな塩ルートを開
拓している。彼らが鳥人幸吉とどのように結びついていくのか、ここが
この本一番のポイントだ。そして、話は怒濤の第3部へ。大団円になる
ラストで幸吉がつぶやく言葉は涙なしには読めない。ただただ空を飛び
たい、と思い続けた男の最後の言葉…う〜〜〜ん。

 ライト兄弟より百年以上も前に空を飛んだというこの男は実在したら
しい。飯嶋和一は綿密な考証と大胆な創作で、ひとりの男の一生を浮き
彫りにした。これはもう見事というしかない傑作だ!

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本晴天の迷いクジラ

2012/04/23 09:04

リアリティが支える本物の言葉の力、窪美澄「晴天の迷いクジラ」。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「ふがいない僕は空を見た」の窪美澄待望の新作だ。この物語には3
人の男女が登場する。1人はデザイン会社でハードワークを重ねるうち
にいつしか軽い鬱になる24歳のデザイナー由人。その会社の女社長48
歳の野乃花は、どうにもうまくいかなくなった会社を建て直すことに疲
れ果てている。もう1人は16歳の高校生正子。彼女はノイローゼ気味の
母親に反抗さえ出来ない日々を送っている。窪美澄はそんな彼らの「今」
を描くと共に、つらく厳しい過去をも描いていく。その描写はこれでも
か、というぐらいこまかく息苦しいほどだ。そのリアルさ!!!彼らの
経験したこと、彼らの現在、それは現代ではけっして珍しいことではな
い。しかし、彼らは典型とか類型として描かれてはいない。まさに「そ
の人」自身だ。このリアルさが物語を支えている。だから、1章の由人
の物語も2章の野乃花の物語もとてもつらい。3章の正子の話もつらい
のだが、その半ばで彼女が初めて友と呼べる2人と出会うところが本当
に本当にうれしい。そして、迷いクジラと会うために3人が出かけた南
の地。彼らが出会う土地の人、82歳のばあちゃんが正子に語りかけるそ
の言葉のひとつひとつ、ばあちゃんの孫である雅晴が由人に語る強く短
い言葉が心にズシリと届くのだ。
 
 「ふがいない〜」の書評で僕は「作者の窪美澄は彼らがいる場所のま
っただ中からこの物語を発信しているように思える」と書いた。それは
リアルさに対する賛辞だったが、この物語で気がついたのは、前半で作
者が執拗に語り続けた彼らの過去、そのリアリティがあってこそ最終章
でのメッセージが百万倍ぐらいになって届く、ということだ。リアルを
生み出すのは、体験か取材か想像力か表現力か。いずれにしても窪美澄
はスゴい。「ふがいない僕は空を見た」そしてこの「晴天の迷いクジラ」
を通して、窪美澄は僕にとってかけがえのない作家になった。そして、
おそらく、あなたにとっても。

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紙の本わたしを離さないで

2011/12/21 14:36

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」についてはあまり話せない。

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 解説で柴田元幸氏がこの小説は「細部まで抑制が利いていて、入念に
構成されていて、かつ我々を仰天させてくれる、きわめて希有な小説」
と書いている。カズオ・イシグロの最高傑作と言われるこの長編は本当
にすごい小説だ。ただ、その抑制の利いた文章に最初はいらだつ人がい
るかもしれない。しかし、この文章があってこそ主人公たちの哀切な青
春が見事に浮かび上がってくることも確かなのだ。

 そして、その内容。これもちょっと言うことができない。そんなに終
盤ではなく、主人公たちが何者なのかはわかるのだけど、やっぱりこれ
はまっさらな、何も情報がないままで読んだ方が絶対にいい。そういう
物語だ。たとえばここに登場するのは「提供者」と呼ばれる人々、彼ら
を助ける「介護人」、「保護官」と呼ばれる教師たち。主人公は「提供
者」たちがいる施設ヘールシャムの生徒であるキャシー・H(彼女は後
に優秀な介護人になる)、その親友のルースとトミー。青春のただ中を
生きる彼らを待つ残酷過ぎる運命とは…。ルースが探す「ポシブル」と
は…。この物語はSF的な要素を含みながらもその完成度はまさに「世
界名作文学全集」に入っている作品のようだ。淡々としながらも深くせ
つないラストがたまらない。

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紙の本しゃべれどもしゃべれども

2011/09/30 23:26

小気味良さがうれしい佐藤多佳子『しゃべれどもしゃべれども』。

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「しゃべれどもしゃべれども」はすでに映画にもなったが、何とも小
気味良く、しかも、ハートにグッと来る傑作小説だ。小気味の良さとい
うのは、主役の男、今昔亭三つ葉が二ッ目と言えども落語家だから。彼
の言葉で語られる小説なので、テンポが悪くてはどうしようもない。ポ
ンポンポンと短い言葉を放り出すように語っていく文体が素晴らしい。
これ、簡単そうだが、やはり「技」が必要。佐藤多佳子にはユニークな
観察眼や表現力もあり、物語は気持ちよく盛り上がっていく。

 まだぺーぺーの落語家である三ツ葉の元になぜか落語を習いたいと四
人の男女が集まってくるという設定がおもしろい。しかも、彼らはそろ
って問題児。一人は対人恐怖症でテニスコーチを辞めた男、一人は口べ
たで大失恋をした女、一人は大阪から転校しいじめにあってるらしい小
学生、そして最後はマイクの前だと本音でしゃべれない元阪神の野球解
説者。彼自身も壁にぶちあたってる三ツ葉は彼らを見事に更生させられ
るのか?

 これは会話が苦手で人とうまくつき合うことができない心優しき人々
の物語だ。そんな彼らが最後にたどり着くのは…。ラストにふたつの山
場があるのだが、どちらもなんだかジーンときて胸がいっぱいになって
しまう。しかも、自分もがんばらなくちゃ!という思いが激しくわいて
くるのだ。人間関係に悩む多くの人におすすめの一冊だ。

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イメージがふわっと広がる上林暁の傑作小説集「星を撒いた街」。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 私小説作家である上林暁の作品集が「昔日の客」の夏葉社から出た。
上林は名前は知っていたが読んだことはない作家。こういう形で傑作集
が出るのはとてもうれしい。編者は古書店店主であり希代の本読みでも
ある山本善行氏、期待も高まる。

 まずこの本、装幀がいい。昔、父親の書架の中にこういう装幀の本を
見かけたことがあった。色のトーンも何ともいえずいい。側に置いてお
くだけで幸せな気分になる。「30年後も読み返したい」という帯のコピ
ーに心ひかれる人も多いことだろう。

 上林には病妻物と呼ばれる作品群があり傑作が多いらしいのだが違っ
た魅力も感じて欲しいという編者の思いから、病妻物は全7作のうち2
作。さすがにこの2作は良くて、何度も読み返したくなる。個人的に好
きなのは巻頭を飾る「花の精」と表題作「星を撒いた街」だ。「花の精」
はイメージがふわっと広がるラストの描写が素晴らしい。駅の近くにあ
るサナトリウム、ガソリン・カアのヘッドライトに映し出される月見草
の原。そこに入院中の妻のはかない姿がオーバーラップする。忘れがた
いラストだ。表題作「星を撒いた街」は旧知の友の家を訪れる男(作者)
の話。友の内縁の妻は昔カフェで働いていた知っている女だった。坂の
上にあるその貧しく小さな家は、すぐ下が崖になっていて満天に星が乱
れ咲いたような夜景が素晴らしいのだ。それを見ながら交わす三人の会
話がいい。そして、ラストの別れの美しいこと!

 帯のことを書いたが、上林の私小説は30年後はもちろんだが、明日に
でも読み返したくなる。読めば読むほど味わい深く、読めば読むほどイ
メージが広がる。彼の他の小説も読んでみたくなった。

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紙の本関口良雄さんを憶う 復刻版

2011/05/16 13:04

これぞ復刊!「関口良雄さんを憶う」の喜び!!

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 僕自身bk1でも書評を書いた「昔日の客」、その著者関口良雄さんが
亡くなったあとに、尾崎一雄、山高登両氏を中心に作られた追悼の一冊
だ。一冊と言っても70ページほどの小冊子。しかしながら「昔日の客」
の読者にとってこれほどうれしいものはない。これこそ本当の「復刊」
じゃないだろうか。出版元である夏葉社にパチパチパチと大拍手を送り
たい。

 さて、この追悼集、有名無名の26人が大森の古書店の店主であった関
口さんを「憶う」文章を書いている。最後には息子さんの「父の思い出」
という一文と妻洋子さんの「御礼」が入る。ひとつひとつにはあえて触
れないが、これを読むと関口さんという人に無性に会いたくなってくる。
表紙に写真があるが、もっといろんな顔を見たくなる。プロはだしの俳
句をさらに読みたくなってくる。大森山王書房の店主は、おもしろくて
おかしくて、深くて優しくて魅力いっぱいの人だったと確信できる。ヘ
ンなことを言うが、ここに文章を寄せた人々は関口さんの死を惜しんで
はいるけれど悲しんではいないような気がする。死んでも彼はずっと一
人一人の心の中に生きている。思い出せばポッと灯りがともるようにそ
こにいる。関口良雄というのはそういう人だったのではないか。

 「昔日の客」とあわせてこれを読むことは本好き、書店好き、古本好
きにとってはまさに幸せそのものである。

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