「性」と「愛」について深く考えさせられる。寡作な作家・松浦理英子の小説

「私」が特別な関係をもつ、3人の女性との愛の物語です。同性同士の生殖を伴わない愛の行為の切なさやつらさが、異性との行為以上のものとして描かれています。恋愛における「想い」の不確定さを描写した場面では、読み手は心を大きく揺さぶられることでしょう。1987年に発表され二度も映画化されるなど、大きな注目を集めた傑作です。

ある夢を見て、朝起きたら足の親指がペニスになっていた女子大生・一実を主人公にした小説です。カフカの『変身』を思わせるような奇想天外な設定で始まるこのお話は、「親指P」が現れた一実と彼女の周囲に巻き起こる当然というべき変化を描いています。女流文学賞を受賞し英語版も出版もされた、著者の性への考え方がわかる長編小説です。

セクシャルマイノリティが登場する短編集のようなかたちを取りつつも、読み進めていくうちにかつて友人だった2人による、「家主」と家賃代わりに小説を書いている「居候」のやり取りだとわかってきます。同性愛やSMの話に夢中になっていた高校時代と、中年になって変化した2人ですが・・・。手法の奇抜さが際立った小説です。

自らを「種同一性障害」「ドッグ・セクシュアル」と呼び、実際に犬として人に飼われる女性・八束房恵を主人公にした長編です。性器結合中心主義を否定し続けてきた著者本人が、『性的ですらない触れ合いの快楽の深さと豊かさを描いてみようと思った』と語った通り、読みながら思わず「犬の視点」に引き込まれてしまう異色作です。

表題作では、小説家である中年男の本田が、同居しているレズビアンによる女性同士の友愛に対してゆがんだかたちで喜びを覚えていき・・・最後には驚きの展開が待ち受けています。お互いレズビアンながらも性愛の対象でなく、友人としての関係性を保っている女子2人のガールズトークの描写には、思わず唸ってしまうものがあります。