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  3. オクーさんのレビュー一覧

オクーさんのレビュー一覧

投稿者:オクー

189 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本てにをは辞典

2011/04/18 16:21

「てにをは辞典」、これがあれば表現の幅がグッと広がる!

23人中、23人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 まずは「てにをは辞典」ってなんだ?ってことになると思うのだが、
簡単に言うと「ことばのつながりがわかる辞典」だ。例えば「認識」と
いう言葉を引いてみる。するとその後には「▲が 甘すぎる。一致する。
薄い。… ▲を 新たにする。改める。一致させる。疑う。… ▼甘い。
新たな。確実な。基本的な。…」事例はもっと多いが、こんな感じで使
い方例が掲載されている。(もちろん縦書きです)▲という記号は「認
識」が上につく例で▼の方は「認識」が下につく例だ。言葉の意味など
は全く記されていない。この使用例は編者である小内一氏が20年かけ小
説や評論、雑誌や新聞などから集めたものだ。採取した文の作者名のな
かには阿久悠や中島みゆきなどの名前もある。いやぁ、これは労作です
よ。本当に便利だし、見てるだけでも楽しくなって来る。

 使い方はいろいろだが、次の2つが重要。まずは「その表現が正しい
かどうか確かめられる」。文章を書いてて、なんか違うな?と思うこと
が時々ある。そんな時、僕はGoogleにその表現を入れてみて、ヒットが
多ければ安心するのだが、その場合、みんなが間違ってる、ということ
もありえる。その点、この辞書を使えば安心だ。2つめは「表現の幅が
大きく広がる」ということ。たとえば一つの文で同じ言葉を使った表現
を繰り返す場合がある。まったく同じというのはみっともないし、やり
たくないのだが、どうしても適切な言葉が思い浮かばない時もある。そ
んな時にこそこの辞書の底力が発揮されるだ。お〜そうか、そうか、こ
ういう言い方があったのか!と驚くこともしばしばだ。書く仕事をして
いる皆さんはもちろんだが、最近はブログやツイッターなど素人でも表
現の場が広がっている。執筆時の一助になることは間違いない。一度使
うと手放せなくなる辞典だ。

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ゲイカップルの関係と料理の絶妙なさじ加減。

20人中、20人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 作者はよしながふみ、「大奥」は言うまでもなく大傑作だが、10月に
第4巻が出たばかりのこの「きのう何食べた?」もまたまたおもしろい。
よしながふみからは当分の間、目が離せそうもない。

 この話、まず設定がいい。主人公の筧史郎は「芸能人でもない43歳の
男であの若さとあの美貌ははっきり言って気持ちが悪い」といわれてい
る弁護士だ。彼はゲイで、矢吹賢二という美容師と一緒に暮らしている。
史郎という男は、仕事や人間関係でいろいろあっても頭の中でレシピを
練り、料理作りに専念すればいつの間にかリセットできちゃうというか
なりの料理好き。そんな彼の周りにはスーパーで食材を半分わけする主
婦の友だち佳代子さんがいたり、我が子がゲイとわかりヘンにそれを意
識しちゃって「カミングアウトしたんでしょうね!?」などと言い出す母
親がいる。彼女たちの造形もまたおもしろい。

 そして何より楽しいのが史郎が作る料理の数々だ。料理の段取りが事
細かに描写されていてうれしいし、どれもやたらとおいしそう。料理好
きじゃなくても、ついつい作りたくなってしまうこと請け合いだ。ちな
みに、彼らの1カ月の食費は2万5千円とちょっぴりチープ。さて、こ
の話、これからどう展開するのか。ゲイカップルの関係とたまらなくう
まそうな料理、よしながふみの絶妙なさじ加減をじっくりと楽しみたい。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本わたしを離さないで

2011/12/21 14:36

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」についてはあまり話せない。

13人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 解説で柴田元幸氏がこの小説は「細部まで抑制が利いていて、入念に
構成されていて、かつ我々を仰天させてくれる、きわめて希有な小説」
と書いている。カズオ・イシグロの最高傑作と言われるこの長編は本当
にすごい小説だ。ただ、その抑制の利いた文章に最初はいらだつ人がい
るかもしれない。しかし、この文章があってこそ主人公たちの哀切な青
春が見事に浮かび上がってくることも確かなのだ。

 そして、その内容。これもちょっと言うことができない。そんなに終
盤ではなく、主人公たちが何者なのかはわかるのだけど、やっぱりこれ
はまっさらな、何も情報がないままで読んだ方が絶対にいい。そういう
物語だ。たとえばここに登場するのは「提供者」と呼ばれる人々、彼ら
を助ける「介護人」、「保護官」と呼ばれる教師たち。主人公は「提供
者」たちがいる施設ヘールシャムの生徒であるキャシー・H(彼女は後
に優秀な介護人になる)、その親友のルースとトミー。青春のただ中を
生きる彼らを待つ残酷過ぎる運命とは…。ルースが探す「ポシブル」と
は…。この物語はSF的な要素を含みながらもその完成度はまさに「世
界名作文学全集」に入っている作品のようだ。淡々としながらも深くせ
つないラストがたまらない。

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7年前の打ち上げから追い続けた、山根一眞「はやぶさの大冒険」。

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 山根一眞さんのこの本は、はやぶさのあの感動的な帰還からそれほど
間を置かずに発売された。それもそのはず、山根さんは7年前の打ち上
げの時から取材をスタートさせ、ずっとフォローしていたのだ。ほとん
どの日本人が興味を持っていなかった打ち上げにもちゃんと立ち会って
いる。はやぶさ人気で関連の本も出ているが後追いじゃない取材はさす
が山根さん、これははやぶさを7年間真摯に追い続けた詳細な記録だ。

 はやぶさについては僕自身、帰還が近づいてからいろいろ知ったくち
で、まったくのにわかファンである。知らないことも多い。実はこの本
でも最初から激しく驚かされる。長さ535mしかないイトカワの公転速
度は秒速30キロ、ハンマー投げのハンマーを投げ出す直前の速度が秒速
30mなので、その1000倍の速さで動いてるイトカワにはやぶさを着地
させなくてはならない。そのためにはやぶさは、2年間かけてイトカワ
と同じ速度になるよう(そうすれば止まっているのと同じだから)加速
し続け(!!!)飛んでいたのだ。う〜む、そうだったのか。「はやぶ
さがイトカワをピタリとらえるのは、東京から2万キロ離れたブラジル
のサンパウロの空を飛んでいる体長5ミリの虫に、弾丸を命中させるよ
うなもの」というのだから本当にスゴい。

 こんな話で度肝を抜かれ、さらに、何度ものトラブル、行方不明の日
々など知ってることや知らないことをいろいろと読んでいるうちに、あ
〜はやぶさ、きみは本当に良く戻って来たなぁ、と改めて感嘆してしま
った。山根さんは、トラブルなどその折々にスタッフにインタビューを
しているので、その時の状況や問題点がわかりやすく、いつの間にかは
やぶさと一緒に大冒険をしてる気分になってしまう。そして、最後の地
球帰還、作者自身、豪州まで足を運んで書いているのでこれは本当に感
動的。またまた涙が出そうになった。それにしても、大冒険を支えた日
本の技術者たちの技術力、応用力、危機管理能力、大胆な決断は本当に
素晴らしい。これを読めばそのことがはっきりとわかる。最後にひと言
付け加えれば、もし、カプセル内の微粒子がイトカワのものでなくても、
イオンエンジンの長期に渡る運用などこのプロジェクトは世界中から大
きな大きな称賛を受けている。本当に世界に誇る大冒険だったのだ。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本神様

2011/02/17 18:50

魂が浮き上がるような不思議な読後感、川上弘美「神様」。

11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 かなり前、たぶんこの本が単行本で出た頃、評論家の小谷野敦が「理
性がまひする面白さ」とこの小説のことを誉めていた。ふ〜〜〜〜ん、
と思ったが、なぜか読めないままでいたのだが、文庫化された時に読ん
でみたら、ぶっ飛んだ。実はこの小説が僕にとっての初川上だった。

 9つの短編。物語はくまにさそわれて散歩に出たり、梨畑で見つけた
変な生き物を部屋で飼ったり、死んだ叔父さんが遊びに来たり、河童に
恋の相談を受けたり、壺をこすると若い女が出てきたり、えび男くんと
焚き火を見たり、カナエさんが愛した物の怪?の話を聞いたり、エノモ
トさんが拾ってきた人魚に取り憑かれたり、またまたくまにさそわれて
散歩に出たり、そんなこんなの話だ。といっても綺譚集とか、そういう
類いの話ではない。くまも河童も壺の女も、ただただある感情、せつな
いとか寂しいとか愛しいとか、そういうことを表現するための大切な道
具だてなのだ。人間と散歩に行くよりくまと行った方がそこに醸し出さ
れる気分が違うからそうするわけだ。だから、これを読むと、なんだか
魂がふわ〜っと浮き上がっていくような不思議な読後感があるのだ。

 文体もよく、これ誰かの何かを読んだ時に感じたのと同じだ、としば
らく考えて浮かんだのが高野文子の漫画だった。高野さんもすごい人だ
が、川上弘美も何だかすごい。初川上で思い知らされた私なのでした。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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市民の側から戦争を描いたこうの史代の大傑作「この世界の片隅に」。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 これはまぎれもない傑作!「夕凪の町 桜の国」と並ぶこうの史代の
代表作だろう。彼女の作品を比類なきものにしているのは、キャラクタ
ー設定の見事さと常にユーモアを忘れない表現にある。この2つがあれ
ばこそ、戦争、そして、原爆の悲劇を描きながらも暗いだけの物語にな
ってはいない。それが読む者にとって大きな救いなのだ。

 「この世界の片隅に」の主人公は北條すず。何を考えているのかよく
わからない、ちょっとドジなところもある少女だ。のんびりとした性格
のこの18歳の女性が広島から呉へと嫁ぐ。時は昭和18年から19年へ、
もちろん戦時下の暮らしだ。しかし、後半になるまで戦況自体が描かれ
ることはない。ここで描かれるのは、すずと北條家、そして実家の人々
の「銃後の暮らし」である。すずと夫である周作との初々しい愛、ちょ
っといじわるな義姉との心のつながり、娼婦であるリンとの友情などな
ど、人と人が生きている確かな暮らしがそこにはある。こうの史代の表
現は、いつも通り多彩だ。ある回では「愛國いろはかるた」なるものを
再現したり、「とんとんとんからりと隣組」の歌に合わせたほとんどセ
リフなしの回があったり、当時の献立をくわしく描いたり。何度もくり
返し見たくなるページが多い。

 物語は敗戦に向かい突き進んでいく。呉という町は、帝国海軍の拠点、
広島の軍都だ。空襲は日に日に激しくなり、そんな中ですず自身にも悲
劇が起こる。そして、広島の町にはついに…。この後半にいたってもこ
うの史代の表現にはブレがない。原爆の描写も過剰にはならないし、ユ
ーモアも忘れない。「人間」を見る作者の目はあくまで優しい。敗戦後
を描いたエピローグ的な5話が素晴らしい。すずをはじめとする人々の
健気さ、強さが心を打つ。そして…、カラーで描かれた呉の町の美しい
こと!市民の側から戦争を描いてこれは本当に見事な物語である。

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「あんじゅう」、宮部みゆきの小説で最後に描かれるのは人間だ。

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「おそろし」に続くシリーズ2作目。まずは3つの「うまい」。タイ
トルがうまい。「あんじゅう」は「暗獣」である。中の話のタイトルは
漢字にしてある。それをひらがなにしたことでグッとやわらか味が出た。
イラストがうまい。新聞小説で毎回入っていた挿絵をうまくレイアウト
している。南伸坊のイラストは作品世界を見事に表現していて素晴らし
い。そして、最後、「序」がうまい。初めて読む新聞の読者に主人公お
ちかが百物語を聞くようになった顛末を説明しているのだが、その手際
のよいこと!見事と言うほかない。

 さて、4つの物語でできたこの小説、「おそろし」に比べると軽めな
話が多い。どれも好きなのだがやはり「暗獣」にはやられてしまった。
誰もが怖がって近づかない幽霊屋敷に一人ぼっちで住むもののけ。そん
な屋敷にわけあって住むことになった老夫婦、ある日、彼らは出会う。
妻初音の小娘のような、好奇心旺盛で恐れを知らぬ性格もあって、しだ
いに交流を深めていく2人と1匹。そのもののけは「くろすけ」と呼ば
れるようになり、夫婦は彼?をとても大切に思うようになる。そして…。
くろすけの存在のあわれさ、せつなさが心を打つ。最後は本当に号泣も
の。これはもう思い切り泣くしかない。僕もちょっぴり涙し、心の中で
ワンワン泣いた。

 あとの3編も心に残る話ばかり。前作「小暮写眞館」もそうだが、宮
部みゆきの小説は幽霊やもののけが出て来ても、怪異な現象が起こって
も、真ん中にはいつも「人間」がいる。だからこそ、その物語が読む者
にしっかりと届くのだ。今回から三人組のいたずら小僧や巨漢の偽坊主、
おちかも気になる凄腕の若侍など、助っ人たちも登場してシリーズのこ
れからも期待できそう。あ、最初の「うまい」にもうひとつ。宮部みゆ
きは終い方もうまい。ハッピーエンドにしても何にしても、物語の終わ
りが心にジンとしみるのだ。というわけで「あんじゅう」、何はともあ
れ、泣きましょう。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本対岸の彼女

2010/07/12 18:14

岸を渡る女たちの物語、角田光代「対岸の彼女」

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 05年の第132回直木賞受賞作品。専業主婦の小夜子の物語と高校生の
葵の物語が交互に描かれる。このスタイルがとても効果的だ。小夜子の
物語は現代、葵の物語は過去。そして、小夜子の物語には35歳になった
葵が登場する。

 「対岸の彼女」とはなんともうまいタイトルだ。現代の2人はまさに
「対岸」にある。小夜子は子育てと姑のいやみに疲れ、周りともうまく
やっていけない主婦。一方の葵は旅行事務所を切り回す明るくパワフル
なビジネスウーマン。小夜子が再就職を決意し面接に行ったのが葵の会
社だったのだ。しかし、タイトルの意味はそれだけではない。対岸にい
るような葵は、実は高校時代は小夜子と同じ岸にいたのだ。その葵がど
うして今の葵になったのか。そのプロセスを一方で描きながら、もう一
方では現代の2人の友情と亀裂を描いていく。現代と過去が交互に語ら
れるスタイルだからこそ、物語はよりリアルでスリリングになった。過
去の葵の物語が確実に現代の物語を支えているのだ。

 物語の後半で小夜子は何度も自分に問いかける。「なんのために私た
ちは歳を重ねるんだろう」と。その答えがこの小説のラストにある。向
こう岸へと、力強くオールを漕いで渡る勇気をこの物語は与えてくれる。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本レンブラントの帽子

2010/11/22 15:20

人間の おかしさや哀しさ、複雑さを浮き彫りにする傑作短編集。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 1960年代から70年代なかばにかけて日本でも翻訳本が多く出されて
いたバーナード・マラマッド、彼の代表的短編集の中から3編を選び、
吉祥寺の小さな出版社夏葉社によって復刊されたのがこの「レンブラン
トの帽子」だ。わが地元である吉祥寺に出版社があるというだけで何と
なくうれしいのに、処女出版であるこの本、さらに続けて出された「昔
日の客」が本好きを大いに喜ばせているという。これはもうパチパチパ
チと大拍手を送りたくなってしまう。「夏葉社」かぁ、名前もいいなぁ。

 さて「レンブラントの帽子」だが、表題作はニューヨークの美術学校
に勤める美術史家と同僚である初老の彫刻家の話、「引出しの中の人間」
はソ連に観光で訪れた傷心のライターと不遇なロシア人作家の話、「わ
が子に、殺される」はひきこもりのような息子とその父親の話だ。どの
話も登場人物たちは対立、あるいはベクトルの違いがあり、良好な関係
を作れていない。2人は関係をうまく修復できるのか?物語の結末に向
かってのその「プロセス」こそがこの作家の真骨頂と言えそうだ。

 特に表題作には心を揺さぶられた。白い帽子をかぶっている彫刻家を
めざとく見つけた美術史家が「それ、とてもいい帽子ですね」「レンブ
ラントの帽子そっくりなんですよ」と声をかける。その会話の後から、
なぜか彫刻家は彼を避けるようになり、何だかわからないまま彼の方で
も彫刻家を嫌うようになってしまう。半年近くもそんな状況が続いた後、
美術史家はふと思う。「なにがいったい、奴さんのかんにさわったとい
うのだろう?」と。そこで彼が思い至ったこと、その後にとる行動、そ
して、忘れがたい結末へ、この流れがなんとも素晴らしい。ラストは本
当にグッと来る。
 
 バーナード・マラマッドは、人と人との間の理解や誤解、寛容や不寛
容、疑いや共感、そういう様々なものを描きながら、人間というものの
おかしさや哀しさ、複雑さを見事に浮き彫りにする。まさに心に残る一
冊!マラマッドという作家の存在を私たちに教えてくれただけでもこの
短編集の価値はとてもとても大きい。訳者にあの小島信夫がいること、
装丁が和田誠であることも付け加えておきたい。

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紙の本桐島、部活やめるってよ

2010/09/21 16:29

常に微妙な関係を抱えた17歳の物語「桐島、部活やめるってよ」。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本を読む前にひとつだけ知っていたことがある。桐島くんは人の会話
の中にしか出てこない、はは〜ん、ってことはつまり、一人の人間の不
在を通して周りの人々や集団を描く、というスタイルだろうか?それは
別段新しい試みではないが、青春小説でやるのはおもしろいな、と僕は
思った。ところが作者の朝井リョウは桐島くんは出さないが、その不在
を積極的に利用しようとはしない。そこがいい。ヘンに頭でっかちにな
らず、身近でリアルな青春小説に仕上がっている。

 進学校に通う高2生5人が各章ごと一人称で語る物語だが、映画部の
前田涼也の章が図抜けていい。「高校って、生徒がランク付けされる」
とつぶやく涼也。「目立つ人と目立たない人。運動部と文化部。上か下
か」「目立つ人は同じ制服でもかっこよく着られるし、髪の毛だって凝
っていいし、染めていいし、大きな声で話していいし笑っていいし行事
でも騒いでいい。目立たない人は、全部だめだ。」、そして涼也は「自
分で勝手に立場をわきまえている」。いじめとは違うこういう微妙な関
係がストレートな独白で表現されていく。涼也だけではない。ここに登
場する17歳は、恋でも友や親との関係でも、常にデリケートなものを抱
えている。彼らの心の痛みや迷い、戸惑いがしっかりと伝わってくる。

 この小説、若々しい文体もいいし、方言も会話もいきいきしていて本
当にリアルだ。タイトルの見事さも含めて、まさに鮮烈のデビュー作。
やはり高校生に一番に読んで欲しいが人との関係に疲れている大人の人
々にもおすすめだ。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本さよならのあとで

2012/04/18 11:32

大切な人を失ったあなたへ。「さよならのあとで」という一編の詩。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 英国教会の神学者であり、哲学者でもあったイギリスの詩人ヘンリー・
スコット・ホランドの詩の本だ。詩集ではない。収められているのはタ
イトルの「さよならのあとで」という詩一編だけだ。ここで言う「さよ
なら」とは死別のこと。この詩は最愛の人、かけがえのない友人、大切
な家族などを失った人々のために書かれたものである。原詩も最後に記
されているのだが”Death is nothing at all”に始まり、"All is well"で終
わる英文で24行の詩は、身近な人との死別を経験した多くの人々に安ら
ぎを与えることだろう。

 僕は10年以上前に父を亡くした。2人の関係はけっして親密ではなく
クールな仲だったのだけど、なぜか喪失感が大きく自分でも驚いたもの
だ。今年の2月には長年の友を失った。友と言っても20年近く会っては
いない。時々、メールの交換はあったのだけれど。とはいえ、彼は僕に
とっては「かけがえのない友人」と言うほかない存在だった。30年以上
も前に短い期間、同じデザインオフィスで働いただけなのだが。そうい
う友人っていませんか?

 話はちょっとズレてしまったが、喪失感というものは思いがけなく深
く、人の心を苦しめ続ける。この詩は立ち直ることがなかなかできない
でいる人たちの心をやわらかく解きほぐしてくれる。何度も何度も読む。
時には気に入った一行を口の端にのぼらせてみる。最初から音読してみ
る。良い詩は声に出して読むこと自体、心地よいものなのだ。

 出版したのは吉祥寺の個人出版社「夏葉社」。彼自身が3年前、一番
の親友であった従兄を事故で亡くしたという島田潤一郎氏の渾身の仕事
だ。

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イメージがふわっと広がる上林暁の傑作小説集「星を撒いた街」。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 私小説作家である上林暁の作品集が「昔日の客」の夏葉社から出た。
上林は名前は知っていたが読んだことはない作家。こういう形で傑作集
が出るのはとてもうれしい。編者は古書店店主であり希代の本読みでも
ある山本善行氏、期待も高まる。

 まずこの本、装幀がいい。昔、父親の書架の中にこういう装幀の本を
見かけたことがあった。色のトーンも何ともいえずいい。側に置いてお
くだけで幸せな気分になる。「30年後も読み返したい」という帯のコピ
ーに心ひかれる人も多いことだろう。

 上林には病妻物と呼ばれる作品群があり傑作が多いらしいのだが違っ
た魅力も感じて欲しいという編者の思いから、病妻物は全7作のうち2
作。さすがにこの2作は良くて、何度も読み返したくなる。個人的に好
きなのは巻頭を飾る「花の精」と表題作「星を撒いた街」だ。「花の精」
はイメージがふわっと広がるラストの描写が素晴らしい。駅の近くにあ
るサナトリウム、ガソリン・カアのヘッドライトに映し出される月見草
の原。そこに入院中の妻のはかない姿がオーバーラップする。忘れがた
いラストだ。表題作「星を撒いた街」は旧知の友の家を訪れる男(作者)
の話。友の内縁の妻は昔カフェで働いていた知っている女だった。坂の
上にあるその貧しく小さな家は、すぐ下が崖になっていて満天に星が乱
れ咲いたような夜景が素晴らしいのだ。それを見ながら交わす三人の会
話がいい。そして、ラストの別れの美しいこと!

 帯のことを書いたが、上林の私小説は30年後はもちろんだが、明日に
でも読み返したくなる。読めば読むほど味わい深く、読めば読むほどイ
メージが広がる。彼の他の小説も読んでみたくなった。

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紙の本獣の奏者 外伝 刹那

2010/10/04 14:49

物語を紡ぐということ、上橋菜穂子「獣の奏者 外伝 刹那」。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 あの名作「獣の奏者」の外伝である。主人公エリンの少女時代を描い
た1・2巻、母となってからの3・4巻、外伝のメインとなる2つの物
語「刹那」と「秘め事」はその間に位置している。前者はエリンと夫イ
アルの恋の物語、そこに2人の子ジェシの出産の場面を重ね合わせてい
る。後者はエリンの師エサルの若き日の恋の物語だ。物語を紡ぐという
ことはこういうことなのだな、と改めて思った。きちんとした形にはな
っていなくても、作者の心の中には、エリン、イアル、エサルの人生が
ちゃんとある。外伝という形で日の目を見ることは、まさに心の中にあ
る物語を整った形で紡いでいくことなのだろう。その幸せは当然作者に
もあり、我々読者にもある。

 エリンとエサル、この2人の女性は、共に自らの運命にあらがいなが
ら生きている。思い通りにはならない人生の中で、永遠の幸福を捨て、
刹那でも喜びがあればと思っている。エリンがイアルという男とつき合
うこと、さらにはその子を宿すことには、本当に厳しい決断が必要だっ
たはずだ。エサルが貴族という身ですべてを投げうち、獣ノ医術師にな
ることは、家族をはじめ周囲の人々の運命を大きく変えてしまう危険が
あった。この物語が心にズシリと響くのは作者に人間の「生」について
の深い考察があるからに違いない。エリンもエサルも心は鋼のように強
い。しかし、その人生の中で多くのものを捨て去って来た。捨てなけれ
ば手に入らない大切なものがあったのだ。緊張感のある2編の後に「初
めての…」という掌編、そのやわらかく暖かい描写が心地よい。上橋菜
穂子の文章は静謐で美しい。そのことを改めて思った外伝でもあった。

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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紙の本GO

2010/07/28 23:22

何とも痛快なラスト!!金城一紀の直木賞受賞作「GO」。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 金城一紀の直木賞受賞作品。とても軽やかで気持ちのいい小説だ。ひ
と言で言えば、青春恋愛小説。作者がコリアン・ジャパニーズで、主人
公もそういう設定なのでふつーに差別のことが出てくる。その軽みが評
価されたということはあるだろう。 

 しかし、この小説で素晴らしいのは人物の造形だ。けんかに明け暮れ
る主人公の杉原。パチンコの景品交換所を経営する彼の父は元ボクサー
でハワイに行くために朝鮮から韓国へ、コロリと寝返った?人物だ。そ
の父とけんかばかりしている母は家出の常習犯。この杉原家の人々のキ
ャラクターがまず最高である。そして、杉原とその友だち、暴力団の幹
部を父親に持つ加藤や民族学校で「開校以来の秀才」と呼ばれている正
一(ジョンイル、なお杉原は「開校以来のバカ」)たちとの交流を描く
作者の筆致が冴えに冴えている。差別の問題をしっかりと携えながらも、
語り口はあくまで軽快。まったくうまい。

 そして、杉原の恋。彼が恋に落ちたショートカットの少女桜井はジャ
ズが好きで小説が好きで、とても進歩的な考えを持った女性なのだが、
杉原が「僕の国籍は日本じゃない」と告げたときには、意外なリアクシ
ョンを起こす。それから二人がどーなっていくかが後半の大きなポイン
トだ。杉原の最後の叫びとそれに応える桜井の言葉。ラストは何とも痛
快!これが初の長編書き下ろしだったなんて、金城、おまえはほんと〜
〜にすごいぞっ!!

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紙の本始祖鳥記

2010/04/27 12:15

綿密な考証と大胆な創作で描く、鳥人幸吉の物語。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「始祖鳥記」、これは江戸・天明の頃、空を飛ぼうと夢想し、それを
実現しようとした男の話だ。所は備前岡山。男の名前は幸吉。物語はこ
の幸吉が捕らえられるところから始まる。以前から城下で話題だった怪
鳥鵺(ぬえ)の正体はこの男だという。巨大な翼を持つその鳥は「イツ
マデ、イツマデ」と鳴いて藩の失政をあざ笑い、空を飛んでいたのだ。
3部構成の第1部はそこから時代をさかのぼり、凧揚げが好きで手先も
器用だった幼い頃の幸吉のこと、一度空を飛ぼうとした時のことなどを
こまやかに描いてゆく。

 見事なのはここからで、第2部はまったく別の男たちの話になる。地
廻りの塩問屋、巴屋伊兵衛。弁財船の船主、福部屋源太郎。2人は結託
し、粗悪な塩の専売を許す幕府に一泡吹かせようと新たな塩ルートを開
拓している。彼らが鳥人幸吉とどのように結びついていくのか、ここが
この本一番のポイントだ。そして、話は怒濤の第3部へ。大団円になる
ラストで幸吉がつぶやく言葉は涙なしには読めない。ただただ空を飛び
たい、と思い続けた男の最後の言葉…う〜〜〜ん。

 ライト兄弟より百年以上も前に空を飛んだというこの男は実在したら
しい。飯嶋和一は綿密な考証と大胆な創作で、ひとりの男の一生を浮き
彫りにした。これはもう見事というしかない傑作だ!

ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より

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