雨宮司さんのレビュー一覧
投稿者:雨宮司
紙の本おらが村
2019/11/01 12:53
恵みと脅威。
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東北地方のとある山村に暮らす一家の周囲に起きる、様々な人間模様が描かれる。今も解決されていない嫁問題、冬の雪の猛威、出稼ぎ等が描かれているが、妙に淡々と話が進むのは、真の主役が自然環境に他ならないからだろう。山は恵みをもたらし、一方では時に人の生命を奪う。人間はその中で生きてゆかねばならない。その点がしっかりと描かれているからこそ、この漫画の存在意義がある。惜しむらくは、話の展開が後半になってようやく本格的になる点か。気の短い人には勧めない。
2019/09/21 18:41
洗練されている。
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……とはいえ、それは『マタギ』と較べた時の話。洗練されているから良くなるとは限らない、という好例になるのではなかろうか。文化、という点では『マタギ』の方が良く描けていた気がする。各人の人物像を読みたいのならこちらだが、どうも途中からウエイトが変わっている気がする。変化をつける際の、難しい選択だったのだろう。
紙の本海図 面白くてためになる海の地理本 世界が見える!ニュースがわかる!
2019/07/31 22:55
海ではないの?
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海図に関する話は途中まで。後は海のトリビアが続く。これだけ単なる海の知識が続くのだったら、いっそのこと書名を『海』にすれば良かったのでは?
2019/07/13 18:20
菊のカーテン。
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「ゲスの勘繰り」という評があったが、私の評はちょっと違う。
よくぞ、菊のカーテンに包まれた情報のみからここまで書いてくださった。
どの発言がどの時点でなされたかは、時系列に並べられていて追跡が容易になっている。
できうることをやった結果がこれなら、それはそれで仕方ないんじゃないか。
完成度は、お世辞にも高いとはいえない。
しかし、対象に寄り添おうとする姿勢は、まさに精神科医ならでは。
そこは汲んでもいいんじゃないか。
紙の本若者の法則
2019/06/25 21:21
コラム風。
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読後感はまったく異なるのだが、読み始めた時には中村雄二郎『術語集』を思い出した。おそらくはキーワードに基づいて一定の文字数で香山氏自身の見解を説明しようとする姿勢が似ているのだろう。さすがに二十年近く昔の新書だから、記述や見解にも随分古びたところがある。詰めが甘い記述もある。それでもこの本を推すのは、何とかして若い世代を理解したいという思いと、あくまで香山氏自身の周囲の事象から話を説き起こしたいという基本スタンスがずれていないからだ。時代は移った。今、再びこの様な本を出してくださることを願う。
紙の本燃える平原
2019/06/22 10:06
こすっからい魅力
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メキシコを舞台とした作品が続くんだけれど、いわゆる聖人君子やヒーローといった人物は登場せず、こすっからい小悪党や、そんな小悪党に翻弄される市井の人々ばかりが登場する。暴力と死が全編を彩るが、血生臭い感じは不思議にせず、乾いた筆致が延々と続く。西部劇や、近代兵器が登場する前の戦争が好きな人なら、けっこう楽しんで読めるだろう。
紙の本科学的な適職 4021の研究データが導き出す 最高の職業の選び方
2021/01/15 21:44
謙虚な雄弁。
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冷静に読んでみたら至極真っ当なことを記しているのだが、裏を返せば世の中の就職・転職本がいかにぞんざいな出来なのかということになってくる。まったく、世の中には商売っ気の強い者が多い。それを言うならこの著者も同じだろう、ということになるのだが、この本はひと味違う。安易に描かれた分析本の数々を、論拠を挙げながら批判し、信頼できる分析法を紹介している。それさえしない本の多い中で、この姿勢は貴重だ。思いこみなどから自由になれる、数少ない分析本だ。
2021/04/25 07:05
BLですか?
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松野志保の過去の歌集は「BL短歌」という括りで語られることが多かった。今回もその色彩は皆無ではないのだが(実際にその内容が詠まれている歌もある)、バックグラウンドに影を潜め、非常に流麗な、そして時にトリッキーな短歌が大半を占める。あとがきを読めば解かるが、松野も、BL短歌のみで括られるのには抵抗を覚えている様だ。残念に思われる読者もいるだろうが、松野がBLと完全に訣別したわけでもないし、軸足の位置を少し動かしただけの話だと思うから、温かな目で見守ろうかと思う。腕前は確実に上がっている。そこをまず評価すべきだろう。
2019/06/13 16:25
20世紀ラテンアメリカ短篇選(岩波文庫)
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選がいいのか、元の短篇集のクオリティーが高いのか、どうもよく分からないが、私は全ての作品を面白く読むことができた。共通しているのは流麗な文体で、流れに乗ればすんなりと結末まで読むことができる。逆に言えば、修辞の多い文体に慣れていない人にはとっつきにくいかもしれない。
2021/06/08 21:48
悪運の強さ。
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とでも言うしかない、種々の出来事が立て続けに起きる、作中主体(この場合、作者と半ば同化しているようだが)の境遇に引きつけられる。穂村弘が「高度な無力感」と帯文で記しているが、そうとでも言うしかない出来事の数々に、引き込まれることは間違いない。注意深く読んでいると、作中主体がけっこう天邪鬼的な性格であるのに気付かざるをえなくなってくる。Aに行けと言われてBに向かう類の人であると、定義されている。そりゃトラブルの数々に見舞われるわけだ。ただ、歌集中の短歌には、読み手の認識の変化を促そうとする歌も多くある。この歌集中では地味だが、切れ味は鋭い。そうした歌に支えられて、この性格付けが活きているということを指摘しておきたい。
紙の本未来のサイズ
2020/10/29 07:44
落ち着いて読める。
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『サラダ記念日』をわくわくしながら読んだのは、いったい何年前になるだろうか。あの時は新しい世代の短歌とはこういうものかと思いながら読んだものだ。内容が恋愛だったから、高校生にも読みやすかったし。俵万智の歌集は欠かさず読んでいるが、今回の歌集は非常に落ち着いて読めた。人の親となり、年齢を重ねて、心境が『サラダ記念日』の頃と較べると格段に落ち着いているのだろう。個人的には未知数の可能性を秘めた若手の短歌が好きなのだが、円熟味を増してきた作品を読むのも悪くはない。子どもも成長し、とりあえずは距離を置いて見ていられる年頃になってきたのだろう。子どもの恋愛を見守る作品を、いずれは詠むことになるのだろうか。楽しみだ。
紙の本毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集
2023/11/26 08:05
ほむほむとの違い。
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いきなり大きなタイトルにしてしまったが、おそらくは理解されにくさ故に、両者が並び称せられる時代があった。簡単枡野短歌は、一見解かりやすい。難しい言葉を使わない為に、一読した限りではそう思わせるのだ。しかし、何首も(何度も)読んでいると、どうもそんなに単純なものではないぞと、思わされるのだ。時を追う毎に増えていくのだが、暴力への衝動めいたものが見られる様に感じられるのだ。私はこれらの作品群が詠まれた背景を知らない。しかし、それらの暗い衝動を意図的に省いている穂村弘の短歌よりは、読み手をふるいにかける度合いが、逆に強い。簡単かもしれないが、内実は分かりやすくはなく、軽やかだが深みがある。凡人は己が美点のみを見せようとする。しかし、枡野は己が全てをさらけ出そうとする。だからこそ、多くの人が隠そうとする暴力性が見えるのだ。それは諸刃の剣で、美点であると同時に大きな欠点ともなり得る。ただ、それがあるからこそ、枡野の短歌は輝くのだ。暴力性への衝動は、実は万人に存在する。多くの人はそれを隠すが、枡野はそれをさらけ出して向き合おうとする。露悪的なのではなく、己が感情に正直なのだ。それは大きな強みだ。枡野にはそれを失ってほしくはないし、失えば魅力の半ば以上は減じてしまうだろう。是非とも無冠の帝王であってほしいと思う。それが枡野の強みとなるならば、ね。
紙の本長い旅の途上
2019/07/17 05:41
ミクロとマクロ。
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『旅をする木』から読み継いだ。一貫して流れているのは、足元の名も知らぬ花に目を留めるミクロな視点と、広大な山河を俯瞰してゆくマクロな視点が混在していることだ。それは空間のみではなく、時間にも共通している。アメリカ大陸にモンゴロイドが入ってきたのはいつ頃かという巨視的な視点と、仲間や取材の対象が見せる人間臭さを楽しんで受け入れる心とが混在している。本当に早すぎる死が惜しまれる。
紙の本君がいない夜のごはん
2019/06/15 18:08
「君がいない夜のごはん」(文春文庫)
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食についてのエッセイといえば、食の原体験や美味い店巡りが相場なのだが、この本にはそういった要素がまったく出てこない。初句に関する考察が主になるのだが、その感覚が、どうも普通の人とはずれているのだ。それでも充分に読ませるし面白いから、結局は読んでしまう。不思議な本です。
紙の本失われた足跡
2024/03/15 22:54
白鯨か?
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最初は読むのが苦痛で仕方なかった。全然ストーリーが進む様子を見せないからね。それでも、10ページ、20ページと我慢して読むにしたがって、中盤ぐらいからようやく面白くなってきた。この本は、『白鯨』や『魔の山』と同じく、後半にようやく山場がやって来るタイプの小説だ。今は230ページを過ぎた辺りだが、ようやく筆致と舞台のすり合わせができてきた。原生林やインディオの描写はのびのびとしている。ようやくお膳立てが整いそうだ。