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YKさんのレビュー一覧

投稿者:YK

384 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

大手マスコミが触れたがらない「南京事件」の真相に迫るノンフィクション

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日中戦争において日本軍が南京で中国の一般市民を虐殺したとされる南京事件。未だに「中国のねつ造だ」「中国のプロパガンダだ」と主張する人も多く、某大手新聞社もその見解を支持しています。著者の清水氏は従軍兵士の日記を基に可能な限り「事実」を追い求めて取材を進めています。そのプロセスは理詰めで飛躍がなく、非常に説得力のあるものです。本書を読んだ個人的な印象としては南京事件は”あった”と言ってよいのではないでしょうか。
南京事件の取材の延長上に、日清戦争で起こったもう一つの虐殺の件にも触れています。日本では教科書にもほとんど取り上げられることのない出来事であり、私も初めて本書を読んでその存在を知りました。
太平洋戦争を顧みる報道では「原爆・空襲・沖縄戦」などが多く、これは戦争によって被った被害者の視点と言えますが、日本が加害者となった事象についての報道はまだ数少ないのが現状です。その状況に一石を投じる一冊であることは間違いないと思います。次の一文が印象的でした「どれ程に長い時間が過ぎ去って、加害者側からはもはや消し去りたい歴史であっても、被害者たちは決して忘れることはない。戦争とは、つまりそういうことなのであろう」

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紙の本

日航機事故における警察、医療関係者の献身的な活動の記録

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

520人が一瞬で犠牲となった日航123便の墜落事故。その遺体の検屍、身元確認と遺体の引き渡しの最前線で責任者として現場を指揮した警察官の方が自らの体験を記したノンフィクション。航空機が墜落する事故というのがいかに凄まじい衝撃を搭乗者に強いるのか、本書に記録されている遺体確認の現場の描写によって描かれています。頭部、胴体、手足がバラバラになり、場合によっては隣り合ったり前後の座席の乗客の胴体にめり込んだ部位を丁寧に分けながらの身元確認。腐敗の進行が著しく早い真夏の現場で、凄まじい死臭と格闘し続けた警察、医療関係の人々の献身的な活動の記録です。どんなに小さな部位も身元の誤認をさせない、少しでも綺麗な状態で遺体を遺族に引き渡したいという執念に近い矜持をもって作業にあたった関係者の人々の姿は自分たちの仕事に対する尋常ではない責任感とプライドを感じさせます。大きな犠牲を伴う事故の現場の記録ですから、綺麗ごとではなく、かなり残酷で読み進むのが辛くなるような描写もたくさんあります。しかしそういう状況の下でこそ「誠意をもって対応する」とはどのような事なのかを本書は読者に訴えているように思えます。

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紙の本

紙の本罪の声

2020/01/14 18:19

ノンフィクションと思わせるほどのリアリティー!

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

グリコ森永事件を題材に、著者オリジナルのストーリーを重ねた小説です。
京都でテーラーを営む曽根俊也は、母親の部屋から古いカセットテープと黒革の手帳を見つけます。そのテープにはあの昭和の食品企業恐喝事件の犯人による警察への指示に用いられた子供の声が。そして、それは俊也自身の声でした。
なぜ自分の声があのテープに録音されているのかという疑問、身内があの事件に関わっていたのではとの疑念に揺れる俊也と、未解決事件を追う新聞記者の阿久津英士。二人は夫々が事件の真相を追っていることを知らないままに、わずかにつながる手がかりを手繰っていきます。そして物語後半で二人は出会い、なぜ俊也の声が犯行に使われたのかの真相を掴みかけるのですが…
実際のグリコ森永事件は、警察の大規模な捜査にもかかわらず未解決のままです。そこに著者オリジナルの展開を盛り込み、緻密な伏線の張り方や、複雑に絡む人間関係の描写などのリアリティの豊かさ、「実際の事件の真相はこうだったんじゃないのか?」と思わされるほどの完成度です。
お菓子に毒物を入れるという凶悪な犯罪をモチーフにしていますが、結末は非常に切ない展開で締めくくられ、フィクションではありますが、重厚なノンフィクションを読んだような印象でした。文庫本で500ページを超える大作ですが冗長な印象は全く無くて、グリコ森永事件を知っている方なら誰でも読んでいるうちに引き込まれて読み終えることができるのでは。最近読んだフィクションでは断トツの一番かなという気がします。

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紙の本

身近にもこんな人がいると思うと、恐ろしい

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2005年長野県の丸子実業高校バレーボール部に所属する高校生が自殺する事件がありました。その原因をめぐり、生徒の母親と学校側(校長、担任、部顧問他)、教育委員会、バレーボール部員の保護者間で訴訟が繰り広げられたのですが、その経緯を追ったノンフィクションです。
本書によれば、自殺に先立つ生徒の不登校に対しては学校側、教育委員会ともに懸命にこの生徒が登校できるように配慮していますし、バレーボール部の部員達も生徒の登校をずっと待ち望んでいたのです。生徒の母親は「いじめが原因だ」と一貫して主張していますが、学校関係者や部関係者の誰にヒアリンをしても「いじめ」と判断されるような事実はなく、自殺した生徒自身は一貫して学校に行きたがっていたというのが実情で、学校と生徒との間に強大な壁として母親が君臨していたというのが真実でした。
生徒の母親の異常とも思える言動に翻弄される関係者の様子。校長は母親からの殺人罪の刑事告訴の事実を知った時、「一体どうして、こうなるんだ…」と茫然自失となり、いじめの加害者として名前を挙げられた生徒は「えっ?俺?何で…」と信じられない気持ちになったと描写されています。生徒を救おうと親身になって懸命になった人ほど、理不尽な避難を母親から浴びせられるという状況になっていました。
この事件は母親側と学校側やバレーボール部の保護者間で複数の訴訟が入り乱れ、最終的に母親側の全面敗訴が決定しました。
しかし、「いじめ→学校側が悪い」との思い込みから、マスコミには相当偏った報道をされ、それに乗じて多数の抗議電話が殺到した結果、学校関係者が精神的にかなり追い詰められたり、何よりも何の罪もないバレーボール部の部員達が目標としていた大会に出場できなかったりと、深い傷を残す結果となりました。
本書前半は母親が学校関係者に理不尽な言いがかりをつけて事態が混乱する様子が、後半は訴訟の進展に伴う状況が詳細に描写されています。自分がもしもこの母親の攻撃の対象となる立場だったらと思いつつ読んでいると、本当に恐ろしいというか、薄気味悪い気がしました。
真摯に対応しようとする学校関係者の労力が、この様な人物への対応に浪費される状況がないように祈るばかりです。

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紙の本

まさに調査報道の真骨頂!是非ご一読をおすすめします

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

幼女誘拐殺人犯として誤認逮捕された菅家さんが2009年に釈放されました。17年におよぶ刑務所生活からの解放です。実はこの釈放の背景には、真犯人が他にいるとの信念のもとに取材を続けたジャーナリストの存在がありました。そのジャーナリスト本人が、いかにして菅家さんが冤罪であるかを突き詰め、そしてついに検察、裁判所までを動かす大きな波を起こしたのかを辿るノンフィクションです。著者の「真犯人を野放しにさせない」との執念が結実した1冊です。まるで推理小説を読んでいるかの如く引き込まれます。菅家さんを自供に追い込んだ当時の警察の取り調べの状況、一旦下った判決への疑念に対する取材への警察の抵抗、そして事件の報道とは誰のためになされるべきか等、読みどころ満載で、書評サイトHONZでも高評価なノンフィクションです。昨年「文庫X」と書名を敢えて隠して発売され話題にもなりました。

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紙の本

紙の本無私の日本人

2016/05/14 22:37

現代の日本人が失いつつある気質

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

惻隠、謙虚、清廉、自己犠牲といった現代の日本人が失いつつある気質を、それらに徹して生き抜いた江戸時代に実在した3人の生涯を通じて語る歴史小説。
自らの功績を決して公言しない、学問の追及に見返りや売名を求めない、など登場人物が貫徹する生き方は確かに素晴らしいとは思います。
ただ、その生き方に諸手を挙げて称賛するほどには感情移入できない部分もありました。前述の精神は大切だとは思いますが、過度に賛美すると逆に世の中の”空気”としてそれらを強要するような雰囲気になることに不安を覚えてしまう部分があります。特に最近はネットとかで世論が極端になりがちですから。「こういう気質を心に留めておこう」ぐらいの気持ちの持ちようが私にとっては丁度いいバランスに思いました。
著者が歴史学者であるために文体が小説というよりは事実の記述に軸足を置いているように感じる点は、読者に感動や共感を強要しないので、好感が持てました。

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紙の本

桑田氏の野球に対する真摯な気持ちが伝わってくる本

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

PL学園への高校進学、巨人入団のドラフト会議、右肘の手術、マスコミからのバッシングなど野球人生の節目にどのような心で向き合ってきたのかを桑田氏自身が語る本。「野球の神様は卑怯な事をする人や手抜きをする人には決して降りてこない」、「試練はつらく苦しいことではない。次のの挑戦へと向かうスタートである」、「表の努力(練習やトレーニングなど)だけではなく裏の努力(掃除や挨拶など)にも手抜きをせず運とツキを貯金する」、「気付く人と気付かない人。その差は努力と言う準備をしっかりしたかどうか」など貴重な言葉が一杯です。今の時代、ちょっと古いかなとご本人も本文で何度か書かれておられますが、私はこういう考え方が大好きです。この本で書かれている心境に高校卒業の10代後半から20代にかけて既に到達されていたということには驚いてしまいました。桑田氏の活躍を実際に見た年代の人には説得力抜群だと思います。

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紙の本

情報過多の現代にこそ考えるべきテーマ

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

朝出社して日経新聞と毎日新聞にざっと目を通し、帰宅してNHKニュースウォッチ9か報道ステーションを観る。そして、30分ぐらいは好きな本を読む。私の普通の一日はこうして過ぎて行きます。でも読みたい本はどんどん溜まるし、録画しておいたNHKスペシャルとかもハードディスクに溜まる。限られた時間でどうやってこれらの情報を処理しようと悩んでいたので読んでみたのがこの本。著者の意見で納得できたのは1)質の悪い情報には接しない→占いとかオカルトとか、2)自分から発信したいと思わない情報は無視する、3)本やテレビで得た情報は忘れてもOK→検索するキーワードさえ整理すれば、いつでも取り出せる、などなど。情報過多ともいえる今日、情報の受け手のフィルターの性能を向上させて無駄な情報をそぎ落とすのが重要で、でもそのためには多くの情報に接して取捨選択する経験を積む必要があるという一見矛盾してそうな部分もあります。でも、何事も場数を踏まないと上達しないのは同じですね。少なくとも、「読んだ本の内容を忘れてもOK」の一節は私にとって貴重な見方でした。

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紙の本

紙の本ノモンハン責任なき戦い

2020/11/04 18:27

ノモンハン事件の背景を分かりやすくまとめた1冊

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

太平洋戦争開戦の直前、満州とソ連との国境で発生したのがノモンハン事件です。”事件”という名称になっていますが、わずか4か月で日本側約2万人、ソ連側約2万5千人の戦死者を出すほどの”戦争”だったのです。
太平洋戦争では日本軍が情報軽視、補給軽視、精神主義などの悪弊によって特攻や玉砕などの悲惨な戦いを繰り広げましたが、ノモンハン事件にもそのすべての要素がすでに見受けられています。
ソ連軍の物量に関する情報を軽視して安易に攻勢に出ようとする関東軍、それを明確に止めようとしなかった参謀本部、兵力の逐次投入(兵力を小出しに投入すること)などの行動原理で大きな被害を被る結果となりました。さらにこの”戦闘”を主導した軍幹部は軽い処罰で再び軍の要職に復帰しているにもかかわらず、現場指揮官の多くにその責任が転嫁去れると言う歪んだ人事も横行していました。
しかもノモンハン事件終息後の軍内部の研究会では、兵力の近代化の遅れや情報軽視などの要因を指摘する幹部が存在したにも関わらず、必勝を期する信念の不足が敗因であると結論付けられました。もしもこの時にきちんとした敗因分析が行われていれば、太平洋戦争の展開も違ったものになっていたかもしれません。
本書はノモンハン事件をテーマにしたNHKスペシャルの取材班が番組取材の過程についてまとめたものです。上述したようなノモンハン事件に関する詳細なデータや、関係者へのインタビューなどを交えて非常に読みやすく、昭和の転機となった歴史上の出来事について押さえるべき点を理解することができます。

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紙の本

紙の本首都崩壊

2016/04/18 16:58

首都遷都を題材にした災害フィクション小説

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「M8」で首都直下型地震、「TSUMANI」で巨大津波、「東京大洪水」で巨大台風による都市災害を災害シミュレーションとも言えるリアリティで描き切った高嶋氏が本書で描くのは、災害リスクによる経済の破綻です。
『東京を首都直下型地震が襲う可能性が5年以内90%以上という研究成果が発表されます。このリスクに対して効果的な対策が講じなれなければ、日本国債の暴落、極度の円安、そして株価の暴落が引き起こされ、日本がデフォルトとなる現実が目前に迫ります。この機に乗じて国際ファンドや某大国が日本への経済的攻撃を仕掛けて来る中、首都直下型地震のリスクを回避するには首都遷都しかないと、官僚や政治家が動き出します。果たして彼らの遷都プロジェクトの進捗は、国債ファンドの仕掛けによる国家破綻と、首都直下型地震の発生に対して間に合うのか…。』
本書の中でも指摘がありますが、阪神大震災、東日本大震災からの復興は必ずしも迅速ではなかったにせよ、首都機能に大きなダメージが無かったことが救いとなって進めることができたことは否定できません。今ほど東京に政治的、経済的、文化的なウェイトが集中している状況で、その首都機能が壊滅したら…という想定に対して首都遷都という回答が決して現実離れしていない選択肢であると納得させられます。
国際金融の裏舞台をこの小説を通じて垣間見ることができる、リアリティー十分な大作です。

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紙の本

火山国に生きる上で必要な心構えを簡潔にまとめた1冊

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

火山噴火災害についてのアウトリーチ(研究成果を広く一般に告知すること)に取り組んでおられる鎌田氏による、富士山噴火の可能性と南海トラフ地震の関係について解説している本です。
前半部分は火山灰、溶岩流や火砕流といった火山災害の例を富士山が噴火したケースを想定して解説しています。
そして後半部分では富士山の噴火と、近い将来に発生が予想されている南海トラフ地震との関係について触れています。海溝型地震とその震源近傍に位置する火山の噴火とは極めて連動性があるというのが結論で、その理由について最新の研究成果を紹介しています。
富士山というと美しい稜線と日本を象徴するような存在として「静」のイメージでとらえがちです。しかし地質学的には非常に若い火山であり、今の富士山の姿に至るまでには日本全域に影響を与えるほどの爆発的噴火や山体崩壊といった非常に激しい噴火を起こしており、いつ激しい噴火が起こっても不思議ではない「動」の火山であることなど、興味深い切り口が満載です。本書でも言及されていますが、あの美しい稜線の姿は富士山の生涯のうちでも限られた期間でしか見られない貴重な姿なのです。
津波などの南海トラフ地震に関わる被害想定がマスコミでは頻繁に言及されていますが、実は富士山の大規模噴火はそれに匹敵するほどの被害が出る自然災害であることを読者に強く訴える1冊です。

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紙の本

金融商品の取引現場とはどういうものかをリアルに伝える本

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

世界中の景気に冷や水を浴びせかけたリーマンショック。それはアメリカの不動産を担保にしたサブプライムローンの破綻が発端でした。そのバブルがはじけるまで、サブプライムローンを売りまくっていた金融市場において、その破綻を予期した人たちが存在し、その人達がどのように考えて行動していたのかを詳しく追ったノンフィクションです。
実は私自身も金融商品の仕組み、取引の仕組みがよく分からず、サブプライムローンと言われてもその仕組みもよくわからず、その辺の知識を得られることも期待して読んでみました。読後の印象としては、読んでも分からない部分も結構残りました。もう少し金融商品の知識を得てからこの本を読んだらもっとスリルや緊迫感を感じることが出来たのではないかと思います。
ただ本書から当時の金融市場の大きな流れは掴めますし、取り上げられている人物の描写も丁寧で、読んでいて辛くなることはないと思います。文庫本ですからお値段以上の内容と言えるのでは。

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紙の本

旧日本軍大型爆撃機の開発計画を通じて日本の航空産業の歴史をたどる大作

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

太平洋戦争の後半、日本はアメリカのB29による空襲で都市や工場に著しい被害が出ました。当時、戦局を打開するためにB29を上回る規模の超大型爆撃機が計画されており、それが「富嶽」と名付けられていました。計画を進めていたのは当時の日本の航空機生産を担っていた中島飛行機。日本を飛び立ち、太平洋を無着陸で横断してアメリカ本土の軍事施設や主要都市を爆撃し、そのまま大西洋を横断してドイツ占領下のヨーロッパに着陸するという途方もない計画で、想定された機体の規模は航続距離17000km、エンジンは5000馬力が6機で計30000馬力、高度1万メートル以上を巡行して最高速度は680km/時という性能を全幅65m、総重量160tの機体に収めるという物でした。これは現在の大型旅客機B777に匹敵する大きさです。
当時日本の航空機は世界的な水準にかなり肉薄したとは言え、エンジンは2000馬力がせいぜいで、双発(1機の機体にエンジンが2基)機までしか実用化されておらず、4発機でさえ実用段階には達していない状況でした。
このとてつもない計画を立案したのが中島飛行機の設立者である中島知久平です。全編で400ページ超の上下巻というボリュームのうち、上巻では中島知久平が中島飛行機を設立し、戦時の社会情勢から主要メーカーへと発展させるまでの経緯を数多くの元設計者などの証言や文献を元にたどります。
単なる兵器もの、戦記物ではなく、航空機産業の歴史をたどりつつ、航空機産業が発展するにはどのような歴史的背景があって、何が必要であったのかを丹念に辿っています。本書の著者はかつて某大手重工業メーカーに勤務してジェットエンジンの設計にも携わっており、航空機だけでなく船舶や車などあらゆる分野の産業史に造詣が深く、それだけに本書も技術的な裏付けや記述が非常に正確かつ読みやすく書かれています。本書は1990年代に発刊された後に絶版になっていたのですが、ようやく草思社文庫から復刊となり、すぐに購入して読みました。期待を裏切らない情報の量と深さに400ページを一気に読んでしまいました。

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紙の本

紙の本独ソ戦 絶滅戦争の惨禍

2020/11/04 18:26

さすが岩波新書と言わしめる独ソ戦の背景を簡潔にまとめた1冊

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

太平洋戦争での悲劇的な事実は特攻や玉砕など多くの書籍で紹介されていますが、ヨーロッパを主戦場とした第二次世界大戦に関してはそれ程多くありません。
本書はドイツとソ連との攻防を深堀し、かつ予備知識の乏しい人でも読み通せる貴重な1冊です。
独ソ戦と太平洋戦争との違いはその規模、戦争の目的に顕著に表れています。太平洋戦争での日本の戦闘員の戦死者は約230万人、非戦闘員の死者は約80万人と言われ、合わせて300万人もの人々の命が失われました。十分に悲惨な数字ですが、独ソ戦の犠牲者は桁が違います。ソ連側の戦闘員戦死者は1000万人超、非戦闘員の犠牲者も1000万人を超え、ドイツも戦闘員は500万人、非戦闘員は200万人以上が命を落としました。
ここまで犠牲者が増えた遠因として、次のように解説しています。
ヒトラーとスターリンという歴史的に見てゆがんだ世界観を持った指導者による戦争であったことから、戦争の目的が相手国の軍事力にダメージを与え、後に外交努力によって自国の主張を認めさせる「通常戦争」ではなく、敵国の土地や食料を収奪する「収奪戦争」、さらに相手の民族自体を根絶やしにする「世界観戦争(絶滅戦争)」へとエスカレートしたこと、当時の独ソ国境線が数千キロにもおよび、そのあらゆる領域で戦闘が行われたことなどです。
戦闘の推移を解説している部分は、やや冗長な印象も受けますが、ドイツ、ソ連の政治体制や軍事に対する考え方等が簡潔にまとめられており、非常に参考になりました。これらを裏付ける様々なデータや歴史的事実を分かりやすく紹介している本書、さすが岩波新書だなという印象です。

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紙の本

ホーキング著、青木薫訳という贅沢な組み合わせによる自然科学系読み物。期待どおりの充実の内容!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2018年に亡くなられたホーキング博士が生前に書きおろされた最後の本。「神は存在するのか」、「宇宙はどのように始まったのか」、「宇宙には知的生命は存在するのか」、「タイムトラベルは可能か」、「人工知能は人間よりも賢くなるのか」、「ブラックホールの内部にはなにがあるのか」等々、10の難問に対するホーキング氏の見解が述べられています。
ホーキング氏はこれらの問題の「正解」を読者に与えようとするのではなく、敢えてちょっと過激な見解を述べることで、多くの人々にこれらの問題に関心を持ってもらい、自分なりの見解を持ってもらうことを望んでおられるように感じます。
「ビッグバン以前には”時間”そのものが存在しないのだから、”神”が宇宙を創造する時間もなかった。故に神の存在を問うことは無意味だ」、「コンピューターウィルスは生命であると考えるべきだ」、「核戦争、あるいは気候変動により次の1000年のいずれかの時点で地球は人間が住めない環境になるのは避けられないのではないか」、「人類は地球を離れて宇宙に目を向けなければ絶滅の危険にさらされる」、「人間が制御可能なAIでなければ、増大するテクノロジーの力とそれを利用する知恵との競争に敗れてしまう」など、警鐘を鳴らす見解が多いです。
AIにしても温暖化にしても、多くの人の無関心が最も危険であり、「科学を理解し、勇気をもって解決に向かて力を注ぐ世代が必要だ。勇気を持とう。知りたがりになろう。確固たる意志を持って困難を乗り越えてほしい」という一節が本書を通じて一番伝えたかった事ではないかと思います。
非常に広い分野にわたる問題を扱った本書の翻訳は青木薫さん。自然科学系の翻訳だったら、この人しないない!と思える人です。ホーキング氏と青木薫さんという組み合わせの本書、期待通りの内容でした。

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