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PATAさんのレビュー一覧

投稿者:PATA

28 件中 1 件~ 15 件を表示

感覚を共有できない人にはちょっと…

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書は、「日本において我々の生活圏を包む日常景観がなぜこれほどまで奇妙で醜いものになっているのか(207頁)」について書かれた本です。特に、「日常景観を汚して省みない日本社会がどのようなものであるのかを描くこと(223頁)」を目的に、日本社会と景観の関係について、(1)郊外景観、(2)神戸市の景観、(3)真鶴町の「美の条例」、(4)電線地中化問題、という4つの問題を取り挙げて書かれています。
 本書で書かれている4つの事例は、それぞれに街ごとで問題だとされていたり、法的な解釈によって景観が「失われた」か否かが分かれるところです。筆者は「清潔で新しくはあっても秩序のないことにかけてこれほどまで突出している景観を持つ国は、世界に類を見ないと感じている(10頁)」というスタンスをとっていますが、評者をはじめとして、本当に日本では景観が失われているのだろうかと疑問をもつ読者にとっては、本書は筆者の思い込みの激しさを感じてしまう書物になってしまうでしょう。
 本書では、基本的なスタンスは一貫していますし、4つの事例をもちいて明確な主張を様々な観点から論じているという点で、納得的な側面をもっています。しかしながら、問題が「美」に関わることだけに、そもそもの前提である「日本の景観が醜くなっている」という思いを抱くか否かによって、本書の評価は真っ二つに分かれてしまうのではないでしょうか。

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経営戦略論の入門書として

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 本書は顧客に商品やサービスをうまく提供し、顧客に価値を届けるための仕組みである「事業システム」についてまとめられた本です。本書の基本的なスタンスは、「競争のなかで生き残るためには、部分的に競争のない状態をつくらなければならない。その基本的な手段が差別化である(20頁)」という認識のもと、その差別化が2つのレベルで行われると考えているところにあります。この2つのレベルの差別化とは、(1)個々の商品やサービスのレベルでの差別化、(2)事業の仕組みの差別化、という2つです。このうち後者の差別化は、目立たず分かりにくいにもかかわらず、模倣が困難であり、競争優位が持続的に作用するという特徴を持っていると論じています。
 では、このような事業の仕組み(=事業システム)はどのようにして構築されるのでしょうか。それは、「どのような顧客に」「どのような価値を提供しようとするのか」ということに関する決定である事業コンセプトをもとに、分業の構造、インセンティブのシステム、情報、モノ、お金の流れの設計を行うことで構築されていきます。そして、このようにして構築された事業システムの中でも、最近成功を収めている事業システムには共通した特徴があると主張されています。それらの特徴を概観した結果、筆者は最近の新しい事業システムが「規模の経済に代わって、スピードの経済、組み合わせの経済、集中特化と外部化の経済というシステム設計のアイデアが重要な意味をもち始めている(214頁)」と指摘しています。
 本書は豊富な事例を交えながら、1つ1つの概念を丁寧に説明しており、専門書というりはむしろ大学2〜3回生の方向けの入門書として良書だと思いました。
 

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不思議な感覚

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 本書は、「(1)ポストモダンではオリジナルとコピーの区別が消滅し、シュミラークルが増加するが、そのシュミラークルはどのように増加するのか?」、「(2)ポストモダンでは大きな物語が失調し、『神』や『社会』もジャンクなサブカルチャーから捏造されるほかなくなる。では、その世界で人間はどのように生きていくのか?」、という2つの問題を基軸に書かれた書物です。これらの問いに対する筆者の回答は、本書を参照して頂きたいと思いますが、筆者は本書を読んでいて非常に不思議な感覚に囚われました。 評者が感じた「不思議な感覚」とは、本書が徹底的に「オタク」を対象に書かれた書物であるのにもかかわらず、読んでいると現代社会をオタクという制限なしに議論しているように感じたことを意味しています。
 本書は、先の問題を解くために、オタクと呼ばれる人たちの消費行動を分析しています。そこにはアニメや小説、ギャルゲーと呼ばれるゲーム、パソコン(インターネット)といった、所謂サブカルチャー(というより、オタク好みするもの)を中心に議論が進められています。評者はそれらについて、一部を除いて寡聞にして知りませんでしたが、自分が全く知らないゲームソフトやアニメのことでも、本書では親切な解説を交えて分かりやすく議論してくれています。
 副題にもあるように、「オタク」を通して「日本社会」を読み解こうとする試みが、本書だけで完結したものだとは思いません。また、本書にはところどころ納得しにくい断定的な主張がちらばっていますが、本書によって日本社会を読み解く新たな道が開けたというと、言い過ぎでしょうか。

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リフレクティブ・フローという概念を理解するだけでも苦労します…

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 本書はタイトルだけを見ると何の本なのか分かりにくいですが、これ以上ないくらい理論的なマーケティングに関する書です。
 本書のタイトルであるリフレクティブ・フローとは、「情報の受け手が対象を知覚し評価する作動に即応して生起する、さまざまな再帰的な情報の流れ(175頁)」と定義されています。といっても、これだけでは何のことか分かりにくいかと思われるので、具体例を挙げますと、以下のようなものが挙げられるかと思います。
 ある消費者が就職を機に一人暮らしをはじめることを想定しましょう。彼(彼女)は不動産仲介業者が提示する複数の物件の中からAという物件を選んだとします。その時、「Aならば最寄り駅にも近いし、何といっても家賃が安い」と考えたならば、彼(彼女)は数多くの物件の中から自分が住む物件を選ぶという作業を行うと同時にその選択の基準を選んでいることになります。つまり、A,B,C…と存在する物件の中からAを選んだだけではなく、洋間か和室か、間取りの広さといった、選択肢を選ぶ基準の中から「最寄り駅までの近さ」と「家賃」という基準をも同時に選んだことになります。そして、この二重の情報処理を行うことによって、自分がAという物件を選んだことを自分自身で正当化するプロセスが循環的に形成されることになります。
 つまり、「物件を選ぶ時の基準は駅までの距離と家賃ですよ」と不動産仲介業者に提示されたのではなく、自分で選択基準まで選んだということが重要になります。そして本書では、Aを選ぶ時に自分で選んだ選択基準からAという選択肢を選んだのだと考える、この再帰的な情報の流れをリフレクティブ・フローと呼んでいます。
 では、このようなリフレクティブ・フローがマーケティングに関する書としていかに重要な概念なのかというと、それは(広義の)マーケティング・コミュニケーションに関する議論だからだといえます。つまり、企業が消費者に何らかの情報を提供するときに重視しなくてはならない消費者の情報処理の流れを定式化したという点で、本書はマーケティングを学ぶ人にとって必読の書になると思われます。

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正直ちょっと…

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 本書は、正直ちょっと分かりませんでした。というのも、筆者が「『経済と文化』を二つながら一つとみる新しい方法論」を構築し、それによって日本資本主義の展開をとらえようとしたことには理解が及ぶのですが、特に第二部で展開された議論に十分理解が及びませんでした。
 本書第二部では、上記の方法論の説明を行っているのですが、そこでは今西綿司の自然学を射程に入れた議論がベースとなっており、それによって「経済が文化ときりはなせないこと、文化が物と不可分であるであること」を説明しています。そこで疑問なのは、今西自然学を援用することの是非です。筆者が社会科学に自然学(自然科学と言っても良いのですが)を援用することそのものに批判的だというのではなく、その援用を行う際のロジックを十分に語る必要があるのではないかということを感じました。経済と文化が切り離せないことというのは、直感的に納得がいったとしても、議論としては非常に難解なものだと思います。それだけに、本書の議論がより納得的なものになればと思います。
 また、本書がNHKブックスであるという性質上、より平易な書き方をすべきではなかったかと思います。本書で議論されていることはマルクス経済学や歴史学、あるいは自然学といった多岐にわたる議論であり、それを読者に納得的に伝えるためにも、より平易な書き方ができなかったのかと思いました。

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「企業はヒトなり」を実感させてくれる書

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 本書はアサヒビールを中心に、1987年の「スーパードライ」発売以降のビール業界各社の思惑や行動、そして競争過程を多数のインタビューをもとに再構成したものです。本書を読んで特に感じたことは、ヒトというものが企業にとっていかに重要かということです。
 本書には多数のヒトが登場します(あまりに多数いすぎて、登場人物を覚えきれないという欠点もありますが)。その方たちを大きく2つに分けるとすれば、経営者や管理者といった人々と現場の人々に分けることができるのではないでしょうか。前者は他社との競争関係や自社の今後のあり方などをどのように考えてきたのか、後者は現場でどのような困難に直面したり、どのような焦燥感にかられていたのかといったことが、本書から学ぶことができます。特に第4章で描かれている現場の方々の話は、実際に企業で働いたことがない評者でもグッとさせられるものがありました。
 ただし、評者は本書に対して以下の3つの不満を感じました。第1に、先述の通り、あまりに登場人物が多すぎることです。それは、読者として感情移入しにくくなるというだけでなく、次の問題にも関係するものです。すなわち第2に、本書は問題の焦点を絞りきれていないという欠点があるように思います。「スーパードライ」の登場以降の「ドライ戦争」を描いているかと思えば発泡酒の開発競争や国際化といった話にまで広がり、新書でこれら全てを扱うことに無理があったのではないでしょうか。第3に、データの裏付けがとれていないことが多々あったことも問題点だと思います。
 ただし、これらの評者が感じた問題点はルポライター(ジャーナリスト)としての筆者や読者にとってみれば瑣末な問題であり、大半の方々が本書で描かれている多くの人々の熱い思いに感情移入されるのではないでしょうか。
 

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小川氏による「書き分けの妙」

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 本書は理論書ではありません。このように書くと、「では、本書は一体いかなる書物なのか?」といった疑問や「理論書とそうでない書物の境界線をどこに引くのか?」といった御指摘を受けそうですが、それでも本書は理論書ではないことを強調したいと思います。
 本書は取引制度革新や営業革新、そしてそれらの土台となる組織・コミュニケーション・物流における革新という5つの革新を通して、「店舗や顧客の知識を組織全体に環流させ、活用する仕組み」であるディマンド・チェーン経営に関して、セブン‐イレブンやしまむら、ファースト・リテイリングといった近年「勝ち組み」と評される代表的な企業の豊富な資料をもとに紹介した書物です。このように書くと、やはり本書は理論書ではないかと思ってしまうのですが、本書を筆者の『イノベーションの発生論理』(千倉書房)と比較してみると、その違いが明確にみられるでしょう。
 評者はそもそも『イノベーションの発生論理』を先に読んだため、本書の理論紹介が乏しいと感じたという理由もあると思いますが、それだけではなく、本社が「何故?」という疑問よりもむしろ「どのようにして」という事例紹介に力点をおいているという点で、本書が理論書ではないと指摘したいと思います。しかしながら、このことは評者にとって筆者である小川氏の溢れんばかりの才能を感じた部分でもあります。それは、『イノベーションの発生論理』が理論と事例分析、統計分析といったツールをバランス良く利用しているのに対して、本書が事例紹介に力点を置くことによって読み易く、親しみ易い本になっているからです。インタビュー・データをご覧になればすぐ分かりますが、本書と『イノベーションの発生論理』とではデータに重複が多くみられます。それを書物の性質によって見事に書き分けた「妙」に深く学ばされました。

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紙の本子どもと学校

2002/12/17 12:10

問題児のありがたみ

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 本書は臨床心理学の大家である河合隼雄氏による教育観や学校観を数多くの事例を中心に紹介した書物です。
 本書の内容は非常に平易に書かれている一方で、我々教育者が陥ってしまいがちな誤解(曲解?)を解こうとしてくれているような気がします。特に評者が納得させられたのは、問題児に対する筆者の考え方です。少々長くなりますが、本文から引用しますと、「考えてみると、『問題』というものは、解決を求めて提示されるものであり、それを解くことによって得るところも大きいのである。…(中略)…問題児というのは、われわれに『問題』を提出してくれているのだ、と私はかつて言ったことがある(7頁)」。
 学校で授業中に騒ぐ子どもは授業に問題があると、不登校の学生は学校(あるいは社会)に問題があると、成績の悪い子どもは偏差値一辺倒の現代教育に問題があると、我々に問題を提供してくれているのかもしれません。そして、それを1つ1つ解いていくことにこそ、我々教育者の存在意義があるのかもしれません。
 本書には、筆者が直面した様々な事例が筆者の解釈とともに記されており、時には筆者の独断が強く、評者として納得いかないものもありましたが、それでもこれまでの「教える-教わる」という教育の前提を覆すのに十分示唆的なことが多く書かれていると思います。その意味で、教育に長く携わっている方や、これから教育者になられる方にお薦めの1冊です。

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主体と環境の相互作用を考えるために

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 本書はこれまで人間の脳にあると考えられてきた「意味」が実はそこだけにあるのではないということについて「アフォーダンス」という概念を中心に説明しています。アフォーダンスとは、「環境が動物に提供するもの、用意したり備えたりするもの(61-62頁)」であり、このアフォーダンスに意味が存在すると考えるのです。 人間の行為はこのアフォーダンスとの関わりの中で、その「意味」が理解されるようになっていき、それは決して事前にいかなる意味で行われるのかが明確なものではないと主張されています。本書ではミミズの穴ふさぎ、蛙の捕虫、カブトムシの起き上がりなど様々な「行為」と「アフォーダンス」の関係が紹介されています。
 では、行為が事前にいかなる意味で行われるかが判らないということが何を意味しているのかというと、それは行為が徐々にあらわにする環境の変化の中に、行為がもつ意味が理解されるということを意味しています。この発想は、行為のプランが行為に先だって脳などに存在するという従来の考え方を完全に覆すものです。
 では、本書が「アフォーダンス」を軸に展開している議論がもつ意義はどこにあるのでしょう。それは、主体と環境という二者間の相互作用を説明しているというところにあると思います。既存の認知理論では、主体と環境の関係は「先ず主体ありき」でとらえられてきたのに対し、本書が主張していることは主体にも環境にも還元できない「関係」のそのものを取扱おうとしているように思います。
 本書の試みが他の学問領域に転用可能であるのか、本書の試みがどこまで正当といえるのかは読者の判断に委ねますが、本書の発想そのものは決して否定できるものではないと思います。

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紙の本〈子ども〉のための哲学

2002/11/24 13:20

書評にならない書評ですが…

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 本書は「ぼくはなぜ存在するのか」「悪いことをしてはなぜいけないのか」という、筆者が幼少時代に抱いた2つの疑問に対してどのような考えを廻らしてきたのかについて書かれた書物です。では、その考えとは一体どのようなものであるかというと、それはここでは書くことができません。何故ならば、ある人の〈哲学〉を他人が要約することなどできないということこそが、筆者が強調して止まない点だからです。
 では、評者として本書のどこを評価するのかというと、次の2点です。第1に、本書が徹底して自分(だけ)の問題を解くために哲学を行っていることです(これこそが、先ほどのカギ括弧付きの哲学の意味です)。筆者は「こう考えよう、こうしよう、と呼びかけるタイプの言説を、ぼくは決して哲学とはみなさない(202頁)」うえに、本書を哲学の入門書でありながら、「入門すべきその門は、この本の中にはなく、あなた自身の中にある(212頁)」と述べています。これこそが、筆者が本書で最も強調したい点であり、その強調が徹底されている点は多いに評価すべきでしょう。
 第2に、これも筆者が読者に対して送りたいメッセージでありますが、「たとえ『哲学』と出会わなくても〈哲学〉をすることはできるし、それは有意義なことだが、逆に、〈哲学〉とつながらない『哲学』はまったく何の意味もない(70頁)」というメッセージに非常に共感を持ちました。大学で哲学の講義などを受講して感じることですが、「哲学概論」などを受講しても何一つ哲学なんて身につかないし、哲学史に詳しくなっても、それは歴史に関する知識以上の何も得ていないと思います。この思いが、全くそのまま筆者の考えとマッチしました。
 「哲学」ではない〈哲学〉とは何なのかを知るだけでも、本書を読む価値はあると思います。

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細部と全体の理解度の不一致が残念です

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 読後の感想としては、「よく判らない」が本音のところです。では、何が「よく判らない」のかというと、本書で行われた議論がいったいどういう意味をもつのかということが「よく判らな」かったのです。
 本書では、唯一絶対の存在ではなく他でもありえた「可能世界」について、「哲学や論理学の予備知識を持たない読者に対し、基礎となる発想から高度な応用までを網羅的に解説する(12頁)」ことを目的としています。では、その「可能世界」という概念(パラダイム?)を用いることによって何が議論・解明できるのかというと、何故私が存在するのか、何故この世界はこの世界たりえるのかという哲学的な疑問に対する解だとされています。しかし、読後に感じたことは、1つの説明にはなったとしても、その説明も他でもありえるものであり、その中から「可能世界」という説明を用いる根拠はどこにも存在しないという、非常に無限後退に陥ってしまいそうなものでした。
 本書に対して評者がもつこのようなモヤモヤした思いは、結局のところ、「可能世界」という概念を用いることの有用性が理解できなかったということにつきます。網羅的な説明を行おうとする著者の想いとは裏腹に、(評者のような)本当の初心者向けに書かれていないことが大きな原因ではないでしょうか。各章・各節で行われている細々した説明は非常に納得いくものであり、1節ごとに読後の理解度は十分にありました。それだけに、全体を通して納得(あるいは、理解)が及ばなかったのが残念でありません。

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紙の本自分のなかに歴史をよむ

2002/11/20 15:58

学問の道を進むための道標

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 本書は筆者による歴史観が簡潔にまとめられた書です。結論を先取りして言うと、筆者にとっての歴史とは、自分の内面に対応するなにかであり、自分の内奥と呼応しない歴史を筆者は理解できないと考えています。本書には、このような歴史観を抱くにいたった経緯として筆者の師匠である上原専禄氏との出会いや会話が前半に掲載されており、学問を志す者への啓蒙書の役割も果しているように思います。評者にとっては、本書の歴史学としての側面よりもむしろ、啓蒙書としての側面の方が印象深かったです。
 筆者にとっての(上原氏から指導・指摘された)学問とは、「それをやらなければ生きてゆけないテーマ」を理解することとされています。ここで、理解するということは単純に新しい知識を得ることなどではなく、「それによって自分が変わること」だとされています。評者の私見ではありますが、学問をこのようにとらえるということは、そこにしか生きる道が存在しなく、なおかつ、その道を進むにつれ自分がいかようにも変わりうる可能性を受容する者でないと学者にはなれないということなのだと思います。
 筆者にとっての「それをやらなければ生きていけないテーマ」がどのようなものであるのか、それを「理解」することによって筆者がどのように変わったのかといったことについては本書を読んで頂きたいと思いますが、本書が歴史学に限定されず、学問を志す者にとって、あるいは学問の道に入り袋小路に陥っている中堅学者などにとって必読の書であることは間違いないのではないでしょうか。

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「にぎわい」こそが都市を活性化するというのは判るが…

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 都市の再生が可能かという問いに対し、筆者は「再生はあり得ない。ただ新しい担い手さえいれば新たな都心を創造することはできる(240頁)」と答えるという。この回答の背景には、筆者による都市とは地理的・機能的に固定されたものではなく、歴史的には移動・更新されてきたのだという認識があるように思えます。本書はこのように都市を認識した上で、特にビジター(訪問者)による「にぎわい」を創り出すことこそが都市の活力に繋がると考えています。
 本書のこのような主張点は非常に納得的なもので、各章にわたって議論されている都市の様々な側面も確かに頷けるものだと思います。しかしながら本書では、肝心の「にぎわい」がそれぞれの事例でいかなるものであったのか、あるいは、いかにしてその「にぎわい」が創出されたのかということを十分に議論していないのではないでしょうか。
 本書に想定される読者としては、商店街をはじめとした都市の活性化を望む人、社会学やマーケティングといった学問領域の研究者・学生、あるいは市町村単位の行政関係者などが主に考えられますが、その方たちに「How to」を与えることができているとは思えません。あるいは、「にぎわい」と「都市活性化」との間の関係が明確になっているとも思えません。
 「にぎわい」こそが都市活性化の重要なファクターであるということは、経験的に非常に納得のいくものであり、それを紹介するための事例も非常に抱負だと思いますので、どの読者に読ませるのかを十分に想定して、「How to」に貢献するか、それとも理論的に深みがあるかのどちらかに特化すればよかったのではないかというのが、読後の感想です。

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紙の本絵とき百貨店「文化誌」

2002/11/13 17:06

充実した資(史)料があるだけに勿体無く感じた書

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 本書は大丸や高島屋の宣伝部に長年奉職した著者が、百貨店にまつわるさまざまな側面を絵画や写真を中心に歴史的に辿った本です。著者が本書を執筆した動機が本書の内容を直截に示しているように思います。それは、まえがきに書かれている「彼ら(=著者の知人であるイギリス人)にとって百貨店は、モノを購入する場所以外なにものでもなく、日本のそれはまったく異なる存在だったのである。これを説明するのは、日本の社会と百貨店のありようを、歴史をふまえて話す必要があった」というものです。
 海外の方に日本の百貨店について説明しようという動機に十分に適っているほど、本書は充実した資(史)料をもとに百貨店とそれに関連する日本の文化について詳細な議論が行われています。また、本書は百貨店という小売業態そのものだけでなく、展覧会や広告、建物といった数多くの側面から百貨店の歴史を紐解いているため、幅広い読者から興味関心を抱かれるのではないでしょうか。それだけに、以下の4点において読者としては残念な思いを抱きました。
 第1に、これほど充実した資(史)料を用いていながら、あまりに多くの側面について議論しているため、それぞれの項目に対する深みに欠けるという点が感じられます。第2に、読者を十分に意識した執筆がなされていないためか、ところどころで「独り言」に近い文章が目立ちます。そのため、読者としては例えば「これは筆者の意見と史実なのか?」という疑問に直面するようなことがあります。第3に、百貨店の経営にまつわる話に重きが置かれているため、受け手である消費者からの議論が乏しいように思われます。本書の問題設定(あるいは、執筆動機)からすれば、当時の日本がどのような状態であったのか、消費者からの反応はどうだったのか、などといった議論が必要なのではないでしょうか。第4に、瑣末なことではありますが、資(史)料の出典が不明な箇所が多く、そのため、どこまでが信頼できる話なのかが判りづらく感じました。

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戦略が現実をつくりだし、それまでの強味が桎梏となる

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 本書は、ボストン・コンサルティング・グループが中心となり、インターネットをはじめとした情報技術の革新によって、既存の事業、業界、産業といった枠組みがどのように変化し、そのような変化が何故生じるのかということを考察した実務書です。本書はそもそも、「ネット経済がもたらす本質的な変化をきちんと理論的に整理した上で、経営者にとっての意味を明確にしよう(331頁)」という目的のもとに書かれてました。そして、その本質的な変化として「情報のリッチネスとリーチのあいだに普遍的に存在したトレードオフが解消される」という状態を挙げています。このトレードオフが解消されるからこそ、そのトレードオフを前提としていた事業や産業といった枠がデコンストラクション(創造的破壊と再構築)されるというのが、本書のエッセンスだと思います。
 評者は本書に対して、(1)本書はリッチネスやリーチ、あるいはデコンストラクションといったコアとなる概念に関して一部曖昧さを残している、(2)企業経営者を初めとしたビジネスの現場の方々が具体的にどのような行動を行えばよいのかに十分な議論が割かれていない、という2つの不満をもっています。しかしながら、デコンストラクションが進む世界においてはそれまでの事業の強味であった資源が逆に重い負担となるという考えや、「デコンストラクションの進む世界においては、戦略こそが経済の現実を作り出す(322頁)」という世界観は、近年のマーケティング論の世界で非常に重視されている考え方であり、その意味では、本書は単なる実務家へのビジネス書というだけでなく、立派な理論書としても読まれるべきかもしれません。 

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