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ひでさんのレビュー一覧

投稿者:ひで

47 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本上海香炉の謎

2001/10/12 06:12

本格ミステリ入門作

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 太田忠司の作品は、どのシリーズをとっても、比較的重いテーマを潜ませているものが多い。それに対し、本作を開始作として始まる霞田兄弟を主人公としたシリーズは、軽い感覚の本格作品として仕上げられている。その意味では、本格の入門作として読みたい作品といえるかも知れない。

 作家・霞田志郎を訪ねてきたファンの女子高生・水沢美智子の相談は、失踪した姉の捜索だった。妹と共にこの事件へと乗り出した志郎は、美智子に招かれ彼女の家を訪れる。その夜、客として招かれていた女性タレントが何者かに殺される。志郎は失踪事件と共に、殺人事件の捜査もまた始めることになる。だが、そんな彼らを待つ第二の事件。果たしてこれらの事件の真相とは何か。

 本作は、謎とその解明に至る過程、そしてその結末と、非常に分かりやすく、シンプルな作品である。故に、がちがちの本格といったものを嗜好する人にとっては不満が残る部分があるかも知れない。ただ、謎を無駄にこねくり回し、読者を煙に巻くようなあざとさとはほど遠く、文章の読みやすさと相まって、気軽に読める作品であることも事実である。

 また、キャラクター造形も本格入門作として、有効といえるかも知れない。探偵役は、新進作家の霞田志郎であるが、常人には掴みきれない性格と謎解きに対するときの直感等、名探偵としての存在は面白いものがある。また、ワトソン役の妹は、謎に対し論理的に望み、間違った方向へと読者を導こうとする役どころであるが、これもまた分かりやすい造形といえる。

 それと共に、ショートショート出身の作家らしく、随所に遊び心を潜ませているのもまた本作の面白い点である。この呼吸の取り方は見事であり、故に作品が緊張感を失わず、また飽きることなくのめり込むことができるようになっている。そんな要素を併せ持った本作は、ミステリ入門作として、色々な楽しさを味わせてくれる作品といえる。

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紙の本血と骨

2001/03/31 23:31

凄まじい人間の圧倒的な生き様

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 梁石日氏の作品には、朝鮮人で大阪在住(出身)といった人物が、主人公であるものが多い。初期作品では、エンターテインメント性よりも、朝鮮と日本、朝鮮人と日本人といった側面からのメッセージ性が前面に押し出されていた。最近の作風は、同じような形態はとりつつも、エンターテインメントの枠内でどこまでメッセージ性を打ち出せるかに挑戦している様な気がする。

 さて、本作は98年の作品であるが、どちらかといえば文学的指向が強い作品といえる。ストーリーは戦前の大阪から始まる。この地に多く居を構える在日朝鮮人の人々。その中に蒲鉾職人として働く金俊平がいた。彼は恵まれた体格と自分勝手な性格で皆から恐れられていた。そんなある日、仲間の一人が入れ込む遊女に出会った金は、同じくその女へと入れ込み、身請けを決意する。だが、女は直後にそのまま彼の前より消え、彼は荒れ狂う。

 と、あらすじだけを書いていくと、非常に長くなってしまう。なぜならば本作はこの金を主人公に、彼の人生遍歴を延々と書きつづっていくものだからである。彼は、酒に酔うと乱暴を働き、その攻撃は止むことはない。何度となく警察に捕まり、刑務所へと送られ、家族には愛想を尽かされる。何人もの女の間を渡り歩き、何人もの子供を作りながらも、どこまでも自分中心で、どこまでも自分以外の人間を信用しようとしない。

 なぜ、彼はそこまで悲しい存在でいられるのか。そう思ったとき、彼に忍び寄る老いの存在。自分の体だけを信用してきた人間が一気に地獄の底へとたたき込まれる。時は太平洋戦争を通り過ぎ、現代へと近づいてくる。そして彼の選ぶ道とは。

 彼にどこまでも迷惑をかけられていく奥さんや子供。そんな人間へと自らの感情を重ね合わせるが、結局のところ、彼らだけでなく主人公本人がもっとも悲しい存在であったことに気づくラストは、人の人生とは何かといった、人種や民族といったものを超えた普遍的な疑問を改めて考えさせてくれる。非常に長大で、エンターテインメント性は低い作品だが、一度読んでみることをお奨めしたい。

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紙の本彼は残業だったので

2001/01/19 04:45

島田荘司推薦の意味がここに

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 島田荘司という作家の存在は、日本のミステリ界にあって重要な位置を占める。その功績は、本格ミステリ低迷期にあってなお、本格ものにこだわりを見せ、同時にトラベルもの、社会派などとの融合をみせた作家としての力量にある。氏の生み出した探偵、御手洗潔が名探偵過多の時代である今なお人気を誇っているのも、その力量を証明していると言える。

 そして、氏の功績のもう一つの側面が、新人の発掘にある。綾辻行人を始めとする新本格第一世代の活躍の背景には常に氏の存在があった。その後、新本格が定着し、本格ものが最盛期を迎えている昨今、再び氏の推薦によってデビューした新人は数多い。もちろんそれぞれの作家がこれから延びていくかは未だ不明だが、氏が往年の江戸川乱歩を初めとする大作家と肩を並べることができるかどうかは、これら新人の活躍に期するところがある。

 さて、本作の著者、松尾詩朗もまた氏の推薦でデビューした一人である。この作品は、日本ミステリー文学大賞の最終選考作であるが、結果として同賞の受賞を逃し、氏の推薦により日の目を見ることになった。この理由には、本作が、『占星術殺人事件』へのオマージュであることもそうであろう。そして、同時に『占星術…』に近づこうとする、雰囲気作り、謎の不可思議さと様々な面で、本格ものとして注目すべき作品あることもまた事実である。

 プログラマーの中井は、会社に不満を持つ日々を送る中で、妖しげな呪術の本を見つける。ある日、不注意で会社に閉じこめられた中井は、社員の野村と佐藤に呪いをかける。数日後、彼ら二人はアパートの一室で死体となって発見される。しかもその死体は、焼けこげバラバラにされ、体の関節を木片でつながれたおかしな姿だった。カメラマンの北原は、知人から妹の失踪事件の調査を頼まれる。そしてその事件の調査を進める内、彼はおかしな殺人事件へと突き当たる。彼の掴んだ真相とは何か。

 何とも楽しませてくれる作品である。特にバラバラ殺人の不可思議さは、さすがに『占星術…』を意識しただけのことはある。文章、展開等不備がないことはないが、そのトリックの大きさ、さらには作家の熱意など、面白がり、同時に感じ入る部分は少なくない。そしてこういった作家を発掘し続ける、島田荘司の眼もまた面白いと言える。これからも「島田荘司推薦」の文字は、良くも悪くも我々読者を期待させずにはおかないだろう。

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明るい獄門島?

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 20世紀最後の新本格派新人を謳い文句にデビューした氏の第二作目となる本作。いかにもな本格ミステリを目指し、前作では館ものを、そして本作では孤島ものを扱っている。ミステリファンの熱い期待と同時に、失敗したときには大きな批判と失望の声を受けることになるこれらの設定。そこをあえて選んだ氏は自信があるのか、はたまた只のミステリマニアなのか。

 古い因習により支配された八丈島沖の月島と竹取島。開かずの扉研究会一行は由井の友人の誘いで島を訪れる。そこでは代替わりのための儀式の最中。そして起こる連続殺人事件。次々と殺される継承者と侵入者たち。島の利権と宝を巡る殺人事件に探偵後動はどう立ち向かうのか。

 竹取伝説を踏み台に都会から遠く離れた古い因習に支配された島での殺人劇。横溝版獄門島をたたき台に、新たに霧舎版獄門島を構築しようとしたようである。ただし雰囲気自体は全くの別物。その結果雰囲気は何だか明るささえ漂う。

 内容自体はがちがちの本格ものを目指している割には、何だか青春ミステリの匂いがするのは氏の作品の不思議なところである。このあたりは柔らかさと硬さが妙な絡み合いを見せる文章と、アニメのキャラクターのような研究会の面々の持つ特性が影響しているのだろう。しかし、昔の高校生のような恋愛の展開だけは何とかならないものかと思う。もっともこのあたりも計算尽くなのかもしれないが。

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紙の本耳すます部屋

2000/10/20 23:46

折原的世界観を味わえる一冊

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 短編にこそ作家の本質や才能が現れるという。もちろんこの説には賛否両論だろうが、短い中で読者をあっと言わせ楽しませる作品を作れる作家は、確かに長編もすばらしいものが多いように感じる。本作の作者折原一氏もまたそんな作家の一人ではないだろうか。

 氏の短編集には『七つの棺』がある。この作品は密室殺人をテーマにした連作短編集で氏のデビュー作でもある。氏はその後叙述トリックの第一人者としての地位を不動のものとする長編を多く発表している。そして本作はデビュー作とは違い、本当に短い間に読者も詩の世界へと引き吊り込む作品にあふれている。氏の長編を読んでしつこいとか、読みにくいと感じた読者もいると思う。たしかにしつこいまでのどんでん返しや伏線の張り巡らし方は、きちんと読まないと分からなくなることも多い。

 その点本作ではたった一言でどんでん返しを食らわせ、いつの間にやらひっくり返されていると言ったミステリならではの騙される快感に浸ることができる。そういった意味では綾辻行人氏の短編集『どんどん橋、落ちた』にも共通点はあるかもしれない。また同時に氏の最近の作風と同じくモダンホラー的な怖さも存在する。特に『異人たちの館』の作中作でもある怪談話を納めた「肝だめし」「Mの犯罪」にはその色が濃い。

 また人間の恐怖を描いたと言えば「耳すます部屋」や「眠れない夜のために」が上げられる。両者とも何気ない生活に潜む悪意やそこから生みだされる暴走を扱い恐怖をあおる。ともかく本作にはデビュー以来の氏の作品の変遷が読みとれる。氏の作品を未読の方は特に、本作を読めば氏の魅力が十分に味わって貰えると思う。もちろん既読の方にも充分お楽しみ頂ける作品であることは言うまでもない。

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紙の本Unknown

2000/10/18 23:27

妙に落ち着いた新人の筆運びを楽しもう

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 第13回メフィスト賞を受賞した殊能将之氏の『ハサミ男』は、同賞始まって以来とも言える高い評価を受けた。これまで森博嗣氏や清涼院流水氏といった先達を輩出してきた同賞の魅力は、何が飛び出るか分からない、ともすればはずれか当たりかどちらかしかないといったところにあった。その意味では従来の考えに囚われない作品を生み出してきたと言える。そしてまた本作もそんなメフィスト賞の名に恥じない作品となっている。

 自衛隊のレーダー基地。厳重な警備と電子ロックに守られた隊長室の電話から盗聴器が見つかった。進入不可能なはずの密室の謎に、防衛部調査班の朝香二尉と補佐役の野上三曹が調査を始める。各部隊の調査から始まり、丁寧に操作は進んでいく。いつ、だれが、なぜ、どのようにして盗聴器を仕掛けたのか。朝香二尉が導き出した真相とは。

 本作は一見文章の流れもよどみが無く、展開も綺麗でコンパクトにまとめられた印象を受ける。いわば優等生的な作品であるとも言える本作は、従来のメフィスト賞受賞作と同様なものを期待した読者には不満が残るかもしれない。しかし、本作はそのコンパクトさとは裏腹に重いテーマを背負っている。

 その存在を否定され続ける自衛隊とそれでもなお国の平和のために職務を全うしようとする自衛隊員。その難しい状態を外部の人間が全く入ってこない、基地という場所で自衛隊員の主人公により語らせる。そこには日本人が無視し続けてきた重いテーマが存在する。それでいながら本作では、登場人物の軽い口調がその重さを感じさせない。

 密室トリックという実にミステリ的な展開と、自衛隊とそこにいる隊員たちの日常と葛藤。その両者が見事にマッチした本作は、メフィスト賞そのものの評価を高める作品になるかもしれない。

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紙の本DZ

2000/10/16 23:43

科学とミステリの完全なる融合

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 昔、恐竜が生き残って進化したらどうなるのかという想像図を見たことがある。2本足で立ち、頭が大きくなった恐竜人間だった。人間は進化したらどうなるのだろうか。やっぱり頭脳が大きくなって、今とは違う形態になるのだろうか。本作は人間の進化を取り扱ったミステリである。

 アメリカで起こった殺人事件。しかしそこにはいるはずだった少年の姿がなかった。捜査を進める刑事だったが何も分からぬまま事件は迷宮入りする。研究所では、グエンに命じられた石橋は遺伝子を使い実験を行う。だがその実験の内容もよく分からぬまま彼は殺される。石橋の恋人、涼子は精神病院で沙耶という名の少女に出会い彼女の治療を始める。バラバラに思えた様々な事件。すべてがこの病院で一つに混ざり合い、真実が明らかになる。

 本作は、2作同時受賞となった第20回横溝正史賞作品の一つである。昨年の同賞は井上尚登氏の『T.R.Y.』が受賞し、新人離れした筆運びと内容が話題を呼んだ。それに対して、本作の文章運びは決してうまいとは言えない。しかし、その点を差し引いても本作は十分に面白い作品である。専門知識をちりばめながらも、情報小説化した他の作品とは一線を画し、サスペンスとミステリ的趣向に重点を置いている。

 読者はその多くが素人である。その中でかなり難しいテーマを扱い、エンターテインメントに仕上げる力は見事である。殺人事件に、遺伝子操作。何の繋がりもないように見える様々な事象が、結末に向け一気に収束する。事件は解決したかと思わせて、その後に待つどんでん返しは本格ミステリの匂いがする。科学とミステリの融合はそれほど珍しいことではないが、ただの専門知識の披露になることもさほど珍しくはない。その中でミステリを十分に意識してかかれた本作はやっぱり見事である。ともかくも次作には期待のできる作家である。

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紙の本プリズム

2000/10/19 23:10

真実はどこにあるのだろうか?

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 世の中のすべては、見る人によってその姿を全く違う物へと変化させることができる。特に、音楽、絵画、文学等の芸術と呼ばれるものは、見る人の主観的な判断によるところが多いため、その評価は千差万別となる。どんな偉大な芸術であっても、人によってはくず同然の価値しか与えないだろう。そして人間もまた人によってその評価は大きく変わる。本作ではそんな人間世界を描いた作品である。

 小学校教師の美津子が、自宅の部屋で殺された。死因は、部屋にあった時計による殴打と見られた。現場はガラス切りで鍵を開けられ侵入された痕跡が残っていた。しかし彼女の体内からは睡眠薬が検出され、現場にあったチョコレートからも同じ睡眠薬が検出された。チョコは同じ学校に勤める男性教師から送られたものだった。この事件をクラスの子どもたち、同僚の女性教諭、昔の恋人、そして子どもの親がそれぞれ自分の立場で推理し、真実を突き止めていく。この事件の意味するところとは何か。そしてどれが本当の真実なのか。

 プリズム。本作の表題である。本作ではこの言葉に二つの意味を与えている。その第一が、本作では事件の真実が解明されない点である。次々に登場する人物たちはそれぞれ自分の持つ側面から事件を推理していく。だがそこに作者は答えを出さない。小説中の世界では、作者が描いた真実がそのまま真実となる。どんなに根拠が、論理が崩壊しようとも、作者がこれだといえばそれが真実である。麻耶雄嵩氏は、自作の探偵であるメルカトルに銘探偵という称号を与えている。銘の意味するところは、作者の安全保証である。ここから先には何もない、これが真である、そういう安全保証である。だが本作ではそれはない。プリズムで分解した光を再び収束させることがないように。

 そしてまたプリズムの意味するところは、被害者である美津子であり、そこに関わる人間たちである。事件はそれを推理する者たちによって、プリズムによって7色へと分けられた光のように様々な側面を見せる。そしてそこに関わる者たちも、主観が変わった途端にそれまで見えなかった様々な側面を見せる。そしてそれらの中心である被害者。彼女の存在は、天真爛漫で光り輝き、それを見る人を魅了する。同時に彼女の周りを囲む人たちを、様々な側面に分解していく。どちらの面から見てもプリズムとは彼女の存在そのものを意味している。

 透明で見ることのできない光が、プリズムを通すことで7色へとその姿をあらわにする。本作では事件を通すことでその本性を明らかにしていく人間そのものを描いた作品と言える。真実が明かされないことに不満を抱く人もいるかと思う。だが、現実を極めようとすれば、真実、虚構が渦巻くこんな世界こそ真実そのものである。

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紙の本少年名探偵虹北恭助の冒険

2002/04/18 02:16

大人向けジュブナイルの魅力がここに

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本作は、新本格作品の先鞭をとり、現在のミステリ界にあって確固たる立場を確立した講談社ノベルスへの氏の初進出作品となる。そんなレーベルの志向する本格作品の一つとして、本作は刊行された。しかし、氏は、あえてスタイルを崩さず、ここでもジュブナイル作品を持ってきている。ここには、これまで自分が築いてきたスタイルが、本当に大人にも通用するかを試しているようにも感じられる。その答えは、この作品を読んで、決めてもらいたい。

本作は、駄菓子屋に持ち込まれる穴あき菓子の謎を解く「虹北ミステリ商店街」、心霊写真騒ぎとその解決を巡る「心霊写真」、商店街に突如現れたペンキの足跡と飾り物、そして深夜に目撃された足跡の正体を探る「透明人間」、願い事を叶えてくれる幽霊ビルディングを巡る「祈願成就」、雷雨の中目撃された鬼とその正体を巡る「卒業記念」の5作品が収められた連作短編集である。

氏は、小学校の教師として、多くの子どもを見てきた。本作に登場する探偵役、虹北恭助は、古本屋の店主として学校へはほとんどいかない。しかし、それを教師も周りの子どもたちも何も言わず、彼を認めている。学校という組織の中では、突出する存在を認めず、それが故に、いじめ等の様々な問題を生んでいる。ここに描かれている世界には、氏の教師としての理想像が描かれているのかも知れない。そしてまた、こういった作品を大人向けの媒体において執筆したのは、そのメッセージを感じて欲しい大人にこそ読んでもらいたいといった、そんな願いが込められている、というのは考えすぎであろうか。

さて、江戸川乱歩や横溝正史といった探偵小説の大家は、多くのジュブナイル作品を輩出している。両者共に、現在でも多くの読者に支持されているのと同時に、その作品を通し、未だ新たな読者を開拓し続けている。氏は、本作のあとがきの中で、現在活躍する作家がジュブナイル作品に真剣に取り組めばという、そんな希望を書いている。最近、ティーンズ向けの文庫では、ミステリが多く見かけられるようになってきた。これは、そんな氏の希望が、世に認められてきた証なのであろうか。ともあれ、本当に真剣に作家が取り組めば、活字離れなどはきっと過去のものとなるだろう。本作は、そんな希望を込めた作品でもある。

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紙の本3000年の密室

2001/10/12 06:09

3000年分の衝撃

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 考古学とは、その時代に生きた人々の生活を、発見された遺物から類推し明らかにしていくという、ある意味でミステリとの共通点を感じることの出来る学問である。こんな部分にロマンを感じ、考古学の世界へと入っていった研究者も多いのだろうが、実際この世界に入ってみれば、大きな発見もなかなかできず、どろどろとした人間関係もありと、幻想だけでは生きられない世界であるのも事実であろう。実際、先日起こったアマチュア研究家の自作自演の発掘などは、これを証明する良い例だろう。本作は、そんな考古学の世界の両面を取り入れた本格作品である。

 長野山中の洞窟で発見された縄文人のミイラ。ミイラの背中には、石斧が刺さり、また右腕も失われていた。だが、ミイラの発見された洞窟は内側から石が積まれ密室状態となっていた。これに興味をもった女性研究者は、3000年前の殺人事件の調査を始める。そんな状況とは別に、考古学界ではこのミイラの新発見による論争がまきおこる。その最中、ミイラの発見者の一人が失踪し、死体となって発見される。二つの事件の真相とは何か。

 歴史をゲーム感覚でとらえ、そこに現代の事件をリンクさせるというミステリの形式は、氏を初めとした多くの若手作家によって、一つのジャンルとして確立されつつある。これらの作家に共通するのは、歴史に因習や怨念などの暗い側面を求めるのではなく、あくまでミステリ的な興味を引き立てる題材として扱っている点にある。

 そのために、必要な情報は出来るだけ平易な言葉で、なおかつ分かりやすく語られ、初めてその世界に触れる読者も、他の読者と同じ立場で作品を楽しむことが出来るように工夫されている。本作もまた、考古学という珍しい舞台を設定しながらも、その世界に容易に入り込むことができるようになっている。

 それと同時に、本作からはあくまで本格たらんとする意気込みが感じられる。考古学の側面に魅力を感じた人にとっては、作中の現代の事件は蛇足と思えるかも知れない。しかし、これがあってこそ、過去の事件もまた生き、本格ミステリとしても完成しているのだと言える。というよりも、考古学という昔の人々の生活を探る学問の世界を舞台にしているからこそ、過去現代の両者に共通して起こってしまう殺人事件が、人間の変わらぬ心情をある意味で克明に浮かび上がらせることに成功しているのだとも言える。

 ともかくも3000年前の殺人事件の真相は、圧倒的な破壊力をもって迫ってくる。デビュー作とは思えない筆力と、無駄のない情報の提出にとって構成された本作は、一読の価値がある作品である。

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有栖川作品が初めての方にどうぞ

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 本作はシリーズ探偵もの以外の短編、ショートショートを集めた作品集である。往々にして本格作家は短編がうまいという印象がある。特にショートショートなどは、その短すぎる文章の中でどう読者を騙してくれるのか、それが成功しているときは、かなり嬉しいものがある。本作に収められた作品群もまたどう読者を騙そうかという試みに満ちている。

 さて、有栖川氏の魅力は、そのキャラクター造形をもさることながら、線が細く一種女性的とも思えるその文章にある。往々にして氏のファンには女性が多いことも頷ける点である。その反面、クイーンへの思いを強く作品に打ち出しているところがミステリファンには受けるのだろう。本作では、『ジュリエットの悲鳴』という題名に加え、その内容の叙情的で女性的な雰囲気と、そこに加えて表紙もまた雰囲気を出している。そして同時に内容のミステリ度の高さという両者の雰囲気を見事に組み合わせている。

 とはいえ本作はあとがきで氏が述懐するように、バラエティに満ちたごった煮の作品集である。そんな作品の中でお薦めは「登竜門が多すぎる」。新人賞を目指す作家志望の青年のもとを訪れる妙なセールスマンの話である。すべてミステリを書くために必要なパロディチック商品の数々。そのネーミングセンスと内容のおもしろさはかなり見事である。裏有栖川作品のNO.1とでも言いたくなる作品である。

 他にも作家の夢に出て様々な小説の内容を明示してくれるという「パテオ」では何となく氏の願望のようなものが見える。また表題作「ジュリエットの悲鳴」は、ロックシンガーのCDに紛れ込んだ悲鳴の謎を叙情的に描き出している。ともかく本作は有栖川有栖の魅力が様々な面から詰め込まれた作品集と言える。氏の作品を未読の方にも、氏の作品を好きな方にも、この作品集はお薦めである。

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はやみねかおるを知るのに最適な一冊

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何故かどんな学校にあっても、七不思議というのは存在するものである。その多くは、階段が増えたり、トイレに花子さんがいたりと、どこかで聞いたことがあるものが多く、よくよく数えてみると七個以上あったりして、今考えると面白いものがある。しかし、七不思議は、不思議な怖さと魅力を持って、子どもたちの間に広がっていた。本作は、そんな七不思議に題材をとった魅力的な作品である。

たった6人の子どもたちしかいない村の小学校、大奥村小学校は、一学期をもって廃校になることが決まった。そんな子どもたちを前に、校長先生は学校に伝わる七不思議を話し出す。骸骨標本が踊り、大岩が歩き出し、絵の中の少女が一人増え、階段は減る等々。そして、再び学校を訪れる子どもたちの前で、本当に七不思議が発生する。その真相を探り始める子どもたち。そして花火大会の日、明らかになったその真相とは何か。

本作には、二つの魅力がある。一点は、もちろん、本格作品としての面白さである。本作には、「読者への挑戦状」が挿入されている。ミステリ好きには、おなじみであると同時に、作品の魅力を高めてくれる要素でもある。一方で、つまらない結末が待っていたときの失望は倍増するものであり、作者にとっては使いどころを誤れば、その作品を台無しにしてしまう危険をも秘めている。もちろん、本作にはおいては、そんな心配は要らない。「読者への挑戦状」は、作者の自信を裏書きするように、その後の面白さを倍増させてくれている。

もう一点は、結末に待つ真相の爽やかさである。氏の作品では、殺人事件等、子どもたちにとって陰惨で悪い影響を与えそうな部分を排除している。と同時に、その結末は必ずハッピーエンディングに仕立て上げており、安心して読むことができる。それは、大人が読んでもわざとらしさや無理がなく、作品の雰囲気にマッチしており、作中にしかけられた謎が、この結末によってよりひきたてられる相乗効果を産んでいる。本作においても、その結末の後に待つ掌編が、より作品をひきたてており、安心感すら受けることができる。本作には、そんな氏の作品の持つ両者の魅力が詰まっている。まずは読んで欲しい作品である。

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紙の本消える総生島

2002/04/18 02:14

卓越したプロットを楽しめるジュブナイルミステリ

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長大化するミステリ界にあって、氏の書くようなジュブナイルだけは、その性格上、長大化することが難しい。作者は、無駄な描写を削り、本格作品としての魅力だけを描き出すという、苦労を強いられることになる。これは、一歩間違えれば、簡単に謎が解けてしまいミステリとしての魅力を失うことに通ずる。だが、氏の作品では、その両者を見事に並立させている。本作は、無駄な描写の多い作品が増えてきている中で、こういった作品も確立しうることを、見せつけられる作品である。

亜衣、真衣、美衣の三姉妹に映画出演の話が決まり、三姉妹は、名探偵夢水清志郎と共に、ロケ地の総生島へと向かう。だが、到着と同時に船が爆破し、彼女たちは島に取り残された。島にある館に泊まる彼女たちだったが、目の前で次々と奇妙な事件が起こり、奇怪なメッセージが残される。人が消え、山が消え、島が消え、そして館が消える。そして明かされる真相とは。

はやみねかおる氏が、その人気を不動のものとしたのが、一連の夢水清志郎シリーズであろう。この作品群は、名探偵を自称する夢水清志郎と、隣に住む三姉妹とが次々と起こる難事件に挑むというシリーズであるが、児童向けの文庫に収録されながらも、その作品は、大人の鑑賞に耐えうる魅力を持っている。特に、殺人事件等の陰惨な部分を作品から排除しながらも、本格作品としての魅力を失っておらず、この点ではいわゆる日常の謎派に類する作品の一つといえるかも知れない。

本作は、そんな夢水清志郎シリーズ、三番目の作品である。本作は、このシリーズの中でももっとも大がかりで、魅力ある作品といえる。本作の中核を占めるトリックは、様々なところで指摘されているように前例がある。しかし前例があるから、その作品は駄目かといえばそうではない。ミステリにおいては、新しいトリックを生み出すことがその魅力であるのはもちろんであるが、生み出されたトリックをアレンジし、その見せ方を創出するすることもその魅力の一つとなる。本作は、卓越したプロットと、その結末の見せ方によって、それを再確認できる魅力的な作品である。

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紙の本超・殺人事件 推理作家の苦悩

2001/10/12 06:13

こだわりと笑いと

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 東野圭吾は、非常に器用な作家である。だが、同時にある意味では、非常に不器用な作家といえるのかも知れない。氏の最大のこだわりは「ミステリ」作家たろうとする点にある。その結果、テーマによっては、結末での謎解きといった側面にこだわることで、ミステリ好き以外の読者層には失望を与えることもあるのではないだろうか。

 だが、ミステリファンにとっては、頼もしい作家であるといえる。本格だけでなく、細分化された様々なミステリのジャンルにおいて名作を持ち、作品自体は確実にある一定ラインを超えた作品を発表し続ける。そして、どうあってもミステリへとこだわり続ける。本作には、そんな「ミステリ」作家・東野圭吾による、強烈な皮肉の込められた短編集である。

 本作には、8編の短編が収められている。「超理系殺人事件」では、理系人間へのこだわりを見せる読者が、必死で難しい理系知識の込められた作品を読み続ける話を、「超高齢化社会殺人事件」では、高齢となり妙な作品ばかりを持ってくる作家と編集者の話を描く。また「超長編小説殺人事件」では3000枚の大長編を依頼された作家とそれを売る編集者の苦悩を、「超読書機械殺人事件」では作品を要約し書評まで書いてくれる機械を巡る物語を描く。

 東野作品には、『毒笑小説』や『怪笑小説』といったシニカルな笑いを誘う作品がある。本作もその趣向で構成され、最近のミステリ界の様々な事象をデフォルメし、皮肉ることで、笑いへとつなげている。確かに最近のミステリ界、出版界は一種異様な状況にある。大長編が連発され、理系ミステリが妙に増え、更には異常な数の作品が出版される中で作品を選ぶことさえ難しい読者が、大々的に宣伝されるそういった作品をありがたがる。

 こういった悪循環とも思える状況を構成する、作家、編集者、読者、書評家という4面から作品は構成されている。もちろんミステリ的なオチはきちんとつけているので、面白がっていると見事にひっくり返されるという点は、さすがにこだわりを見せる作家である。本作を読み終わると「日本推理作家協会、除名覚悟」などと書かれた帯もまた非常に皮肉で、笑いを誘ってくれる。

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紙の本僕の殺人

2001/10/12 06:11

アイデンティティ探索の秀作

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 アイデンティティの喪失と獲得というテーマは、ミステリ作品において、非常に重要な位置を占める題材である。自分探しは、他のジャンルにおいても充分に応用の効くテーマだが、謎とその解明を根本とするミステリにあってこそ、最も生きるテーマである。そして、それは本作において如実に証明されている。

 僕・山本裕司は、5歳の時、信州の別荘で両親を失った。そして僕は叔父に引き取られ、叔母と従兄弟の泉と共に暮らしている。母は密室と化した部屋で首を吊り、父は階段から転落した。しかし、僕にはそのときの記憶が一切ない。そんな僕の前に現れた男、小林。彼は、事件の真実を探るべく、僕の前に姿を現したという。そして僕は彼に誘われるがままに、事件の真相を探り始めた。

 冒頭、主人公は犠牲者、加害者、探偵、証人、トリック、そして記録者の一人六役を演じることが語られる。これは、非常に大胆な設定であり、作品の構成を間違えれば、ただのパズルにしか成り得ない設定である。しかし、本作では、緻密な描写と、計算され尽くした伏線等により、論理的破綻もなくスムーズに解決へと導いている。これは、二年という歳月をかけ考え抜かれた構成の勝利であるといえる。

 更に、本作では、そこに青春ミステリ的側面を加えることにも成功している。中学生という子供と大人の境界線上にある少年を主人公とし、その心の微妙な動きを一人称による語り口により鮮やかに描いている。叔父との関係にある葛藤、従兄弟の少女への淡い恋心、そして自身の存在への疑問。こういったものが謎解きの合間に巧く入り込み、謎を盛り上げると同時に、作品の小説的完成度を高めている。

 また、本作の中軸である自分探し。「君はいったい誰なんだ?」という言葉から始まるこの旅は、結末に来て予想外の重みを持って読者に迫る。一人称による著述、張り巡らされた謎、そして謎の解明。これらすべてがあるからこそ、結末は圧倒的な重みを持って読者の心に響く。そして、この部分こそ、ミステリがアイデンティティ探索の物語として、適したジャンルであることの証明に他ならない。

 本作は作家・太田忠司のデビュー作でもある。そのためか、文章には少しばかり稚拙さも見られる。だがそれが逆に、自己を見失った主人公の心の不安定さを伝えてくれているかのようである。本作は、そんな様々な要素が見事に合致した秀作である。

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