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  3. くろねこさんのレビュー一覧

くろねこさんのレビュー一覧

投稿者:くろねこ

85 件中 16 件~ 30 件を表示

紙の本

紙の本スキップ

2002/06/30 08:30

たった1晩で飛び越えてしまった25年。そこから成長していくヒロインの物語。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

17歳の高校生の高校生だった真理子は、なんと、一晩眠って起きたら、
42歳になっていた!
しかも、結婚していて、ゆうべの自分と同じ年齢の娘がいる?
なんてこと!
17歳から42歳という、人生の花も実もある時間を、たった1晩眠った
だけで飛び越えてしまうなんて、理性のたががふっとぶような事件。
東野圭吾の『秘密』の、逆バージョンのような設定ですね。

でも、せめてもの真理子の救いは、「娘」の美也子と「夫」の桜木が、
とてもいい人であるということ。
なんと言っても、真理子の主観では、前の日まで高校生だったと言っても、
端から見れば真理子の時間はごくごく普通につながっているんですから。
真理子の言うことは、ものすごく奇妙で、妻が母がおかしくなったとしか
思えないはず。ある日突然、「自分は昨日まで高校生だった」
なんて言い張るんですから。
戸惑いながら、そして、それを信じているのではないにしても、そんな突拍子もない
主張をする真理子をそのまま受け入れようとする。
これって、すごいことですよね。
相手のありのままを受け入れるって、なかなかできるものじゃないと思う。
ましてや、真理子の主張を信じれば、美也子や桜木には自分の存在をある意味、
否定されているようなものなのですから。
でも、彼らは根気強く真理子に付合っていく。
その姿勢を見て、涙が出るほど嬉しかった。
だって、そんなことになって、1番心細いのは、真理子なんですから。
それを支える人たちが家族であって、とても嬉しかったのです。
そして、ああ、一ノ瀬真理子は、その25年間を、とても素敵に生きてきたのだと
いうことも、とても嬉しかった。

そして、その25年を失ったことが夢でもなんでもないのなら、いつか、
本物の?桜木真理子が自分の時代に帰ってきたときのために、そして、何よりも
自分自身のために、真理子は、しっかりと、地に根をはって与えられた世界で
生きようとし始める。その1歩を踏み出すのに、どれほどの勇気がいったことでしょう。
だけど、そういう姿勢が、真理子の周りの人たちの真理子への接し方に、とてもよく
似合っていて、「桜木真理子」は間違いなく「一ノ瀬真理子」の延長線上にいるのだと
いうことが、無理なく信じられました。

それから、嬉しいのは、まるで、自分の高校時代を追体験するかのように、そこに
描かれた高校生という年代を感じることができたのが、ものすごく懐かしくも
切ない気持ちにさせてくれました。

とても爽やかな読後感の1冊です。

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紙の本

紙の本修羅の終わり

2002/06/30 08:16

誰もが心に抱える修羅が浮き彫りに…

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人の心って、恐ろしい修羅を抱えていたりするのですね。
それが、警察権力を持った人間だと、よけいに恐ろしい。

鷲尾のように、ある意味分かりやすい修羅を持った男より、
久我のように、一見まともに見えてという男の方が、
実は恐ろしい気がします。
彼は、公安警察の花形とも言うべき「桜」の訓練を受けます。
まっすぐで、自分の信じるところを疑わない久我。
正義感に燃える男。
けれども、その正義感が、自分の信じる正義しか見なくなる時、
それは、恐ろしい凶器<狂気>となってしまうのです。
同室の男へ向ける敵愾心。
久我の様に一途すぎる男は、<桜>には向いていないのです。
世の中に矛盾があることも、「正義」だけが全てでないことも
清濁併せ呑むことのできる度量、それが必要。
というか、それがないと、久我の様に、どんどん、どんどん、
壊れて行ってしまうのです。
彼は、<桜>になるには、一途で真面目すぎました。
職務であるスパイ確保が、それをさらに加速させてしまいます。
相手をモノとみなすことができなければ、
そんな職務を果たすなんて無理なのです。
だから、彼は、どんどん…

一方、もっとも分かりやすい形で警察官の暗部を
体現しているのが鷲尾という男。
自分が<黒>と信じた被疑者には、どんな卑劣な扱いをも辞さない。
それが、たとえ、女性であっても。
証拠や、証言よりも、自分の直感を恃むところの大きい男。
彼は、それが順調に働いている間は、さぞかし優秀な成績を
あげていたのでしょう。
でも、自らの判断に誤りがある可能性を考慮に入れない刑事なんて、
これほど恐ろしい存在もないと言えるのではないでしょうか。
やがて、それは、鷲尾自身をとんでもない場所に追い込んで…

そして、もう1人。
記憶を失った若い男。
自分が誰かも、なぜ、そうしているのかも分からない。
空白という闇を抱えてしまった青年。
自分が何者で、どこに行けばいいのかも分からないなんて、
どれほどあやうく頼りない気持ちがするのでしょう。
彼を救ってくれたのは、智恵子という若い女性。
彼女は、なぜか、どこか、<母>のイメージを持っています。
あるいは、<海>
穏やかに、静かに相手を受け止めるような。
だから、隣の部屋の留美子さんも、親しくしているのでしょう。
彼の<自分探し>。
少しずつ、見えて来る過去。
でも、なんてあやふやな…。


この3人の道が、どこで、どう交差してくるのか。
どんなふうに3つの道が収斂されてくるのか。
アクロバティックな、やられた!と呻くようなラストを
期待していたのですが、ある意味、終わりは平凡かも…
ただ、そこに至るまでの道が、空気の重たさが
圧倒的に心に残りました。

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紙の本

紙の本十三番目の人格 Isola

2002/06/30 08:14

人の心の弱さと悲しさ。それを乗り越える強さを彼女が持っていてほしい

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

香里は、人の感情を読み取る能力を持っている。
それを活かして阪神大震災の被災者の心のケアをするボランティアを
していた彼女は、多重人格障害と思われる少女と出会う。

人の心が見えてしまうというのは、便利なこともあるでしょうが、むしろ、
重荷になることが多いのではないでしょうか。
由香里にとっても、それは、ある意味、背負わされた十字架のようなものでした。
それを、その重荷を少しでも軽くするために、その力をボランティアとして
活かす道を選んだのです。

そして出会った千尋という少女。
人の心を読むことができる由香里だけが、彼女の中に、複数の人格が同居している
ことに気付きます。
次第に打解けるにつれ、その症状を把握して行く由香里。
決して、1人の力ではできないことです。
力になってくれるのは、主に、千尋の通う学校の臨床心理士野村浩子。
少女を引き取って育てている親戚が当てにならない以上、頼れるのは、
ほとんど彼女だけと言ってもいい状態です。

そう、多重人格障害の、多くの原因の例にもれず、千尋の場合も、
家庭に大きな問題を抱えていたのです。
苛酷な状況から自分の心を守るために、別の人格を生み出してしまう。
その、それぞれの人格の、名前に隠されたもの。
切実な、訴えかけるような思い。

調査を進める由香里が目にするのは、恐ろしい事実。
千尋の中にある、恐ろしい13番目の人格の磯良。
その、悪意、あるいは敵意そのものとも言うべき存在が、肉体を離れて
動き出してしまう。
そして、その存在が近付いてきたときに、それを感じてしまう恐ろしさ。

けれども、もっと恐ろしかったのは、その磯良の正体。
どこから彼女が生れてきたのかということ。
ああ…

そして、そのことが、どこに、どんな影響を及ぼしたかということ。
じんわりと、じっくりと背筋が寒くなってきます。
このときほど、由香里は、自分の能力をなかったことにしたいと思ったことは
なかったのではないでしょう。
彼女は、それと、向き合う勇気を取り戻すことができるのだろうか…。

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紙の本

紙の本朱色の研究

2002/06/24 01:03

禍々しい朱の色が読んだ事件?

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

夕焼けって、不思議。
見る時の気分によって、果てしなく美しいものにも、
途方もなく禍々しいものにも見えてしまう。
あの、赤。
どこまでも真っ赤な赤。
美しいと感じる時ですら、それは、心を和ませる
美しさではなく、何か、胸騒ぎのようなものを
あるいは息苦しいような何かを感じさせる美しさ。

その「赤」が、「朱色」が、事件の引金になったとしても、
なんら不思議ではないような感じ。

夕焼けのお告げのせいで事件に巻き込まれることになった、
大学の助教授の火村。
大学で犯罪社会学を教えながら、フィールドワークと称して
警察の捜査に関わって事件を解決する探偵。
心に深い傷を負って、どこか不安定な名探偵。
捜査の過程で関係者と話していても、なんだか、
アンバランスなところがあって、気に掛かります。
もっとも、推理作家で、事件の際には助手をつとめる
友人の有栖川有栖は、ちょっと心配性なのでは?
って印象はぬぐえないですけど。
とは言え、この2人の掛け合いは、なんともお見事。
ワトソン役にしては、一面、保護者めいた役割を
自認しているところが、ちょっとユニーク。

今回の事件、冒頭、朱美が火村に捜査を依頼するところから始まって、
終始、夕焼けの赤に彩られた印象があります。
火村・有栖川コンビが、謎の電話で事件に引き入れられるのは早朝、
関係者が集まって、事件の話をするのも、夜のことなのに。
それだけ、夕焼けの赤が、心に強く残っているということでしょうね。

現在、2年前、5年前。
3つの事件をつなぐ糸は?
赤い色で結ばれた3つの事件。

こういう雰囲気の作品って、すごく好きです。
もっとも、犯人の動機が、いまひとつ、ぴんとこないものでは
ありましたけど…。
でも、探偵火村の今後を、ぜひ、読んでみたいものです。

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紙の本

紙の本死の谷から来た女

2002/06/24 01:01

シンデレラ・ストーリーの裏にあるもの

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

四国の実家でやっていた鉱山の事故の後、1人、生き残って東京に出てきた恵。
サウナの洗身メイトをやって地道に暮らす彼女にふってわいたような
シンデレラ・ストーリー。
莫大な資産を持つ、天涯孤独な老人相庭の養女?
ただ、娘らしく接するだけで、80億の資産が転がり込んでくるなんて。
恵でなくても、夢のような申し出にぼーっとなりながらも、
うますぎる話に不安になるものですね。
そんな恵を後押ししたのが、恋人の俵。
結婚を約束した恋人が、大金持になるなんて、めったにない幸運ですものね。

不安になりながらも、次々に見せられる相庭の地位の証拠に、疑っている
自分の方がどうかしていると思わされていきます。
それとは別に、恵自身にも何か秘密がありそうな気配。
いったい、誰が、なんのために、誰を騙そうとしているのか。
そして、彼らが訪れたちょうどその時、恵の故郷で起こった殺人事件は、
何かそれと関わりがあるのか?

不安。希望。恐れ。疑惑。
胸に渦巻く様々な感情に翻弄される恵。
でも、それでも、80億の財産に抗うのは、並大抵のことじゃないですよね。
それも、杞憂に違いないと思いながらのわずかな不安なんですから。
自分を騙しても、誰にも得にならないとなればなおさらのこと。

だから、ばかげた不安なんて一蹴して、幸せになるはずだったのに。
過去の影に怯える女には、そういう幸せも、許されないのでしょうか。
いいえ、そんなはずはありません。
恵が、強く、それを乗り越えることができさえすれば。
そして、彼女には、それができるはず。
だって、彼女は1人ではないのですから。
温かく見守る人が、いるのですから。
だから、「死の谷」は、彼女を2度と脅かしたりはしないでしょう。

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紙の本

紙の本死の蔵書

2002/06/24 01:00

希少価値のある本が死を招いてしまう…。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

私には、古本を投機的に見る習慣はないので、アメリカで、あんなふうに、
古本に、ここまで高い値がつくというのは、驚きでした。
そう、それは、殺人の動機になるほど。
希少価値のある本の、ましてや初版で美品だと、ものすごい高価なのですね。

となると、そういう本を、できるだけ安価に発掘して高く売るという商売が
成り立つのも納得です。

そして、その事件の捜査に当るのが、クリフ。
彼と、恋人のキャロルとの関係は、微妙なバランスで、事件とは別の、この
2人の関係もとても気がかりでした。特に、2人の関係を他人にひた隠しに
されることで、彼女がとても傷付いているだろうことに、心が痛みました。

そして、宿命のライバルというか、天敵のジャッキー・ニュートン。
クリフの一人称で書かれているせいもあるでしょうが、この男、ものすごく
凶悪で、しかも、やりかたがなんとも巧妙。
いやな男です。

そういう、仕事とも私生活ともつかない関係をベースに、クリフは、捜査を
進めるうちに、本に関わるいろいろな人と出会います。
ほとんどが、価値ある、そしてうずもれた古本を発掘してはぼろ儲けをたくらむ
商売人なんですが、その、本に対する知識は、さすが、半端じゃないです。
もちろん、それが商売なんですけれども、その中にも、「本」に対する愛情が
感じられて、いい感じでした。

そして、ちょっと胸にしみる事件の真相。
これも、やはり「本が呼んだ殺人」なのでしょうか…。
いいえ、本にはなんの罪もないのですよね。
すべては、本が、本ではなく、他のものに見えてしまう人間が
いるせいなのでしょう。

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紙の本

紙の本蜃気楼の彼方

2002/06/24 00:48

再会尽くしの章

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

イシュトバーンとナリスの再会には、ものすごい緊張感があり
ました。あの状態で、イシュトを落ち着かせられるとは、ナリ
すの弁舌は、やはり空恐ろしいですね。
そして、イシュトと、グイン、リンダとの再会。
変わってしまった彼らの立場。
彼らがあんな形で再会するなんて、なんて運命なのでしょう。
それにしても、グインのもつ帝王としての風格。
生まれながらの帝王としか思えません。
そして、おてんば娘から立派な王妃になったリンダ。
この2人の将来からも目が離せません。

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紙の本

紙の本死国

2002/06/24 00:25

死者を呼ぶ逆さうちが、恐怖を呼ぶ

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

四国八十八ヶ所を、死者の年齢の数だけ逆に巡ることで死者を甦らせる
ことができるとする逆打ち。
死んだ者を思う気持ちの深さが、そんな伝説を生んだのでしょうが、
悲しいですね。
ましてや、親が、死んだ子を思って、ひたすら霊場を反対に巡る姿。
悲しく、そして鬼気迫るものがあります。

そうはいっても、通常、本当に、我が子が黄泉の国から戻ってくると
信じてそうする人間はいないでしょう。
先に逝った我が子をあきらめきれない思いを断ち切るための儀式として、
そういう伝説が存在するのではないでしょうか。

けれど、それが、「本当に」死の国の扉を開いてしまったとしたら…。

幼くしてこの世を去った莎代里。
その母親の妄執が、彼女を、この世に呼び戻したのです。
そして、それは、矢狗村の伝説をもこの世に実現させ…。

20年ぶりに故郷である矢狗村に帰った比奈子は、初恋の人文也との
再会の喜びもつかのま、そんな恐ろしい伝説に巻き込まれるのです。
「親友」であった莎代里の死の知らせだけでもショックだというのに。

この世、この「生者」の世界にあって、「死者」は、異質なものであり、
それゆえに、生者にとっては超常現象と見える力を持ってしまう。
それは、やはり、お互いにとって不幸なことでしょう。
だから、死者は、この世に留まるべきではないのでしょう。
この世から、そこにある己の肉体から魂が離れ、
別の世界に行くことが死であるとするなら、
すでに死を迎えたものが、この世に留まってはいけないのでしょう。
たとえ、それほど、この世にやり残したことや、心残りがあったとしても。

けれど、年齢の故でなく、自らになんの責めもなく、命を断ち切られた者の
口惜しさ、この世への未練を、誰に責めることができるでしょう。
残して行く者、この先に待っていたであろう輝かしい未来。
それをあきらめろなんて、なんて残酷なこと。
でも、だからこそ、その無念さをこの世に受け入れてしまっては、
この世は、負のエネルギーに満ち溢れてしまうではないかという
矛盾した感情。

文也をはさんだ比奈子と莎代里の2つの想い。
莎代里は、もう、新しく恋をすることのない身。
それだけに、文也をこの手にという想いは、哀しくも激しい。
比奈子。
傷心を抱えて戻った故郷で、心安らげる初恋の人との再会。
やっとたどりついた故郷を手放したくなんかない。

どちらが強く心を打つかというと、莎代里なのです。
分かっています。
莎代里は死んでいて、そこにいいてはいけない存在。
でも…、!
あの日、はかなく消えた夢を、今、この手にと思うことが、
どうして許されないのか。

どうか、莎代里が、あるべき世界で幸せになりますようにと
願わずにはいられません。

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紙の本

紙の本散歩道

2002/06/24 00:23

ブラックなばかりがショートショートではない

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

赤川氏が、公認ファンクラブの会報に書き下ろしていた
ショートショートを1冊にまとめたもの。
ショートショートって、なんとなく、ブラックな味わいを
思い浮かべてしまうのですが、そればっかりが
ショートショートではないんですよね。

特に、第一部の「ラブストーリーはショートショートで」は、
いかにも赤川氏らしい、ほんわかした、温かい恋愛模様が
綴られていて、心がほっこり暖かくなる感じ。
冒頭の「指揮者に恋した少女」こそ、ちょっと切なくて
悲しくなってしまいましたが、その後は、もう、
赤川節全開といった感じ。

第二部の「OLもビジネスマンもミステリー」は、
一転、ぞっとする物語も混じっています。
働くって、理不尽なこともいっぱいあって、
やってられないよなぁ、ってことも多いのを、
会社員経験のある氏はよく知っているのでしょうね。
でも、それでも、暖かい作品も入っているのが、
赤川氏ならではですね。

第三部「あなたの日常にある“人生の鍵”」
これも、ちょっとぞくっとする作品が多いかも…。
でも、ショート・ミステリになっている
「熱すぎたおしぼり」での、ウェイトレスの機転は素敵。
そして、「消えた」の不思議な味わいも捨て難い。

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紙の本

紙の本三月は深き紅の淵を

2002/06/20 23:44

謎の本にまつわる4つの謎の物語

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作者不明、たった200冊しか作られず、それも、
大部分は作者の代理人によって回収されたとされる自費出版の本。
『三月は深き紅の淵を』。
この、1冊の本をめぐる4つの物語。

もう、この設定からして、素晴らしく魅力的、そして魅惑的。
恩田陸というこの作者の本は初めて読みましたが、
初めて読むのがこの作品というのは、とてもラッキーでした。

第1章から、もう、夢中なってしまいました。
友人が持っていたはずのその本を、膨大な書庫の中から、
謎のメッセージを解いて探し出そうとする老人達。
彼らが巧一を招待したその目的は?
なんとも、富豪というのは酔狂なことを、という感じなのですが、
この4人の老人が、とっても魅力的。
ちょっと風変わりではありますが、本をとても好きなのですね。
彼らの会話からそれがびしばし伝わってきて、分かる、分かる!って。
それに、その中の1人が連れている犬の名前ときたら!
なんて、なんて、まぁ(笑)
そして、4人が変る代わる説明する『三月は深き紅の淵を』のアウトライン。
もう、これを聞いただけで、この作品を読みたくてたまらなくなりました。
それを、そのままこの本のタイトルにしているところに、
きっと、なんらかのトリックがあるのだろうなと思いつつ、
そんなことよりも、その、読む人を片っ端からとりこにするその本を、
とにかく、読んでみたくてたまらなくなったのです。

彼らに出された「宿題」を解こうと、必死に頭を働かせる巧一。
そして、なんらかの答えを呈示しては、次々ひっくり返されて(^^;
でも、最後に巧一が見せた驚くべき冴え。
そうそう、こうでなくっちゃ!
4つの章の中で、この章が、とにかく1番好き。面白かった。
もちろん、他の章が好きでないというわけではありません。

第2章は、夜行列車で旅する2人の編集者の物語。
彼女たちの目的も、また、『三月は深き紅の淵を』を探す旅。
列車の個室の中で、酒盛りをしながら(!)繰広げられる2人の、
作者が誰かという推理合戦の面白さ。
推理って、そのどこかの段階で、ぽんっと何かを飛び越える瞬間が
大切なのかもしれません。
隆子に、そのジャンプのきっかけを与えてくれたものが、2人を
夜行列車に乗せたのです。
そして、旅路の果てに目にしたものは…。
隆子と朱音の掛け合いがスリリングで楽しい章でした。

第3章は、いったい、どこで『三月は深き紅の淵を』とつながるのか、
最後の最後まで謎でした(私の察しが悪いのだろうな〜)。
冒頭で起こる2人の少女の死。
彼女たちの周囲の人々の、その死への様々な思惑で話は進むのですが、
どこにも、『三月は深き紅の淵を』が見当たらないのです。
2人の死の謎。
そして、『三月は深き紅の淵を』の謎。
2人の少女の関係に、目が離せませんでした。

そして、最後の章。
これだけは、私は、ちょっと馴染めませんでした。
こういう形式って苦手なのです。
語られる、とある学校の物語、それ自体は、その雰囲気は、私の好みです。
けれど、1番の山場で、いろんなパーツがここに収束してくるはずの、
この章にはまれなかったのは、残念でなりません。
もちろん、この最後の章こそ全てのカナメであるのでしょうが、
私にとっては、3章までを連作短編にしてくれた方がよかったかも。

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紙の本

紙の本淋しい狩人

2002/06/20 23:41

老人と少年のコンビが活き活きと活躍する宮部ワールドの本領発揮

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

宮部みゆきは、本当にキャラがみんな活き活きしていて好き。
小さな古本屋の主イワさんこと岩永幸吉氏と、その孫高校生の稔。
で、この稔、なんだか、高校生なのに、なんとなく、10歳ぐらいみたいな印象。
なんだか、やんちゃなところが、そんな感じに見せているのですね。
それが、宮部みゆきの作品の魅力なのですよね。
おじいちゃん(イワさん)を、いいように冷やかしては、ひっぱたかれる前に
ひょっと逃げてしまうところなんて、ほんと、きかないぼんずそのもの(笑)
で、それを、この2人が実に楽しそうにやっているのがまた素敵。

それに、あんまり出てきませんが、稔の両親(イワさんの息子とそのお嫁さん)の
スタンスもすごくいいんですよね。
学校の勉強の他にも、大事なことがいっぱいあることを分かっていて、
だから、おじいちゃんのところで、息子が店番の手伝いをするのを見守っている。
それから、たとえば、書初め。
学校で出た宿題に、PTAから反対の嵐があったときの、この2人のせりふ。
そして、「お茶漬け」
これには大爆笑(^O^)
いいわぁ、こういうお母さんに育てられたから、
稔も、そんなにいい子に育ったのだわ。

そんな古本屋「田辺書店」にやってくる様々な事件たち。
殺伐としていたり、どこかほのぼのしていたり。
メインのエピソードではないのですが、冒頭のとある「本」のお話。
その男性には悪いのですが、笑っちゃいました。

1番、そんな田辺書店にふさわしくないのは、最後の「寂しい狩人」だと思います。
あまりにもあんまりな犯人像は、いかにも現代的といってしまえばそれまで。
でも、何か、彼らが出会う事件にはそういうのはあってほしくない気がしてしまって。

ほのぼの路線では、「黙って逝った」なんて、なかなか好きです。
ついにやりとしてしまって。

どの作品も、目を見張るようなトリックがあるわけではありません。
でも、それ以上に気をそらさないストーリー・テリングがあるのですね。
人の心の機微を知っているイワさんだからこそ気づくあれやこれや。
そして、年齢的に知識の少ない目新しいところを孫の稔が補って行く。
すごくいいコンビ。

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紙の本

紙の本殺人症候群

2002/06/20 23:37

エンタテイメントの中に刑罰とは?の深いテーマを織り込んだ秀作

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「症候群」シリーズの3作目。
今回の、環チームのミッションは、一見、関連のなさそうな、
事故として処理された事件の関連性の調査。
共通点は1つ。
それらの事件の被害者が、「未成年」であり、かつて、
殺人を犯しながら、未成年であるがゆえに軽微な懲罰で
社会に復帰していること。

刑罰って、難しいですね。
いったん、罪を犯したら、2度と社会に復帰させたくないなんて、
思いません。でも、でも、未成年であるという一点のみで、
ろくに罪をつぐなわず、本当に更生したかもあまり問題に
されないのでは、被害者の遺族の気持ちはどうなるのでしょう。
個人的な復讐を認めていては、社会の秩序は守られない。
だから、それを禁じる一方で、公的な刑罰というものが存在している。
刑罰には、そういう趣旨だって含まれているはず。
なのに、凶悪犯罪の加害者が、未成年であるというだけで、
たかだか1年ぐらいの少年院で社会に出てきて、
以前と同じような、それどころか、もっと凶悪な行動を
続けているとしたら?
それを知ってしまったら、被害者の遺族は、どれほどやりきれない、
情けない思いをすることか。
ましてや、未成年ということで、加害者は氏名さえ公表されないのに、
被害者の名前は公表され、容赦ない世間の目にさらされる。
なぜ、そんなことが許されるのでしょう。

だからと言って、そういう加害者たちを、自らの手で処刑する、
私刑が許されるとは、言い切れません。
そういう行動に出てしまう、被害者側の気持ちも分かります。
だけど、「こいつは生きる価値がないから殺してやる」
という発想で誰かを殺すなら、その判断は、誰がするのでしょう。
その判断をした時から、その人は、正義ではなくなってしまう。
だんだん、「殺していい」という判断を簡単に下すように
なってしまう。恐ろしいこと。

だから、そんな思いをする被害者が、少しでもなくなるように、
刑の応報性は、もっと、厳格であるべきで、少年だからという
一点でもってのみ、犯罪者を甘やかすようなことは
なくなってほしい。

この作品に登場する、もう1人の殺人者。
和子。彼女の殺人は、息子の生命を救うため。
息子に心臓移植を受けさせるため、
ドナーになりそうな「標的」を手にかける。
母の愛。
でも、ゆがんでる。
恐ろしく、ゆがんでる。
分かるけれど、分かるけれど…、
悲しい、とても悲しい。

彼女の職業が看護婦で、仕事においては、
限りない愛情を患者に注いでいるから、
なおのこと。

未成年ゆえに、刑を免れた連中を、「処理」する職業殺人者。
息子に心臓移植を受けさせるために殺人を繰り返す和子。

職業殺人者を追う環チーム。
和子の起こした事故に見せ掛けた事件を追う刑事。
違う事件を追う彼らの道が、どう交差するのか?

今回に限り、環チームから抜けた倉持の真意は?
やがて明らかになる、彼の悲しい過去。
『失踪症候群』でも出てきた坊やちゃんが、また登場したのは
なんとなく嬉しかったかも。

職業殺人者となった、響子と渉の心も悲しい。
彼らの心が救われることを願ったのに。

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紙の本

紙の本殺人詩篇

2002/06/20 23:35

妻を亡くした大学教授が、親友の殺人事件の謎に巻き込まれていく素人探偵もの。懐かしの探偵小説。

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なぜ、死んだリンクは、大学の図書館から持ち出した稀少本を手にしていたのか。
彼がクリフに残したメッセージにこめられた意味は?

主人公のクリフ・ダンバーは、ベトナム帰りでケンカにはめっぽう強い。
ひょんなことから知合ったモナと組んで事件を追うスタイルは、
どこかアガサ・クリスティを思わせますが、クリスティの作品に、
こんなに強い探偵は出てこないか(笑)
でも、パートナーの女性、モナに振り回されるところは、クリスティ
お得意のカップル探偵と似ているかも。

ピカ1の校正者で、才気煥発なモナ。
決して「美人」というのではなさそうですが、内面からくる輝きが、
彼女をとても魅力的に見せてくれます。

それから、リンクの同僚であった司書のアキラ・ヨネナカ。
この日本人の青年が、とても好青年。
本が好きで、仕事にプライドと情熱を持っていて。
作者が、日本人をこんな風に好意的に描いてくれているのって、
なんだか嬉しいものです。

それから、証言を求めてクリフが訪れた1人の老婦人ゴルディナ。
彼女は、クリスティの世界に出てくる噂話の好きな、ちょっと辛辣な
老婦人のイメージ。
なんてチャーミングなレディ。

事件を追うクリフは、ある男が寄贈した1冊の本が大きなポイントに
なっているのではと疑い始めます。
この本が、本物ではないとリンクが疑っていた形跡があるのです。
そして、徐々に明らかになっていく様々な過去。
ところが、そんなクリフにも、真犯人の魔の手が忍び寄り…。

舞台を現代に置きながら、懐かしの探偵小説の趣き。
なんとも嬉しい1冊でした。

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紙の本

心に残る、美しくて悲しい物語

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可愛い絵と、平易な文で綴られた優しくて、
美しくて悲しい物語。
絵本なんてって言えない。
だって、それは、<本物>なんだもの。

大切な家族を失ったおかあさんザウルス。
ある時見つけた肉食恐竜のたまご。
おかあさんザウルスが、そのたまごを育てることにしたのは
失ったものの代わり?
それとも、そのたまごを食料としか見ないトガリネズミへの対抗心?

そんなことは、どうでもいいのです。
おかあさんザウルスの、生まれてきたティランへの愛情は、
なにものにも代え難い本物なのだから。

心優しいおかあさんに育てられて、
心優しい恐竜に育ったティラン。
親子って、血のつながりなんかじゃない。
2人は、本当の親子。

おかあさんザウルスの最後の願い。
優しいね。
悲しいね。

雪は、優しいね。
冷たいけれど、でも、優しいね。
おかあさん、ティラン。
もう、2人の邪魔をするものは誰もいない。

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紙の本

紙の本コフィン・ダンサー

2002/06/20 23:31

『ボーン・コレクター』に続く、リンカーン・ライム・シリーズ第2弾

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今回、リンカーンとアメリアが追うのは、棺の前で女と踊る死神を刺青した男。
「コフィン・ダンサー」という殺し屋。
狙った獲物は決して逃さない。
たった1度だけ逃げられたそのターゲットが見たのが、その刺青。

リンカーンが依頼されたのは、ダンサーを見つけ出し、現在のターゲットである
ある事件の目撃者を守ること。ダンサーを捕まえないと、ターゲットの安全は
確保できないのです。それだけ、ダンサーが手強いということ。彼らが証言する
ときまでにダンサーは目的を遂げようとするはず。タイムリミットは、約2日。

物語は、ライムの側と、彼が守ろうとするパーシーたちを狙う男の側と、
交互に描かれます。その男、スティーブンは、潔癖症の神経症という感じで、
サイコ的な殺し屋。ちょっとステロタイプなほど。窓から自分を監視する「顔」を
極端に意識したり、自分を追うリンカーンを「蛆虫の王」として忌避したり。
そして、どうやら兵役時のトラウマや、父親との葛藤が原因と思われる幻聴。
不気味な男。
でも、殺し屋としては、おそろしく優秀。
陽動作戦で警察の目を逸らし、目的を達する。
なによりおぞましいのは、相手の自分への好意を利用すること。
そして、その死をも利用し尽くすことを当然と思っていること。
冷蔵庫に、なんて、あんなやり方、酷すぎます。

一方、追うリンカーン。
あいかわらず、微細な証拠物件から相手の情報を得ることに長けています。
でも、前回と違うのは、アメリアを危険なところに送ることへの躊躇いがあること。
ダンサーの捜査員への攻撃でかつて部下をなくしたことが深い傷になっているようです。
そして、だからこそ、自分の手でダンサーを捕らえようという執念。
こんなときこそ、自らの手で現場に出たいでしょうに、
彼に動かせるのは、ほんの指1本。
その代わりに、アメリアを送り込み、彼女を危険にさらすことへの恐れ。
前作での冷徹なリンカーンとは別人のようでした。

そんなリンカーンの微妙な変化は、アメリアにも伝わります。
パーシーへの嫉妬という形をとって。
リンカーンが、事件のために彼女と2人で話をした後の2人の雰囲気を見て、
いっそう、その気持ちは募ります。
しかも、リンカーンがそれを理解できないために、彼女の懊悩は、留まるところを
知りません。おまけに、スティーブンとの銃撃での結果についての自責の念。
真面目過ぎるのでしょうね。
そんな思いが爆発して、暴挙ともいえる行動に彼女を狩り立ててしまいます…。
彼女が好きなだけに、見てて、痛いものがありました。

やがて、リンカーンたちの前に、徐々に明らかになってくるダンサーの正体。
その過去。
やられました。
さすが、ディーヴァーです。

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